近年、夏の暑さ、冬の寒さが厳しくなっています。「空調の使いすぎはコストもかかるし環境にもよくない、けれども社員の健康には代えられない…」と頭を悩ませる方も多いのではないでしょうか。
気候の厳しさを身をもって感じる現在、省エネ対策として改めて「植物」の力が注目されています。つる植物を使った「緑のカーテン」や屋上庭園・菜園に取り組む企業も増えてきました。オフィス内の観葉植物は従業員によい影響を与えるほか、環境対策としても効果的です。
この記事では、オフィス緑化に取り組む企業事例をご紹介します。植物が環境・従業員に与えるメリットや自治体のオフィス緑化支援事例も解説していますので、あわせてご覧ください。
屋上・壁面の緑化には、建物内の気温を下げる効果があります。たとえば「緑のカーテン」は、直射日光のうち約80%をカットします。地面や窓周辺の壁からの「照り返し」による熱も遮るため、実際の気温より涼しく感じられるはずです。夏場の冷房使用を抑えられるため、温室効果ガス・消費電力の削減が期待できます。
国際的な総合エンジニアリング企業「ARUP(アラップ)」は、その地域のビルのうち2〜3割が屋上・壁面の緑化に取り組むと市街地の気温が大きく改善される、と発表しています。近年は緑化技術が進歩し、それぞれの地域やビル・利用者などに合わせた緑化ができるようになりました。企業が自社のオフィス緑化に取り組むことで、周辺地域の環境にもよい影響があるのです。
【参考資料】
グリーンカーテンの涼しさのヒミツ|環境省「COOL CHOICE」
屋上緑化・壁面緑化 – 環境技術解説|環境展望台
観葉植物は、特に冬場に効果を発揮します。植物が放出する水蒸気が、体感温度を少しだけ上げてくれるのです。
空気が乾燥していると、皮膚から水分が蒸発しやすくなって余計に寒さを感じます。観葉植物を置くと、蒸散によって放出される水蒸気が室内に適度な湿気を与えてくれます。人がたくさん集まっている部屋や温室などに入ったときに、むわっとした空気と温かさを感じた経験がある方も多いでしょう。湿気があると、実際の気温よりも温かく感じるのです。
実は、エアコンは冷房よりも暖房の方が消費電力が多くなります。冬場こそ空調設備を使わない省エネ対策が効果的です。観葉植物によるオフィス緑化は、その助けになります。
【参考資料】
無理のない省エネ節約|資源エネルギー庁
オフィス緑化は、環境だけでなく社員・職場環境にも影響を与えます。
・社員の健康・メンタルヘルスによい影響を与える
・コミュニケーションのきっかけになる
・周囲からの騒音を防ぐ(吸音効果)
植物・自然のリフレッシュ効果はよく知られています。実際に、観葉植物がある部屋・ない部屋でのパソコン作業を比較すると、植物を置いた部屋では作業者が感じるストレスが減り、生産性がアップしたという実験結果もあります。
社員が植物の設置・手入れをする場合は運動にもなるうえ、コミュニケーションのきっかけにもなります。また、オフィスの敷地内・周辺に花壇をつくれば地域住民との交流も生まれやすいでしょう。地域美化にもつながるため、企業のCSR活動の1つとしても有効です。
【参考資料】
花のチカラ緑のチカラ|一般社団法人 フラワーライフスタイリスト協会
東京都港区・虎ノ門エリアにある「日本たばこ産業株式会社(JT)」本社オフィスは、オープンスペースを緑化しています。空間デザイン事業を手がける「株式会社パーク・コーポレーション」の力を借り、明るい森のようなワークスペースをつくりました。
植栽には、全国9カ所にある「JTの森」に自生している植物の苗木が使われています。植物それぞれに合った環境で育てるために、土中の水分量をモニタリングして適切な水やりができるIoT技術を導入しました。パーク・コーポレーション独自のモニタリングシステムで、人にも植物にも優しいオフィス緑化を実現しています。
窓辺に植物を並べてベンチを設置したため、木漏れ日を感じながらオンラインミーティングや休憩・ランチができるようになりました。「ときの森」と名づけられたこのオープンスペースでは、観葉植物販売やフラワーアレンジメント体験などのイベントも開催されています。
【参考資料】
JT本社ワークプレイス「ときの森」|parkERs
JTの森|JTウェブサイト
大阪市の世界的環境試験器メーカー「エスペック株式会社」は、昭和58年の本社ビル建設当時からオフィス緑化に取り組んできました。ビル玄関や通路脇など、小さなスペースに少しずつ植物を植え込み、建物とグリーンに自然なまとまりをもたせたことで過ごしやすく気持ちのいいオフィスを実現しています。
2020年には、エスペック社の技術・新製品開発拠点「神戸R&Dセンター」に新たな技術開発棟を建設しました。従来の「エスペックの森」やビオトープに加え、技術開発棟の屋上では六甲エリア北部の在来種を使用した緑地を育成しています。エスペック社が目指す「生物多様性・環境保全」を推進する取組です。
企業全体で取り組む緑化活動が評価されたエスペック社は、2021年に「みどりの工場大賞 日本緑化センター会長賞」を受賞しました。2022年度には続けて「近畿経済産業局長賞」も受賞し、今後の活動がますます注目されています。
【参考資料】
生物多様性保全・環境人材育成|エスペック株式会社
神戸R&Dセンターに新技術開発棟を建設|エスペック株式会社
東京都江戸川区に本社を置く「国土緑化株式会社」は、平成18年から自社の総合緑化事業の象徴としてオフィスに観葉植物を配置しました。社員のデスクには1人1鉢ずつ観葉植物を置き、ミーティングルーム・応接室などにもグリーンを導入しています。
設置する植物には、季節の移り変わりを感じられるものを選定しました。オフィスにいながらにして季節感を感じられるうえ、訪れた方々との会話の糸口になっています。オフィス緑化に取り組んだことで、より有益なコミュニケーション・商談が生まれるようになりました。
【参考資料】
国土緑化株式会社
三菱商事のグループ企業「株式会社エム・シー・ファシリティーズ」は、執務エリアのリニューアル時に大がかりなオフィス緑化に取り組みました。創立70周年「オフィス改革プロジェクト」の一環として、「バイオフィリックデザイン」を取り入れたオフィスを再構築したのです。
「バイオフィリックデザイン」とは「人間には『自然とつながりたい』という本能がある」という考えに基づいたデザイン手法です。エム・シー・ファシリティーズでは「パソナ・パナソニックビジネスサービス株式会社」の健康経営ソリューションサービス「COMOREBIZ(コモレビズ)」を導入し、バイオフィリックデザインによる効果を検証しています。
中央からさまざまな植物が大きく茂っているビッグテーブルやパーテンション代わりのグリーン、壁掛けのプランターなど、インパクトの強いオフィスが実現しました。さらに時間によって変化するハイレゾ自然音なども導入、より自然を感じられるオフィスを作り上げています。
【参考資料】
株式会社エム・シー・ファシリティーズ オフィス紹介|YouTube
vol.21 株式会社エム・シー・ファシリティーズ/執務エリア |COMOREBIZ コモレビズ
静岡県三島市では、「ガーデンシティみしま」と題して花と緑で満たされる街づくりに取り組んでいます。その一環として、企業の花壇づくりを応援する取組を始めました。
花壇をつくりたい企業は、三島市の「みどりと水のまちづくり課」に申し込むと必要な資材・花苗の一部を支援してもらえます。花壇のデザイン・管理についてのアドバイスも受けられるため、植栽に不慣れな企業も安心です。三島市では、2023年4月までに20社がこの支援を受けて花壇をつくりました。
【参考資料】
ガーデンシティみしま|三島市
“企業花壇づくり”しませんか|三島市
近年、多くの自治体が「緑のカーテンコンテスト」を開催するようになりました。「個人の部」「団体の部」というように部門を設けて魅力的な緑のカーテンを募集・表彰することで、町全体で地球温暖化防止に取り組んでいます。
たとえば東京都八王子市では、緑のカーテンが特に効果を発揮する夏場に写真を募集し、市民投票で最優秀賞・優秀賞などを決定しています。それぞれが腕を競うことで意欲が上がるうえ、自社を市民に知ってもらうきっかけにもなります。周辺地域でこのような取組が行われていると、環境対策への第一歩が踏み出しやすくなるでしょう。
【参考資料】
みどりのカーテンコンテスト|八王子市
オフィス緑化のメリットや、企業の取組事例をご紹介しました。屋上・壁面緑化や観葉植物の設置は、想像よりも環境への効果が大きいものです。企業全体、地域全体に取組が広がれば、地球温暖化をはじめとする環境問題にも影響を与えていけるでしょう。
近年の緑化技術の進歩は目覚ましく、ご紹介した企業事例でも以前は想像もつかなかったほど植物があふれています。屋上・壁面緑化の技術向上を受けて、2017年に公布された「改正都市緑地法」では緑化地域における緑化率の最低基準を「建ぺい率に関わらず25%」まで設定できるようになりました。
事業所だけでなく、市街地はこれからどんどん緑化していけるはずです。その手始めとして、ぜひオフィス緑化への取組を検討してみてください。
(ライター・佐藤 和代)
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