コラム廃棄物

企業の廃棄物削減 生ごみをコンポストで堆肥化する事例5つ

2023.09.22

日常生活でも、企業活動の中でもどうしても発生してしまうのが生ごみです。事業系ごみのおよそ3割は生ごみであるという調査結果もあります。企業として生ごみの処理問題に取り組むのも、廃棄物削減につながる環境活動です。

生ごみはコンポストを使って「堆肥化」することで有効活用できます。コンポスト活用は世界的にも広がってきており、アメリカ合衆国・ボストンでは2022年、街角に公共コンポストが設置されました。「2050年までに生ごみ廃棄率を90%削減」を掲げているボストン市の施策は、モデルケースとして注目されています。

この記事では、生ごみの「堆肥化(コンポスト)」について国内企業の事例を5つご紹介します。コンポスト利用において気になる悪臭・害虫についても対策を解説していますので、あわせてご覧ください。

生ごみの堆肥化(コンポスト)とは

「コンポスト」とは、生ごみなどの有機物を土の中の微生物の働きによって分解し、植物を育てる堆肥に変える道具です。英語の「compost」は「堆肥」という意味ですが、日本では堆肥化するための容器を指します。

コンポストの中に生ごみや落ち葉、枯れ草などを入れ、上から土をかぶせます。その作業を繰り返し、時折混ぜながら数ヶ月待つと栄養分をたっぷり含んだ堆肥が出来上がります。コンポストには設置型・回転型・段ボール型などさまざまな種類があるので、置く場所や生ごみの量によって選ぶとよいでしょう。
日本では江戸時代まで、生ごみをこのようにして処理してきました。縄文時代の遺跡に「貝塚」がありますが、古い時代のコンポストともいえるでしょう。明治時代以降、産業革命の波が訪れて「大量生産・大量消費」の社会構造となってから、ごみは焼却処分されるようになったのです。

有機物を微生物が分解して土に還すシステムは、自然界の循環そのものです。コンポストによる生ごみの堆肥化は、太古から繰り返されてきた営みを活用した環境活動といえるでしょう。

【参考資料】
段ボールコンポスト(生ごみの処理)|神戸市

現代日本のごみ処理問題

生ごみは水分を多く含んでいるため燃えにくく、実は焼却処分のときに重油をかけて燃焼を促進しています。生ごみ1トンを焼却するには約760リットルもの重油を使う必要があり、ダイオキシンや塩化水素など生物に有害な物質も排出されます。

日本では、1年に約6000億円を生ごみの焼却処分に当てています。処理される生ごみの中にはまだ食べられるのに廃棄される食品、いわゆる「フードロス」も多いです。国内の年間フードロスはおよそ643万トンに上るといわれています。

また、世界におよそ2000か所あるごみ焼却場のうち、半数が日本にあります。日本では、1960年代の人口増加・高度経済成長にともなってごみの量が爆発的に増加しました。そのため焼却処分場の整備が進み、「ごみ=焼却処分するもの」という認識が続いています。

生ごみは焼却処分しにくいですが、コンポストによって堆肥化すれば貴重な資源になります。そうして生まれる化学肥料ではない堆肥は、環境にも身体にも優しいでしょう。

【参考資料】
食品ロスの現状を知る|農林水産省
日本の廃棄物処理の歴史と現状|環境省

生ごみを堆肥化するメリット・デメリット

生ごみの堆肥化には、次のようなメリットがあります。

・廃棄物を削減できる
・処理費用を節約できる
・事業所の花壇や植木、菜園などに堆肥を使える
・焼却処分による温室効果ガス排出量も減らせる
・堆肥を周辺地域に還元すれば住民との繋がりが生まれる

冒頭でも述べましたが、事業系ごみのおよそ3割は生ごみだといわれています。廃棄物全体のうち3割を削減できれば、処理費用の節約も可能です。

また、社内に花壇や菜園を作るとリラックスできる環境づくりにも繋がります。近年注目されている「屋上緑化」にも利用できるでしょう。

一方で、このようなデメリット・注意点もあります。

・堆肥化に時間がかかる生ごみもある
・生ごみをコンポストに入れるための手間がかかる
・悪臭・虫が発生する可能性がある

コンポストを使うには、生ごみのうち堆肥化しやすいものを選んで水を切り、小さく刻む必要があります。生ごみはすべて堆肥化できるわけではなく、アボカドや栗の皮、トウモロコシの芯、貝殻などは分解が遅いためコンポストに不向きなものです。社内に分別の意識を周知し、少しでも手間をかけずに堆肥化できる工夫をするとよいでしょう。

堆肥化で特に心配な悪臭・虫の発生ですが、いくつかの簡単な対策で防止できます。こちらの対策は企業事例の後にご紹介します。

【参考資料】
屋上緑化・壁面緑化推進の取組|国土交通省
ダンボールコンポストQ&A|岐阜市

生ごみの堆肥化(コンポスト)を行っている企業事例

「ホテルニューオータニ東京」は生ごみ5トンをすべて堆肥化

「ホテルニューオータニ東京」は1999年、生ごみを加熱・攪拌・乾燥ができる「コンポストプラント」をホテルの地下に設置しました。

館内にレストランを37店舗、宴会場を33ヶ所備える同ホテルでは、1日に排出される約5トンもの生ごみをコンポストを使ってすべて堆肥化しています。コンポストプラントに入れられた生ごみは、堆肥化して異物を取り除くと5分の1までかさが減ります。

完成した堆肥は契約農家が買い取り、そこで育った食材をホテルニューオータニが仕入れて「SDGsメニュー」としてお客様に提供、従業員食堂で活用するなどの「循環」が生まれています。また、館内の日本庭園や「レッドローズガーデン」を整備する肥料としても役立っています。

【参考資料】
食品ロス実質ゼロを叶える「コンポストプラント」|ホテルニューオータニ

観光施設「新しい村」から始まる「農」のある街づくり

埼玉県宮代町のコミュニティエリア「新しい村」は、令和3年度から乾燥式処理機を導入して生ごみを堆肥化しています。

「新しい村」は、宮代町が目指す「農のある街づくり」の拠点となる施設です。直売所や地元の食材を使ったカフェのほか、農業体験や料理教室ができる設備もあり、多くの人が利用しています。また、休耕地を預かって米・野菜を生産したり、田植え・稲刈りなどの農作業を受託したりと宮代町の農業を支える取り組みにも力を入れている施設です。

新しい村で排出される生ごみは、主に直売所・カフェで発生する野菜くずやコーヒーかすです。乾燥式処理機で堆肥化すると、さらさらとした土に混ざ込みやすい堆肥ができあがります。作られた堆肥は施設内の花壇で使用するほか、市民農園の利用者に無料配布するなど、「農」を通して豊かになっていく街づくりへと繋がっています。

【参考資料】
新しい村(埼玉県宮代町)
生ごみ処理機を使った減量化・堆肥化に迫る!|宮代町

「ヤマモリ株式会社」は生ごみを「堆肥原料」へ

三重県松坂市の「ヤマモリ株式会社」では、製造過程で発生した生ごみを堆肥原料に変え、業者に販売しています。

ヤマモリ株式会社は、醤油やレトルトカレー・パスタソースなどを生産している企業です。松坂工場は国内トップクラスの規模のレトルトパウチ食品工場で、年間生産能力は1億9000万袋を誇ります。高い生産能力をもつため、これまでは1年におよそ250万トンもの生ごみを排出していました。

そこで2022年秋に「減容型生ごみ処理装置」を導入し、発酵物を「堆肥原料」として業者へ販売できるようになりました。買い取られた堆肥原料は、堆肥業者がさらに2回発酵させて堆肥化し、近隣の農家に利用してもらっています。試算によると、従来のおよそ8割の廃棄物がこの取り組みで削減できると考えられています。

【参考資料】
取組み紹介|ヤマモリ株式会社

「JICA九州」が自治体と協働する「KitaQ方式コンポスト事業」

「独立行政法人 国際協力機構(JICA)」の九州拠点「JICA九州」は、福岡県北九州市や他の団体とともに「KitaQ方式コンポスト事業」に取り組んでいます。2004年からインドネシア・スラバヤ市に「高倉式コンポスト技術」を導入し、4年間で約30%もの廃棄物削減に成功しました。

「発展途上国」と呼ばれる国々では、ごみ収集サービス・清掃事業が十分でないことが多々あります。それによる埋立地での悪臭・環境汚染なども問題となってきました。

「KitaQ方式コンポスト事業」では、生ごみの堆肥化をはじめ、資源ごみの分別、環境啓発活動などを実施しています。スルバヤ市では「高倉式コンポスト技術」を2年間で約7000世帯に普及させました。2005年からはタイ・バンコクでも活動し、現地の廃棄物削減や環境改善に成果を挙げています。

【参考資料】
生ごみコンポスト|JICA九州
環境国際協力の事例|北九州市

「黒川温泉」が地域で取り組むコンポストプロジェクト

熊本県南小国町の「黒川温泉」では、2020年から地域を挙げて生ごみを利用した堆肥づくりに取り組んでいます。旅館から排出される生ごみをコンポストを使って「完熟堆肥」に変えて地元農家に提供、作られた野菜を旅館で利用するという循環が始まりました。

この取り組みは黒川温泉が始めた「サーキュラーエコノミー&コンポスト事業」の一環で、旅館でどうしても発生するフードロス問題を解決しようという試みです。事業にはアドバイザーとしてサーキュラーエコノミー研究家・安居昭博氏、コンポストアドバイザー・鴨志田純氏を迎え、黒川温泉から南小国町全体によい循環を生み出そうとしています。

旅館業と行政・地域住民が一体となって環境活動に取り組む様子を紹介した動画は、2020年のサステナアワードで「環境省環境経済課長賞」を受賞しました。

【参考資料】
黒川温泉
黒川温泉一帯地域コンポストプロジェクト|YouTube
「サステナアワード2020伝えたい日本の”サステナブル”」受賞者|農林水産省

悪臭・虫の発生への対策は?

生ごみを堆肥化するときにどうしても気になるのが悪臭・虫の発生です。これらの問題は、対策グッズの活用や簡単な工夫で対策できます。

悪臭の発生は、生ごみの水分をしっかりと切ったうえでコンポストに入れ、よくかき混ぜるようにすると防げます。また、密閉できるコンポスト容器や防臭シートを利用するのも有効です。

肉・魚をあまり入れず、植物性の生ごみが多いコンポストにすると虫の発生も抑制できます。もし発生した場合は、米ぬかや糖分などを入れて発酵を促進したうえで天日干しにすると駆除可能です。

ポイントを押さえて、悪臭・虫が発生しないコンポストを目指しましょう。

廃棄物削減や節約

どのような業種の企業でも、生ごみは多くなりやすい廃棄物です。会社で発生するごみの内訳を調べてみると、生ごみが大きな割合を占めていることが分かるでしょう。

コンポストを使って堆肥化すると、廃棄物削減や処理費用の節約ができます。企業の環境活動としても、コスト削減としても期待できる取り組みです。

また、出来上がった堆肥をどのように活用するのかも大切です。事業所の花壇・樹木の整備に使うと、地域の美化につながります。地元農家や市民農園の利用者に向けて販売するのであれば、住民との交流も生まれるでしょう。
企業のCSR活動としても役立つ可能性があるコンポスト、ぜひ導入を検討してみてはいかがでしょうか。

(ライター:佐藤 和代)

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