コラムCO2削減再生エネルギー省エネ

地域エネルギー会社や市民エネルギーを利用した理想的な町へ

2023.02.13

日本のあちこちで増加し、水面下でも地域内で活動を開始しつつある地域エネルギーは、お住まいの地域の中で市民同士が手を取り合って、生活や街の繁栄のために必要な電力を生み出す新たな生活方法です。

そのような”市民エネルギー”は規模こそ小さくみえがちで設置費・利益の算出への疑問を持つ方も多いですが、『サステナブルで理想的な未来のカタチ』を創造するための必要な一歩でもあります。

日本国内で見ても、まだ全体の1割程度と実施規模は多くありませんが、地域の活性化を望む自治体や環境に配慮した生活に移行したい地域では今この瞬間にもなんらかのアクションを起こしています。

1.地域エネルギー・市民エネルギーとは

地域エネルギー』とは、再生可能エネルギーやコージェネレーションシステム(熱電併給システム:発電装置によって作り出された電気と、発電時に排出される熱を回収して給湯や暖房などに利用する方法)、蓄電池など、地域内で安定的かつ効率的に活用する分散型エネルギーシステムの総称です。その中でも、地域に住む市民が出資して作り出したエネルギーを『市民エネルギー』と呼びます。

作り出されたエネルギーは、周辺公共施設、地域産業(観光・製造業など)、住宅へと供給、もしくは一般電気事業者や新電力(PPS)へ売電されます。

それらの取組むことで、

  • ・地球温暖化対策
  • ・非常時のエネルギ ーの供給
  • ・エネルギーコストの削減
  • ・地域経済の活性化による雇用の確保
  • ・新たな産業の創出による産業振興

などに繋がっていくと言われており、実際に成果をあげている地域も存在します。

このことから、地域エネルギー政策は生み出されるエネルギーの利用だけではなく、地域の課題解決地域メリットの創出を視野に展開されていることが分かるでしょう。

2.地域エネルギーとその背景

なぜ現在定着している「大手の電力会社から電力購入」に頼らず、わざわざお金をかけてまで地域エネルギーを推進する必要があるのか。実はそこには大きく2つの要因があります。

①自然災害によるライフライン断絶と原子力発電の停止

まず1つ目のきっかけは2011 年 3 月に起きた”東日本大震災”です。この大きな自然災害は電気などのライフラインの断裂を起こし、厳しい生活に我々を追いこみました。

発電所から送電線、変電所、配電線までのいずれかの箇所で電線の断裂などが起こり、電力の供給が行われなくなったためです。広範囲でダメージを受けたことで復旧にかなりの時間を要してしまった結果、特定の地域では生活の質を極限まで落としたまま過ごすことを余儀なくされてしまいました。

そして、その地震の強い揺れによる原子力発電所内トラブルによって”原子力の危険性”も問題となり、日本国内の原子力発電所が次々と停止。それに伴い、「火力発電所の稼働の増加による温室効果ガス排出量の増加」や「電気を中心にしたエネルギー価格の高騰」が起こり、環境負荷や国民・事業者の経済的な負担が増えることになったことも、地域エネルギーを推進する理由となっています。

②エネルギーに関する制度の開始

2つ目はエネルギーを取り巻く環境の変化し、地域で導入しやすくなったという背景にあります。

①再生可能エネルギーのFIT制度(固定価格買取制度)(2012 年 7 月〜):太陽光発電などの再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が一定価格で買い取る制度。再生可能エネルギーによる発電を日本で普及させるために施行。

②電力小売の完全自由化(2016年4月〜):さまざまな業種の企業による電力販売が可能になる制度。特定の事業者が独占していた電力事業を広く開放することで、事業者間の競争をうながして電気料金の抑制につなげる目的で施行。

これらの導入により、各地で多くの”特定規模電気事業者”が増加し、それに伴う様々なエネルギーサービスや事業が提供され始めました。

特定規模電気事業者:契約電力が50kW以上の需要家に対して、一般電気事業者が有する電線路を通じて電力供給を行う事業者

このようなエネルギー事業によって電力を販売できるようになったことで、資金難・人口減少に悩んでいた地域に資金を得る手段が生まれたのです。

〈参考〉

地域エネルギー (METI/経済産業省関東経済産業局)/経済産業省

3.地方エネルギー推進における地方自治体の役割

(画像出典元:日本総合研究所)

地域エネルギーを生み出すための発電施設は、資金のある市民チームやエリアマネジメントサービス、地域内外の民間企業、そして地方自治体からの出資や支援で成り立っています。

平成 27 年3月時点に実施された、全国の地方自治体を対象とした”地域エネルギー政策に関するアンケート調査”の結果によれば、すでに地域エネルギー政策に取組み始めている地方自治体は全国で約 27% (264 団体)となっています。

そのアンケートの中の『自治体の役割』という質問では、

  • ・5割が「事業主体を民間に委託しつつ、自治体は規制緩和や用地提供といった側面支援を行う」
  • ・3割が「自治体が事業主体になり、運営を民間に委託する」
  • ・2割が「事業主体は民間とし、自治体は出資のみを行う」

という形態をとりながら、既存の地方エネルギー発電施設へ支援を行っています。(下記:図表7)

そして、その地域エネルギー事業へ関わるときには、「事業の効率化による採算性」や「安定したエネルギーの確保」などに配慮しながら、「自治体がどれだけ地域や市民の生活に寄り添えるか」を考慮しつつ、国と連携を図りながら、主体性を持って地域の課題解決地域メリットを見出すことに焦点を当て、エネルギー政策に取組んでいくことが求められます。

(グラフ出典元:環境省 平成 27 年3月報告)

〈参考〉

3.地域で稼働している市民エネルギー

2021年2月の時点で東京都・京都市・横浜市を始めとする262自治体が「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明し、多くの地域で二酸化炭素を排出しない街づくり『カーボンゼロシティ』の実現を目指しています。

現在すでに稼働している施設や手本・参考になる地域は日本にもすでに多くあるため、きっとプロジェクトの新規設立に役立つでしょう。

A:地方自治体が主導の地域エネルギー事業

① 環境モデル都市・長野県飯田市【HP

(画像出典元:おひさま進歩エネルギー 株式会社)

長野県飯田市では、2004年から地域の建造物の屋根に太陽光パネルを設置していますが、市民による出資金を活用した太陽光市民共同発電事業モデルをどこよりも早く実行した環境モデル都市です。

屋根にソーラーパネルが設置された行政施設(保育園・児童館・公民館など)や事業所、個人住宅など424ヶ所で”おひさま発電所”と呼ばれる発電施設にリノベーションされ、2022年10月時点には出力合計が7,803kwにまで広がりました。

環境省が地域振興と地球温暖化対策を一緒に取り組む地方自治体への支援を行う”まほろば事業”の公募により、飯田市は6億円を事業予算を獲得しました。それによって、まず行政施設の屋根を利用した発電で確実な実績により信頼性が上昇。”パネル設置費0円”という手軽さも相まって、屋根を利用した発電システムの設置箇所の増加に繋がっていきました。

②電力の地産地消を実現した『中之条電力』【HP

(画像出典元:中之条電力|群馬県中之条町HP)

全国初の地方自治体主導で設立された新電力『中之条電力』が2013年8月に設立され、設立後は電力を地域内で循環させることに成功し、エネルギーの地産地消を実現しています。また、地域内の太陽光発電所の整備や地域エネルギー会社の出資などは中之条町の自治体によって行われています。

町内施設に電力を販売して得た利益は、『再生可能エネルギーの推進』『地域振興推進』に活用されます。さらに、新たな太陽光発電施設や小水力発電、木質バイオマス発電などの再生可能エネルギー施設の増設によって、新規雇用の増加も見込まれ、今後ますます地域活性化することが予想できます。

B:市民エネルギー事業

①農業と電気の二毛作『ソーラーシェアリング』 市民エネルギーちば【HP

(画像出典元:匝瑳おひさま畑)

千葉県匝瑳市飯塚地区では、畑の上空部分にソーラーパネルを設置する”ソーラーシェアリング”を行っています。2万4000枚ものソーラーパネルを使った日本最大規模の施設の費用は運営・管理する会社が負担しており、農家は初期費用をかけることなく、耕作地の上にソーラーパネルを設置するだけで毎年収入が入ります。

季節によって農作物が取れない時期もありますが、ソーラーパネルは日照があればほぼ1年中電力を生み出すことができ、売電収入は年間50万円ほどにもなるため、農家にも「二毛作」と呼ばれるほど喜ばれているシステムです。

また、台風による停電時にソーラー発電した電力を地域の住民が無料で利用した実績などもあるため、実用性は照明されています。

②少額投資から市民が参加できる『相乗りくん』 NPO法人上田市民エネルギー【HP

(画像出典元:NPO法人上田市民エネルギー)

2011年11月から始まった『相乗りくん』は、太陽光発電に適した屋根をもつ「屋根オーナー」と、太陽光発電パネルの設置や維持に必要な資金を出資する「パネルオーナー」をつなぎ、屋根と太陽光エネルギーと売電収入をみんなでシェアする市民のための取り組みです。

このサービスを利用すれば、集合住宅にお住まいで太陽光パネルの設置ができないような人にも”太陽光発電に関わること”ができる、見習っていきたい取り組みの1つです。

また、市民の輪がどんどん広がり、これまでに市民の出資額は1億4,000万円を超えています。そのかいもあり、上田市内49カ所に約680kwの太陽光発電パネルを設置しています。

4.豊かなまち作りのために地域エネルギーを活発に!

既に地域エネルギー政策に取組み始めている地方自治体からは、財政面での負担 (設備・機器のコスト負担、インフラ、地方自治体負担)や、安定供給のための資源確保・採算性の確保、専門的人材の確保のほか、地域活性化や産業振興とのつながりも課題として多く挙げられています。

一方で、地域エネルギー政策への取組みに着手していない 700を超える地方自治体からは、財政負担・事業性の確保・専門的人材の確保・地方自治体が関与すべき意義・政策的優先度の順位付けなどが課題として挙げられているのが現状です。

また、使用できる土地の広さや利用できる土地・人口など、地域によって需要は違い、住民の理解や熱意なども振れ幅が広いため、その地域に合った目標・プログラムの構成が重要な鍵を握ります。

しかしそれでも、地域エネルギーは地域活性化や脱炭素化、災害ダメージからの早急な回復などに繋がるという環境や地域にとって重要なメリットがあります。さらに、経済・環境・社会面は地域ブランド力の向上にも役立つため、環境省や経済産業省からも強く推奨されています。

こういったことから、環境や地域の未来の生活のためにも”地域エネルギーの重要性”を発信し続け、行動に移して行かなければならないでしょう。世界では再生エネルギーの使用率が急激に増加しているため、日本も他の国に続いて再生可能エネルギーの使用増加に努めていきたいものです。

(ライター:堀内 香菜)


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