働き方改革に取り組む企業が増えるに伴って「フレックスタイム制度」を取り入れる企業も増えてきましたが、最近では新型コロナウィルス感染症対策のために、時差出勤をするためのフレックスタイム制や、テレワーク導入と合わせたコアタイムのないフルフレックス制に取り組む企業も増加しています。
感染症対策が働き方改革を加速させている今、改めてフレックスタイム制についてその内容とメリットデメリットを整理したいと思います。実用的な導入事例もご紹介しますので、ぜひご一読を!
フレックスタイム制度とは、簡単に言うと「労働者が自由に働く時刻を決めて働ける制度のこと」で、厚生労働省は「労働者が日々の始業・就業時刻、労働時間を自ら決めることによって、生活と業務との調和を図りながら効率的に働くことができる制度」と説明しています。
フレックスタイム制度には、大きく分けて、「コアタイム」と「フレキシブルタイム」があります。「コアタイム」は会社が定める、「全員に出勤義務がある、必ず勤務しなければいけない時間帯」のことです。「フレキシブルタイム」は「コアタイム」以外の時間で労働者が自由にコントロールでき、いつ出社してもよく、いつ退社してもよい時間のことをさします。
この2つの時間のバランスをうまくとることが、フレックスタイム導入を成功させる鍵になります。
それでは、フレックスタイム制度導入のメリットを改めて確認していきましょう。
フレックスタイム制度によって、通勤ラッシュを回避することができます。出社時間や退社時間を個人でコントロールできるので、通勤ラッシュの時間を避けることができます。通勤ラッシュを避けることによって
・混雑によるストレスの解消
・通勤時間の有効活用
・それによる社員の幸福度アップ
などが見込めます。
フレックスタイム制度の導入は、業務効率のアップにもつながります。
なぜなら、自分に合った時間と場所を選んで働くことができるので効率よく働けるからです。
例えば
・夜型で朝が苦手だから、出勤時間を遅らせる
・朝型でオフィスに人がいない時間帯のほうが集中できるから、朝早くから出社する
・気分転換にシェアオフィスやノマドカフェで仕事をする
などの働き方が実現します。
さらに、定時の仕事では、仕事が終わっても退社時間が来るまで帰ることができませんが、フレックスタイム制なら仕事が終わり、コアタイムが過ぎれば退社することができます。その点からも生産性も高まるといえるでしょう。
出社時間と退社時間を自分で決められるフレックスタイム制では、ワークライフバランスの改善も期待できます。例えば、
・保育園のお迎えがあるから、早く退社する
・昨日は遅くまで働いたから、今日は出社時間を遅らせる
・ケガをしてしまったので病院に行ってから、出社する
・英会話スクールに通っているので、レッスンがある日は早く帰る
・親の介護があるので、今日は早く帰る
など、個人のライフスタイルに合わせた働き方ができるようになります。
フレックスタイム制度では、仕事が終わったら帰ることができます。そして、早く帰った分を忙しい時期に充てることができるので、結果として残業も削減できます。これは企業にとっても残業代削減というメリットになります。
フレックスタイム制度の導入は、環境面でもメリットがあります。
たとえば地方での車通勤の場合、通勤ラッシュによる渋滞をさけられるため、排出するCO2を減らすことができますし、また、残業が減ることによって電気代の節約効果なども見込めるからです。
フレックスタイム制度にはメリットがたくさんある一方で、もちろんデメリットもあります。大きくは、
・導入に時間とコストがかかる
・制度が浸透するのに時間がかかる
・社員同士がコミュニケーションをとる機会が減る
の3つが考えられます。それぞれについてみていきましょう。
フレックスタイム制度導入にあたって、「どのくらいの範囲で適用するのか」、「いつから導入するのか」など運用方法を検討し、制度設計をする必要があります。また、勤怠システムの変更も必要となり、導入に時間とコストもある程度必要となります。
フレックスタイム制度を導入しても、周囲と違う時間に出社するのに抵抗を感じる社員は少なくありません。管理職が「フレックスタイム制度は導入したけれど、何もなければ定時で出社すべき」という考えだと、せっかくの制度も「病院にいくときなど、本当に困ったときしか使えない」など形骸化する可能性もあります。
「病院にいくときや、保育園のお迎えのときだけに利用してもらう制度」ではなく、本当の意味でのフレックスタイム制度を導入したいならば、管理職が率先してフレックスな働き方を実践するなど、導入に工夫が必要でしょう。
3.社員同士がコミュニケーションをとる機会が減る
これはどれくらいフレックスタイム制度が浸透するかにもよりますが、「病院に行く時や、保育園のお迎えなどどうしても必要な時」だけでなく、個人のライフスタイルに合わせて自由に出社・退社時間を決められるフレックスタイム制度が浸透すると、コアタイム以外の勤務時間がバラバラになっていくため、社員同士が顔を合わせない時間が増えていきます。
その結果、社員同士がコミュニケーションをとる機会が減るといった弊害も出てきますので、メールやチャットなどを活用してコミュニケーションや報連相を円滑に行えるように環境を整えておく必要があります。
フレックスタイム制度の導入は、1000人以上の大企業では26.6%と進んでいますが、30~99人の企業の導入率は3.1%と低く、全体でみてもフレックスタイム制度の導入率は5.0%。導入している企業はまだ少数派という現状です(「平成31年就労条件総合調査の概況」 厚生労働省)。
そこでここでは導入企業の一例をご紹介します。
三井物産ロジスティクスパートナーズでは長時間労働をする社員が多い状況を変え、柔軟な就労環境を実現するためにフレックスタイム制度を導入。
11〜15時がコアタイム。残業しがちな若手社員のみならず、管理職の社員にも積極的に呼びかけしています。これは、働き方改革が子育てに特化したものにならないようにする工夫です。
これにより、休日出勤や残業が減り、2013年には前年比で15%の総人件費の削減に成功しただけでなく、社員の満足度も高まっていると報告しています。
制度を整備するだけでなく働き方の本質を変えていくという思いから、あえて「働き方『変革』」を掲げている株式会社ブリヂストン。
コアタイムは10~14時に設定され、フレックスタイム制だけでなく、週に3日まで終日のテレワークを認めている制度もあります。
フレックスタイム制と終日のテレワークを利用すると、従業員はさらにライフスタイルに合わせた働き方を実現しやすくなります。同社のテレワーク利用者数は、2016(平成28)年の83人から2018(平成30)年は1,276人と激増しており、制度が浸透していることが伺えます。
フレックスタイム制度には多くのメリットがありますが、デメリットもあります。またフレックスに働くよりも、定時のほうが働きやすいという従業員もいるのも事実です。
従業員のニーズや現場の課題をふまえて、シミュレーションを行ったうえで計画的に導入することが導入成功のカギとなるでしょう。
(ライター:はたのゆうた)
<参考記事>
・「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き(2019年3月)」(厚生労働省)
・「平成 31 年就労条件総合調査の概況」(厚生労働省)
・「働き方・休み方改善ポータルサイト 取組・参考事例一覧」(厚生労働省)
・「CSR 人権・労働慣行 多様性の尊重」(株式会社ブリヂストン)