筆者が小学生の頃、母校では「残飯ゼロ運動」を行っていました。「残飯ゼロ運動」とは文字通り、全校で給食の残飯をゼロにしようという取り組みです。
各クラスごとに給食の残飯の重さを量り、お昼の時間の校内放送で、前の日の各クラスの残飯の量を伝えます。食べ物を粗末にすることを抑えることができる反面、給食を食べきることにプレッシャーを感じる生徒も多かったのではないかと思います。私自身もその一人でした。
時代が進むにつれて、給食の食べ残しに対する考え方や取り組みが変化しています。現在、給食の食べ残しを減らすために “食育” に注目が集まっています。
本コラムでは、学校現場での食品ロスへの向き合い方について考えたいと思います。
「食品ロス」とは、本来食べられるのに捨てられてしまう食品をいいます。農林水産省の調査によると、日本では「食品ロス」は年間523万トンとされています。これは、世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食料支援量である、年間約440万トン(2021年)の約1.2倍に相当します。
また、日本人の1人当たりの食品ロス量は、1年で約42kgです。これは日本人1人当たりが毎日お茶碗一杯分のご飯を捨てていることになります。
食べ物を捨てることはとてももったいないことで、環境にも悪い影響を与えてしまいます。
〈参考資料・記事〉
食品ロスとは:農林水産省 (maff.go.jp)
食品ロスについて知る・学ぶ | 消費者庁 (caa.go.jp)
学校現場でも、食品ロスが深刻な問題となっています。環境省の平成25年度の調査によると、児童・生徒1人当たり年間、約17.2kgの食品が廃棄されています。
〈参考資料・記事〉
学校給食から発生する食品ロス等の状況に関する調査結果について(お知らせ) | 報道発表資料 | 環境省 (env.go.jp)
中央環境審議会意見具申では、平成26年の「今後の食品リサイクル制度のあり方について」において、学校給食用調理施設について、食品廃棄物を継続的に発生させている主体の一つであり、食品廃棄物の処理実態等を調査した上で、食品ロス削減国民運動の一環として食品ロス削減等の取り組みを実施するとともに、調理くずや食べ残しなどの食品残さを回収し、再生利用の取り組みを推進することが必要であるとの提言がなされました。
このことから、学校でも給食の食べ残し削減が求められていると言えるでしょう。
環境省では、平成27年に全国の市区町村教育委員会に対し、学校給食から発生する食品ロスの削減等のリデュースや食品廃棄物のリサイクルに関する取り組みの実施状況調査を行いました。
食育・環境教育に関する取り組みとしては、食べ残しの削減を目的とした食育・環境教育の取り組みを行っていると回答した市区町村が約65%と、他の取り組みと比べると最も多いことが分かります。
ここで、日本の学校現場で行われている給食の食べ残し削減のための取り組み事例を見てみましょう。
愛知県高浜市では
・食べ具合に合わせたメニューの検討
・栄養を損なわない程度に提供量を調整
・よく完食する学級のリクエスト献立採用
東京都練馬区では
・練馬区管轄の全ての学校の学校給食の調理残さ及び食べ残しを堆肥化
・堆肥化した肥料を学校農園で使用
福井県福井市では
・月1回程度「食材をまるごといただく」メニューを提供する取り組みを実施
・「完食しよう!」をテーマに給食委員会で生徒主体の活動実施
このように現在、日本の学校では様々な食育や環境教育の取り組みが行われています。
さらに、学校現場で “蜜蝋ラップ” を手作りする取り組みを通して、食育に繋げる事例に注目してみましょう。
〈参考資料・記事〉
学校給食から発生する食品ロス等の状況に関する調査結果について(お知らせ) | 報道発表資料 | 環境省 (env.go.jp)
ミツバチが生み出す蜜蝋でコーティングされたラップのことです。
使い捨ててしまうプラスチックラップと違い、蜜蝋ラップは繰り返し何度も使うことができるので、環境に優しいとされています。使い方はプラスチックラップと似ています。
・果物や野菜を保存する時に包む
・おにぎりやパン、お菓子を包む
・器の蓋代わりに
蜜蝋ラップのお手入れ方法として、汚れてしまったら、中性洗剤を付けたスポンジなどで優しく洗い、流します。優しく水を切って、日があたらない場所で乾かします。
しかし、ロウがゆえの特徴を持っているので、使い方には注意が必要です。
〈参考資料・記事〉
みつろうラップ | 山田養蜂場
・蜜蝋が溶けてしまうため、電子レンジ、オーブン、食洗機、乾燥機での使用不可
・熱湯消毒ができないため、肉や魚などの生ものには使用不可
・酸に弱いため、柑橘類への使用不可
・その都度、自由にカットすることができないため、食品の大きさに合わせることが難しい
・蜜蝋は、はちみつから作られているため、満1歳未満の子どもの口に入るものには使用することができない
〈参考資料・記事〉
みつろうラップ | 山田養蜂場
・洗うことで繰り返し使うことができ、ゴミを削減できるので環境に優しい
・刃でカットする必要が無いため、子どもでも簡単に使うことができる
・透明なラップと違い、素材の布のデザインを楽しむことができる
学校給食法 第九条 (学校給食衛生管理基準)において、「パン等残食の児童生徒の持ち帰りは、衛生上の見地から禁止することが望ましい」とされています。そのため、給食の残り物を持ち帰ることに使うのは難しいでしょう。
それでは、学校現場で蜜蝋ラップの出番はあるのでしょうか?
〈参考資料・記事〉
学校給食衛生管理基準の施行について:文部科学省 (mext.go.jp)
別紙1 学校給食衛生管理基準(平成21年文部科学省告示第64号) (mext.go.jp)
7 参考資料 (mext.go.jp)
実は、蜜蝋ラップは手作りすることができます。
北海道余市養護学校では、中学部の作業学習の一環として、蜜蝋ラップづくりを実施しました。蜜蝋ラップを手作りすることを通して、子どもたちに社会参加をしてほしいという、学校としての思いが込められています。
また、神戸女子大学家政学科の大森ゼミナールでも卒業研究の一環として、「地産地消のみつろうラップ」の制作に取り組んでいます。大学近くの須磨離宮公園で養蜂を行う「bee kobe」プロジェクトと協同した取り組みで、みつろうラップ制作に必要な調査や企画は、すべて学生たちが行っています。須磨離宮公園の整備時に剪定されたバラを利用し、ラップの素となる布を染色することで、SDGsと結びつけています。今後は、地元の特産である「播州織」で制作することで、さらに地産地消の度合いを高めることが目標だそうです。
このように、蜜蝋ラップを手作りすることで、社会や環境問題、食について考えることに繋がります。
さらに、遠足や運動会などの行事日のお弁当の持参の時には、蜜蝋ラップの出番。お子さんと一緒におにぎりやフルーツを蜜蝋ラップで包みながら、「今日はどのくらい食べることができるのか」と食べ残しについて考えたり、使った蜜蝋ラップを家で洗うことで、再利用やゴミについて向き合うことができるのではないでしょうか。
〈参考資料・記事〉
【読み物】輝く笑顔から生まれる『みつろうラップ』 北海道余市養護学校 – 余市観光協会公式WEBサイト (yoichi-kankoukyoukai.com)
学科の活動紹介!家政学科・大森ゼミ みつろうラップ プロジェクト 〜前編〜!|SHINJO MAG.|神戸女子大学・神戸女子短期大学 (kobe-wu.ac.jp)
学科の活動紹介!家政学科・大森ゼミ みつろうラップ プロジェクト 〜後編〜|SHINJO MAG.|神戸女子大学・神戸女子短期大学 (kobe-wu.ac.jp)
材料
・ビーズタイプの蜜蝋 適量(布の素材や、大きさによって量が異なるため)
・お好みの布、はぎれ
・オイル(蜜蝋を布になじませるため)
用意するもの
・アイロン
・アイロン台
・新聞紙、または、段ボール(アイロン台に蜜蝋が付かないようにするため)
・クッキングシート
作り方
・アイロン台→新聞紙→クッキングシート→布の順で重ねて置きます。
・布の上に蜜蝋を散りばめて置きます。
・その上から、オイルを数プッシュかけます。
・蜜蝋を置いた上に、クッキングシートを被せます。
・クッキングシートの上から、低温〜中温にセットしたアイロンをかけて、押し当てながら蜜蝋を溶かしつつ、伸ばして布に染み込ませます。
・蜜蝋がすべて溶けたら、クッキングシートを外します。
・熱が冷めたら、蜜蝋ラップの完成です。
注意点
・アイロンを当てたときに、蜜蝋が布からはみ出してしまうので、布の端1cm四方に蜜蝋を置かないようにすると良いでしょう。
・溶けたての蜜蝋は熱いので火傷に気をつけましょう。
・蜜蝋ビーズを多く溶かしすぎると、ラップが硬く、厚くなってしまうので、様子を見ながら、適宜蜜蝋を足しながら溶かしていくと良いでしょう。
・折りたたむと、折り目から蜜蝋が剝がれてしまうので、なるべく折りたたまずに保存しましょう。
作ってみての感想
蜜蝋ラップ作りは、地球に優しいことはもちろんのことですが、「自分にとっても優しい」ことだと実感しました。材料は、家に残っているハギレ布や手拭いを再利用することで、蜜蝋ビーズを用意するだけでした。不器用な私でも、とても簡単に短時間で作ることができました。そして、世界にひとつだけの蜜蝋ラップにさらに愛着がわき、ごはんを食べる時や食材を包むときに気分が高まります。
一緒に蜜蝋ラップを作った友人の一人は、幼い頃におばあちゃんに縫ってもらった給食着などを入れる袋に使用した布のはぎれを再活用していました。また、ある友人は、自分で染めた布を使い、蜜蝋ラップを作っていました。
このように、思い出がいっぱい詰まった布や愛着のある布を蜜蝋ラップに変身させることが出来ることは、手作りの醍醐味のひとつです。
是非、みなさんも蜜蝋ラップを手作りしてみてはいかがでしょうか。
(ライター:樋口 佳純)
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