ここ数年で、太陽光発電や風力発電などの「再生可能エネルギー」が急速に普及しています。多くの電力を消費する学校も例外ではありません。学校では災害時の対策として、停電時でも電力が使用可能な再生可能エネルギー設備などにも注目が集まっています。
「学校でどのように再生可能エネルギーを取り入れられるの?」と、考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで今回は、
・学校での再生可能エネルギー導入状況
・学校での再生可能エネルギー導入事例
をご紹介していきます。今回の記事を通して、学校のエコ化、そして実践的な環境教育へと繋げていきましょう!
ここでは、学校での再生可能エネルギー設備の導入状況について
・再生可能エネルギー設備等の設置数
・再生可能エネルギー設備等の設置数の推移
について解説します。文部科学省の調査では、全国の公立学校での再生可能エネルギー設備等の設置数は以下のようになっています。
【再生可能エネルギー設備等の設置数(学校種別)】
(出典:文部科学省HPより)
公立の小中学校における太陽光発電設備の設置校数は計12,000を越えており、学校施設での環境意識の高さがうかがえます。再生可能エネルギーの設備別の割合は、太陽光発電設備が最も多く1万1456校、次いで風力発電設備が501校という結果です。
これは、文部科学省の太陽光発電導入に関する補助制度を利用できることや、学校の屋根など校舎の構造を有効活用した結果でもあると考えられます。
つづいて、再生可能エネルギー設備等の設置数の推移を紹介します。
【再生可能エネルギー設備等の設置数の推移(小中学校)】
(表:文部科学省HPより)
公立の小中学校における太陽光発電設備の設置率は、令和3年度は34.1%(設置校数1万1456校)に増加しています。昨今は屋根や外壁の高断熱化や高効率照明などの省エネ化を推進する学校も増加しています。
再生可能エネルギー導入により、年間のエネルギー消費量の収支をゼロにすることを目指した「ZEB化」を、学校施設でも推進することが重要であると考えられています。
学校は、たくさんの子供達や先生が毎日を過ごすため多くの電力を必要とします。学校での再生可能エネルギーの使用割合が増えることは、日本のカーボンニュートラルの実現に向けて大きな力になるのです。
<参考>
・文部科学省「再生可能エネルギー設備等の設置状況」
・文部科学省「再生可能エネルギー設備等の設置状況に関する調査結果(概要)」
・文部科学省「再生可能エネルギー設備に関する補助制度について」
学校での再生可能エネルギー導入率が増えていることは分かりましたが、実際にどのように導入されているのかイメージが湧きづらいのではないでしょうか?そこで次は、再生可能エネルギーを用いた学校運営を行っている千葉商科大学の取り組みを紹介します。
千葉商科大学は千葉県市川市にキャンパスを置く大学です。こちらでは、所有するメガソーラー発電所の発電量と、キャンパスのエネルギー使用量を同量にする「自然エネルギー100%大学」という目標を2014年に掲げました。目標達成のための取り組みで大切にした点は大きく3つです。
①ハードウェア:照明のLED化などの省エネ施策と,千葉県野田市の野球場跡地にあるメガソーラー発電所の設備を増設。またキャンパス内の建物屋上に、太陽光発電設備を設置するなどハードウェアの整備を積み重ねる。
②ソフトウェア:EMS(エネルギーマネジメントシステム)を導入し、学内のエネルギーを可視化して創エネ・省エネの施策に活用。エネルギーの使用状況の最適化を図る。
③ハートウェア:学生団体「 SONE(Student Organization for Natural Energy」を発足。キャンパス内にある自動販売機の省エネ改善への取り組みや、利用していない教室の照明、冷暖房の消し忘れをチェックする節電パトロールの実施。省エネ行動の啓発などを企画・実施し、学生の気持ちや知恵によって、他の学生の意識を動かす取り組みを行う。
上記3つの柱を軸にした取り組みにより、2019年1月末までの1年間で、キャンパスの年間電力使用量と同量以上の電気を作ることを実現。日本初の「RE100大学」にするという目標を達成することができました。2017年には、自然エネルギー100%の実現を提唱する世界的なイニシアチブ「自然エネルギー100%プラットフォーム」(運営:CAN-Japan)に、教育機関として初めて「自然エネルギー100%宣言団体」として登録されています。
また2021年6月には、原科幸彦学長が代表世話人を務める「自然エネルギー大学リーグ」が設立されました。自然エネルギーの活用等によって大学活動での環境負荷を抑制し、脱炭素化をめざすことを目的とし、日本国内の大学が集まっています。
教職員や生徒一体となり、再生可能エネルギーによって地域分散型エネルギー社会を創る千葉商科大学の取り組みは他の大学にも浸透しつつあります。未来を創る生徒たちが実践的に取り組める環境を、大人が用意することは自然エネルギー創出と同じくらい大事なことだといえるでしょう。
<参考>
・千葉商科大学「環境・エネルギーへの取組み」
・自然エネルギー大学リーグ
ここでは、学校で取り組まれている再生可能エネルギー導入の事例を2つご紹介します。
新潟県にある上越市立安塚中学校では、太陽光発電と雪冷房システムを併せて整備しています。
雪冷房システムとは、冬に積もった雪を冷房の熱源として夏に活用するシステムのことです。太陽光発電で発電した電力を、雪冷房で使用する送風ファンや雪解け水循環ポンプで使用しています。導入には国立研究開発法人NEDOの、「地域新エネルギー等導入促進事業」の補助を利用し、設備の維持管理は上越市の財団法人に委託するなど、地域と連携をした取り組みを行なっています。また雪冷房システムの理解を含めた総合的なエネルギー環境教育を実施し、子供たちの環境教育への教材として再生可能エネルギーが有効に活用されています。
東京都荒川区にある第七峡田小学校では、老朽化した校舎や屋内体育館を、環境省の「学校エコ改修と環境教育事業」を活用してエコ改修を行いました。改修の一環として、太陽熱利用空気式床暖房システムや太陽熱給湯システムを屋内体育館に設置。尾根裏に蓄熱された暖かい空気を冬は床下へ送り、夏は屋根からの輻射熱を遮断することで体育館内の温熱環境の改善を図っています。校舎の外部には、暑さや寒さを遮断するため、外断熱工法を採用。さらに教室等の照明器具は、消費電力を抑えCO2を削減するために高効率型蛍光灯に取り替えるなど、校舎の内外両面から学校のエコ化に取り組んでいます。環境教育として断熱の実験や改修技術の学習の時間を設け、子供たちは改修の様子を実際に見ながら改修効果を体験できる機会にもなっています。
その他、文科省発行のガイドブックには、再生可能エネルギーに関する補助制度、設備の導入や管理のことなどが説明されています。自治体と連携した取り組みも紹介されているので、ぜひ参考にしてみてください!
<参考>
・国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「地域新エネルギー等導入促進事業」
・文部科学省「地球にやさしいエネルギーを子どもたちが学び育むために」
・既存学校施設のエコスクール化の取組・東京都荒川区立第七峡田小学校
今回は、学校での再生可能エネルギーについてご紹介しました。
ここまでをまとめると、全国の公立学校での再生可能エネルギー設備の数は年々増加しています。また、日本にはRE100を達成している学校があり、達成のためには設備やシステムと同様に生徒自身の環境意識の醸成が大事だということをお伝えしました。
また国や自治体の補助制度を利用するなど、各学校の実情に合わせた再生可能エネルギーの導入が可能です。
学校は次世代を担う子供たちが学び、生活をする場です。地球に優しいエネルギーを子供たちが学び育むためにも、学校を環境教育の実践の場とする一歩を踏み出してみませんか?
(ライター:上崎有紀)