昨今、教員採用倍率の低下が問題となっています。
文部科学省の調査によると、2023年度に採用された公立教員の採用倍率が3.4倍と過去最低で6年連続の低下を記録したと報告されました。また、最も低い数値は小学校で2.3倍となり4年連続で過去最低を更新し、中学校は4.3倍、高校は4.9倍であり、前年度よりも低下したといいます。
その要因として、文部科学省は、公立校教員の長時間労働が問題視され受験者数が減少する一方で、教員採用数が増加していることを挙げています。
さらに、採用倍率の低下は教員の質に関わると警鐘を鳴らし、採用試験の前倒しや、働き方改革の加速や処遇の改善など、教員を志望する人の増加に向けて取り組むとしています。
本コラムでは、教員の働き方に焦点をあて、ICTの活用、部活動や日課の見直し、業務の見える化など、学校の働き方改革事例をご紹介したいと思います。
〈参考資料・記事〉
今年度の公立教員採用倍率3.4倍と過去最低 小学校は5年連続で | NHK | 教育
教員採用試験倍率、3.4倍で過去最低 6年連続低下 文科省 (msn.com)
政府が策定した「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」では、勤務時間外の労働についての目安が示されています。具体的な勤務時間外の労働の目安として、1ヶ月で45時間、1年間で360時間以内と設定されています。
しかし、文部科学省による公立学校教員を対象にした教員勤務実態調査(令和4年度)の結果によると、小学校教諭の64.5%、中学校教諭の77.1%が、1ヶ月45時間の上限を超える時間外勤務をしていたことが分かりました。
さらに、国が示す「過労死ライン」である勤務時間外の労働時間が月80時間に相当する可能性がある教員は小学校14.2%で、中学校は36.6%と報告されました。
このような長時間労働問題は、採用倍率の低下の原因ともなり、悪循環に陥ってしまいます。このことからも、学校の先生の働き方改革は急務であるといえるでしょう。
〈参考資料・記事〉
公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン:文部科学省 (mext.go.jp)
教員勤務実態調査(令和4年度)【速報値】について:文部科学省 (mext.go.jp)
長時間労働の増加の背景には、どのような原因があるのでしょうか。
一つ目に挙げられているのは、授業時間の増加であると言われています。学習指導要領の改定により「脱ゆとり」へ方針が転換されたことで、小中学校の標準的な授業時間が週1〜2コマ増加したといいます。
さらに、2020年度からスタートした新学習指導要領により、小学校3年生〜6年生を対象に英語教育が必修化され、中学年からは、授業時間が週1コマ増加しました。
二つ目に、授業以外の業務の増加が挙げられます。教員は、授業以外にもテストの作成や採点作業、お金の徴収、部活の顧問など、様々な業務をこなしています。
文部科学省の教員勤務実態調査(令和4年度)によると、新型コロナウイルスの影響で学校行事や部活にあてる時間が減少した一方で、朝に児童や生徒の健康状態を確認する時間などが増加したといいます。
また、「部活動・クラブ活動」について、1週間に平均で何日活動をしているか尋ねた調査では、「5日」と回答した教員が56.1%と最も多く、次いで「4日」が19.5%だったといいます。この結果からは、前回の調査と比較して、部活動の日数が減っていることが分かったものの、「部活動・クラブ活動」が中学校教員の大きな負担となっていることが依然として問題視されています。
三つ目に、正確な時間外労働を把握しにくいということが挙げられます。公立学校教員には、月給の4%に当たる教職調整額は支給されているものの、時間外手当が支給されません。
このように、給与と労働時間との関連性がないことから、労働時間を正確に把握することが難しく、実際にどのくらいの時間外労働が発生しているか分からず、長時間労働を引き起こしやすくなっているといわれています。
〈参考資料・記事〉
教員勤務実態調査(令和4年度)【速報値】について:文部科学省 (mext.go.jp)
先生「月45時間」超の残業、小学教諭64.5%、中学教諭77.1%…昨年度 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
資料3 教育公務員の勤務時間について:文部科学省 (mext.go.jp)
教員の残業代、どうするか:給特法廃止案の賛否両論を比較(妹尾昌俊) – エキスパート – Yahoo!ニュース
文部科学省では、学校における働き方改革に対して、国・学校・教育委員会が連携しつつ、それぞれの立場において、教員が教員でなければできないことに全力投球できる環境を整備することが重要であるとし、そのための取組のひとつとして、「全国の学校における働き方改革事例集」において、どの学校でも取り組みやすく手の届きやすい事例を紹介しています。
岐阜県岐阜市立岐阜中央中学校では、新型コロナウイルス禍の生徒の学びを止めないことを目的として導入したICTをコロナ流行後も教員が行う日常の業務内で活用することで、働き方改革に繋げています。
具体的には、会議資料をTeamsのフォルダ内で共有し、ペーパーレス化の取り組みを行っています。
コロナ流行前は、会議関係の資料は全て紙で印刷し、帳合のうえ配布していたといいます。しかし、直前に変更があった内容が反映できていないことや、紙の資料が増えることで、保管などに課題があったそうです。
ICTを活用後は、以下のような多くのメリットが生まれたといいます。
・ゆとりをもって資料作成が可能
・会議中での変更もその場で対応可能
・直前の情報もその場で反映可能
・教員たちの個人の時間を有効活用化
その他にも、生徒向け、教員向けのアンケートをFormsを使って発信し、回答を集めることで、データを自動的に集計できるような取り組みを行っています。
また、教員は生徒向けのアンケートのURLを一斉に自分のクラスのチームに投稿することが可能となったことで、以前のような個別での生徒対応の手間が減ったといいます。特に、以前はアンケートを紙で配布していたため、配布時に不在の生徒や紙をなくしてしまった生徒への対応にも時間がかかっていたそうです。
加えて、保護者からの連絡や学校行事の連絡等、教員ごとに共有しなければならない事項について、タブレット上で連絡事項を確認できるように改善を図ったといいます。以前は、教員間の連絡事項は口頭またはメモで伝えたり、内容によっては文書を用意することで伝達していたそうです。改革後は、直接話をしたりメモや文書を渡したりできない教員にも連絡が容易になるなど効果が表われたといいます。
回答期限等がある場合はメンションをつけて投稿し、通知することや、お知らせを読んだらスタンプを押すなどのルール化を行ったといいます。
以前、Operation Greenのコラムでは「学校のペーパーレス化」をテーマに、ペーパーレス化がもたらすメリットや、学校での取り組み事例を紹介しました。是非こちらもお読みください。
学校こそペーパーレス化!そのメリットと導入事例を紹介! | Operation Green 循環型○○の実践プログラム
千葉県睦沢町立睦沢中学校では、部活動ガイドラインの遵守や地域資源を活用した部活動の地域移行を進めながら、生徒の帰宅時間の早期化と、教員の超過勤務時間の短縮を推進することによって、教員の勤務時間の縮減を目指しているといいます。
部活動指導時間の見直しを行っているという睦沢中学校。具体的には、毎週月曜日と第2・4木曜日は部活動を休みにすることで、生徒の完全下校を15時20分にする取り組みを行っています。
さらに、日課の見直しを行い、放課後の始まる時間を25分早めることで、4月〜9月の生徒の完全下校を通常の完全下校よりも1時間早めた、17時30分とする取り組みも行っています。その他にも、町の総合型スポーツクラブや総合運動公園等の地域の資源活用を行っているといいます。
結果として、教員一日一人当たりの在校時間は、平日で約1時間10分削減され、休日では、約1時間30分の削減に繋がったといいます。(※令和元年度6月の一日当たりの在校時間平均の平成30年度同月との比較)
また、その他のメリットとしては、部活動の休止日を増やしたことで、勤務時間内に職員研修等が可能となったことや、指導を地域や保護者へ任せることにより、地域と学校との連携が深まったことが挙げられます。
広島県立府中高等学校では、「部内業務分担表」や「業務進捗管理表」を導入するなど、個人だけでなく、各分掌ごとに業務を見える化し、分業・協業が機能した組織的な体制の構築を進めているといいます。
さらに、時間外勤務が月に80時間を超えた教員については、個別に校長面談を行い、仕事の状況・進め方等の実情の把握や改善策の協議を実施しているそうです。また、各月20日頃に勤務時間の中間集計を行うことで、勤務時間の調整を図るなど、組織的に対応することを進めています。
〈参考資料・記事〉
全国の学校における働き方改革事例集(令和5年3月改訂版)Part1 (PDF:5.1MB)
全国の学校における働き方改革事例集(令和5年3月改訂版)Part2 (PDF:7.0MB)
全国の学校における働き方改革事例集(令和5年3月改訂版)Part3 (PDF:16.5MB)
全国の学校における働き方改革事例集(令和5年3月改訂版):文部科学省 (mext.go.jp)
学校における働き方改革~取組事例集~:文部科学省 (mext.go.jp)
資料3 教育公務員の勤務時間について:文部科学省 (mext.go.jp)
勤務時間の短縮や、ペーパーレス化、ICTを活用した取り組みは、学校の先生の働き方を改革してくれるだけではなく、学校の省エネや、資源の削減、二酸化炭素の排出量削減に繋がり環境にも配慮した取り組みといえるのではないでしょうか。
(ライター:樋口 佳純)