昨今、「◯◯・ツーリズム」といった言葉をよく見かけます。
◯◯には、「エコ・マス・サスティナブル・・・」など数多くのワードが入りますが、今回は「レスポンシブル・ツーリズム」という考え方について紹介します。
新型コロナウイルスの影響もあり、この考え方は観光業において、非常に重要度が増しているでしょう。もてなす側だけでなく、旅行者一人一人が責任ある行動を取ることが、レシポンシブル・ツーリズムの根幹となります。具体的には、
・レスポンシブル・ツーリズムとはどんな考え方か
・その背景として何が考えられるのか
・ハワイや米コロラド州の事例
について解説します。3分ほどで読めますので、ぜひご一読ください。
「レスポンシブル・ツーリズム(Responsible tourism)」とは、直訳すると「責任ある観光」です。この「責任」という言葉は地域や事業者ではなく、観光客にかかるわけです。ここが重要なポイントです。
つまり、今までの観光スタイルでは、
・観光客側が訪れる地域に対する影響や責任などを考慮しない
・受け入れ側も、「来ていただいて、ありがとうございます」という態度で迎える
が主流でした。しかし、レスポンシブル・ツーリズムでは、
・観光客側にも受け入れる地域に対して一定の責任がある
・受け入れ側も「ルールを守る人のみ来てくださいね」という考え方で迎える
こうしたスタンスになります。この考え方が重要となる背景には、次の2つが考えられます。それは、観光公害(オーバーツーリズム)と新型コロナウイルスです。
一つ目は、観光公害、オーバーツーリズムとも言います。JTB総合研究所の観光用語集によると、オーバーツーリズムとは「訪問客の著しい増加等が、地域住民の生活や自然環境に対して限度を超える負の影響をもたらす状況」のこと。
観光客が限度を超えて押し寄せることで、例えば、
・環境や景観破壊
・地域住民への迷惑行為
・騒音やゴミ問題
・人混みや交通渋滞 など
実に多くの弊害が、観光地にて散見されます。日本国内でも京都や富士山、白川郷などといった場所で、多くの問題が出てきています。
世界中で感染者が広がるコロナウイルス。日本からの渡航者数、そしてインバウンドの数もコロナウイルス流行前後で99.9%落ちています。ホテルや旅館、観光地のレストランやお店、体験施設などが窮地に立たされている中、会社はお金を稼がなければ、存続することさえ不可能になります。
同時に、感染対策にも取り組まなければなりません。「3密」を避けた場所の提供、ウイルスを徹底的に除去した状態でのサービスの提供、そしてもちろん従業員も守らなければなりません。ですが、こうした場合「内」での対策だけでは、やはり限界があります。
「外」から訪れる観光客が、ウイルスを持ったまま無責任に行動を取られたら、たまったものではないでしょう。「ルールを守れない客はお断り」という考え方は、ある意味至極真っ当な話かもしれませんね。
こういった背景があり、レスポンシブル・ツーリズムの考え方が注目されていますが、実際の参考事例を紹介していきます。先進的な活動を行うハワイと、啓蒙活動に力を入れる米コロラド州の事例を挙げてみました。
ご存知の通り、数多くの観光客が押し寄せるハワイ。美しい島を守るため、ハワイでは様々な工夫を凝らしており、例えば次のような事例があります。
・日焼け止めの使用禁止
・ウミガメなど海洋動物との過度な接近を避けること
・エコバッグや水筒の利用推奨
・ホノルルにおける民泊規制の強化 など
日焼け止めの禁止は、日本でのニュースでも話題になりました。サンゴ礁に悪影響を及ぼす成分を含む日焼け止めは使用不可となり、この法律は、2021年1月から施行されます。
やはり重要なのは、「旅行者ができること」を考えることです。レスポンシブル・ツーリズムの観点から、ハワイカルチャーを守っていかなければなりませんね。
https://www.youtube.com/watch?v=JcY73nUhaQs
アメリカのコロラド州では、観光地の保全啓発に取り組んでいます。
持続可能なツーリズムのためのプロジェクトですが、その一環として、音楽で啓発活動を行なっています。次の内容は、歌の中に出てくる歌詞であり、同時にコロラド州からの「7つのお願い」です。ぜひ参考にしてみてください。
コロラド州は、コロラドスプリングスを始めとした自然豊かに発展してきた街です。自分たちができることには限界があるため、こうして観光客にも啓蒙活動を行なっているのですね。
ですが、こうした注意事項はコロラド州だけでなく、どの観光地を訪れても重要な考え方です。英語バージョンしかありませんが、ぜひ動画も見てみてくださいね。
今回は、レスポンシブル・ツーリズムについて解説してきました。
この他にも、「サステイナブル・ツーリズム(持続可能な観光)」といった言葉も存在します。明確な違いはありませんが、どちらかと言えば、事業者側が「観光地をどう発展させていくか」という視点だと考えられます。
一方で、レスポンシブル・ツーリズムは、観光客側の視点。私たち一人一人の意識改革が大切です。とはいえ、どちらにしても最終目的は同じではないでしょうか。
今回は「レスポンシブル・ツーリズム」という、やや分かりにくい言葉を使いましたが、私たちが意識すべきことは、決して複雑なことではありません。「客」だからと言って偉ぶることなく、些細なことでも、人として正しいことを行った上で、旅行を楽しむことです。その気持ちを持てば、地域の方々も手を広げて迎え入れてくれるでしょう。
コロナの時代でも、観光業がさらに発展していくために、私たち一人一人がこの「レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)」という考え方を頭に入れて、旅行を楽しみましょう。
(ライター:サイトウケイ)
<参考記事>
・アロハプログラムニュースレター「レスポンシブルツーリズムとは」(ハワイ州観光局)
・トラベルボイス「ハワイの観光戦略で重視される「レスポンシブル・ツーリズム」(責任ある観光)とは? 地元と旅行者のあるべき関係性を聞いてきた」(トラベルボイス株式会社)