今の社会において竹は厄介者でしょうか? 放置された竹が増え続け、さまざまな被害を及ぼしています。「繁殖した竹は邪魔。とにかく早く駆除したい」。そんな声が多くの人からあがる一方、素材として見ると、抗菌性と消臭力があり、強度や耐久性も高いという優れた特性を持っています。さらに1年で約10メートル伸びるほど成長が早く、資源として持続的に入手しやすい素材でもあります。
そんななか日本各地で、竹に新たな価値を見出し放置された竹を製品化する取り組みが始まっています。放置竹林の問題だけでなく、生態系の保全といった環境問題の解決、地域の活性化にも役立つ、竹を活用したサステナブルな取り組みについて見ていきましょう。
古くから竹は、ザルといった日用品をはじめ土壁の下地や柱など建築材、家具、竹炭といったように、暮らしのあらゆるところで使われてきた日本人になじみ深い素材でした。
ところがタケノコの輸⼊が増加し、代替としてプラスチック製品が普及すると、⽵を利⽤する機会が減り、多くの⽵林が放置されるようになります。
使われなくなった竹林は、成長力が高いことからあっという間に地下茎を伸ばして周囲に拡⼤し、厄介者扱いされるようになってしまいました。
放置された竹林がもたらす被害は、竹害とも呼ばれます。まず、竹が山で増えるともともと生えていた広葉樹や針葉樹が枯れて減少します。木は根を深くはり、雨が降っても土をしっかりと支える機能を持つ一方、竹は地下30cmほどの浅い根が横に広がるため、保水力を低下させ、土砂災害や土壌崩壊の危険性が増加してしまいます。
さらに竹が成長して密集すると林内が暗くなり、ほかの植物が生育しにくい環境になります。植物に集まってきていた虫や動物も減少するなど、生き物がすみにくい環境になってしまうのです。また、放置竹林は野生動物のすみかになり、田畑の農作物被害も発生しています。
【参考資料】
竹の利活用推進に向けて | 林野庁
竹林利用の手引き2018 | 一般社団法人 日本森林技術協会
現在、竹はタケノコなどの食材としてはもちろん、竹チップにして道路の舗装に使われるなど時代に合わせた活用が進んでいます。そんななか、地域で増え続ける竹に再び付加価値を見出した、企業の新たな取り組みを紹介します。
2016年に設立されたエシカルバンブー株式会社は、竹と共に竹を活かし、人と共に人と生きる“エシカルバンブー”を掲げる会社です。
竹の洗剤や竹の虫除けスプレー、竹のタオルなど、竹の特性を活かした製品づくりを行っています。原料には、山口県内の放置竹林から整備を目的として計画的に伐採した竹を活用。伐採することで竹がほかの樹木の成長を阻害する「竹害」を防ぎ、森林保全に貢献しています。
高齢者や主婦、若年層ひきこもり人材や障害者人材の雇用の創出など、社会復帰促進センターと連携してさまざまな人材が活躍できる場づくりにつなげていることも特徴です。
そのほか、竹林整備を目的としたワークショップの開催や、竹の利活用総合施設「竹Labo」の運営を通して地域活性化にも貢献しています。
【参考資料】
エシカルバンブー株式会社 公式サイト
竹の可能性を追求!自治体、地場企業連携を通じた環境循環型竹産業の構築への挑戦!! | 環境省
LOCAL BAMBOO株式会社は「地方発サスティナブルな事業をつくる」を目指す宮崎県延岡市を拠点にした会社。地域に根付いた事業を展開しています。
延岡メンマは、宮崎県延岡市の山林を救うメンマとして開発されました。山林面積が全体の8割を占める延岡では、成長スピードの早い放置竹林が森に入る日光を遮り、木々の生育を阻害しているほか、根が浅いことから地滑りの原因にもなっています。
こうした放置竹林を解決するために開発されたのが、延岡に生息する孟宗竹(モウソウチク)を使用した100%国産のメンマ。食べることで森の生育に貢献します。
また、「どんなにいい活動でも、おいしくなければ意味がない」と自分たちが本気でおいしいと思える味を追求している点もポイントです。延岡で採れたタケノコのやさしい歯ごたえと、延岡産の味噌を使ったピリ辛な味がこだわりで、パスタやアイスなど、ラーメン具材以外の幅広い食べ方を提案します。
現在は、延岡以外の多くの放置竹林問題を抱えた地域のクラフトメンマも展開しています。
【参考資料】
延岡メンマ 公式サイト
SUSTAINABLE★SELECTION 2024 一つ星選定 放置竹林が逸品メンマに | 株式会社オルタナ
「合同会社森に還す」は、2022年4月に設立された長野県諏訪郡の会社です。合同会社森に還すが開発・販売するのは、国産竹100%の「猫砂」。抗菌、消臭効果を持つ竹をペレット化した猫トイレです。
原料には放置竹林の整備で伐った竹を使用しています。天然の国産竹なので、猫にも環境にも優しい素材です。使用後は土に還せるうえ、畑にまけば土壌改良材になるため、里山の保全にも貢献します。猫だけでなく、ウサギやモルモットにも使用可能です。
【参考資料】
合同会社森に還す 公式サイト
放置竹林が猫砂、改良材に 環境保全へ「一石三鳥」 | 産業新聞社
熊本県玉名郡に工場を持つ株式会社ヤマチクは、1963年の創業以来、半世紀にわたって竹の特性を活かした製品を作り続けてきた会社です。
自社ブランドである「okaeri」のコンセプトは「竹のお箸に、おかえり」。お箸の原点回帰を目指して作られています。「okaeri」で扱う竹のお箸は、熊本・福岡の山奥から刈り取った 純国産の天然竹から作ったものです。竹を人の手で一本一本刈り取り、削り、 「竹の箸」を作り続けています。
切子さんや竹材屋さんなど、竹のお箸づくりになくてはならない存在を支えるため、高い品質の商品を適正なコストで生産。持続可能な箸作りを目指しています。
【参考資料】
株式会社ヤマチク公式サイト
ヤマチクのお箸「okaeri」、にっぽんの宝物 世界大会2024地域独自体験&工芸・雑貨部門にて特別賞受賞 | PR TIMES
総合製紙メーカーの中越パルプ工業株式会社は、富山県高岡市と鹿児島県薩摩川内市に製紙工場を持ち、印刷用紙、産業用紙、新聞用紙などの原紙を製造しています。
竹林が多い鹿児島県に工場を構える中越パルプ工業では、竹の製紙原料化を実現。行き場のない国産竹を年間で約2万トン、紙にしています。この量は日本で最多。使われない竹に対し、持続的かつ大量の竹の消費が可能であることを示してくれました。
この取り組みは、竹に新たな価値を生み出すだけでなく、放置竹林に隣接する森林や里山、生物多様性の保全に役立ち、地域経済にも寄与しています。
また、中越パルプ工業では竹紙と社会との接点をつくるプロジェクト「MEETS TAKEGAMI」を立ち上げました。 より多くの人に竹紙の活動を知ってもらい、最終的には「自ら行動を起こして、社会的課題を解決する人が増えること」を目指すため、竹紙と社会との接点を作ろうと、竹紙を素材とした魅力ある商品を生み出すB2Bの素材メーカーという枠を超えた活動を行っています。
【参考資料】
MEETS TAKEGAMI 公式サイト
広がる竹の可能性!新たな竹の利用法に迫る | 農林水産省
ご紹介したどの取り組みも、地域で伐採された竹を活かし製品化することで、生態系の保護といった環境問題へ貢献するだけでなく、地域の雇用を生み、地域経済にも役立つことが体現されています。
竹はもともと、日本人の暮らしで大いに活用されてきた素材です。ご紹介した事例にとどまらず、新たな活用方法を見出し、私たちの暮らしに日本の竹を取り入れていきたいものです。
また、地域にはこうした資源がたくさん転がっているはず。放置竹林のサステナブルな取り組みをヒントに、地域で見過ごされている資源を探してみてください。
(ライター:藤野あずさ)
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