全国各地で耕作放棄地の数が増加しているのをご存知でしょうか?
耕作放棄地とは「以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付け・栽培せず、この数年の間に再び作付け・栽培する考えのない土地」を指します。
など、農地であった場所が人の手を加えられないまま放置されると周囲への環境に悪影響を与え、周辺住民の生活の質を落とすことになります。また、田畑の減少は農作物の収穫数が減少、高齢化による農家の減少・後継者不足を意味するため、食料自給率の低下に悩む日本にとっては非常に痛い問題です。
そこで、このような耕作放棄地を再び使える作物を育てられる環境に生まれ変わらせるため、「市民農園」というサステナブルな取り組みをはじめる団体が増えてきました。市民農園は、農家ではなく農業ができる土地所有をしない人々でも農業を始めることができるサービスで、さまざまなメリットをもたらすことから多くの自治体でも注目されています。
この記事では、市民農園の取り組みを中心に、耕作放棄地の現状とその土地を再生させる具体的な方法についてもご紹介いたしますのでぜひご覧ください。
これからご紹介する「市民農園」は農家以外の人が農業を行うために貸し出される農業施設のことです。
市民農園は農家でない方々が農地を利用できるよう、自治体・農協・農家・企業・ NPOなどが耕作放棄地などを利用して市民農園を開設していて、地域住民のレクリエーション、高齢者の生きがいづくり、生徒・児童の体験学習などの多様な目的で使用され、サステナブルな活動や農業をしたいと思っている市民に人気があります。
平成30年3月の農林水産省の調査では、全国に4,165箇所もの市民農園があり、最も多い都市的地域には3,313農園(80%)、平地農業地域には217農園( 5%)、中間農業地域には418農園(10%)、山間農業地域には217農園( 5%)のように全国的に増加しつつあるという結果も出ています。このことから、多くの人の注目を集めていること、さらに農業への興味を持つ人口が増加していることがわかります。
また、市民農園には利用者に農地を貸し出す貸付方式と、利用者に農地を貸さず、園主の指導の下で利用者が短期的・継続的に農作業を行う農園利用方式の大きく2つに分類されます。
(果物などの収穫だけをおこなう『観光農園』は市民農園とは区別されています。)
さらに、日帰りで気軽に参加できるものから、月額を支払ってこまめに自分の畑を手入れするもの、また宿泊し数日間に渡って濃密な農業体験をおこなうものまで、経営者の意向や目的によって利用方法やプランが幅広く、さまざまな使い方ができるのも特徴です。加えて以下に記述したように、市民農園を開くことは地域や環境にとって多くのメリットをもたらします。
〈参考〉
まず優良事例をご紹介する前に、市民農園の新設などによる増加数と廃止などによる減少数をご覧いただきましょう。
(引用元:市民農園の状況/農林水産省)
上記の結果を見て驚かれた方もいらっしゃるかもしれませんが、新設数と同時に市民農園の廃止・閉鎖は実は少なくありません。それは、安定した収益の確保・集客に苦戦した結果、継続ができなくなってしまったことが原因であることがほとんどです。最悪なケースを回避するためにも、事業に成功している市民農園の優良事例を見本に改善を重ねていくことが成功への近道でしょう。
〜基本情報や設備〜
〜他の市民農園との違いやアピールポイント〜
季節に応じた体験(夏のバーベキュー大会やミステリーサークル作り、秋の芋掘り体験など)に加え、会員間の交流も楽しめるレクリエーションができるアットホームさが人気の理由で、月に2、3回のイベントや園芸教室も開催しています。また、バーベキュースペースや葡萄棚、昔ながらの手押し井戸ポンプが設置され、子供ゴゴロをくすぐる仕掛けで、少しでも畑に来るのが楽しくなるような工夫をされており、個人農園ならではの良さが感じられます。
(画像引用元:NPO法人すずしろ22)
〜基本情報や設備〜
〜他の市民農園との違いやアピールポイント〜
八王子市内の農家への援農も行うNPO団体が持っている市民農園は八王子市内に9箇所です。農家への新規営農形態の提供・農地を農地として存続させると共に、市民に農体験の場を提供、会の財務的経営体質の強化といったシステム作りに成功しています。
農家から仕入れた季節の地場野菜で創作料理のイベントを行ったり、農園を借りる市民がボランティアで畑を手伝いに行ったりと何重にも重なる相互協力は、今後の農業への関わり方の見本にも感じてしまう取り組みです。
〈参考〉
(グラフ出典元:令和2年4月荒廃農地の現状と対策について /農林水産省)
市民農園は耕作放棄地のような以前農地であった場所を利用しますが、令和2年に行われた”農業委員会”の農林業などの現状調査によると、耕作放棄地の面積は平成27年には42万3千haと過去最低レベルとなったことがわかりました。
また、荒廃農地の面積は平成30年には28万haであり、そのうち再生利用可能なものが9万2千ha(32.9%)、再生利用困難な土地がなんと18万8千ha(67.1%)もあるとされています。
耕作放棄地が増加し、農地面積が減る原因として1番の原因とされているのが「高齢化・労働力不足」です。
(グラフ出典元:令和3年12月 荒廃農地の現状と対策/農林水産省)
”農家の高齢化・労働力不足”に関しては農業の生産年齢人口のグラフから、高齢化だけでなく農家全体の人数が年々下降しているという事実も明らかになっています。つまり、農業就業者の7割を占める60歳以上の世代が高齢化などによりリタイアしてしまえば、耕作放棄地が増えるということです。それどころか農業技術が継承されずに農業の生産基盤が崩れてしまい、農業の生産率やレベルが脆弱化してしまうでしょう。
また、耕作放棄地が増加する原因として多いのが「土地持ち非農家の増加」です。後継者不在で農業をやめてしまった元農家が、自分の土地を手放すのが惜しいために農地を放置することで発生してしまうようです。
さらに、産物価格が低迷、農地の受け手がいないことも農地を放棄する原因になっているようです。
よく類義語で使われる耕作放棄地と荒廃農地ですが、どのような視点でその土地を判断するかによって、ニュアンスが若干違います。
荒廃農地は調査員が状態を見て判断し(客観ベース)、耕作放棄地は農家などの耕作の意思で判断する(主観ベース)であることが大きな違いです。だから、耕作できる状態で管理されている農地でも”耕作する意思がない場合”は耕作放棄地に分類される、ということです。
なお平成20年より農業委員会による客観ベースの荒廃農地の把握が行われていることから、農業サンセスでの”耕作放棄地のある経営体数・耕作放棄地面積(耕作放棄地の把握項目)”が廃止されたため、今後数値の比較は”荒廃農地”を参考にしていくことと良いでしょう。
〈参考〉
農地の買い取り手や借り手を増やすために重要なのが農地整備。
農林水産省農村振興局「荒廃農地の発生・解消状況に関する調査」(平成30年)によると、基盤整備事業が実施された地区においては荒廃農地の発生が極めて少ない状況で、圃場(田んぼや畑といった農地)が未整備、あるいは土地条件が悪い農地を中心に荒廃農地が増大しているものと推測できるようです。
区画が不整形・狭小・排水不良などの農地の条件が悪い場所ではなかなか借り手が見つかりにくいため、高収益作物の導入や水田の畑地化など適地適作を行うための簡易な農地整備が有効なのです。
このような取り組みは「耕作放棄地再生利用緊急対策交付金」などの補助金制度を利用することで、金銭的な負担を減らすことができます。
また、平成26年度に全都道府県に設置された「農地中間管理機構(農地バンク)」も利用者の高い評価を得ています。リタイアするので農地を貸したいとき、利用権を交換して分散した農地をまとめたいとき、新規就農するので農地を借りたいときなど、農地を貸したい人と借りたい人を繋ぐサービスは、公的である安心感も相まって安心して利用できるという声が多いようです。
このように、少しずつですが農林水産省の施策が掛け声となって、耕作放棄地を増やさないためのさまざまな対策が全国的に広まっています。
農地整備をするにしても買い取り手の募集をかけるにしても、時間が経てば経つほど土壌の質が低下するため、畑としての利用価値が高いうちに対策を行っておくことがなにより重要です。
〈参考〉・都道府県独自の荒廃農地対策事業一覧(令和4年4月時点)/農林水産省
耕作放棄地となった土地は時間の経過と共にどんどん養分を蓄えをやめ、土壌の質が低下してしまいます。農地として相応しい土地ではなくなってしまった場所を再び蘇らせるのは、多額の費用と時間がかかってしまいます。
そうならないためにも、耕作放棄地の発生を未然に防止すると共に、早期に対処・土地管理しておくことが何より重要です。
また、農地に支柱を立てて上部空間に太陽光発電設備を設置し、太陽光を農業生産と発電とで共有する『営農型太陽光発電の導入』も増加しています。作物の販売収入に加え、売電による継続的な収入や発電電力の自家利用等による農業経営の更なる改善が期待できます。
このように、耕作放棄地の使い方は多岐にわたるため、その土地にあった環境に優しいシステムを構築していきましょう。
〈参考〉・営農型太陽光発電について:農林水産省
(ライター:堀内 香菜)