コラム社会・環境基盤

里山エコツーリズムの実施例から学ぶ課題や改善点

2023.02.06

森林や湖、川など自然に触れることができる”里山エコツーリズム”は世界中で積極的に実施されており、大自然のエネルギーを肌で感じることができるため日々のストレスを開放できると人気も高い観光です。

日本にはツアーの目的地にできるほど自然豊かな場所がまだまだ多く残っていますから、エコツーリズムを行う地域はさらに増えてくると予想されます。また、このツアーを実施することで人口減少が顕著な場所への集客、また地域の活性化にも繋がるので自治体としても積極的に取り組みたい事業です。

この記事では”里山エコツーリズム”とはそもそもどのようなものか、実施する目的、継続していく上での問題となっていることなどをまとめましたのでご覧ください。

1.里山エコツーリズムとは

里山エコツーリズムとは、地域の環境や文化の保全のため、旅行者に里山(人里近くにある、生活に結びついた山や森林)の素晴らしさに触れたり体験したりしてもらう観光形態です。

  • ・原生的な自然におけるガイドツアー
  • ・特徴的な野生生物とのふれあい
  • ・自然の営みに触れる観察会への参加活動
  • ・環境教育を主目的とした学校団体の活動
  • ・自然や文化に関する解説を受けながら地域を歩き巡る活動
  • ・環境保全のために実際に貢献をする活動
  • ・自然の中でゆったりとした時を過ごしながら自然の恵みを体感する活動

以上のようなさまざまなプランが、現在多くの旅行会社で”里山エコツーリズム”として展開されています。

そもそもエコツーリズムが最初に提唱されたのは、一般には 1982 年の IUCN(国際自然保護連合)が「第3回世界国立公園会議」で議題としてとりあげた時であると言われています。この会議において、エコツーリズムは”自然保護の資金調達機能として有効”と発表されたことで、”エコツーリズム”という言葉が広まっていきました。

この世界的な会議に加え、1993 年の白神山地と屋久島の世界自然遺産登録をきっかけに、多くの民間企業が自然度の高い地域への旅行計画を実施するようになります。旅行といえば”人の賑わった観光地や温泉街”といった常識に”自然を満喫する”ことが加えられるようになったのです。

さらに、1998年には日本エコツーリズム協会が設立、2003年には環境省主導のエコツーリズムの推進会議が行われました。その会議にて、地域の環境への配慮を欠いた単なる自然体験ツアーがエコツアーと呼ばれたり、観光活動の過剰な利用により自然環境が劣化しているなどという非適切な現状が共有されました。

その結果、①自然環境の保全観光振興地域振興環境教育を4本の柱とした法律『エコツーリズム推進法』が2008年4月に施行され、自然を守りながら適切なエコツーリズムが実施されるよう徹底されました。

〜エコツーリズム推進法の4本の柱〜

自然環境の保全:人間の活動による環境への負荷を低減し、地球温暖化・生物多様性の損失・公害の発生などを抑制する取り組み

観光振興:観光を通してその地域の文化や伝統を活用し、経済活性化を目指す取り組み。 観光に力を入れることで、新たな雇用が生まれたり、経済に良い影響をもたらしたりするきっかけとなる

地域振興:それぞれの地域の特性を活かしながら環境を整え、地域の活力を引き出し創り出していくこと。協働(NPO・ボランティア・住民団体と行政がお互いの特性を認識・尊重し合い、対等な立場で、課題の解決に向けて協力・協調する)しながら、個性豊かで誇りのもてる魅力ある地域づくりを進めていくこと

環境教育:エコツーリズムを通じて環境問題について学習し、自主的・積極的に環境保全活動に取り組んでいく活力をつけることを目的とする

〈参考〉

2.里山エコツーリズムの目的

エコツーリズムには豊かな自然を肌で感じて、そのゆったりとした空間を楽しんでもらう最も重要な目的がありますが、この章では自然保護の面観光や経済など地方活性の双方の視点から里山エコツーリズムに参加する別の目的をまとめてみました。

①自然保護や環境問題を知る

動植物や環境が昔と今ではどう変わってしまったかを伝えることで、今ある自然を大切にする意識を植え付ける意図があります。

  • ・蛍ウォッチングでは”河川のよごれ、特に中性洗剤の普及による汚物の沈殿と農薬や化学肥料の使用等により、蛍のエサになる貝類が減少した事が主な原因”で今後見れなくなるかもしれない
  • ・冬の山岳トレッキングにて現在の山の積雪と過去の写真を見比べ、積雪量が激減していることを認識してもらう
  • ・野生動物や虫のウォッチングにより里山の重要性や、管理放棄による多様性の劣化が起こっていることを伝える

などのように、人工的な環境変化によってもたらされている変化環境破壊による影響を実感してもらうことも、エコツアーを行う上で大切でしょう。

地方を活性化させる目的

  • ・観光業に対しては新たなニーズに的確に対応し、新たな観光需要を起こすことができる
  • ・地域社会に対しては、雇用の確保・経済波及効果・住民による地域の再発見により、地域振興につながる

エコツーリズムは自然豊かな地域に限らず、里地地域や都市地域内の自然など、どのような地域でも成立すると考えられています。そのため、世界遺産に登録されるような壮大な自然がなくても問題ありません。

その土地の生活に結びついた山や森林の中で、自然を感じられる場所や誇れることが1つでもあるなら里山エコツーリズムを実施することは可能でしょう。

〈参考〉エコツーリズムに関する国内外の取組みについて/環境省

3.エコツーリズムの取り組み事例

農山漁村の活性化のためのエコツーリズム推進全体構想

(1)白川村エコツーリズム推進全体構想(岐阜県白川村:令和元年11月16日認定)

(画像出典元:白川郷まるごと体験協議会|推進法認定団体|環境省)

①エコツアーを導入した理由

白川村は白山をはじめとする多くの山々と川が非人工的な自然本来の姿を保った地域で、その中には白山国立公園や天生県立自然公園など生物多様性に富んだ豊かな自然が存在しています。そんな豊かな自然や守り、文化を継承するため、多種多様なエコツアー・体験プログラムを開発し、宿泊滞在型エコツーリズムの確立を目指しています。

②実施しているエコツアー

・豊かな森林を活用したツアー

白川村は豊かな森林に恵まれた村です。森林は人に様々な恵みをもたらしてくれますが、その恵みは物質的なものにとどまらず、精神的な安らぎ等幅広い範囲に及びます。また、地域のこども達への森林に対する理解を深めるための森林を活用した環境教育等、森林の様々な恵みを利用したツアーを開発及び実施します。

・山岳を活用したトレッキングツアー

白山登山:日本三名山(霊山)・百名山「花の白山」・三方岩岳日・本三百名山・天生県立自然公園

・水辺を活用したツアー

大白川河川でのシャワークライミング

③問題点や今後の展望

白川村には世界遺産以外にも恵まれた自然環境があるにも関わらず、豊かな自然そのものを経済活性化には繋げられていません。というのも、「世界遺産に来た」「白山国立公園に来た」ということだけが心に残り、それぞれが持つ魅力を伝えきれないというのです。

今後の目標として、日本人だけでなく外国人観光客の方にとっても豊かな環境資源を”魅力的”と感じてもらえるようなツアーの作成、効果的な情報発信や魅力を伝えられるガイドの育成などを一体化した仕組み作りを挙げられています。

これらの取り組みがうまくいけば、エコツーリズムを通じた「自然環境の保全」、長期滞在がもたらす「観光振興」や「地域振興」、そしてそれらを通じた「環境教育」がより一層充実していくことでしょう。

(2)吉野川紀の川 源流ツーリズム推進全体構想(奈良県川上村:令和3年7月20日認定 )

(画像出典元:吉野川紀の川源流ツーリズム推進協議会|環境省)

①エコツアーを導入した理由

奈良県上川村には吉野杉や滝・清流などの自然環境、大滝ダムや大迫ダム、星空などが有名です。この森の近くには国指定天然記念物「トガサワラ原始林」が位置し、これら豊かな自然環境によってレッドデータに分類され絶滅が危惧される希少な動植物が多く生息する地域でもあります。

しかし、素晴らしい環境資源とは認識しながらも活用できていませんでした。それに、自然環境や歴史や文化の中にも発掘されていない観光資源がまだまだ多く存在しています。そのような資源を地域発展へと繋げるため、資源の発掘とブラッシュアップを重ね、エコツアーなど観光客を狙った戦略的なPR活動を行っていくことになりました。

②実施しているエコツアー

1.自然環境を活用したツアー

水源地の森ツアー、虫や水生生物、鳥類などの観察会、キャニオニング、ケイビングなど

2.地元の人々を主役にしたツアー

遊休農地の貸し出しと野菜作り指導、山菜採りの指導と料理体験、里山お散歩ツアーなど

③問題点や今後の展望

問題となったのはエコツアーを行うガイドの不足です。人口減少と少子高齢化という問題を抱えている奈良県川上村にとって人材確保は困難でした。エコツアーの観光事業は、若い人材を他の地域から取り入れること、移住・定住の入り口となる要素を持っていることから、様々な種類の観光資源のアピール戦略を打ち出しています。

さらに、リピーター確保も今後のテーマとしており、自然や土地の魅力を伝えながら別のツアーへの参加を促しながら、この地域へまた足を運ぶための後押しに力を入れています。

〈参考〉エコツーリズム推進全体構想の認定・変更について:農林水産省

4.里山エコツーリズムの問題点・課題に対する改善点

①エコツアーガイドの確保

エコツアーを行うためにはその地域の自然や文化に関する十分な知識と、何より「この場所の自然を守りたい!」という強い気持ちを持っているガイドが必要ですよね。

しかし、そのような質の高いガイドを確保することは中々難しく、いたとしても既に高齢である場合が多いため、遠からずまた新たなガイドを探すことになります。そのため近年では次世代を担うエコツアーガイドの確保および育成も、エコツーリズムを進める上で重要な課題となっています。

新規のガイド希望者には移住促進のために住宅手当などの福利厚生の充実や徹底した育成が必要です。中国語や英語を話す海外からのツアー参加者への対応・適切なアナウンスができないというケースもあるので、あらかじめ語学に強い人材を探すのも良いでしょう。

また、ガイドを募集するため・ツアー参加者のために、ホームページやTwitterやinstagramなどの発信を普段からおこない、「ここに行ってみたい」と思わせるような情報を公開しておくのもおすすめです。

②環境保護と観光振興のバランスをとる

エコツーリズムはもともと”観光業の発展”や”旅行を楽しんでほしいという想い”、そして人口の少ない地域の”町おこし”といったことがきっかけで始まった事業です。

しかし、環境問題が世界的に問題になり、世界中でエコツーリズムが”自然保護の意識向上”に最適であると着目され始めてから、自然を守るためのルールが厳しくなりました。それにより、”環境保護”と”観光振興”の双方のバランスを上手くとるのが難しくなったと嘆く声があります。

自然保護を優先するあまり観光のルールを厳しく定めたり、ツアーに参加できる人数枠を制限し過ぎてしまうと、観光振興に影響を与えて参加者数の伸び悩みの原因になるだけでなく、十分な売り上げを年間を通して得ることができなければ、ツアーの担当者に十分な給与を支払うこともできなくなってしまいます。

逆に観光振興を優先した場合、安全に観光スポットを楽しむために舗装工事など人工物を取り入れることで自然の形を壊すことになり、結局ありのままの自然を見てもらうことが叶わなくなってしまいます。

この2つを上手く両立させるためには環境保護と観光振興のちょうど中間地点を見つけることが必要ですが、場所や考える人によって正しい答えは違ってきます。

多方面から意見を出し合ってどちらかに偏りすぎないように討論し、ツアーを維持できるための利益を確保しながら、自然環境を守れる最善の方法をよくよく思案しましょう。

〈参考〉

(ライター:堀内 香菜)


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