コラムリジェネラティブ

リジェネラティブな建築とは?資源循環に取り組む企業事例 

2025.03.06

農業をはじめ、水産業やファッション業界など各業界で環境再生の取り組みが進むなか、建築業界でもリジェネラティブな事業に挑戦する動きが目立ちます。

リジェネラティブとは「再生させる」という意味を持ちます。自然環境や生態系を回復し、再生させることを指し、サステナブルの一歩先をいく考え方として注目を浴びています。

建築業界におけるリジェネラティブな取り組みとして、本記事では森林や木材利用に目を向けて実践事例を取り上げます。

住宅の建築・解体における環境負荷とは?

住宅の省エネ性能への取り組みが進められる一方で、住宅の建築・解体における環境負荷の低減も求められています。特に日本の住宅は、着工数が多く、短期間で廃棄されてしまう現状から、環境への負荷の大きさが指摘されているためです。

1軒の家で見ると、使用する木材は樹齢約50年(高さ22m)の杉で約70本が必要です。木材は木造以外の鉄骨造や鉄筋コンクリート造でも使用されるほか、あらゆる住宅の床材に使用されるなど、住宅には多くの木材が必要とされます。

日本では国土の約3分の2を森林が占める一方、木材自給率は低く、2022年度の木材自給率は40.7%と約6割を海外から輸入する現状。建築用材等の自給率では49.5%と、約半分を海外に頼っているといえます。

例えば輸入材のうち、柱や梁などの建造物に使われる木材は、カナダやロシア、スウェーデンから針葉樹を輸入。合板に使用する木材は、インドネシアやマレーシアなどに生育する広葉樹を輸入しています。

日本を含め世界の木材需要が増えたことで、ロシアやインドネシアを始めとする森林の産地では、過剰な伐採や違法伐採が行われてきました。それだけでなく、森林を切り拓き農地へと転換したり、道路などのインフラ開発が行われたりすることで森林が減少。生物多様性にも影響を与えているのです。

また、輸入材の輸送では、距離があるため運輸時に多くのCO2を排出。さらに、住宅の建築時にはコンクリートが多く使われており、その主要材料であるセメントは、製造時に多くのCO2を排出しています。建設時のコンクリートや地盤改良に使用するセメント製造に由来するCO2排出量は、日本におけるCO2排出量の約3%を占めていることがわかっています。

森林伐採により森林に貯蔵されている炭素の排出と吸収源の減少を引き起こすだけでなく、コンクリートの使用などによって排出される多量のCO2は、地球温暖化を加速させる一因になっているのです。

住宅の解体時に発生した廃棄物の環境負荷も深刻です。産業廃棄物のうち、建設廃棄物が占める割合は約20%。例えば30坪・2階建て木造住宅の一般的な産業廃棄物量は「4トントラック5~10台分」にものぼります。木材やコンクリ―トなど建設資材廃棄物の再資源化は進められていますが、木材は燃料として回収されるなど、二次的な利用法に留まっていることが指摘されています。

【参考資料】
住宅「使い捨て」と環境負荷|大和総研
「木」ってエコなの?|WWF
エネルギー消費とCO2排出量を6割以上削減できる低炭素型セメント「ECMセメント」|国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
建設廃棄物の現状|環境省

森林・木材の利用に着目! 建築におけるリジェネラティブ事例

リジェネラティブな建築を実践|株式会社Sanuの取り組み

2019年にスタートしたSANUは、「Live with nature. / 自然と共に生きる。」をコンセプトに掲げるライフスタイルブランドです。「もう一つの家」を日本各地に作り、それを月額制で提供するサブスクリプションサービス「SANU 2nd Home(サヌ セカンドホーム)」を展開しています。

創業時からリジェネラティブな事業を実践し、運営する施設SANU CABINの設計・建築から運用に至るまで、地球環境への負荷を最小化するだけでなく、企業活動を通して自然を再生する取り組みを行ってきました。

SANUは会社のゴールとして「SANUが広がれば広がるほど自然が豊かになるリジェネラティブな企業のロールモデルを目指す。」を掲げ、会社設立後の3年間は、「自然資本の活用と地域の持続可能性」に注力しました。

大きな特徴は「循環する建築」を行ってきたことです。建築資材の選定から開発、建築、運営、解体に至るまで建築のライフサイクル全体を捉えたうえで、環境負荷を最低限に抑える工夫を施しています。

ここでは原料調達、開発・設計、運営、解体のサイクルごとに取り組みを取り上げます。

・原料調達
原料調達では、国産材・地域材の利用を推進しています。使用する木材をどこから切り出し、加工し、届いているのかを可視化する「顔の見える調達」を実施。SANU CABINの初期建設時には、岩手県釜石地区の森林組合から樹齢50〜80年程度の間伐材を調達しました。

また、施設「一宮1st」における「SANU APARTMENT」では千葉県森林組合の協力のもと、地元千葉県で250年以上前から受け継がれてきた「サンブスギ」という品種を使用。地域材の活用にも力を入れています。

それに加えて、SANU CABIN建設で使用した分を、伐採した場所に新しく植樹し、森の循環を促します。SANU CABINを建てれば建てるほど森が豊かになるモデルが構築されました。

・開発・設計
開発・設計においては、設計・施工パートナーである株式会社ADXと実施。土地への負荷、生態系への影響を最小限に留めるため、敷地内の樹木伐採量と敷地内の風と水の流れを止めないことによる土壌に対する負荷の最小化に努めています。

・運営
2023年より再生可能エネルギーの導入を開始。CO2排出量ゼロの自然エネルギーのみを提供するハチドリ電力の電気を購入することで、キャビン1棟あたりのエネルギー由来排出量を年間で7割減らすことができると算出しています。

・解体
株式会社ADXのもと、SANU CABINの部材交換・解体も見据えて設計されています。キャビンに使う釘やビスの量は最小限にとどめられ、メンテナンス時には交換が可能。交換・解体後の部材は資材や燃料として再生・再利用することもできます。建物が寿命を迎えたら、建物を解体し、基礎鋼管杭を抜くことで人工物を一切残さずに土地を再び自然に返すことが考えられています。

建てれば建てるほど森を豊かにするリジェネラティブな建築としてSANU CABINは作られています。

【参考資料】
SANU Regenerative action report 2024|株式会社Sanu

森林資源と地域経済の持続可能な好循環を構築|株式会社竹中工務店

株式会社竹中工務店は、森林資源と地域経済の持続可能な好循環を生み出すために「森林グランドサイクル」構築に取り組みます。木のイノベーションにより森林資源の新しい活用方法を生み出すことで、木材の利用を拡大。経済と資源の新たな流れを作り出し、林業や森林再生につなげていく活動です。

木のイノベーション、木のまちづくり、森の産業創出、持続可能な森づくりという4つの領域からなり、さまざまなステークホルダーとの連携により推進されています。

まず木のイノベーションにおいて代表的なのが、集成材からなる耐火性をそなえた構造体(柱や梁、耐力壁)である「燃エンウッド®」の開発です。火災時には、遮熱効果とモルタルや石膏などによる吸熱効果で、荷重支持部である柱や梁を守ります。鉄筋コンクリートや鉄骨と同様に、階数に制限なく建物を木造で作ることを可能にし、大規模建築や中高層建築において多く用いられています。

この「燃エンウッド」を使用して建てられた建物の一つが、「北海道地区FMセンター」です。地上2階建ての木造オフィスには、北海道産木100パーセントが使用されていて、製材やプレカット、施工を北海道内の協力会社との協業で実施していることも特徴です。

木造の建築はオフィスの他に、公共施設や学校、クリニックでも展開。「森林グランドサイクル」を回すことで、建築での木材使用量を向上し、森林再生、林業を支える産業を生み出しています。

また竹中工務店は、まちと森がいかしあう関係が成立した地域社会「キノマチ」を目指し、関係者が共に学び、行動する「キノマチプロジェクト」をスタートしました。2019年の設立以来、ラーニングコミュニティやウエブマガジン、ハンドブックなどを通してさまざまな取り組みを発信しています。

【参考資料】
竹中工務店の木造建築・木質建築|株式会社竹中工務店
木材の利用や流通を通じたまちづくり、コミュニティづくり|株式会社竹中工務店
北海道地区FMセンター|株式会社竹中工務店

まとめ

今回は建築業界におけるリジェネラティブな取り組みについて、森林再生や木材利用の側面から紹介しました。なかでも、国産材の積極的な利用などを通して、森林と私たちの関わり方は広がりつつあると感じました。森林は私たちに多くの恵みを享受してくれる資源だからこそ、一人ひとりが森林との関わり方を考え、社会全体で実践することが大切です。それがリジェネラティブな未来へとつながっていくのだと思います。

(ライター:藤野あずさ)

 

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