コラムリジェネラティブ

リジェネラティブな海外事例「アグロフォレストリー」 

2025.02.16

日本の国土面積の数分の1に及ぶ熱帯林が、毎年失われています。主な原因は、畑や牧場などの農地のために森を切り拓き、紙、建築資材の原料として木が伐採されているためです。

この状況に対し、新たに森を伐採することなく森を再生する農法として「アグロフォレストリー」が熱帯地域を中心に広まってきました。そして今、「リジェネラティブ」という考え方への関心が高まると同時に、森を再生するアグロフォレストリーが再び注目を浴びています。

今回は森林破壊が深刻化するニカラグアやインドネシアで実践されるアグロフォレストリーの事例から、「リジェネラティブ」への理解を深めていきます。

アグロフォレストリーとは?

アグロフォレストリーとは、アグリカルチャー(農業)とフォレストリー(林業)が組み合わさってつくられた言葉で、1970年代から使われ始めました。樹木を育て、森を管理しながら、そのあいだの土地で農作物を栽培したり、家畜を飼ったりする農業を指します。

例えば中央アメリカの農家は、木でココナッツやパパイヤ、その下でバナナや柑橘類を育て、さらにコーヒーやカカオの低木層、トウモロコシといった背の高い一年生植物など、20種類以上の植物を育てています。これにより、一年を通して多種多様な食物を収穫でき、木々が日陰を作ったり、浸食や水分の蒸発を防いだりするなど、木の恩恵も受けられます。

【参考資料】
What is Agroforestry? |World Agroforestry

3つのタイプ

一般的に、アグロフォレストリーは次の3つのタイプに分けられます。

・農林複合システム
農作物 (農業) と樹木 (林業) を組み合わせて生産

・林畜複合システム
樹木と飼料用作物または林間での家畜の放牧を組み合わせた生産

・農林畜複合システム
樹木生産下で、農作物と飼料用作物を交互に生産し、農業と畜産を維持

【参考資料】
アグロフォレストリーマニュアル|国際農林水産業研究センター

メリットとデメリット

アグロフォレストリーは、農家にとって安定した収入源になります。多種の作物を育てるため複数の収入源を持て、単一栽培と比べて、農家の収益は安定しやすい傾向があります。

もう一つのメリットには、環境保護が挙げられます。自然の多様性を取り込み、再生された森林では、木がCO2を吸収するので気候変動対策になります。生態系を回復できる点も大きなメリットです。

また、木は地下部や地上部のバイオマスを増加させるので、土壌構造を改善し、保水力を向上させる効果があります。風食や土壌侵食の影響を抑えられるので、土壌保全も期待できます。加えて化学肥料や農薬を使用せずとも生産できることから、土壌や水質の保全につながる点も利点として挙げられます。

一方で、デメリットもあります。樹木の植え過ぎや、作物との共生が困難な樹種がある場合は、農作物の生産が減少する可能性が指摘されています。また、樹木を伐採し農場内から取り除くと、地力低下が起こったり、機械を用いた作業時には、木が作業の障害となることもあります。

【参考資料】
アグロフォレストリー 森をつくる農業~アマゾン熱帯林との共存~(ダイジェスト版)|JICA
What is Agroforestry? |World Agroforestry
アグロフォレストリーマニュアル|国際農林水産業研究センター

アグロフォレストリーの海外事例

ニカラグア共和国で手掛ける有機コーヒ豆の栽培・販売

ニカラグア共和国にある「Cooperativa Agropecuaria de Servicios Tonanzintlalli RL」は、2016年、先住民族Matagalpaの女性たち23人によって結成されました。

北東部にある標高3300フィートの山岳地帯で、アグロフォレストリーを実践しながら、バナナや柑橘類の木々のもとで育つ、リジェネラティブな有機コーヒー豆を栽培。手作業で収穫され、天日干しされたコーヒー豆は、少量ずつ焙煎して販売されてします。

当初、生豆の栽培と販売からスタートした当団体は、2017年に「Café D’Yasica」としてコーヒー豆を自社ブランド化しました。ブランド化でコーヒー豆に付加価値を付け、消費者への直接販売を達成します。その 志と品質のよさから、コーヒー豆ブランド「Café D’Yasica」は国内の賞をいくつか受賞しました。

団体名にあるTonanzintlalliとは、神聖な母なる大地を意味します。母なる大地の権利、地球と、その創造物と、我々の間にある神聖な関係性を守るために力を尽くしていくという強い思いが根底にあります。

アグロフォレストリーの実践を通して、森林と水が保護・再生され、人々は生活の糧と収入を得ることができました。採掘活動の必要性が減ったうえに、この農地では、さまざまな動物種が復活し、生物多様性に富んだ自然環境が再生されているといいます。

それだけでなく当団体は、より大きな規模で先住民コミュニティを結束させ、健康を向上させるためにも貢献しました。コロナウイルス感染症の拡大期間中には、若者向けの文化開発やプライマリヘルスケアサービスといった活動を率いるとともに、資金提供も行い、重要な役割を果たします。

こうした食料システム、土地、コミュニティの再生活動は社会的にも評価されています。2023年5月には、英国発のナチュラルコスメブランド「LUSH」と英国の消費者団体である「Ethical Consumer Research Assosiation」により、環境や社会の再生に貢献したリジェネラティブプロジェクトを称える基金「2023 Lush Spring Prize」でヤング・プロジェクト賞を受賞しました。

【参考資料】
Cooperativa Agropecuaria de Servicios Tonanzintlalli R.L
2023 Lush Spring Prize 受賞者 Cooperativa Agropecuaria de Servicios Tonanzintlalli R.L|Lush Spring Prize.

 

リジェネラティブ・アグロフォレストリーを世界へ展開するreNature

「reNature(リネイチャー)」は、リジェネラティブ農業(環境再生型農業)とアグロフォレストリーを融合した「リジェネラティブ・アグロフォレストリー」を広めるために、ブラジル、インドネシア、オランダなどグローバルに活動する団体です。森林破壊や土地劣化が進む、ラテンアメリカ、アフリカ、アジアといった南半球で優先的にプロジェクトを行っています。

「reNature」では、リジェネラティブ・アグロフォレストリーを、「サステナビリティを超える再生のビジョンと、樹木の多機能性を活用するアグロフォレストリーの実践を組み合わせ、幅広い農業生産システムをスマートかつ効率的で総合的な方法で改善する農業アプローチ」と定義しています。

なぜ「再生」と「アグロフォレストリー」の組み合わせなのでしょうか。「reNature」は両者を次のように考えています。

「サステナビリティは特定の状態を維持することを目的としています。しかし、現在私たちが住んでいる世界は、人間の活動によってすでに大きく変化しています。一方、リジェネラティブは、搾取されたものを補充し、損傷したものを修復するという概念を表しています」

要するに、現状を維持するサステナビリティに対して、リジェネラティブは、土壌、水の循環、生物多様性、生態系の健全性、炭素循環を積極的に改善するための行動だと捉えているのです。

reNatureでは、オランダのスパイス会社Verstegenと、パートナーのPreta Terraとともにインドネシア・バンカ島で、リジェネラティブ・アグロフォレストリーによるコショウ栽培を行いました。

これまで、バンカ島では多くのコショウ農家が単一栽培を行ってきたために土壌の劣化を招き、さらには気候変動の影響を受けて、収穫量が低下していました。 生計を立てるために、コショウ生産の代わりに油ヤシやゴム栽培に転向する農家も見られたといいます。

そこで、リジェネラティブ・アグロフォレストリーの手法を用いて、伝統的な作物である「白コショウ」の栽培を実現したのがこのプロジェクトです。

選ばれたモデル農場はもともと、放置され役に立たないと見なされていた、古くて劣化したゴム農園の土地です。研修を受けた30軒の農家が、白コショウの隣でバナナなどの食用作物を栽培しています。こうした副産物を販売すれば、コショウの価格の下落や変動などが起きてもその損失を補える別の収入になるため、農家にとって大きな利点です。

それだけでなく、この農場には樹木だけで19 種類以上と、単一栽培を行う農場よりも多様な植物や樹木を育てているため、さまざまな動物が生息し、地域の生物多様性を高めています

殺虫剤などを使用しないため、昆虫や他の種を守り、さまざまな動物や生物がお互いを抑制する役割を果たすことから害虫や病気を自然に予防してくれるメリットもあるそうです。また、リジェネラティブ・アグロフォレストリーは温暖化の原因となる炭素を吸収し、干ばつのリスクも軽減されることが分かっています。

農家の収益が高まるので、油ヤシ栽培のために新たな土地を開拓する必要がなくなり、森林破壊や土地の劣化がこれ以上進まないことも大きな利点といえます。

【参考資料】
A definition of Regenerative Agroforestry|reNature
Verstegen, IndonesiareNature|reNature

森林の恩恵を受けられるアグロフォレストリーは、自然環境にも人にも大きなメリットがあることがわかりました。

どちらの事例でも共通するのは、健全な土。回復した土壌から豊かな生態系が復元され、多様な作物が実り、農家には安定した生活をもたらしてくれます。出稼ぎのために農地を手放したり、森林を破壊して新たな農業を行う必要もなくなるでしょう。

こうしたアグロフォレストリーの手法を用いた製品を世界に広めることで、自然環境に対して積極的に働きかけ、地球環境を再生できるのだと思います。

(ライター:藤野あずさ)

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