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取組紹介廃棄物

落ち葉を堆肥に活用し、持続可能な農業と社会のあり方を学ぶICUの取組みとは?

2020.02.12

OG_コンポスト事例1

大学のキャンパスだけでなく、街や公園などでも、自然を感じる環境に欠かせない木々は、春や夏には緑豊かに、秋には色とりどりに紅葉して私たちの心を和ませてくれます。

しかし、冬になれば季節を彩ってくれた分だけ多くの落ち葉が地面を埋め尽くします。自治体によっては街路樹の落ち葉に対する苦情も出るほど、処理に困ることもあるこの落ち葉ですが、国際基督教大学(以下、ICU)ではこの廃棄物である落ち葉を堆肥にし、地域の農業や学生の学びに活かしています。

今回はこの活動について、担当の山口富子社会学教授、堆肥を活かした有機畑づくりを実践する研究プロジェクト「Slow Vill」代表・岡田光(ICU3年生)さん、地域の農家と連携して地産地消を進める「地産地消プロジェクト」代表・玉木友貴さん(ICU3年生)に取材してきました!

東京ドーム13個分の敷地に大量の落ち葉

東京都三鷹市にあるICUの敷地面積は、62万平方キロメートル。東京ドーム13個分の広さのキャンパス内には雑木林も残り、構内にはキンランやギンランなど、環境省に絶滅危惧種に指定されている希少植物も見られます。

森林の中に大学があるかのようなキャンパスでは、数十年前から敷地内の大量の落ち葉を堆肥として活用するために、地元の三鷹市の農家の方が落ち葉を回収していました。その関係に変化が起きたのは、2017年。

当時の東京外郭環状道路建設に伴い、平成29年度より当時北野にあった堆肥場の廃止が決定。そしてちょうどそのころに、東京大学馬術部から馬糞利用の依頼があったJA東京むさし三鷹地区青壮年部が、馬糞を活かした堆肥づくりの場として、それまでも堆肥に活用する落ち葉を収集していたICUに、打診をしたのが始まりでした。

「ICUは広くて自然も豊かです。依頼があった際に、『食と農の社会学』という授業を学生に教えているので、せっかくコンポストをやるなら、より学生が実践を通して学べたほうがよいと思い、敷地内の空き地に畑も作りました」(山口教授)

こうして大学内の調整を経て、生物学教授に相談をしながら生態系に影響のない場所を選び、敷地内に堆肥づくりの場と100㎡ほどの畑が完成しました。

落ち葉のコンポストを通じて生まれた
「クリエイティブな学びの場」

OG‗コンポスト事例3

そして、コンポストがスタート。荒れ地を地元農家の方に耕してもらい、今は春と秋に種まきをして収穫をしているそうです。

「農業に関心を持つ学生は増えていて、今までも授業のなかで60~70人ほどの学生を連れて多品種少量生産を行う都市農業の現場を視察させていただいたり、その後のディスカッションに参加してもらいに来てもらったりと地元農家の方との交流はありました。
それに加えて畑で実践する『場』ができたことで、さらにコミュニケーションが増え、学生たちからクリエイティブなアイデアが出てくるようになりました。
この前は『家畜を飼いたい』というアイデアが出てきて、学生自身が大学の各部署や自治体、保健所への確認や調整を行っていました。実際にやってみると『諦めざるをえないことがある』と経験を通じて理解でき、都市農業が直面する課題への理解も深まっています。
近年ではリベラルアーツの重要性が注目されていますが、世界のリベラルアーツの大学には、このように自然との共生を学び、体験するために小さい畑を持つ大学も多いんですよ」(山口教授)

座学ではわからない、地元農家との交流から学ぶ
人と農業と自然のバランス

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この活動を実際に行う学生たちの話も聞いてみたいと思い、山口教授の研究プロジェクトとして、落ち葉を堆肥にし、それを活用した農業を実践する「SlowVill」代表の岡田光さんに話を聞きました。

「畑の管理は、早朝作業や雑草の管理、種まきのタイミングなど学びと失敗の連続ですし、やってみて初めてわかることも多いですが、何より畑を通じて地元の農家の方と繋がりができたことが単純に嬉しいです。
それに農業のシステムを身近な場で学べます。たとえば、僕は有機農業に以前から関心があったのですが、地元ではほとんどの方は化学肥料も農薬も使っています。生産者の顔が見え、現状の問題点や課題を知ると、一方的に『有機農業がいい』という価値観を押し付けられないと思いました。
座学で学んでいるうちはいくらでも批判できますが、顔を見て話せば、農家の方も消費者を第一に一生懸命考えてくださっていて、農薬の問題も個人ではどうしようもないこともあるのだとわかりました」(岡田さん:写真右)

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また、農家との繋がりができたことで、地元の三鷹市の野菜を学食で販売したり、大学祭で地産地消メニューを販売するなどを行うもう一つの活動「地産地消プロジェクト」も2018年に生まれました。

「この活動は、本当に幸せになれるんです。地元で採れた新鮮な野菜は、とても美味しいし、日持ちもいい。その野菜を作っている人と会話ができて、『美味しいです』ってお礼も言えるし、それを伝えたら喜んでもらえる。
私は寮生なので、学食で美味しい野菜が買えればスーパーに行く手間も省けますし、地産地消の野菜を食べているときは、なんだか気持ちも和らぎます」(地産地消プロジェクト代表・玉木友貴さん:写真左)

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感覚的に「幸せ」と感じられるのは、活動を自然に続けられるモチベーションとなりますが、もちろんそれだけではなく、活動を通じた気づきも多いそうです。

「正直に言うと、ずっと都市部に住んでいて農家の方と話す機会がなかったので、以前は『農家』や『農業』に対しあまりいいイメージがなく、『地方の遅れた存在』のように思っていました。
しかし、現実を知ると大学卒業後に農業のやりがいや課題を見出して農業に就く方もいますし、地域のことを考え、消防団としても活動し、地域の人からも愛され、必要とされている存在だとわかりました。地域に根差し、心地よく暮らしたいと思っている方ばかりで、地域社会に欠かせない方々なんだと」(玉木さん)

コンポストと地産地消、
実践を通じて環境負荷をかけない「よい消費者」へ

OG_コンポスト事例7

落ち葉という廃棄物を活かした、コンポスト。ICUのコンポストからは、堆肥だけではなく、学びの実践の場や、学生と地元の農家との繋がりなど多くの価値が生まれていました。

「『Farm to table (農場から食卓へ)』を1つのシステムでみたときに、それが長いものもあれば、短いものもあります。
工業化した食料生産の場合、このシステムが長くなります。フードマイレージとも言われますが、このマイレージが長ければ長いほど、輸送に燃料や温度管理が必要となり環境への負荷は大きくなってしまいます。
自分たちで生産したり、地元の食べ物を消費したりすれば、フードマイレージは短くなり、環境への負荷を少なくすることができます。今の時代に全ての食でそれを実践するのは難しいですが、『顔の見える関係のなかでいただく』という価値を学び、これから買物をするときに生産の現場について少し考えられるような、よい消費者になってくれれば」(山口教授)

気候変動問題がより深刻になり関心が高まるにつれ、学生たちの環境や農業に対する関心も高まってきているとか。

SDGs人材の育成は多くの学校や企業で課題となり、取り組まれていますが、このような実践と地域とのコミュニケーションを通じ、顔の見える関係のなかで小さな経済圏で得られる価値を学んでいくことが、持続可能な未来をつくる人材育成に繋がっていくと感じました。

 

山口富子氏プロフィール

ミシガン州立大学社会学部博士号取得。国際基督教大学教養学部 アーツ・サイエンス学科教授。専門分野は、農と食の社会学、科学技術社会論。「食の安全安心」「農業バイオと社会」をキーワードに、研究や教育を実践。

 


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