コラムCO2削減

旅を楽しむために!いま求められる「レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)」とは?

2020.10.02

コロナと過ごす夏も過ぎ、「そろそろ気分転換に遠出をしたい」「地域経済や観光業界を消費で応援したい」と思う方も多いのではないでしょうか?一方で、もう旅行をしていいものか、旅先では何に気をつけたらよいのか迷ってしまいますよね。

そんな中でレスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)という概念が広まっています。これからも誰もが気持ちよく旅を楽しむために、観光をする側、提供する側のそれぞれができる取組みを紹介します。

 

地域に利益をもたらす一方で、広がる観光公害

どの国、地域にとっても観光は重要な産業です。しかし、観光客は経済的な恩恵をもたらすだけでなく、時に問題を生み出すこともあります。こうした観光によって生じる諸問題をまとめて観光公害と言います。

たとえば、観光客のマナー低下による地域住民への悪影響、キャパシティ以上の観光客の来訪による混雑、観光客による資源の過剰利用や環境汚染などが挙げられます。

観光客が増え過ぎたことで問題が生じている現状は『オーバーツーリズム』とも呼ばれ、スペインのバルセロナやイタリアのヴェニス、インドネシアのバリ、ペルーのマチュピチュなど、国内では京都・奈良、また岐阜県の白川郷などで特に課題視されています。

貴重な財源である観光業を縮小させず、地域社会や環境とも調和のとれた持続可能な観光の在り方が求められているのです。

地域が観光客を選ぶ時代。

世界遺産の合掌造り集落・白川郷がある岐阜県の白川村では、冬季のライトアップの時期に人口約600人の集落に一日8000人以上の観光客が訪れていました。

しかし2019年より、駐車可能台数を450台までとし、駐車場と展望台行きシャトルバスを完全予約制にすることで来場者数を制限しました。その結果、客数自体は減ったものの、落ち着いて食事をしたり、土産処に寄ったりでき、売上などの経済効果は例年とほぼ変わらなかったといいます。

観光客側でも、あまり広く知られていないローカルな穴場スポットを訪れ、ゆったりと落ち着いて、その土地ならではの文化や体験を味わいたいという人も増えてきました。こうした傾向を『オーバーツーリズム』に対して『アンダーツーリズム』と呼び、コロナ禍での旅行の新しい形態として定着しつつあります。

ただ「誰でもいいから沢山の人に来てもらいたい」という姿勢では、多くの人が来ても地域の魅力を伝えきれず、一過性の興味やトレンドで終わってしまう“消費収奪型”の観光しかできません。そうではなく、地域の文化や歴史遺産、自然環境などの地域資源に目を向け、その土地の暮らしに敬意を払って、対価を払ってくれる観光客を選んで呼び込むことが、持続可能な観光に繋がるのです。

この考え方はSDGsの中にも含まれ、国連で「サステイナブル・ツーリズム国際認証」を作り、持続可能な観光のための指標を提示しています。

 

レスポンシブルツーリズムに向けた世界の取り組み

こうしたレスポンシブルツーリズム、サスティナブルツーリズムの動きは欧米では既に大きな動きになっています。

毎年ロンドンで行われるワールド・トラベル・マーケット (WTM)は、世界最大級の旅行/観光業界の見本市ですが、この中でレスポンシブルツーリズムアワードの表彰が行われます。186カ国から5000団体以上が参加し、「野生動物・自然保護」「地域社会への貢献」「プラスチックごみ削減」などのカテゴリー別に優秀な団体がノミネートされます。

また英国のヘンリー王子はBooking.com、Ctrip、Skyscanner、TripAdvisor、Visaといった大手企業と共同で「Travalyst(トラバリスト)」というパートナーシップを組み、業界全体がよりサスティナブルな方向へ進んでいけるようにイニシアティブを取っています。

たとえば、Skyscannerを使って航空券を検索すると、料金や所要時間ごとの比較の他にCO2排出量がより少ないフライトを“Greener choice”として選ぶことが出来るのです!

 

楽しい旅をこれからもずっと!

旅をするときに、パークアンドライドで公共交通を利用したり、シェアサイクルを使うなどより環境に対する負荷が少ない移動手段を選ぶこともできます。リモートワークが普及したことにより『ワーケーション』といった新たな旅のスタイルも出てきました。

旅をする人、受け入れる地域、自然環境、文化の違いなど、様々な点に思いを巡らせることで、誰もが旅を楽しめる世界が続いていくはずです。素敵な旅を!

 

(ライター:鈴木さやか)

 

<参考資料・記事>

・「観光公害 インバウンド用語集」(訪日ラボ)

・「脱・観光公害「レスポンシブル・ツーリスト」が選ぶ、次世代旅行プラットフォーム〜エアビーやエクスペディア以外の選択肢」(AMP)

・「600人の村に8000人・注目の数字」(JTB総合研究所)

・「サステイナブル・ツーリズム – エコセン」(NPO法人日本エコツーリズムセンター)

・「ワールド・トラベル・マーケット (WTM)」(ジャパン・ワールド・リンク)

・「Travalyst – Sustainable Tourism」(Travalyst)

・「What is Prince Harry’s Travalyst initiative? How the Duke is seeking to promote sustainable tourism」(Evening Standard.)


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