海洋プラスチック問題が深刻になっている現在、日本では2022年4月1日にプラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律が施行されました。これにより、使い捨てのプラスチックを減らそうという試みが多方面で進められています。
そんな中、社員と共に取り組む「マイボトル運動」の実証実験をおこなった企業があります。その企業では現在もマイボトルの利用が定着し、オフィスから出るごみも減らすことに成功しました。
この会社の運動を取り入れることで社員にSDGsへの取り組みを浸透させ、オフィスのごみ捨ての費用・紙コップの購入費用を大幅に減らせる可能性があります。
今回は、このマイボトル運動の実証実験について詳しくお伝えします。まずは、ペットボトルなどが環境に与える深刻な影響から見ていきましょう。
「マイボトルを使う=環境負荷が少ない」ことはご存じの方が多いですが、ペットボトルにはどれくらいの環境負荷があるのでしょうか。
2050年には海のプラスチックごみが魚の量を上回ると言われています。
これまでも海の生物がビニール袋などをエサと間違えて食べてしまったり、プラスチック製の袋や網に絡まって死んでしまうケースがありました。海洋ごみが海の生態系に悪影響を与えているのです。環境省が行った全国10地点を対象とした漂着ごみの調査では、漁網・ロープ・ペットボトルなどのプラスチックごみが発見されています。
さらに、発見されたペットボトルのうち、外国語表記のペットボトルが6割以上を占める地点が4地点もありました(言語が不明なものを除く)。外国から海を漂い、日本に漂着したと思われます。
ペットボトルなどのプラスチックが海を漂っている最中には、紫外線や波の力などにより小片化・細分化されたマイクロプラスチックになります。このマイクロプラスチックも魚や貝がエサと間違えて食べてしまうのです。
すでにごみによる海洋汚染は深刻な状況であり、早急な改善が必要になります。
ここからは、ペットボトルに絞って温室効果ガス排出に関するデータを見ていきましょう。
石油から作られる樹脂を原料としたペットボトルは、製造・運搬・廃棄の過程で多くのCO2を排出しています。ペットボトルによる環境負荷を減らすためにリサイクルも行われていますが、リサイクル過程でもCO2が発生しています。
PETボトルリサイクル推進協議会は、2019年度のデータを用いて、ペットボトルをリサイクルした場合とリサイクルしなかった場合のCO2排出量を比較する調査をしました。
【資源採掘・生産・利用・排出回収・リサイクル・再利用(利用不可物の廃棄処理を含む)までのCO2総排出量】
リサイクルした方がCO2総排出量が約42%少ないものの、リサイクルをした場合でも1年間に2,059千トンのCO2が発生しています。
この結果から、ペットボトルによる環境問題はリサイクルだけでは解決できると言えません。ペットボトルの利用自体を減らすことが重要になります。
【参考資料】
・令和元年度海洋ごみ調査の結果について|環境省
・海のプラスチックごみを減らし きれいな海と生き物を守る!~「プラスチック・スマート」キャンペーン~|政府広報オンライン
・PETボトルのリサイクルによるCO2排出量の削減効果算定|PETボトルリサイクル推進協議会
近年、プラスチックカップやペットボトルの代わりに紙コップも利用されています。ですが、紙コップへの置き換えも持続可能とは言えません。紙コップの大半は防水加工のためプラスチック樹脂でコーティングされており、コンポストやリサイクルができないのです。
持続可能な森林資源から紙コップを生産していたとしても、生産・運搬・廃棄の過程でCO2が発生します。埋立地がひっ迫していることも考えると、紙コップの利用も減らさなければいけません。
【参考資料】
・紙コップの最期|Our World 国連大学WEBマガジン
ペットボトルや紙コップの代わりにマイボトルを使うと、どれほどの効果があるのでしょうか。500mlのペットボトルを買った場合と、マイボトル(5年間で700回利用と仮定)を使った場合の1回あたりのCO2の排出量を比べたところ、ペットボトルと比べてマイボトルは約1/4の排出量になりました。
ペットボトルは、特に輸出や自動販売機での温度管理といった輸送にかかるエネルギーが大きいため、このような結果になっています。
別の研究では、マイボトルは、12回以上使うと500mlのペットボトルよりも環境負荷が低くなることが分かっています。マイボトルはできるだけ長く使うことで、より環境負荷を減らすことができるのです。
【参考資料】
・リユース可能な飲料容器およびマイカップ・マイボトルの使用に係る環境負荷分析について|環境省
・マイボトルを持ちましょう|宝塚市
オフィスでのマイボトル利用を推進して廃棄物を減らす実証実験が、2022年4月から5月にかけて東京建物八重洲ビルで行われました。東京建物は「脱炭素社会の推進」と「循環型社会の推進」を組織としての重要課題とし、この課題解決に取り組むことで「地球環境との共生」を目指しています。
これまでも様々なサステナビリティ施策を実施しており、その一貫として自社オフィスでのマイボトル利用の実証実験を行いました。
実証実験に参加したのは下記の5社です。
東京建物の社員約300名を対象とし、サーモス・パナソニック・アペックス・味の素AGFの4社が自社の製品を提供した実験です。各社がどのように実験に参加したか、詳しく見ていきましょう。
サーモスは、飲み物の温度を保ち結露が発生しない、真空断熱構造のタンブラーを提供しました。オフィスでも安心して使える、水漏れがない製品です。マイボトルは長く使うほど環境負荷を減らせるので、季節を問わず快適に使える高品質な製品を提供したことで、より環境負荷を抑えられたのではないでしょうか。
パナソニックは2種類のマイボトル専用自動洗浄機を新たに開発し、提供しました。
高速ボトル洗浄機は、高圧水流と高温水によりおよそ1分でボトル内部とフタを同時洗浄。卓上型ボトル洗浄機は既存の卓上食洗機を改良し、複数のマイボトルの同時洗浄と乾燥を可能にしています。
環境省が行った調査によると、マイボトルを使わない理由として「水筒はかさばって重いので持ち歩きたくない」と答えた人が34.4%に及びました。ですが、会社で洗浄・乾燥ができて飲み物も補充できるのであれば、毎日マイボトルを持ち歩く必要はなくなりますね。
マイボトルの洗浄という面倒な作業がなくなることで、マイボトル使用のハードルを下げられるでしょう。
アペックスはマイボトル対応型コーヒーマシンを新たに開発し、提供しています。最大4種類のコーヒー豆・リーフティーなどを使用することで、本格的な嗜好飲料の提供を可能としました。コーヒー豆は、マシンにあわせてアペックスとAGFが共同で豆の選定から、ブレンド・焙煎・レシピの開発を行いました。
おいしいコーヒーが提供できなければ利用する人が少なくなってしまうので、味も非常に重要ですね。
東京建物八重洲ビルのワンフロアから年間約38,800杯分の紙コップごみ、年間約18,213本のペットボトルごみが排出されていましたが、これらを減らすことに成功しました。
その後も実験対象のオフィスではマイボトルの利用が浸透しています。2022年9月に完成した東京建物の新オフィスでも社員にマイボトルを配布し、洗い場も完備することで、廃棄物削減を目指しているそうです。
ご紹介した実証実験はタンブラーや食洗機のメーカーも参加しているため、充実した設備で実施できていました。
同じような設備を揃えることが難しい場合も多いと思いますが、タンブラーの配布・洗い場の完備・マイボトル対応の自動販売機の設置など、何か一つでも導入できれば社員の意識を変えるきっかけになるかもしれません。
企業のSDGsに関する取り組みの中でも、このような社員参加型の取り組みの方が社員の環境意識も高まるでしょう。
【参考資料】
・東京建物グループ サステナビリティレポート|東京建物
・東京建物・サーモス・パナソニック・アペックス・味の素AGF、自動洗浄機を活用したマイボトルの利用促進に関する共同実証実験を開始|PR TIMES
・東京スクエアガーデン 12 階 「サステナブルセットアップオフィス」完成|東京建物
・リユース容器・マイカップ等に関する消費者アンケート調査 結果概要|環境省
最後に、東京建物他4社が行ったマイボトルの実証実験についておさらいしましょう。
導入していただけそうなアイディアはあったでしょうか。
ペットボトルのリサイクルやプラスチックコップから紙コップへの置き換えでは、環境負荷は減らせますが十分な解決策とは言えません。会社としてマイボトル運動を行い、ごみの削減や、社員ひとりひとりの環境意識向上につなげていきましょう!
(ライター:小森 さほ)
※マイボトルの中身がなくなった時に、無料で給水できる場所やお店を確認できるアプリもあります!詳しくはこちらの記事へ!
→「マイボトル運動を広めよう!日本初、無料の給水場所を探せるアプリ登場!」