コラムエコスクール

修学旅行で体験学習を通じてSDGs・環境と向き合おう

2023.11.22

はじめに

新型コロナウイルス流行から、3年目の冬を迎えようとしています。

新型コロナウイルスの感染症法上の分類が、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に引き下げられ、法律に基づいた外出自粛の要請は無くなり、マスク着用などの感染対策は個人の判断に委ねられるなど、日常の生活に戻りつつあります。

さらに、観光大国である日本の観光地には国内外から多くの観光客の姿があり、コロナ流行前の賑わいを取り戻しています。

学校現場でも、コロナ禍で自粛を余儀なくされていた修学旅行をコロナ禍を経て、見直されながら、実施する動きがみられます。

本コラムでは、環境に配慮した責任ある旅行として「レスポンシブル・ツーリズム」の事例や、SDGsを修学旅行に取り込んだ事例を紹介しながら、新しい修学旅行の在り方について向き合いたいと思います。

修学旅行へコロナ禍がもたらした変化

新型コロナウイルス感染症が今後、修学旅行に与える影響
(公益財団法人日本修学旅行協会「新型コロナウイルス感染症の影響に関する調査まとめ<速報版>」より筆者作成)
※1 バス台数の増加、部屋数/保健室の増加、保険の加入等 ※2 コロナ前と異なる交通手段を検討


新型コロナウイルスは学校現場での学習様式に様々な変化をもたらしました。日常の学校生活では得ることができない学びを育むことができる場である修学旅行も、そのひとつです。

公益財団法人日本修学旅行協会は、全国の中学校、高等学校が2022年度に行った国内修学旅行の実施率を発表しました。中学校での修学旅行実施率は全体で78.3%と、コロナの影響を強く受けた2021年の前回調査の47.8%から大幅に上昇し、修学旅行が約8割程度に回復していることが見て取れます

しかし、一方で、中学校・高等学校ともに海外修学旅行の実施事例は無く、すべて国内修学旅行が実施されていました。このことからも、引き続き、国内の修学旅行の需要が高まるといえるでしょう。

さらに、2021年に日本修学旅行協会が発表した「新型コロナウイルス感染症の影響に関する調査まとめ」での全国の中学校・高等学校に行ったアンケート調査によると、コロナによる今後の影響・変化として実施時期や内容の見直しを検討している学校が多いことから、学校現場においても従来の修学旅行の在り方を模索する動きがあります。

〈参考資料・記事〉
【データ】2022年度 国内修学旅行の実施率 中学校78.3%、高等学校54.1% | (kankokeizai.com)
公益財団法人日本修学旅行協会 公式Webサイト(教育旅行調査 国内・海外・訪日) (jstb.or.jp)
変わる修学旅行の今後とは? 環境変化の実態と「探究学習」を実現するヒント、日本修学旅行協会のシンポジウムで聞いてきた(トラベルボイス) – Yahoo!ニュース
調査・研究報告|修学旅行ドットコム (shugakuryoko.com)

SDGs関連プログラム、分散型体験活動が重要に

新型コロナウイルスの影響により、多くの人が離職したことから、現在、観光業界では人手不足が大きな課題となっています。

また、2024年4月から労働規制が強化され、バス運転手の年間の労働時間の上限が引き下げられることから、ドライバー不足も深刻な課題です。

宿泊施設でも、人手が不足しており、地域での体験型学習を支える農村や漁村での民泊施設も高齢化が進み、修学旅行生を受け入れる家庭が減少しているといった課題があります。

こうした状況を受け、日本修学旅行協会理事長の竹内秀一氏は、教育旅行シンポジウムで「コロナ禍を経て修学旅行を取り巻く環境が大きく変化している」と指摘しました。

また、旅行会社や学校現場に対しては、「SDGsをはじめとしたプログラム構築、分散型による体験活動、現地の人々とのディスカッション、オンラインも含めた事前学習・事後学習へのサポートが重要になる」と語りました。

〈参考資料・記事〉
変わる修学旅行の今後とは? 環境変化の実態と「探究学習」を実現するヒント、日本修学旅行協会のシンポジウムで聞いてきた|トラベルボイス(観光産業ニュース) (travelvoice.jp)

SDGsを学ぶ体験学習を取り入れた修学旅行の事例

①修学旅行での体験学習の事例

三重県菰野町立八風中学校では、和歌山県で実施した修学旅行2日目に、4つのグループに分かれて行う体験学習を通じてSDGsと向き合いました

そのひとつ、海をテーマにするグループでは、プラスチックのゴミ問題についての講演を聴き、SDGsや環境問題についての学びを深めました。その後、実際に砂浜に落ちているシーグラスを集めて、ボールペンを作る体験を行いました。

リサイクルとは異なり、今あるものを利用して別の用途のものに作り替え、品物に付加価値を与える持続可能なものづくりの新たな方法のアップサイクル」に繋がります

参加した生徒からは、「SDGs体験で、未来を変えるためにはみんなが話し合ってバランスよく変えていくことが必要だということが印象に残っている。この経験を活かし、学校でもみんなと協力し合いたい」という声がありました。

②修学旅行の事前学習の事例

東京都足立区立谷中中学校3年生は、修学旅行の学習の一環として、SDGsについて考える体験学習修学旅行の事前学習を行いました。プラスチック製品について考えを深めるため、身近な自分自身のかばんの中にあるプラスチック製品の数を数えることから事前学習が始まりました。

数えてみるとかばんの中には、平均して約40個のプラスチック製品が入っていたことから、自分たちの生活がどれだけプラスチックに支えられていているのかということを実感しました。

また、修学旅行中に環境に配慮した旅行を意識して取り組むこととして、各自でプラスチックとどのように付き合うのか目標を考えました。

修学旅行当日には、SDGsに向き合うグループワークを行いました。事前学習で決めた目標を実践できたか、また、SDGsの17個のゴールからグループごとに1つ選び、そのゴール達成に向けて取り組むことができる身近なことは何か、話し合いました。

生徒からは、「無理に難しいことを行うのではなく、誰でもできるような簡単なことから始めようと思った。」「意見を出すだけではなく行動することが大事だと思った。」と感想が挙がりました。

〈参考資料・記事〉
足立区立谷中中学校3年生 修学旅行におけるSDGs学習 – SDGs KYOTO TIMES (kyoto-u.ac.jp)
菰野町立八風中学校 公式サイト|三重県三重郡菰野町 (school-town-komono.com)
アップサイクルとは? 重要視される理由や事例、簡単アイデアを紹介:【SDGs ACTION!】朝日新聞デジタル (asahi.com)
変わる修学旅行の今後とは? 環境変化の実態と「探究学習」を実現するヒント、日本修学旅行協会のシンポジウムで聞いてきた|トラベルボイス(観光産業ニュース) (travelvoice.jp)
中国・四国の修学旅行先ランキング 広島・香川が上位 – 日本経済新聞 (nikkei.com)

このように、定番の観光地巡りをする修学旅行の形態は変容し始め、近年はSDGsをテーマにディスカッションなどを取り入れた体験的な「学び」を重視する傾向が強まっています。

観光の新トレンド「レスポンシブル・ツーリズム」とは?

レスポンシブル・ツーリズムは、観光地や観光業者などの受け入れ側だけではなく、観光客側も地域の住民や自然環境などへの配慮を意識しながら観光を行うことを意味します。

JTB総合研究所では、そのような配慮のある旅行者をレスポンシブルトラベラー(責任ある旅行者)と定義しています。

以前、Operation Greenのコラムでは、レスポンシブル・ツーリズムについて、海外の観光地での事例に焦点を当てながら取り上げてきました。是非こちらもお読み下さい。

新しい旅の常識になる?「レスポンシブル・ツーリズム」のパラオの事例を紹介 | Operation Green 循環型○○の実践プログラム
レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)ハワイやコロラド州の事例紹介 | Operation Green 循環型○○の実践プログラム

レスポンシブル・ツーリズムのメリット

新型コロナウイルスの制限緩和で、観光地に人が戻ってきている今、各地で交通渋滞や、ゴミ、騒音問題が深刻な課題となっています。

レスポンシブル・ツーリズムのメリットとして、過度な観光客が来訪し引き起こされる問題、オーバーツーリズムを未然に防ぐことや、緩和、解決に繋げる働きがあると言われています。

深刻なオーバーツーリズムの問題を抱えている京都。昔から、修学旅行先としても人気のある京都府では、どんなオーバーツーリズムの問題が発生しているのでしょうか?

多くの観光客が訪れることで、地元住民が日常の生活の移動手段としている公共交通機関を利用できないということがあります。また、乗車することができたとしても、観光バスやタクシーの交通渋滞の影響で目的地までに時間がかかってしまう事態が発生しています。特に、春や秋などの観光シーズンや、長期休みの期間は、あまりの混雑に地元住民が乗車を断念せざるを得ない場合も少なくありません。

修学旅行では、バスやタクシーを利用した班別行動が多く実施されています。これらのことからも、観光客だけではなく修学旅行生も環境や地元住民に配慮した旅行が求められているのではないでしょうか。

観光地に配慮し、責任感を持ちながら旅行をする在り方に目を向け、修学旅行について向き合ってみてはいかがでしょうか。

〈参考資料・記事〉
レスポンシブル・ツーリズムとは・観光用語集 – JTB総合研究所 (tourism.jp)
京都のオーバーツーリズムとは?地元民が感じる現状や実際に行われている対策を紹介(LIMO) – Yahoo!ニュース

(ライター:樋口 佳純)


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