コラムCO2削減

カーボンフットプリントとは? 企業の取組、メリット、課題

2024.11.08


世界各地で記録的な温暖化が進んでおり、それに伴う気候変動により大規模な自然災害が多発しています。そうした中で地球温暖化を引き起こす温室効果ガスの排出削減は、かつてないレベルで各国政府や企業で求められています。

特に温室効果ガスでもっとも大きな割合を占めるCO2の排出削減は重要なテーマです。しかし現状は各企業が自社のCO2排出量を正確に把握できてない現実があり、今後は現状把握から始めていく必要があります。

地球温暖化対策としてこれから各企業が求められるカーボンフットプリントについて、その仕組みや算定方法など解説します。

カーボンフットプリントとは

カーボンフットプリントの概要から解説していきます。

カーボンフットプリントの意味

カーボンフットプリントとは、特定の商品が排出しているCO2を算定して明示したものです。「カーボン」は炭素を表していて、「フットプリント」は足跡と意味します。合わせると「炭素の足跡」となり、その商品のCO2排出量をライフサイクルアセスメント(後述)で評価した指標となります。

カーボンフットプリントの重要性

カーボンフットプリントの重要性は増していて、その背景にはCOP26で加盟国が気温上昇の目標値を1.5℃以下にする合意文書を採択したことがあります。そのためには世界のCO2排出量削減を45%(2010年比)達成しなければならず、2050年にはCO2排出量の実質ゼロを実現させる必要があります。

CO2排出量削減を達成するために、各企業がCO2排出量の削減を推進する必要があります。その一つの取り組みがカーボンフットプリントであり、企業が自社製品のCO2排出量を明示することで企業のCO2削減への取り組みをアピールできます。また他社商品との差別化により商品価値を向上させることにも繋がります。消費者がCO2排出量が少ない商品を選択する時代になれば、企業はさらに高いCO2削減目標を立てる必要が発生します。

カーボンフットプリントの算定方法

カーボンフットプリントの算定方法の特徴はライフサイクルアセスメントで評価することです。つまり商品の材料を調達する工程から、製造、物流、使用、廃棄されるまでにどの工程でどれだけCO2を排出したかが分かる指標になっています。

例えばペットボトルの水であれば、以下の工程におけるCO2排出量をそれぞれ算出する必要があります。

・原料のペットボトルの製造・輸送
・水の収集、運搬
・工場で商品化する生産工程
・商品の物流工程/販売工程
・ペットボトルの廃棄やリサイクル

このようにCO2排出量を算出することで、水の産地やペットボトルの原材料や廃棄方法などにより他の商品と差異が生まれます。

【参考資料】
カーボンフットプリント(CFP)|環境省

カーボンフットプリントとGHGプロトコルの違い

企業のCO2排出量算定ではその他によくGHGプロトコルが用いられます。カーボンフットプリントと同じく、サプライチェーンまで含めたCO2排出量の算定方法ですが目的や算定対象に違いがあります。

カーボンフットプリントがある特定の商品がライフサイクル全体で排出するCO2を算定するのに対して、GHGプロトコルは対象の組織がサプライチェーン全体で排出するCO2を算定します。GHGプロトコルでは以下のようにScope1から3までを分類分けしてCO2排出量を評価する特徴があります。

Scope1:事業者が製造工程などで燃料を燃焼させて排出したCO2
Scope2:事業者が使用した電気や熱、蒸気を他社が生産した時に排出したCO2
Scope3:Scope1,2以外の間接的に排出したCO2

カーボンフットプリントのメリット

カーボンフットプリントを導入するメリットについて解説していきます。

消費者の意識が高まる

カーボンフットプリントを商品に表示すると、消費者の目に付くためCO2排出量への関心を高めるきっかけとなります。環境意識が高まれば、同じような商品でもCO2排出量の少ない商品を選択するようになる可能性があります。そうなると企業側の削減努力を促進することに繋がり、CO2削減目標達成への好循環が生まれます。

企業のCO2排出削減意識が高まる

企業がカーボンフットプリントを導入すると、他社商品とのCO2排出量が差異が見える化されるためモチベーションに繋がります。また商品がどの工程でCO2が多く排出されるかわかるため、無駄な物流ルートを発見したり材料選定を工夫するなど改善点が見つかります。さらにカーボンフットプリントを導入した企業は環境意識の高い企業として、社会的な信用性が高まる点もメリットに繋がります。

コストが削減される

カーボンフットプリントを導入してCO2排出量を削減していくためには、無駄なエネルギーの使用や廃棄物処理量の減少などが必要です。その結果、CO2排出削減に取り組むことで結果的には企業の収益が改善する可能性があります。また今後炭素税やカーボンクレジットが導入されると、CO2排出量の多い企業は収益の圧迫に繋がるため早期対策が重要になります。

カーボンフットプリントの課題

カーボンフットプリントの導入は多くのメリットがありますが、多くの課題が残っています。

算定にコスト、工数がかかる

カーボンフットプリントはまだ導入が始まって間もないため、算定に必要な規格が統一されていない問題があります。規格によってはCO2を実測値で算定する必要があるため、必要なインフラ設備を整備するコストが必要になります。またCO2排出量を算定するデータの収集が自動化されていなかったり、取引先からのデータ提供がスムーズに進まないなど工数を多くとられる課題もあります。

消費者の意識が低い

一部の商品ではカーボンフットプリントの表示が始まっていますが、まだほとんど導入されていないため消費者の関心が低い状態です。そのため表示があっても気が付かなかったり、そもそもの意味が分からないという消費者がいる可能性があります。今後は企業やマスコミによるPR活動や、多くの商品に表示されることで認知度を向上させる必要があります。

客観性が求められる

カーボンフットプリントの算定では、自社内で収集したデータを利用するため場合によっては信頼性の問題に繋がる可能性があります。また自社内のデータではなく、ネット上のデータベースを利用した場合も実際の数値と一致していない可能性があります。そのため今後は第三者機関による審査を受けるなど、公正な算定を行う取り組みが重要となります。

費用対効果が低い

カーボンフットプリントの算定にはコストや工数がかかりますが、それを商品価格に上乗せできるとは限りません。消費者が、価格が高くてもCO2排出量の低い商品を選択してくれなければ売り上げが低下してしまうからです。

消費者は脱炭素が重要であると理解していても、直接的なメリットを感じられないと行動の変化は起きにくいのが現状です。例えば電気料金を下げるために省エネの家電製品を選択する場合は家計の支出が減るメリットがあります。このようにカーボンフットプリントも低炭素商品の選択によりエコポイントがもらえるなどの分かりやすいメリットがあると消費者に浸透していくかもしれません。

【参考資料】
カーボンフットプリントとは?|朝日新聞デジタル

カーボンフットプリントの取り組み事例

実際にカーボンフットプリントの算定に取り組む企業の事例を紹介します。

明治ホールディングス

明治ホールディングスは、乳製品で国内初となるカーボンフットプリントの算定に取り組んでいます。算定では世界基準に基づき、酪農家の実測データを用いた算定を行っています。酪農家が牛乳を生産する工程から工場までの輸送、製品を製造してから出荷して消費されるまでのライフサイクルアセスメントで評価しています。

算定対象となった「明治オーガニック牛乳」は、CO2排出量全体の91%が原材料の購入と輸送であることが分かりました。この結果が世界基準と同様の算定結果だったことから、取り組みの確からしさが確認できました。また取り組みを通じて、国内の酪農業や乳製品業界のCO2排出量削減への意識が高まるきっかけとなったと報告しています。

【参考資料】
サステナブルな酪農の実現に貢献する取り組み①|株式会社明治

日本ハム

ハムやソーセージなど加工肉食品大手の日本ハムでは、10年以上前からカーボンフットプリントマークを商品に表示しています。対象商品は「森の薫り」シリーズのハムやベーコンです。それぞれの商品の材料を生産する工程から、商品の生産や輸送、消費者が使用して廃棄するまでのライフサイクルアセスメントでCO2排出量を算定しています。

例えば「森の薫りロースハム」の算定結果は以下の通りです。

・原材料調達:270g
・商品生産:99g
・商品輸送:25g
・商品使用、管理:11g
・廃棄リサイクル:10g
(合計420g)

こうした活動が認められ2010年に第40回食品産業技術功労省を受賞しています。この賞は食品業界の発展や文化の向上に貢献した企業や団体に贈られる権威ある賞です。

【参考資料】
自然のための取り組み|日本ハム

旭化成

自動車用ガラスなどでグローバルな経営を展開する旭化成は、製品別カーボンフットプリント可視化システムの開発により「2023年度IT賞」を受賞したことを発表しました。開発したシステムは、異なる事業や製品のカーボンフットプリントを、生産管理システムから入手したデータを基に算出することが可能です。

グローバルに製造拠点や取引先を持つ企業でも、最終製品ごとにカーボンフットプリントを算定することが可能です。その理由は原材料メーカーや中間加工メーカー、自社工場などそれぞれ別々の拠点であっても、各拠点内の製造プロセスごとのCO2排出量を連結させて加算する方法を取っているからです。

【参考資料】
第41回IT賞において「IT 最優秀賞(サステナビリティ領域)」を受賞|旭化成

まとめ

地球温暖化対策が強く求められるようになり、事例で紹介した企業のようにカーボンフットプリントに取り組む企業は徐々に増加しています。現在はまだ消費者の認知度が低いという課題はありますが、目にする機会が増えていけばCO2排出量の違いが商品価値を左右する社会に変わっていく可能性があります。

(ライター:とうま)

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