日本の食料自給率の低さが長年にわたって問題になっていますが、それが原因で何が起こるのかということについて考えたことはあるでしょうか?
戦後直後には約9割あった食料自給率は、ここ50年ほどで4割ほどまで激減してしまいました。贅沢な食生活が一般化してしまった結果、輸入品に頼らなければ飲食業界や生活は回らなくなってしまいました。
輸入品に頼り切った在り方も問題ではありますが、最大の問題点は贅沢な食事が、若者たちにとっては“いたって普通”なことです。
食べ物の飽和状態が著しいスーパーマーケット、輸入食品をふんだんに使用したファーストフード、SNS映えしそうなお砂糖たっぷりの冷たいドリンクに、10代の子供たちは目を輝かせながら、新しい商品が出るたびに飛びついている姿が想像できると思います。
子供たちにとっては、生まれた時から“贅沢”に囲まれているのですから、このような状態になってしまっているのは“必然”なのかもしれません。しかし、だからといって外国化した食生活を推奨することはできないはずです。
日本人がこれから求められるのは、食べ物を生産する力と国産食品を消費する意欲です。そして、この食についての学びを生徒たちに与えられる機会として最適なのが学校教育です。
そこで今回は、
など、日本の食料自給率の現状と共に、学校教育として行いたい取り組みについてまとめたのでご覧ください。
日本は食料自給率の低い国として、世界からも認識されています。
カナダやオーストラリアなどの食料自給率が高い国々に比べ、日本は明らかに数値が低くなっている様子が、下のグラフでもお分かりいただけるでしょう。日本のように、食料自給率が100%を下回っている国は食べ物を輸入することで生活・経済活動を成り立たせています。
カロリーベース:基礎的な栄養価であるエネルギー(カロリー)に着目して、国民に供給される熱量(総供給熱量)に対する国内生産の割合を示す指標
生産額ベース:経済的価値に着目して、国民に供給される食料の生産額(食料の国内消費仕向額)に対する国内生産の割合を示す指標
(引用:食料自給率とは:農林水産省)
特に日本はアメリカやブラジル、カナダ、オーストラリアなどの農産物の輸出大国から多くの食品を輸入しています。しかしそれらの商品を輸入するためには多くのお金と輸送費がかかってしまいます。「地球のために、できるだけ石油・石炭などのエネルギーを使わない生活を」というカーボンオフセットの考え方からも、必要以上の輸出入は控えていくべきなのです。
続いてグラフで2021年度の日本の食料自給率を表しました。食料自給率はカロリーベースと生産額ベースから割り出すことができます。グラフをみると、カロリーベースが国内熱量37%、輸入熱量が63%。さらに、生産額ベースは国内生産額が9兆9,467億円(62%)、食料輸入額が6兆1,840億円(38%)という結果になっています。
生産額ベースだけで見ると全体の6割を国内で生産できているように錯覚してしまいますが、カロリーベースで見ると自給率の低さが顕著に現れており、その割合はわずか37%です。つまり半数以上が輸入品であり、もし今この瞬間に海外から食べ物を輸入できなくなってしまったら、“日本は食料不足に苦しんでしまう”ということです。
ではなぜ日本の食料自給率は世界に比べて非常に低く、輸入品に頼ってしまうことになったのか、それは
の4つが原因だと考えられています。特に食生活の外国化や、外食産業の発展に伴い、安く手に入る輸入品に頼る利益向上を目的とした経営など。加えて、農業の衰退による”需要と供給のバランス”が大きく乱れてしまっているせいでしょう。
日本は食料が豊富で一見豊かな国に見えますが、実際は輸入品に頼らざるをえない食糧難な国とも言える危機的な状況です。世界的に人口が増えつつある今、世界で食料不足が起こってしまう可能性があります。そうすれば、たちまち日本は食料不足になり、飲食業界が発達した日本経済は破綻してしまうでしょう。飲食業界は発展していても、原料となる野菜や畜産物は限りなく少ないのです。
そのような日本の“食料自給率の低さ”と“輸入品に頼り切った現在の状態”に対し、懸念を抱く経済学者が後を絶ちません。国の対策として長年さまざまな対策が打ち出されてきましたが、ごく緩やかにしか改善の兆しが見えていません。
この問題は消費者や食品を取り扱う業界人の理解がなければ大きく改善していくことは困難です。もしかしたら、輸入品が入ってこなくなるという最悪のケースが起きなければ、より良い改善案が施行されない厄介な問題なのかもしれません。
〈参考資料・記事〉
・日本の主な輸出入品 | JFTC キッズサイト | JFTC – 一般社団法人日本貿易会
令和2年3月に食料・農業・農村基本計画(食料・農業・農村に関し、政府が中長期的に取り組むべき方針)が閣議決定されました。
この方針によって、令和12年度(2025年)までにカロリーベース総合食料自給率を45%、生産額ベース総合食料自給率を75%に高める目標を掲げています。また、飼料自給率と食料国産率についても併せて目標を設定していて、飼料自給率と食料国産率の双方の向上を図りながら食料自給率の向上を図っていこうと考えられています。
では、食料自給率を上げることにより国民に還元される3つのメリットをご紹介します。
1.輸入品の輸送エネルギーを節約することができる
食料の輸送には飛行機や船が使われますが、それには多くのエネルギーを必要とします。もし国内だけで食料を用意することができたら、そのような輸送エネルギーは使わないで済むようになります。輸送費の削減により国内の物価高騰の抑制につながることもさる事ながら、環境破壊への緩和とエネルギーの節約にもなります。
2.食料自給率を上げることで食の安全確保ができる
いま日本は、“1億2600万国民のうち7600万人分の食料が外国まかせ”という状態です。食料自給率が低いということは、国民の生存に欠かせない食料の多くを海外に頼ることを意味します。これから日本の食料自給率を上げていくことができたなら、“輸入品に頼らなければ”と怯える心配もないですし、どこで採れたものなのか生産地を特定しながら食べ物を安全に確保することができるようになるでしょう。
3.円安の際にも値段が高騰することがない
円安の際は、円の価値が低くなり、円高の時よりも多く海外にお金を支払わなければならない状態になってしまいます。まさに今、円安の波が日本にやってきており、日本の飲食物の値上げが深刻になっています。
しかし、こういった時にも日本国内でしっかり食料が自給できていれば、円安状況であっても影響を受けにくいといえます。過度な値上げは我々の家計を圧迫してしまいますので、できるだけ日本は自立した生産性を早急に身につけるべきです。
〈参考資料・記事〉
・NHK高校講座 | 家庭総合 | 第29回 食生活 持続可能な食生活をめざして ~これからの食生活をどうする?~
・食料自給率の向上 なぜ必要? 日本共産党
中学・高校の生徒たちに、いざ食料自給率の低さについて伝えようとしても、食べ物が溢れているため、この食の危機的状況にいまいちピンと来ていないでしょう。そこで、どのようにすれば問題と向き合えるのか、諸学校での実例を交えてご紹介します。
食の問題に対しては、温暖化による暑さのように肌で感じるのは困難です。そのため、生徒たちによって情報を自ら集めてもらいディスカッションします。
【議題例】
・今の日本の自給率はどれくらい?それって世界に比べて低い?
・輸入品が入って来なければ今後どうなるか?
・なぜ食料自給率が低いのか?
・農林水産省の発案である『食料自給率アップのための5つのアクション』を元に、実際にのようなアクションを起こせるのか?
・SNSを通じて食料自給率を高めるにはどうすれば良いか?
先生方によってまとめていただいたお話を生徒に向かってお話することも良いですが、この議題について自分のことのように感じ、思考を巡らせるという過程が重要です。今はネットで簡単に世界のことを知ることができますので、情報を集めることは容易いでしょう。
〈参考資料・記事〉
・本庄東高等学校付属中学校にて「SDGs・食料自給率と食品ロス」の出前講座をおこないました | コープデリグループのサステナビリティサイト|コープデリ連合会
・DEiBA就活チャンネル(デアイバ)
ディスカッションをして食料自給率について学ぶことができたら次は、実際に国産の食べ物に触れてみましょう。
一つ目は地域の食べ物が良いでしょう。「地産地消」という言葉が昔からあるように、その地域で採れた作物を食べることが良いとされています。なぜなら、地産地消は地域の活性化につながるだけでなく、作った人の顔がわかるため安心して食べられる、採れたてが味わえることが魅力だからです。
可能であれば生産者さんに直接お話を伺って農業をより身近に感じることができれば、なお地域で採れた野菜に愛着が持てるので良いでしょう。
またそのほかには、“訳あり野菜”を取り寄せて食べてみるのも国産野菜の魅力を知るきっかけになります。2022年6月には青稜中学校(品川区)のSDGsゼミナールにおいて「メルカリShops “ショク育”授業」が開講されました。
メルカリShopsで取り扱う野菜はヒビや裂けた部分のある、スーパーには販売できない規格外の野菜を取り扱っていますが、見た目だけで味は商品として売り出すものに劣りません。このような野菜も販売できるようになれば、フードロスの低下・食料自給率の増加にもつながっていきます。
可能であれば課外授業として農業体験をしてみるのも良い経験になります。田植えや種まき、畑を違うやすなどの体験を通して、農業に関心を持ってもらうことを目的としています。
筆者自身も中学で行った田植え実習のことはよく覚えていて、腰が痛いと友達と笑いながら田植えしたのが忘れられません。その後、自分たちが植えたお米が実り給食として食べたことや、このときの経験から田んぼや畑が目につくことが増えたのも覚えています。農業に触れ合う機会はなかなかありませんから、興味を持ってもらうためにも畑や田んぼでの実習は大切なのではないでしょうか。
また、農業講和や就農講習を受講するのもよいでしょう。実際に働く農家さんや専門の方々のお話を拝聴して農業への理解を深めたり、将来の職業として農業・酪農を選択するための就農講習を受けることで、こういった道もあるのだということを生徒たちの選択に加えて行ってあげることも大切なのかもしれません。
どうしても農業は「大変・労働が辛い」というイメージを抱きがちです。そのイメージを払拭し、今後の農業者を増やすためにも就農へのブロックを外してあげるのも大切な役割です。そうすることで、農業や酪農をやってみたいという若者が増えていくかもしれません。
〈参考資料・記事〉
・「世界の食料問題を、命の原点から学ぶ」~農業体験を通して、SDGsを自分事としてとらえる~ | NEWSCAST
・食料自給率の話:東海農政局
・1年生「農業講話」を行いました – 島根県立出雲農林高等学校
・野菜栽培に汗流す 釜石高定時制生徒、農業体験学習スタート | かまいし情報ポータルサイト〜縁とらんす
日本の食料自給率は、米の消費が減少と肉消費の増大といった食生活の変化により、長期的には低下傾向が続いてきました。しかし、ここ20年ほどは横ばい傾向で、自給率の増加は実現できていません。
世間では「SNS映え」「流行」させることで経済を豊かにするため、今もなお当然のように輸入品をたくさん使った商品が生み出されています。そのようなことを続けていては、きっと現状は変わらないままでしょう。
この状況を改善するために、農林水産省は「食料自給率アップのための5つのアクション」を推奨しています。
1、今が旬の食べ物を選びましょう
2、地元でとれる食材を日々の食事にいかしましょう
3、ごはんを中心に、野菜をたっぷり使ったバランスのよい食事を心がけ、しっかり朝ごはんを食べましょう
4、食べ残しを減らしましょう
5、自給率向上を図るさまざまな取り組みを知り、試し、応援しましょう〈引用:食料自給率を上げるにはどうすればよいのでしょうか:農林水産省〉
これらのアクションを個人が生活に取り込むことが、食料自給率を高めることにつながります。しかし、農林水産省のような大きな組織がいくら「〇〇のような生産・食事を心がけてください」と発表していても、国民全てにはなかな届きにくいところがあります。そこでそのご意見や政策を一人一人に届けるのが中学・高校のような教育機関です。
もし国内の生産・国産製品の消費を高めることが今後大切なのだと伝えることができたなら、共感してくれる生徒が一人でも増えるかもしれません。
ぜひ生徒のこれからの食生活、将来の仕事のために「食料自給率に対する真摯な授業」を行っていただければ幸いです。
(ライター:堀内香菜)