コラム廃棄物

学校でできる食品ロス対策! 食材のアップサイクル事例

2024.10.31

世界的な問題になっている「食品ロス」。FAO(国際連合食糧農業機関)によると、世界では、まだ食べられる食料が13億トン廃棄されていて、世界の20億人分の食料に及ぶことが分かっています。

食品ロスは世界全体で取り組むべき課題と捉えられ、日本でも食品ロスへのさまざまな取り組みが進められています。なかでも注目したいのは、廃棄食材とされていたものをアップサイクルした生徒たちの取り組みです。若者たちのアイデアで、廃棄食材が新たな価値を付けた製品へと生まれ変わっています。

この記事では、食品ロスの現状と廃棄食材を活用した学校事例をご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。

環境、経済にも影響を及ぼす「食品ロス」

「食品ロス」とは、本来食べられるのに捨てられてしまう食品のこと。日本での食品ロスは、年間472万トン(2022年度)にのぼります。

これは国連世界食糧計画(WFP)による2022年の食料支援量(約480万トン)とほぼ同じ。日本人1人当たりに換算すると、1年で38kg。毎日、一人ひとりが、おにぎり1個を捨てているのと同じなのです。

さらに、食品ロスは、食べ物を無駄にするだけでなく、環境や経済にもさまざまな影響を及ぼしています。

2023年度、日本の食料自給率(カロリーベース)は、38%だと知っていますか?海外では、カナダは204%、オーストラリアは233%、アメリカは104%などの高い水準を示していて、日本の自給率は先進国の中でも低い値です。

食料自給率が38%ということは、消費する食べ物の68%を海外からの輸入に頼っていることを意味します。つまり日本は、多くの食料を海外から輸入しながらも、たくさんの食品を廃棄しているのです。

また、水分を多く含む食品の焼却には多くのエネルギーが必要なうえ、処理費用もかかります。家庭から出された食品ロスを含めたごみの処理には、年間約2兆円という多額の費用がかかり、私たちの税金から賄われています。

それだけでなく、船舶・飛行機による輸入や焼却による二酸化炭素の排出、焼却後の灰を埋め立てる土地の問題など深刻な問題を抱えているのです。

【参考資料】
食品ロス削減ガイドブック | 消費者庁
飢餓と食品ロスに関する、5つの事実 | WFP
世界の食料自給率 | 農林水産省

食品ロスはどこで発生する?

食品ロスというと、普段の生活で出る食べ残しや賞味期限切れの食品をイメージしがちですが、日本の食品ロス(472万トン)の内訳は、事業系食品ロスが236 万トン(50%)、家庭系食品ロスが236 万トン(50%)です。

さらに事業者食品ロスは、食品製造業117万トン、食品卸売業10万トン、食品小売業49万トン、外食産業60万トンに分けることができます。大切なのは、事業者と家庭の両者が取り組み、全体の食品ロスを減らしていくことです。

では、食品ロスはどこで発生しているのでしょうか?食品ロスは、「フードサプライチェーン」の各段階で、発生しています。「フードサプライチェーン」とは、食品の生産から消費に至る一連の流れのことです。

フードサプライチェーン(出典:食品ロス削減ガイドブック | 消費者庁

食品が消費者のもとに届けられるまでに、製造、配送、販売などのさまざまな過程があり、規格外品や返品、売れ残り、作り過ぎなどの理由から、多くが廃棄されています。

また、消費するときには、食べ残しや過剰除去(野菜の皮などを厚くむき過ぎたり、食べられる部分を取ってしまうこと)、直接廃棄(食べられる食品を使うことなく捨ててしまうこと)が原因になっています。食品ロスを削減するためには、フードサプライチェーン全体で取り組むことが必要です。

【参考資料】
食品ロス削減ガイドブック | 消費者庁

廃棄食材に新たな価値を付けて食品ロスを削減

日本では、家庭系食品ロス量、事業系食品ロス量のどちらも、2000年度と比べて、2030年度に半減することを目標に掲げ、さまざまな取り組みが進められています。

食品ロスを削減する手段として、「アップサイクル」に着目した取り組みも始まっています。「アップサイクル」とは、廃棄される物に「新たな価値」を与えて生まれ変わらせることです。

廃棄食材をアップサイクルする取り組みは、食品の生産や流通、販売に関わる企業だけでなく、学びの場である学校でも進められています。次では、食品ロスの対策として廃棄食材をアップサイクルする若者たちの挑戦を紹介します。

【参考資料】
食品ロス削減ガイドブック | 消費者庁

アップサイクルで廃棄食材を活用した学校事例

地域農産物の規格外食材を活用した商品開発の事例

佐賀県立伊万里実業高等学校で2017年、フードビジネス科の生徒が「何かしたい」と先生に相談したことから始まった取り組みです。

「地域には黒米や芽キャベツ(プチヴェール)などのおいしい食べ物が生産されているのに知られていない、多くの人に知ってもらうことで伊万里に人を呼び込みたい」という想いを持つ生徒 5 人と生徒の願いを叶えたいと寄り添う顧問が始めました。

まず最初に行ったのは、農家で廃棄される規格外の食材を活用した商品開発。地域農産物の知名度向上と、食品ロス削減を目的に取り組みが始められました。くず米と呼ばれる規格外の黒米からは「米マフィン」を考案。そのほか、アジの中骨を利用した「お魚ビスケット」やプチヴェール(芽キャベツとケールを交配したもの)を利用した幼児菓子なども商品化しました。

さらに、授業で食品流通における食品ロスやSDGsについて学んだ生徒が「フードドライブ」の取り組みを提案します。それがきっかけで、市内のNPOと連携し、集まった食品を必要な人に届けられる仕組みが構築されました。

生徒たちの取り組みは、廃棄食材のアップサイクル、フードドライブに留まらず、2023年7月には「子ども食堂」も開始されます。

活動を通して地域とのつながりを深めるなかで立ち上げられた子ども食堂では、伊万里の郷土料理にくわしい人たちから支援を受けてメニュー開発に取り組み、伊万里郷土料理を伝えたり、箸の持ち方や朝ごはんの大切さを伝えたりする食育の場「学びの Kids レストラン」を開催しています。

「何かやりたい」のひとことから始まった活動が、地域を活性化し、市全体へと広がった事例です。

【参考資料】
第11 回食品産業もったいない大賞 表彰 事例集 | 農林水産省
第11回「食品産業もったいない大賞」結果報告 | 公益財団法人食品等流通合理化促進機構

家庭の生ごみを活用した肥料化の事例

長崎県立諫早農業高等学校バイオ園芸科で学ぶ生徒による、長崎県対馬市と連携した食品ロスの取り組みです。市では、回収する燃えるゴミのうち、38%を占める「家庭から出る生ゴミ」の堆肥化を進めていました。生徒は、この堆肥を農業に活用するためのエビデンスを得る実験に取り組みます。

まず、2020年に実証実験を開始し、丁寧な研究データを重ねて一般堆肥と同等の効果を確認しました。そして2021年には「堆ひっこ」として肥料化が完成し、これまでの2255トンの生ゴミを回収し、約200トンの堆肥化を実現しています。

また、肥料が高騰するなか、その代替として「堆ひっこ」を活用すれば農家さんのコスト削減に役立つのではないかという思いから、農作物に合わせた使い方の提案も検討。

長崎県の特産品である馬鈴薯のほかスイカ、メロン、カブ、ホウレンソウ、オクラで、化成肥料と同様に使用可能であることがわかりました。さらに技術センターなどから「成分的に堆肥ではなく、肥料として十分利用可能」との評価を受けています。

「堆ひっこ」実用化に向けて実施した地元農業青年クラブでの研修会などから徐々に広まり、水稲、馬鈴薯、アスパラなどで「堆ひっこ」を活用した生産が始まっています。

【参考資料】
第11 回食品産業もったいない大賞 表彰 事例集 | 農林水産省
第11回「食品産業もったいない大賞」結果報告 | 公益財団法人食品等流通合理化促進機構

災害備蓄食糧品をおいしい料理へとリメイクした事例

大阪府堺市では、廃棄予定の災害備蓄食糧品からおいしい料理へとアップサイクルさせた災害備蓄食糧品リメイクメニューを販売しました。

これは、市が設立する「さかいSDGs推進プラットフォーム」と大阪調理製菓専門学校・調理総合本科2年生の23人が連携して、実現したもの。調理師をめざす学生の力でメニューが開発され、賞味期限が近い災害備蓄食糧品がおいしくリメイクされています。

これまで災害備蓄食糧品は、市を含めた企業や団体が充実させる一方で、賞味期限が切れたものは廃棄せざるを得ない状況でした。そこで、廃棄予定の災害備蓄食糧品を美味しい料理に変えて、食品ロスを削減しようと始まった取り組みです。

2023年9月、学生レシピコンテストで応募のあった9品の内、審査で選定された3品が市内のショッピングセンターで開催されたSDGsイベントにおいて販売されました。

また応募があった9品のレシピは、市のWebサイトで公開されています。災害備蓄食糧品リメイクメニューは家庭でも料理しやすいようになじみのある食材を使うといった工夫が施されていて、手軽に取り組めるレシピになっています。

【参考資料】
災害備蓄食糧品リメイクメニューが販売されました | 堺市
令和5年度 地方公共団体における食品ロス削減の取組について<事例紹介> | 消費者庁

廃棄野菜を活用したスープ販売の事例

金沢大学の大学生が廃棄野菜に着目して、スープ販売に取り組みました。廃棄野菜の調達から始まり、商品企画、調理、販売までのすべてを学生が担っていることも特徴の一つです。

この取り組みは、規格外野菜といった廃棄される野菜を活用すると同時に、学生の野菜不足を解消し、食事を楽しめる環境をつくりたいという思いから始まりました。

人にも地球にもやさしいスープのお店として“ころころ食堂”が立ち上げられ、規格外野菜を含む食品ロスについて学んだり、エコクッキングをしたり、異文化交流をしたりと、学びのプラットフォームにもなっています。2030年10月には、金沢大学の学食での提供が開始されました。

【参考資料】
ころころプロジェクト | 石川県
食品ロス削減推進表彰審査委員会特別賞 金沢大学生チーム わこころ | 消費者庁

今回は、廃棄食材を使った学校でのアップサイクルの取り組みを紹介しました。当たり前に廃棄されているけど実は活用できる資源は、まだたくさんあるはずです。若者たちの感性が活かされた取り組みが、地域にもいい影響を与え、活性化へとつながっていくことを願っています。

(ライター:藤野あずさ)

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