コラム廃棄物

生ゴミを有効活用!世界のコンポスト事情と日本の温泉街の取り組み

2023.01.06

環境省の発表によると、2020年度は全国の家庭から4,167万トンのゴミが排出されました。これは、東京ドーム112杯分にあたります。前年度よりゴミ排出量は減少したものの、最終処分場の確保は厳しい状況であり、ゴミ処理事業経費も増加しています。

このように日本でもゴミ問題がかなり深刻ですが、ゴミを大きく減らすことができる可能性もあります。「生ゴミを有効活用する」ことです。

この記事では、熊本県の黒川温泉・韓国・インドもスラバヤ市で取り組んでいる生ゴミのリサイクル方法を通して、生ゴミのリサイクルの可能性やリサイクルが生み出す効果についてお伝えします。

【参考資料】

一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和2年度)について

生ゴミは燃やすゴミの40%を占める

京都市のデータによると、令和2年度に出た燃やすゴミの約40%を生ゴミが占めています。「生ゴミってそんなにあるの…?」と意外に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

さらに、生ゴミは重さの約8割が水分のため紙などと比較すると燃えにくく、燃やす際のエネルギーも多く必要とします。現在の日本では、燃えにくいゴミが燃やすゴミの約40%を占めるという異常な状況になっているということです。

ですが、生ゴミは工夫次第で有効活用することも可能です。生ゴミを堆肥化することも活用法の一つ。ここからは、生ゴミの堆肥化について詳しく見ていきましょう。

【参考資料】

京都市の生ごみデータ|京都市食品ロスゼロプロジェクト

生ゴミをリサイクルして有効活用!

生ゴミを微生物の力で堆肥化する「コンポスト」をご存じでしょうか。微生物が生ゴミを分解してできた堆肥は、植物が育つために必要な栄養素が豊富に含まれています。コンポストは自宅で行うことも可能ですが、設置場所が必要で手間もかかりますので、全ての家庭でコンポスト設備を設置するのは難しいと思われます。

そのため、コンポストを普及させて持続可能にするには、自治体や企業の仕組み作りが必須となるでしょう。

韓国は生ゴミのリサイクル率が驚異の95%以上!

生ゴミのリサイクルで見習いたい他国の例を見ていきましょう。韓国では、生ゴミのリサイクル率が95%を超えています。2013年に生ゴミを分別してリサイクルに出すことが法律で義務化されたことで、リサイクル率が大幅に向上しました。一般家庭・飲食店いずれも生ゴミを捨てるには費用がかかり、回収された生ゴミはリサイクルされてバイオ燃料や動物の餌に生まれ変わります。

そんな韓国でも、1997年までは生ゴミのほとんどが埋立地で処理されていました。それからたった25年で、どのようにリサイクル率を向上させたのでしょうか。

生ゴミが埋立地で処理されていたころ、埋立地の周辺では悪臭が問題になり、生ゴミから発生するメタンガスが地球温暖化の一因であることも問題視されていました。

埋立地の周辺住民などによる必死の抗議活動が実り、韓国では1997年に「廃棄物管理法」が改正され、食品を中間処理しないまま埋め立てることを禁じました。食品の中間処理とは主に焼却処理でしたが、韓国ではダイオキシンも問題視されていたため、現在では焼却をせず飼料化などのリサイクルが主流となったのです。

このように、韓国は国全体でゴミ問題に取り組み、大きな成果を挙げました。

仮に日本も韓国と同じようにほぼ全ての生ゴミをリサイクルできれば、一般廃棄物の約40%を削減できるということです。日本でも、一部の地域ではコンポストなどによるゴミの有効活用がすでに行われています。

熊本県の黒川温泉では、生ゴミを堆肥化して地域内で有効活用する仕組みができていました。続いて見ていきましょう。

【参考資料】

生ごみのリサイクル率95%、韓国の食品ロス対策|BBC NEWS JAPAN
日本と韓国における生ごみリサイクルに対する住民意識の比較研究|梁 娜瑛、岡山 朋子

黒川温泉のコンポストプロジェクト

熊本県の黒川温泉では、2020年9月から「黒川温泉一帯地域コンポストプロジェクト」が始まりました。このプロジェクトについて作成された動画は、「サステナアワード2020 伝えたい日本の“サステナブル”」で農林水産省より表彰されています。

具体的にどのようなプロジェクトなのか、詳しくご紹介します。

コンポストプロジェクトの仕組みとは?

黒川温泉では、旅館で出た生ゴミ落ち葉などを堆肥化し、地元の農家で活用するという取り組みを行なっています。

生ゴミは旅館で食事を提供する中で日々大量に発生します。落ち葉は温泉街の景観を損ねないために回収する必要がありました。そこで、もみがらなどの地域資材も含めて堆肥化し、その堆肥を地元の農家へ提供、そして農家でできた野菜を旅館で利用するという仕組みが完成しました。

地域の循環に、生ゴミが資源として加わったのです。

黒川温泉で堆肥を作る手法とは?

黒川温泉では「CNBM分類」という技術で堆肥化しています。CNBM分類とは、堆肥の材料を炭素(C)、窒素(N)、微生物(B)、ミネラル(M)に分類し、使用目的に応じた最適な割合で配合する堆肥化技術です。

これによって素材の有機物が十分に分解・発酵した「完熟堆肥」を作っています。完熟堆肥は分解の過程で有害物質や悪臭が無くなっており、分解の際に発生する熱によって病原菌なども死滅しているので安全な状態です。

さらに、含まれている有機物によって地力の向上養分の供給に役に立つ堆肥となっています。

黒川温泉の堆肥で作られたトマトジュースも商品化

黒川温泉の堆肥を使って栽培されたトマトからクラフトジュースを作り、商品化もされました。「黒川堆肥で育てた”南小国産トマト”のクラフトジュース “yoin”」として販売されています。このクラフトジュースは熊本県阿蘇郡南小国町のふるさと納税返礼品になっていますので、全国で購入が可能です。

このようにコンポストを通じて作られた商品によって、黒川温泉の取り組みがより多くの人に知られることにもなりました。

環境問題に取り組むだけでなく、商品として形になることで発信力が高まったのです。

黒川温泉の今後は?

黒川温泉では2020年に約4ヶ月間で約2,000リットルの堆肥を作っています。今後は2030年までに、30軒の旅館の食品残さ概算102トン分をすべてコンポストすることを目標としているそうです。

さらに、地元農家と温泉地の協力による循環野菜ブランド作りも推進しています。

今後も黒川温泉の取り組みに注目していきましょう。

【参考資料】

黒川温泉の堆肥事業「黒川温泉一帯地域コンポストプロジェクト」動画が、サステナアワード2020にて、”環境省環境経済課長賞”を受賞|PR TIMES
黒川温泉2030年ビジョン
コンポストがつくる「人と土」の循環システム。|Sustainable for Freedom
黒川堆肥で育てたトマトからクラフトジュースをつくりました|黒川温泉
「農業技術の匠」: 橋本 力男 さん|農林水産省
環境保全型農業をすすめるために|農林水産省

コンポストへの取り組みが地域に与える影響

生ゴミをコンポストで有効活用することによって、ゴミの量を減らせることはお伝えしてきたとおりです。さらに、地域でコンポストを行っている場所で、その他の問題も解決に導かれた例があります。

環境問題への意識が高まったインドネシア・スラバヤ市

アジアの多くの都市では、都市の急成長に 伴ってゴミの増加・多様化が問題となっています。廃棄物処理体制の整備が追いつかないため、処分方法は埋立が主流で露天焼却も多く見られます。インドネシアのスラバヤ市も急速な都市化と人口増加によりゴミの量が急増し、1990 年代半ばから廃棄物管理の問題を抱えていました。

そんな中、スラバヤ市は福岡県北九州市との「都市間環境協力提携」によって、2004年から生ゴミの堆肥化を開始します。当時スラバヤ市では、家庭から出るゴミの半分以上を生ゴミが占めていたため、生ゴミのリサイクルが特に推進されたのです。

北九州国際技術協力協会(KITA)」から派遣された専門家が開発した、短い時間で効率的に堆肥化する技術を採用し、およそ 1 , 000 世帯から回収した生ゴミも短期間で堆肥化できるようになりました。さらに、KITAが開発した発酵菌を入れた家庭用の堆肥化容器を住民に配布すると、各家庭でも生ゴミを堆肥化して庭の緑化などに使うようになりました。

これによって家庭からのゴミ排出量は減少し、街は緑化され、健康被害の原因になっていたゴミの放置も減少していきました。さらに住民は、生ゴミ以外のびん、缶、紙、ペットボトルなどの分別も行うようになりました。

コンポストによってゴミの量を減らせただけでなく、住民の環境意識も高めることができたのです。

全員が地球環境のために行動しているかはわかりませんが、家から生ゴミが消えるのは誰にとっても快適なはず。行動する理由は自分のためで良いのです。ゴミの放置によって健康被害まで発生していた地域ですが、きっかけがあれば住民の意識・行動を変えられることが明らかになりました。

【参考資料】

CAI Newsletter 日本発、アジアの都市へ 環境技術移転の最前線|環境省
廃棄物管理改善を目指して|公益財団法人 北九州国際技術協力協会

地域でコンポストに取り組んで環境意識を高めよう

韓国、インド、そして黒川温泉でのコンポストの取り組みについてお伝えしてきました。

住民が声を上げたことで国が本気でゴミ問題に取り組んだ韓国、自治体の取り組みによって住民の意識が高まったインドのスラバヤ市、コンポストを通じて地域の活性化にもつなげている黒川温泉。

それぞれから学べることがありました。

日本ではまだまだコンポストが普及していませんし、そもそもコンポストの認知度が低いかもしれません。日本に公共のコンポストが増えていけば、環境問題への意識も高められるはずです。日本人が生ゴミを「ゴミ」ではなく「資源」と認識する日が来るように、あなたの自治体や企業でも公共コンポストを実施してみませんか?

(ライター:小森 さほ


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