リジェネラティブ

リジェネラティブ・ファッションとは?企業の取組事例を紹介

2025.02.25

 

近年、ファッション業界が与える地球環境への影響が広く取り上げられるようになりました。そんななか高い関心を向けられているのが「リジェネラティブ・ファッション」です。

リジェネラティブ・ファッションによる服づくりとは、どのようなものなのでしょうか? 具体的な事例を交えながら紹介していきます。

ファッション業界が与える環境への影響とは?

衣食住の一つである衣服は必要不可欠なもの。ファッションとしての楽しみを与えてくれる一方で、ファッション業界の環境負荷は世界二位と言われるほど、地球環境に与える影響は深刻です。

まず衣服の約3分の2は、エネルギーを多く消費する化学石油由来のものが占めています。ファッション業界のCO2排出量は世界の約10%に相当。国際航空業界と海運業界を足した量より多く排出されています。

水の消費量では毎年930億m3を使用し、500万人の生活に必要とされる水量と等しい量です。世界の工業用水汚染の約20%は繊維の染色と処理によるもので、毎年、衣服から出るマイクロ・プラスチック約50万トンが海洋に放出されています。

日本においては、1年間に供給される衣服81.9万トンのうち9割に当たる78.7万トンが1年で手放されていることがわかっています。手放されたあとの衣服は、2/3が廃棄されており、使用済み衣服をリサイクルする体制不足という課題も抱えています。

過去15年間、日本の衣服の供給量は増加してきました。この大量生産・大量消費・大量廃棄の傾向は依然として続き、ファッション業界の現状を変えていく必要があります。

2018年に国連が制定した、2050年までに温室効果ガスのゼロ・エミッション(温室効果ガス排出量を差し引きゼロ)を実現する「ファッション業界気候行動憲章」には、多くの企業が署名しました。現在、2030年までに温室効果ガス排出量を30%削減するための努力が行われています。

そこで近年、特に注目を集めるのがリジェネラティブ・ファッションです。リジェネラティブ農業による服づくりが、ファッションを根本的に変える手法として期待されています。

【参考資料】
ファッションと環境|環境省
SUSTAINABLE FASHION|環境省
ファッション業界、画期的な気候行動憲章を発表|国際連合広報センター

リジェネラティブな服づくり

「リジェネラティブ農業」は「環境再生型農業」とも呼ばれ、土壌を修復・改善して、自然環境の回復につなげることを目指しています。具体的な手法として、土を耕さずに農作物を栽培する不耕起栽培や被覆作物の活用、合成肥料の不使用などが挙げられます。

土壌は、健康であればあるほど多くの炭素を吸収(隔離)することから、大気中のCO2を削減するリジェネラティブ農業が気候変動対策への積極的なアプローチとして注目を集めています。

ファッション業界では今、このリジェネラティブ農業を取り入れた服づくりが広がりを見せています。

リジェネラティブ農業に先駆的に取り組むパタゴニアでは、リジェネラティブ・オーガニック認証に基づくコットン栽培を行ってきました。2022年に、リジェネラティブ・オーガニック・サーティファイド・コットン製品を販売して以来、Tシャツなど一部の製品で展開されています。

服の購入が土壌の再生と炭素の隔離を促進し、製品が売れるほど、環境を再生させられるという取り組みです。パタゴニアの取り組みについてはこちらの記事で紹介しているので、参考にしてみてください。

こうした取り組みは、自然に親しむための機能性の高さが特徴のアウトドアメーカーだけでなく、高いデザイン性に定評のあるファッションブランドにも拡大しています。今回紹介するのは、ロサンゼルス発、ドレスやブラウスを手がけるブランド「Christy Dawn」と、南カリフォルニア発祥のグローバルなファッションブランド「UGG®」 です。

【参考資料】
リジェネラティブ農業(環境再生型農業)とは・意味|IDEAS FOR GOOD

Farm to Closet(農場からクローゼットへ)を実践|CHRISTY DAWN

CHRISTY DAWNは、Farm to Closet(農場からクローゼットへ)と呼ばれる、環境再生型農法のコットン栽培による服づくりを行うブランドです。

2014年に設立されたCHRISTY DAWNではもともと、デッドストックの生地を活用したり、アメリカの中古子供服・婦人服の販売仲介サイトThredUpとともに、衣服の廃棄をなくすために着ない服の下取りを実施したりしてきました。

その後、Farm to Closetの活動をスタート。環境再生型農法で種からコットンを栽培し、ドレスを作る“農場からクローゼットへ”の取り組みを始めます。

この活動は、インドで環境再生型農業に取り組むOSHADI COLLECTIVEと協働で行われています。Christy Dawnは、農家の賃金や害虫駆除に使われるニームオイルなど、農場の運営に必要な全費用を負担し、OSHADI COLLECTIVEは農場を管理しながら、両者共通のビジョンである再生型エコシステム実現に向けて尽力しています。コットン収穫後は、OSHADI COLLECTIVEの職人が農綿花を織り、染め、プリントして、美しい生地に仕上げます。

本プロジェクト開始から2年後、約24エーカーの畑でコットン収穫に成功。その後、200エーカーを超える土地を耕作しています。この活動により、土壌の生物多様性が増加し、かつては作物の生育に不向きであった土地に、生物や昆虫、動物が戻りました。気候変動への対策としては、大気中から200万トン以上の炭素を削減できたこともわかっています。

また、農家や職人などすべての人が最低賃金を得ることを実現しました。土壌の健全化のみならず、プロジェクトに関わる人々の経済状況も改善されているのです。

【参考資料】
How Our Garments Heal Mother Earth|Christy Dawn
Farm-to-Closet|Christy Dawn

原料を環境再生型農業を実践する牧場から調達|UGG

UGGは南カリフォルニアを拠点とするグローバルファッションブランド。シープスキンブーツやシューズ、サンダル、アウターウエアなどを幅広く展開するUGGは、2025年までに100万エーカーの草原を再生可能な農地へ修復することを目標に掲げています。

2022年には、Savory Institute(セイボリー研究所)とパートナーシップ契約を結び、オーストラリアの牧羊場における環境再生型農法を支援し、31万エーカーの再生に貢献してきました(2023年10月時点)。

UGGでは環境再生型農場から調達した素材を使用したアイテムをそろえた「Regenerate by UGG™」コレクションを展開しています。

なかでも、Campfire Crafted Regenerate(キャンプファイア クラフテッド リジェネレート)のシューズには、環境再生型農業を実践する牧場から調達したシープスキンや、再生可能なサトウキビから作られたアウトソールを使用している点が特徴です。

また、シューズだけでなくコートにも、環境再生型農業を実践する農場から調達されたシープスキンが取り入れられています。

日本では2021年度より、音楽家の坂本龍一が創立し、建築家の隈研吾が代表を務める森林保全団体・一般社団法人more trees(モア・トゥリーズ)とのパートナーシップを締結。「Regenerate by UGG™」コレクションを含むサステナブルコレクションの売上の一部を寄付しています。

また、奈良県天川村に「UGGの森」を育てるために、年間1ヘクタールに500本、3年で3ヘクタールに1,500本の植林を行いました。この初動3年間の植林活動だけでも今後20年間で約171.3トンの二酸化炭素を吸収する試算になります。

【参考資料】
Our regenerative Classic Ultra Mini Boot|UGG
UGGが環境再生型コレクション「リジェネレート BY UGG™」をローンチ|PR TIMES

 

今回はリジェネラティブなファッションに取り組む事例を紹介しました。

1着の服を作るのにどのような素材を使っているのか、どこの国で作られたのかまで考えが及ぶ人は、多くないかもしれません。しかし、製品の素材になるコットンから麻、ウール、レザーまですべて農地で作られており、ファッションは農業と深く関わっているのだと実感します。

農業から始まるファッション業界の中で、環境を再生するファッションを取り入れ始めた世界ブランドの動きに、大きな可能性を感じました。

(ライター:藤野あずさ)

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