近年、2050年カーボンニュートラル達成に向けて各企業にCO2排出量を削減する要望が強まっています。
グローバルなビジネスを展開する大企業では、すでに環境先進国の海外企業から削減目標や期限を示されるような動きも報告されています。一方で製造業では依然として化石燃料への依存がすぐには解消できない問題があります。
この記事では、排出したCO2を回収して地中に埋めるCCSという技術について仕組みや事例、今後の展開などを解説していきます。
CCSとは発電所や工場で排出されたCO2を、回収した後に地中に埋める技術です。CCSは二酸化炭素(Carbon dioxide)を回収(Capture)して地中に貯留する(Storage)という意味で、英語の頭文字をそれぞれ取った略語です。
発電所などでは石油や天然ガスなど燃やすとCO2が排出される燃料を使用していて、簡単には排出削減できないために考えられている技術です。回収したCO2を地中深く埋めることでトータルではCO2の排出が無くなるので、カーボンニュートラルに向けた有効な手段と考えられています。
経済産業省のロードマップでは、2030年に事業化されて2050年には1.2億~2.4億トンのCO2を国内各地の貯留地に埋め立てることが計画されています。
【参考資料】
CCS長期ロードマップ検討会中間とりまとめ(案)参考資料|経済産業省
CCSではまず排気ガスなどCO2を含んだガスからCO2だけを分離・回収して、その後でパイプラインなどで地中に封入します。CO2の回収によく使用されるのはアミン液という液体で、化学的にCO2だけを吸収して窒素や酸素は分離して排気することができます。
次にCO2を吸収したアミン液を蒸気などで加熱して、純粋なCO2を取り出してパイプラインなどで輸送します。海外へ輸送する場合はCO2を港湾地区で液化して貯蔵タンクに貯めて、液化CO2輸送船で貯留地に運びます。輸送したCO2は地下800~1000メートルの深さの砂岩層に送られ地中に封じ込められます。
CO2の排出源は火力発電所や製鉄所、化学工場やセメント工場など大量のCO2を排出する場所が候補地となります。
CCSはパリ協定で各国に設定されたCO2削減目標を達成するために必要な技術として注目されています。
日本国内で掲げられている「2050年カーボンニュートラル」の達成に向けても必須の技術として、CO2排出量削減対策の一つとしてCCSが挙げられています。
その理由は、私たちの日常生活や経済活動を行うためにはどうしてもある程度のCO2を排出してしまうことが予想されており、その分はCCSによって地中に埋めて相殺する必要があると考えられているからです。
CCSと似た言葉にCCUSがあります。どちらもCO2を回収してカーボンニュートラルを達成するための技術ですが考え方や方法に違いがあります。
CCUSのUは有効利用(Utilization)を意味しており、すなわち回収したCO2を埋めるのではなく再利用する技術です。例えばCO2に水素を加えてメタンを化学的に合成する技術はメタネーションと呼ばれていて、CO2を燃料として再利用する技術として技術開発が進められています。
CCSに比べてまだ技術的に未成熟な点や、利用する水素や触媒などが高価でコストが見合わないといった課題がありますが、今後技術開発が進めば実用化される可能性があります。
CCSは排出してしまったCO2を地中に埋めてゼロにすることができるため、CO2を完全に排出ゼロにしなくてもカーボンニュートラルを達成できる技術です。
2050年のCO2排出量は再生可能エネルギーや水素などの利用で、現在に比べて大幅に削減されることが予想されていますが、それでもCO2排出をゼロにすることはできません。そのためCCSによりCO2排出をマイナスして、トータルでカーボンニュートラルを実現することが求められています。
国内に限らず世界各国でもCCSを事業する取り組みが数多く進められていて、米国ではインフラ法により120億ドルの予算措置や税額控除などの法整備が行われました。
EUでは2030年に年間5,000万トンのCO2貯留プロジェクトに、石油ガス業界が貢献することが義務付けられました。
CCSで実際にCO2を圧入できる量は非常に多く、CO2排出量削減に効果的な方法と考えられています。例えば出力80万kWの石炭火力発電所(約27万世帯分)にCCSを導入した場合、年間約340万トンを削減可能であると試算されています。
火力発電以外にも製鉄所やセメント工場、ごみ焼却など多くのCO2を排出する施設に導入できるため、大規模なCO2排出量削減が可能です。
【参考資料】
CCUSを活用したカーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組み|環境省
CCSに関する実証試験は国内外を含めて大型化が進められていて、実用化に向けた動きが活発化しています。
2022年9月時点で世界のCCS事業は前年比で44%増加しており、操業中の施設が30、建設中が11あり開発段階や操業停止中の施設を含めると合計で196事業が報告されています。CO2排出削減対策に必要な技術として取り組みが加速していることが感じられます。
【参考資料】
カーボンニュートラルに不可欠な「CCS」
仕組みや国内外の状況など基本を解説!|JOGMEC(独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構)
CCSを導入するためには初期投資に高額なコストが必要になります。CO2を輸送するためのパイプラインや、CO2を回収するための設備やそれにかかわる周辺インフラの整備など大掛かりな建設工事が必要だからです。
初期投資に加えて維持費やエネルギーなどのランニングコストも必要になります。例えばCO2を回収するために必要なエネルギーコストは約4,000円/トンといわれていて、今後技術革新によって低減されることが求められています。
CCSをこれから事業化するためには、これから制度構築など環境整備を進める必要があります。
例えばCCS事業に関わるカーボンクレジットや税制、ビジネスモデル、支援制度などの検討が今後さらに議論されることが計画されています。
【参考資料】
中間とりまとめ(案)CCS に係る制度的措置の在り方について|経済産業省
国内のCO2貯留可能量は全国に11拠点あり、合計で約160億トンのCO2貯留が可能だと試算されています。
2050年には年間約1.2~2.4億トンのCCSが必要と考えられているため、国内の貯留量だけではいつかは不足することが懸念されています。そのため海外へCO2を輸送してCCSを行う事業の検討が進められていますが、CO2の海上輸送には輸送技術の確立や輸送コストや法整備などの課題が残っています。
【参考資料】
カーボンニュートラルに不可欠な「CCS」仕組みや国内外の状況など基本を解説!|JOGMEC(独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構)
日本における初の大規模なCCS実証が北海道苫小牧で進められ、2019年11月までに累計で約30万トンのCO2のCCSに成功しています。2012年から設備の建設が開始され、2016年から地中へのCO2圧入を始めて技術的な実現性や安全面などが検証されてきました。
現在は圧入は停止していて、地中に圧入したCO2が地上へ漏れ出さないことをモニタリングしています。
【参考資料】
苫小牧におけるCCS大規模実証試験30万トン圧入時点報告書(「総括報告書」)概要|経済産業省
米国のテキサス州にある石油火力発電所(W・A・パリッシュ火力発電所)におけるCCS事業は、日米両国の支援を受けて約10億USD規模のプロジェクトとして2016年12月から商業運転を開始しました。操業開始時は設備の問題などで長期間の停止に陥るトラブルがありましたが、現在では運転を再開しています。
排気ガス中のCO2の約90%を回収して貯留することに成功しています。年間で約140万トンのCO2を地下貯留する世界的にも大規模なプロジェクトで、本プロジェクトで得られる技術的知見が注目されています。
【参考資料】
JX石油開発、米国における大規模CO2回収プラントの運転再開について発表|日本経済新聞
国内で回収したCO2を海上輸送した後にマレーシア半島沖にCCSを行う事業が、JOGMECの令和6年度「先進的CCS事業」に選定されて実用化に向けて検討が進められています。北部地域では三菱商事やENEOS、南部地域では充物産や中国電力など国内の関連会社が連携をして事業化に向けた議論が行われています。
年間のCO2貯留量は合計で約1,000万トンにものぼる大プロジェクトに発展させることを目標としています。
【参考資料】
CCS事業化に向けた先進的取組|経済産業省
CCSはカーボンニュートラル達成に必要不可欠な技術として注目されており、国内外で多くの実証が進められています。
CO2削減対策を進めても残ってしまうCO2排出分を地中に埋めて貯留することが可能で、世界中には大量のCO2を貯留できる地層があることから今後ますます世界各地でプロジェクトが立ち上がる予定があります。
まだ私たちの日常生活で身近な存在ではないかもしれませんが、徐々に国内でのCCS事業の取り組みなどのニュースを目にするようになるかもしれません。
(ライター:とうま)
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