将来の世代も安心して暮らせる持続可能な社会をつくるため、世界規模で脱炭素に向けた取り組みが展開されています。この記事では、「脱炭素とは何なのか」「どうして脱炭素を目指すのか」「日本の学校や地域でどのような取り組みがされているのか」という疑問をもとに、脱炭素について迫ります。
現在、地球規模の問題として「気候変動」が注目されています。気候変動とは、地球上の大気の状態が変動することを意味し、気温の上昇や森林破壊などに影響を及ぼします。人間活動に伴う二酸化炭素などの温室効果ガスの増加が、気候変動をもたらす要因となるのです。
世界の平均気温は2020年時点で、工業化以前(1850〜1900年)と比べ、既に約1.1℃上昇しています。このままの状況が続くと気温がさらに上昇することが予想できるでしょう。
2015年に採択されたパリ協定では、その気温上昇を「2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること」が合意されました。この実現に向けて、150以上の国と地域が取り組みを進めており、「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げています。
【参考資料】気候変動ー気象庁
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることです。そのために、温室効果ガスの排出を削減すると同時に、木の植栽や保全など吸収作用を強化する必要があります。政府は、2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロを目指すことを宣言しました。
2021年11月時点で、154カ国・1地域が2050年までの脱炭素(カーボンニュートラル)の実現を表明しています。なお、これらの国におけるCO2排出量が世界全体に占める割合は80%ほどにまで達していることから、世界規模でCO2削減に取り組んでいるといえるでしょう。
各国、EV等のクリーンエネルギー自動車の普及や持続可能な航空燃料の使用など、それぞれの対策を講じています。ここでは、脱炭素と関連するキーワードに関して解説します。
【参考資料】カーボンニュートラルとはー環境省
持続可能な開発目標SDGsとは、2030年までに「持続可能でよりよい世界を目指す国際目標」のことです。17のゴール・169のターゲットから構成されています。
また、SDGsの目標到達と同時に、2030年に向けて温室効果ガスの排出量を46%削減(2013年度比)を目指しています。SDGsと温室効果ガス削減の目標が同じ2030年に設定されていることもあり、政府はより一層「持続可能な生活」に向けての取り組みを展開しているのです。
SDGsの目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」では、再生エネルギー(太陽光、風力、地熱といった地球資源の一部など自然界に常に存在するエネルギーのこと)の割合を増やし、CO2削減へ繋げることが取り組みのひとつとして挙げられます。
また、目標12「つくる責任つかう責任」では、持続可能な消費と生産のパターンを確保することが、取り組みのひとつとして挙げられます。
これまで製品の大量生産・大量消費によって多くの資源を使い、破棄する際に大量のCO2を生み出してきました。持続可能な生産と消費のバランスを保つために、生産者も消費者も当事者意識を持って、製品に対する向き合い方を見直す必要があります。
【参考資料】
SDGsとは?ー外務省
カーボンニュートラルとは? その意味とSDGsとの関係性、取り組み事例や問題点までー講談社SDGs
地球温暖化対策計画ー環境省
再生可能エネルギーについてー関西電力
現在、各地の学校では脱炭素社会に向けてさまざまな取り組みが行われています。「脱炭素」というキーワードをもとに生徒が主体となり、ほかの生徒や教員、保護者へ脱炭素の理解を深める活動が広まっています。また、学校生活を送る施設の見直しをはかり、設計段階から脱炭素を意識した学校もあわせて紹介します。
自由の森学園は、1985に設立した埼玉県の私立中学校・高等学校です。髪型や服装の指定や校則等はなく、生徒が自分で「自由」について考え行動することを指針とした学校。
キャンパスで開かれた「脱炭素の体育祭」では使用する電力全てが、使用済みの天ぷら油を原料とした燃料でまかなわれました。
使用済み天ぷら油を原料に生成される燃料はBDF(バイオ・ディーゼル・ヒューエル)と呼ばれ、軽油の代替燃料として使用されます。
使用済みの天ぷら油が生活排水として流されたり、ごみとして廃棄されるのではなく、環境に優しい燃料へと姿を変えるため、脱炭素の一環として注目すべき取り組みですね。
また、自由の森学園は天ぷら油の活用だけでなく、校舎屋上にソーラーパネルを設置したり、暖房器具を地元の製材端材を使った薪ボイラーに切り替えたりと、生徒主体で脱炭素社会に貢献しているのです。
【参考資料】
脱炭素で学校運営 持続可能な開発のための教育を 埼玉・自由の森学園ー朝日新聞社BDFって何?ーエコライフ商友
青稜中学校・高等学校は、1938年に設立された東京都の私立学校です。生徒が発案したSDGs部には、中高生が合わせて40名ほど在籍しています。チームに分かれ、社会的な課題に向き合いアクションを起こしています。
そのひとつとして、校内で使用する電気を「グリーン電力」への切り替えました。グリーン電力を提供する「白くま電力」の協力のもと、電気代はそのままに環境に配慮した電力へ切り替えることができたのです。
そのほかの取り組みとして、白くま電力の社員による「脱炭素特別授業」や「脱炭素アクションの考え方教室」、「太陽光発電所見学」を通して脱炭素への理解をさらに深めました。
さらに、得た情報や体験をもとに「青稜生が考える環境アクション~お母さん・お父さんに伝えたいこと~」を実施し、生徒自身が脱炭素の実現を目指した3つの「環境アクション」を提案。
「旧制服のアップサイクル」「チョークのアップサイクル」「しろくま授業料減額制度」など、脱炭素に向けた取り組み内容を提案し、生徒だけでなく保護者も脱炭素に関する理解が深まる機会となりました。生徒が主体となり、電力会社や保護者を巻き込みながら脱炭素に向けた取り組みを繰り広げる姿は頼もしいですね。
【参考資料】
学校教育でも脱炭素 生徒たちが自ら学んで提案する「脱炭素アクション」 青稜中学校・高等学校としろくま電力の共同プロジェクトーEnergy Shift
瑞浪北中学校は、2019年に設立した岐阜県の市立中学校です。 同市内3校の統合・再編として進められた校舎の建設は、「年間のエネルギー消費量を実質上ゼロとするゼロエネルギー化」、「次世代の学校施設の在り方」を目指して設計されました。
設計事例の1つ目は、「最適な校舎配置による換気・冷房エネルギーの削減」です。瑞浪の地形・風土を活かして、森からの風を換気に積極的に活かせる構造となっています。採り込まれた風は地下溝を通り、夏場には冷えた空気を、冬場には暖かい空気を各教室まで送り込む仕組みになっているのです。
設計事例の2つ目は、「パッシブ化により、自然エネルギーを活かした省エネと快適な環境の両立」です。一般に、小中高校では照明のエネルギー消費が最も多いため、そのエネルギーを減らすべく全教室を最上階に配置しました。多くの自然光を教室に取り込みながら自然光とLED照明を併用することで、エネルギー消費を削減しています。
設計事例の3つ目は、「生徒が自発的に行動できる環境教育システムの導入」です。各教室には、温度・湿度、二酸化炭素濃度等が表示される「エコモニター」が設置されており、生徒自らが教室の状態を把握して空調や照明の調整ができるようになっています。
さまざまな工夫が盛り込まれた設計により、設立1年目の「建物のエネルギー消費実質ゼロ」が実現できました。
【参考資料】
脱炭素社会と環境教育に貢献する学校施設の『ZEB』化ー文部科学省
政府は、2030年のCO2排出削減の目標や2050年のカーボンニュートラルに向けて取り組みを進めています。そのひとつに「脱炭素先行地域の選出」が挙げられます。今回は、多く地域の取り組みの中から、「学校が地域とかかわって取り組んでいる事例」を紹介します。
脱炭素先行地域とは、2050年のカーボンニュートラルに向けて温室効果ガス排出の削減を、地域の特性に応じて実現する地域のことです。2025年度までに少なくとも100箇所の地域で取り組みを行っていきます。
掲げる目標は、共通して「家庭や業務ビルで排出されるCO2が実質ゼロ」「運輸や熱利用も含めたそのほかのCO2排出を、2030年度目標に向けて削減」することです。
【参考資料】
脱炭素先行地域とはー環境省
長野県飯田市では、「再エネ活用の取組を市内小中学校にも展開することで、学校施設における電力使用の脱炭素化と具体性ある環境教育とを実現し、学校をハブとして各家庭での取組の啓発につなげる」ことを目標として、小中学校28校と連携して取り組みを進めています。
具体的な取り組み内容は、小中学校の屋根を活用し太陽光発電設備と蓄電池を設置し、自家発電、自家消費を促進することです。それにより電気料の支払いが抑えられ、飯田市教育委員会の学校運営コストが削減され、削減されたコスト分を環境教育の原資に充てることができるという仕組みをとっています。
SDGs授業によるゼロカーボン学習や、学内の省エネの取組方法や意義を家庭に持ち帰り、家族とのコミュニケーションの中から家庭の省エネにつなげていくことを目指しています。
【参考資料】
「 既存配電系統を活用した地域マイクログリッドによる人をつなぎ地域をつなぐまちづくり」ー環境省
埼玉県さいたま市では、「公・民・学それぞれが主体となって取り組むグリーン成長モデルの実現」を目標としており、埼玉大学や芝浦工業大学とも共同して取り組みを進めています。
具体的な取り組み内容は、「最先端の環境教育」としてSDGs・脱炭素化をテーマとした教育や研究の促進と実践の場の提供、「学生主体のイノベーション」として学生が主体となりイノベーションや先進的取り組みをリード・運営できるようなワークスペースの設置などです。
また、学内の施設整備を行い、省エネ化を推進しています。学内では、空調機器や照明、電化製品などが主なCO2排出源となっているため、施設の省エネ化が、脱炭素へ向けた取り組みの大きなポイントです。
【参考資料】
「さいたま発の公民学による グリーン共創モデル」ー環境省
この記事では、脱炭素の言葉の定義や目指す背景にあるもの、具体的な取り組み内容について紹介しました。
気候変動による気温上昇が懸念される昨今、CO2排出削減が「持続可能な未来」をつくる上で大きなポイントとなります。
世界規模で取り組む2050年のカーボンニュートラルに向けて、身近な場面や地域や学校で取り組めることを考えてみてはいかがでしょう。
(ライター:上野ちか)
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