シュレッダーのゴミのほとんどが、基本的にはリサイクルされずに燃えるゴミとして廃棄されているのをご存知でしょうか?
紙ゴミは本来リサイクル可能ですが、シュレッダー処理をおこなってしまうだけで再生資源では無くなってしまうのです。でも、シュレッダーのゴミを”捨てる”以外の選択肢がなかった方にとっては、「ではどうするべきなのか?」という疑問を持つことでしょう。
しかし、環境への負荷を減らし、改善を求める人々によって、機密情報の書かれた用紙の取り扱い方が少しずつ変わってきています。
今回はそんなシュレッダーのゴミをどのように再利用しリサイクルできるのか、現在の学校でどのように使用されているかをまとめましたのでご覧ください。
個人名や住所、給与情報などの機密情報などは、プライバシー保護の観点から外部に漏れることは厳禁となっています。そのようなプライバシーの保護や情報漏洩の防止の観点から、機密情報を細かく裁断し、文字を読めなくする”シュレッダー”が使用されています。簡単に細かく分断されるので非常に楽、かつプライバシーが守られるので便利ですよね。
しかし、この紙のシュレッダー処理が環境には負担になってしまう、と問題になっています。
なぜなら、大前提としてシュレッダーで細かくした紙ゴミはリサイクル不可なので、燃えるゴミとして廃棄しなければならないからです。シュレッダーにかける紙の種類はさまざまですが、リサイクルできる紙の種類はコピー用紙などは古紙処理ができるものに限定されています。
しかし、以下のものが少しでも含まれているだけで資源の再生利用ができなくなってしまいます。
そのため、分別されずにまとめて裁断されたこれらのシュレッダーゴミは”燃えるゴミ”として捨てる他ないのです。
1つの会社もしくは学校だけでの単位なら、シュレッダーのゴミをそこまで多く捨ててるイメージはないかもしれません。しかし、日本全体で見るとどうでしょうか?
例えば、機密文書やコピー用紙などの排出量を年間3600kg(月300kg)とした場合、
という環境負荷をかけて、シュレッダーにかけられたゴミを廃棄することになります。プライバシーを守ることを重視して実施してきたこの行為ですが、果たしてこれは環境にとって良い選択なのでしょうか?『二酸化炭素の排出量を減らそうと』いう政策が行われている今、この現状を放置しておくことは決して正しいとは言えないでしょう。
でもある方法を使えば、再生利用できる種類の紙を、自分の手で土に還す手助けをすることができます。では、具体的にどうすれば良いのかをこれからご紹介していきましょう。
〈参考資料〉
微生物や昆虫などの生物によって少しずつ分解されていくため、シュレッダーにかけた紙くずは土に還すことが可能です。紙の種類や土の状態によりますが、早いもので数週間、時間がかかる場合は数年単位で土に還っていきます。また、シュレッダーごみだけでなく、紙ストローや新聞紙、ティッシュ、段ボールなども時間をかけて土に還すことが可能です。
ただし、新聞紙やコピー紙のインクが環境に害ではないのか、という意見もあるようです。現在使用されているインクのうち半分以上が”ソイインク”という大豆由来のインクなので、比較的環境に優しいとされていますが、そうでない場合もあるので、あらかじめ確認しておくと良いでしょう。
紙ゴミを利用した土壌サプリメントが土壌の改善につながることから、九州大学の研究チームによって、菌資材に菌の栄養源として古紙を配合した土壌改良材「土壌サプリメント」が開発されました。
元々は土壌の状態を改良し、野菜などの植物を健やかに成長させるために作られたものです。土壌にこの土壌サプリメントを加えて耕すことで、野菜の連作障害(特定の作物を、同じ場所で長年栽培していると生育が悪くなったり、枯れてしまったりする現象)などを抑止することができる画期的なアイテムです。
特別な菌を一緒に混ぜることで、より早く紙を土に還すことが可能なので、持続可能な農業に貢献するだけでなく、廃棄資源の再利用にもなると話題です。
〈参考資料〉
シュレッダーのゴミの性質である『水分を含まず、雑菌が繁殖しにくい』『保温性が高い』という点を利用して、一部の酪農現場では牛舎の敷料(牛のベッド)として利用する取り組みを行なっています。
本来、牛舎の敷料には”おがくず”や”もみ殻”が使用されますが、それらよりもシュレッダーにかけた紙の方が圧倒的にコストを抑えることができます。そして、敷料として使用した後は、牛のふんや尿と混ざることで”堆肥の原料”としても活用できます。
鳥取県では分析調査により紙や紙に含まれるインクの成分などが、牛や土壌に与える影響もなく安全であると確認されたため、平成17年11月から畜産サイドへの本格的な供給を始めました。現在は主に鳥取県畜産農業協同組合の哺育牛舎で利用されているほか、個人農家の利用も増えてきているようです。
〈参考〉・ペーパーシュレッダーダストの敷料利用/とりネット/鳥取県公式サイト
シュレッダーの紙くずを撒くことで地面に日光が当たりにくくなり、除草効果をもたらします。雑草が生えて欲しくない場所に地面が見えないくらいしっかりと敷き詰めて使用するようです。詳しくは次の章でご説明していきます。
先進的な茶栽培に取り組む若者に贈られる「日本茶 Next Generation 大賞」(日本茶業中央会主催)を受賞したのが岐阜県にある中津川市阿木高校です。こちらの学校では『茶畑の通路に紙のシュレッダーくずをまくと除草に生かせる』という斬新なアイデアが評価されました。
生産科学科という農業が学べる学科を持つ阿木高校は、校内に茶畑を保有しています。約十年前から不要なシュレッダーくずで地面を覆って日光を遮ることで、雑草を生えにくくしているようです。
このシュレッダーくずには農業にさまざまなメリットをもたらします。例えば、一般的な除草用の黒いビニールシートに比べて高温になりにくいということ、土と紙の間が微生物やミミズが住みやすくなり土壌改良につながることなどが挙げられます。
除草効果の維持には月に1〜2回、シュレッダーくずを撒く必要があるため、定期的にシュレッダーくずを収集する必要があります。代表の生徒は「量が必要なので企業と協力できたら」「農業の省力化と資源の有効活用の方法をこれからも考えたい」と話しています。
2018年8月、高校生による芸術文化の祭典「第42回全国高校総合文化祭(2018信州総文祭)」が文化庁や全国高校文化連盟、長野県などの主催で行われました。全国から2万人が集まるこのイベントで、実行委員発案の「シードペーパー・キャラバン」という企画が立案・実施されました。
当イベントで、手作りのシードペーパーが信州総文祭に参加する高校生に配布されました。長野の高校生が育てたマリーゴールドや黄花コスモスといった花の種を再生紙にすき込ませて作られました。
そもそもシードペーパーとは、紙ゴミとなった古紙を再生し、さまざまなお花やハーブの種を漉きこんだリサイクルペーパーです。一晩、水につけて土に埋めると数日で発芽し、紙の部分は徐々に分解されて数ヶ月で土に還ります。
このシードペーパーは自分の手で作ることも可能ですし、業者に依頼すれば印字もできます。イベントの情報を書き込んだり、チケットやクーポンなどにして配布することで、通常であれば捨てるだけのものを環境に優しく活用していくことが可能です。
〈参考〉
・土に還る再生紙、シードペーパーで地球育て「seed paper」
・高校文化部の祭典、長野で開催 全国から2万人が参加 全国高校総合文化祭|高校生新聞オンライン|高校生活と進路選択を応援するお役立ちメディア
福島県田村市船引中学校にて、シュレッダーのゴミを堆肥化(ペーパー腐葉土を作る)させる取り組みが行われました。NPOの指導によって、EMボカシという有機物を発酵させた資材を利用して土に還す方法を学びました。
ペーパー腐葉土の作り方は以下の通りです。
この腐葉土が完成したら、畑やプランターの土に混ぜてお花や野菜作りに使用できます。
近年多くの企業がシュレッダーから”機密情報抹消専門業者”への依頼に乗り換えています。なぜなら、機密情報抹消専門業者に依頼する方が各自で書類を処理するよりも簡単で、なおかつ環境にも優しいからです。
今まで『機密情報を守ること』を優先してきた社会人にとっては、シュレッダーにかけるという行為をなんの疑いもなくおこなってきたのではないかと思います。しかしながら、多くの企業や病院、学校でこれらの行為が行われていることで、その量は莫大なものとなっています。
大切な情報が書かれた紙を他の業者に委託して処分してもらうことに対し、『プライバシー管理への不安』があるかと思いますが、専門業者に依頼すれば情報漏洩の心配もありませんから安心だと言えます。
ただし、回収には一定の料金がかかってしまうので、「廃棄するだけのものにコストをかけることができない」と考える人や企業にとっては利用するまでの一歩が踏み出しにくいかもしれません。ですが、SDGsの観点からはリサイクルできるものを再資源として取り扱わないのは、実にもったいないことです。
もしこのようなサービスを学校で利用し難いとしても、再生できる用紙の分別をしっかり行えば、教育の一環としてさまざまなことに活用することが可能です。紙のリサイクル業者を利用しながら、ぜひ環境のためにできることを実施していきましょう。
ペットボトルや缶、プラスチックなどのごみの分別は一般的ですが、リサイクルできる紙とそうでないものの分別はまだまだ浸透していません。分別するためにはリサイクルできる紙の種類についての知識や分別しなければならないという意識が必要不可欠です。
SDGs関連の授業を行う学校が増加し、環境問題への意識が学校全体で広まっているところもあるでしょう。その中でもシュレッダーくずを土に還す試みは比較的始めやすい取り組みです。時間はかかりますがゆっくりと自然に還る様子を目の当たりにすれば、きっと生徒たちも興味を持ってくれるはずです。
海外ではペーパーレス化がどんどん進んでいます。しかし、日本ではまだまだ紙文化が強く根付いており、紙がなければ仕事が成り立たない企業まである始末です。
それはICT化のペースがゆっくりなのも原因の一つですが、『環境への配慮が薄い』ことも原因です。だからこそ、これから社会に出る子どもたちには『環境に配慮できる』人材になってもらう必要があるでしょう。そのためにも、ECOについて考える学校での授業が大切です。
(ライター:堀内 香菜)