コラム水質保全社会・環境基盤

学校教育と環境ボランティアの関係は? 5つの取組事例

2024.09.20

日々、地球温暖化や異常気象などのニュースに触れ、環境問題を身近に感じる機会が増えています。特に小中学生や高校生は、漠然とした脅威や不安を感じやすいのではないでしょうか。

より深く環境問題を理解してもらうには、学校でボランティア活動に取り組むのも有効です。学生たちが行動を起こすことで「自分たちで問題を解決できるんだ」と気付いてもらえれば、これからの世界を生き抜いていく大きな糧になります。

この記事では国内の中高生の取組事例とともに、環境ボランティアと学校教育の関係性を解説します。各科目と環境問題の関わりやESD、STEAM教育についても紹介するので、ぜひご一読ください。

環境問題・SDGsは科目横断的なテーマ

環境問題やSDGsは、小中学校や高校で学ぶ科目に広くまたがるテーマです。例えば、「海洋汚染」について中学校の学習指導要領をもとに考えると、次の科目からとらえることができます。

  • ・社会科(地理):各国の産業や地形、海流の動き
  • ・社会科(公民):公害、環境や資源・エネルギーの問題に対する各国の動き、SDGs
  • ・理科:科学技術の利用、自然環境の循環や個々の関わり
  • ・保健:海洋汚染の健康への影響
  • ・家庭科:海を汚さない暮らし方、エコ

それぞれの科目が連携して、環境問題について学ぶ機会を設ける学校も増えています。1つの環境問題を多面的にとらえると理解が深まるうえ、「自分事」にしやすいです。環境問題に当事者意識をもつことができれば、今までと異なる視点も得られます。

環境問題を自分事としてとらえる機会として、環境ボランティアへの参加・主催も有効です。一般的に、次のような活動が環境ボランティアとされています。

  • ・清掃活動(ごみ拾い、海や山・河川の清掃)
  • ・廃棄物収集やリサイクル・アップサイクル
  • ・植林・植樹
  • ・草刈りや伐採
  • ・環境系イベントのボランティアスタッフ
  • ・募金活動・チャリティーイベントの開催

教育現場で行われる環境ボランティアは、多くの場合「総合的な学習の時間」として扱われます。また、2002年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議」で日本が提唱した「ESD(Education for Sustainable Development)」として捉えるケースもあります。この扱い方・捉え方には賛否両論あるため、後ほど取り上げます。

【参考資料】
新学習指導要領における「環境教育」に関わる主な内容|文部科学省

教育現場での「環境ボランティア」


環境ボランティアは先ほど触れたESDや、近年提唱されている「STEAM教育」とも関連します。

ESD(Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育)は、現代社会が抱える課題を自分のこととして捉え、人間がこれからも豊かな恵みを享受できるように持続可能な社会の実現を目指した教育活動です。身の回りの物事を「サステナブルな社会を作るには」という視点から眺め、見つけた課題を主体的に探究したり、グループで調査・発表したりします。

STEAM教育は、各教科・分野の知識や考え方を統合的に働かせて現代社会の問題の解決を目指す教育方法です。Science(科学)Technology(技術)Engineering(工学)Arts(芸術・リベラルアーツ)Mathematics(数学)の頭文字をとった「STEAM」という言葉どおり、様々な分野の知識を結集して探究学習をします。

多面的に捉える必要がある環境問題は、ESDやSTEAM教育を活かしやすいテーマです。その一環として環境ボランティア活動に取り組んでいる学校も見られます。

しかし、教育的側面を重視しすぎると、ボランティア本来の「自主・自発」という態度が見えなくなる場合もあります。「学校行事の1つ」としてのみ機能しているケースや、ボランティア活動が単位取得、内申点や評価に反映されるケースなどは自主・自発という本来の態度とは異なるため、教育関係者の中でも意見が分かれやすいです。

【参考資料】
関心が高まる「環境ボランティア」と学校とのかかわり方 | Operation Green 循環型○○の実践プログラム
環境ボランティアに励もう!学校のみんなと協力して行う環境に良い活動| Operation Green 循環型○○の実践プログラム
持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)|文部科学省
STEAM教育等の教科等横断的な学習の推進について|文部科学省

学校での環境ボランティア取組事例5つ

熊本市立天明中学校と地域住民の環境保全活動

熊本市立天明中学校では、20年以上地域住民と水質保全活動に取り組んでいます。

天明中学校がある地域は、有明海に面していて多くの住民が漁業に従事しています。海の変化を懸念する漁師の方々が、水源となる山々の環境を整えるため植樹を始め、その活動に学生が参加するようになりました。モミジや桜を植えて整備した森は、現在十数ヶ所に上ります。

活動への参加は希望制です。開始当初は数名だった参加者は、現在全校生徒の約半数になりました。20年以上活動してきてある程度木々が育ったため、現在は下草を刈るなどの森林整備や、有明海に続く河口のごみ拾いなどを行っています。

また、生徒会では夏休みに竹炭づくりにも取り組んでいます。地域産業の1つである海苔の養殖で使用した大量の竹を、窯で焼いて炭にして河川に沈めています。廃棄する竹を有効活用できるうえ、水質浄化にもつながる取組です。

【参考資料】
ボランティア活動 | 熊本市立天明中学校
地域と共に豊かな水づくりに取り組む中学校生徒会のボランティア活動|環境省 グッドライフアワード

瀬戸内海の海洋ごみ問題に取り組む山陽学園地歴部

岡山市の山陽学園中学校・高等学校は、地理歴史研究部(地歴部)の活動でよく知られています。瀬戸内海の海底ごみと島嶼部の漂着ごみ問題の解決を目指し、ボランティア活動に取り組んでいる山陽学園で最も規模の大きい部活です。

地歴部では、瀬戸内海の底引き網漁船に乗り込んで網にかかったごみを分別・回収しています。さらに、回収したごみは1つひとつ確認し、販売した店や使用された場所、賞味期限などを記録します。ごみの発生源の調査・分析まで行うのが山陽学園地歴部の特徴です。

瀬戸内海は水の入れ替わりが少ない「閉鎖性海域」です。そのため、海洋ごみのほとんどは瀬戸内エリアで発生していると考えられます。地元で発生する海洋ごみを減らすため、地歴部では環境問題に関心がない人へのアプローチも工夫して、啓発イベントを実施しています。

【参考資料】
地理歴史研究部活動戦績|山陽学園中学校・高等学校
新しい啓発活動への挑戦 瀬戸内海の海洋ごみ問題の解決へ向けての「自分事」化プロジェクト|環境省 グッドライフアワード
海洋プラスチック問題とは?身近な取り組みで瀬戸内海の豊かさを守ろう | 徹底解剖!ひろしまラボ

古着回収・アップサイクルに取り組む奈良文化高校

奈良県大和高田市の奈良文化高校では、廃棄予定のTシャツを使ったエコバッグ製作に取り組んでいます。多くのエコバッグはナイロン製で、製造過程ではビニール袋1枚分より多くのCO2を排出していると知った学生が、思い出のTシャツを使ってエコバッグを作ったことから始まりました。

活動は地域にも広がり、古着回収やエコバッグ配布を手伝ってくれるお店も出てきました。文化高校のエコバッグははさみがあれば15分で完成するため、小学生からシニア世代まで簡単に作れます。環境ボランティアとしてだけでなく、地域との交流や子ども・高齢者のサポートなど、様々な方面に広がる可能性がある活動です。

【参考資料】
【奈良県】奈良文化高校 エコ☆リメイク!|高校生ボランティア・アワード

慶應義塾湘南藤沢高等部の「環境プロジェクト」

神奈川県藤沢市の慶応義塾湘南藤沢高等部には、環境に興味をもつ生徒の有志団体「環境プロジェクト」があります。「環境」を「自分たちを取り巻くもの全て」と広く捉え、身近なテーマから環境問題と向き合っています。

環境プロジェクトでは、約130人の団員がそれぞれの関心に合わせて6つの班に分かれ、別の角度から環境問題にアプローチしています。例えば「教育デザイン班」では、メンバーの出身校や慶応義塾系列校に出向き、幼稚園生や小中学生に向けた環境教育を行っています。「企業連携班」では、学校周辺のスターバックスで使われるコーヒーの搾りかすを「コミュニティ班」が作物を育てている農園の肥料として活用する取り組みも始めました。

また、2002年に発足した「高校生環境連盟」は慶応義塾湘南藤沢高等部が主軸となって活動している連盟です。年2回の「高校生環境フォーラム」や「おうち環境会議」など、環境問題に関心をもつ全国の高校生との交流の場を運営しています。

【参考資料】
【神奈川県】慶応義塾湘南藤沢高等部 環境プロジェクト|高校生ボランティア・アワード
有志団体の活動|慶応義塾湘南藤沢中等部・高等部

福井県立大野高校JRCの東ティモールへの水支援


福井県大野市の大野高校JRC「結」は、2019年に結成したボランティアサークルです。2021年にはJRC(青少年赤十字)に加盟し、環境ボランティアや地域の課題解決、教育支援など幅広い活動に取り組んでいます。

大野市は名水の里として知られる街です。地元が誇る名水を活かし、水不足が問題となっている東ティモールを市を挙げて支援しています。大野高校JRCがボランティアとして参加している「越前大野名水マラソン」は、参加者が1キロ走るごとに東ティモールの水環境改善に向けて10円が寄付される仕組みです。2016年から始まったこの取り組みによって、これまでに6基の給水システムを作りました。

また、大野市名産の里芋の茎をアップサイクルしたスイーツ「すこスコーン」を開発しました。里芋の茎は廃棄される部分ですが、食物繊維やカリウム、アントシアニンを豊富に含んでいます。里芋が多く採れる大野市では、昔から茎の酢漬け「すこ」が作られていました。この伝統食をいかした「すこスコーン」は、フードロス削減や食文化の継承だけでなく、地域おこしとしても評価されています。

【参考資料】
JRC「結」| 福井県立大野高等学校
「結の心」で地域と世界に貢献。福井県立大野高校|サステな!2030
地域の資源を世界にシェア&シン・ふるさとスイーツ開発〜水と繊維でつなぐ&すこ。~ |環境省

まとめ

ボランティア活動、特に環境ボランティアと学校教育の関係を解説しました。

ボランティア活動をカリキュラムに取り入れるケースには賛否両論があるものの、児童生徒がおのずから関心をもって主体的に活動できるならば、ボランティア活動はうってつけの学びの場です。

また、地域の学生が取り組む活動には大人たちも興味がわきます。ご紹介した事例にも、学生と地域の大人が連携して取り組んでいる事例が多く見られました。子どもたちが台風の目となって地域全体の環境意識を高められたら、大きな力をもつはずです。
ぜひ、学生と一体になって環境ボランティアに取り組んでみてください。

(ライター:佐藤和代)


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