金融庁は2018(平成30)年6月、「金融行政とSDGs」を公表しました。これは持続可能な社会の実現に向けて、地域の金融機関が目指すべき方向性と、SDGsとの関係性を示唆する基本的な方針を明らかにしたものです。2020(令和2)年1月には一部内容を更新、地域金融機関が顧客のニーズを捉え、付加価値の高いサービスを提供すること(共通価値の創造)が重要であるとの位置づけを行っています。
地域金融機関には、その地域特性を十分に理解・活用し、地場ならではの金融仲介機能を発揮して、地域企業や経済の発展に貢献することが期待されます。そこで地銀を初めとする地域の金融機関は、明確な経営理念の下で情報と金融の媒介技術を戦略的に展開し、地域における経済的資源の配分や市場の活性化を図り、大局的には環境問題や社会問題の解決に資する付加価値を生み出していかねばなりません。
内閣府も2019年に「地方創生SDGs金融フレームワーク」を掲げ、地域金融機関がSDGsに取り組む地域企業を支援するべく、民間資金を積極的に還流させる(ESG投資)というコンセプトを示しています。こちらは従来のように補助金に頼るのではなく、自治体が自律的にESG投資を呼び込む態勢づくりを構築するための、枠組みとされています。
概念としては、
というものです。
こうした動きは時代の趨勢とも言え、日本総研の調査では全国地方銀行協会所属の地銀64行のうち、約7割に当たる46行が自社のwebサイトで「SDGs宣言」を公表しています(2020年9月時点)。
地域金融機関は、金融行政がその機能にも言及しているように、民間の企業であると同時に「共通価値の創造」を担うという公共的側面も有します。そこで各地の金融機関は行政と連携を取りながら、さまざまな民間活力の相乗効果を図り、自社の企業価値向上と地域経済の発展との間で好循環サイクルを創出する方針を打ち出しています。
こうした銀行のひとつである京葉銀行は、千葉市中央区に本店を置く千葉県の地方銀行です。1989(平成元)年2月に普通銀行に転換し、今年2023年3月には創立80周年を迎えます。
同行のwebサイトにも、SDGs宣言の特設ページが用意されています。しかし、それに先立つ「京葉銀行について」のメインコンテンツである「トップメッセージ」の中では、まず
・気候変動などの環境・社会問題の解決に取り組んでいく
・持続可能なビジネスモデルの構築を図る
・これまで以上に地域経済へ積極的に貢献する
という方針が示されており、合わせて「確かな“きずな”を、未来へ。」と表現されたコーポレートスローガンを掲げています。企業トップ自らが事業の重要な柱として持続可能な社会の実現を位置づけ、地域金融機関であるからこそ可能な、社会貢献策を事業展開していく決意を表明しているのです。
※図表:京葉銀行のHPの情報を参考に著者が作成
web上で公開されているサステナビリティ特設ページは、「取り組み方針」「重点項目(SDGs宣言)」「ESGへの取り組み」「ESGデータ」「ニュースリリース」という5段構えの構造になっています。
取り組み方針
・行動規範
・環境方針
・人権方針
・投融資方針
掲げられている取り組み方針は、原則的には企業としておおよその方向性を定める、理念的要素として示されるものです。しかし最後の「投融資方針」に限っては、金融機能を通じて地域経済創造に資するという事業ドメインを反映して、以下のような具体的な指針を示すものとなっています。
1.環境・社会・経済にもたらすポジティブな影響の増大・創造を図るべく、以下に例示する事業等への投融資を積極的に取り組んでまいります。
・気候変動リスクを低減する省エネルギー・再生可能エネルギー関連事業
・創業・事業承継など地域経済の持続的発展に資する事業
・少子高齢化社会に対応する医療・介護、福祉、教育の充実に資する事業
・持続可能な社会の形成にポジティブな影響を与える事業
2.環境・社会・経済にもたらすネガティブな影響の抑制・回避を図るべく、以下の通り対応します。
・石炭火力発電所の新規建設事業向け投融資は原則行いません。
・非人道的な兵器を製造する事業への投融資は行いません。
・森林の違法伐採や児童労働などの人権侵害が行われているおそれのあるパーム油農園開発事業への投融資は行いません。
・森林伐採事業は、国際的なガイドラインや認証等の取得状況などを考慮し、環境や地域社会への影響などの個別案件毎の背景や特性に十分注意したうえで慎重に対応します。
重点項目:京葉銀行SDGs宣言
続いて掲げられるSDGs宣言も、単なる抽象的・象徴的な言葉ではありません。銀行として具体的にどのような業務活動を展開するのか、明確にされています。
・地域経済、社会
・ダイバーシティ&インクルージョン
・環境保全、CSR
・千葉みなと本部周辺清掃活動
・千葉駅前地区の環境美化、企業より出される古紙のリサイクル等の活動
・「若い芽のαコンサート」(毎年6月、千葉県文化会館大ホール)に協賛
・千葉県が実施する「子育て応援!チーパス事業」に協賛
・「ちばレポ(ちば市民協働レポート)」連携協力
・「フードバンクちば」への食品の寄付
・公益信託「京葉銀行ホームヘルパー助成基金」を設立
ESGへの取り組み
ESG(環境・社会・ガバナンス)についても、それぞれどのような取り組みを行っているのか、項目名をクリックするとwebリンクが開き、詳細な内容の提示がなされています。
【環境】
・環境保全への取り組み
・気候変動への対応
・環境に配慮した千葉みなと本部
・アルファバンクのエコプロジェクト
・千葉大学とのecoプロジェクト
【社会】
・地域経済社会への取り組み
・ダイバーシティ&インクルージョンへの取り組み
・社会貢献・地域貢献
【ガバナンス】
・コーポレート・ガバナンスの状況
・内部統制システム
・資本政策の基本方針
・リスク管理態勢
・コンプライアンス態勢
【ESGデータ】
ESGに関しては具体的な数値目標と、過去3年間の実績数値を公開しています。
サステナビリティを意識した経営は、もはや大企業や有名企業にのみ必要な視点ではなくなりました。地場の中小企業や小規模事業者が、実際に喫緊の課題として取り組んでいく態度こそが求められています。しかしこうした事業者は情報やリソース、経営資源の不足からなかなか実効性のある施策に踏み込むことが困難です。
そこでこの空白を埋める機能が、地銀に代表される地域の金融機関に期待される役割なのです。明確な思想・理念のもとで、情報と資金を媒介し、行政と連携しながら地域発展の絵図を展開して、最も高い相乗効果を生むビジネスマッチングを行うことが、これからの地域金融機関の使命ではないでしょうか。
今回紹介した京葉銀行に限らず、滋賀銀行や群馬銀行、筑波銀行、常陽銀行、足利銀行、武蔵野銀行などSDGsに本格的に取り組む地銀が増えています。
京葉銀行のように自ら持続可能な社会に向けた取り組みを実践している金融機関であれば、共に未来を目指すより実効性の高い協働機関として、企業や自治体もコラボレーションしやすくなります。地域産業育成の担い手として誕生した歴史を持つ地域金融機関。その長い歴史の中では再編・合併や普銀への転換など、多くの紆余曲折がありました。そしていま、人類と地球の未来を考える視点から、地域の産業と経済を支援する重要な役目を担うべく、Think Globally、Act Locally(シンク・グローバリー、アクト・ローカリー)のパワーを発揮する存在として、大きな期待が寄せられています。
(ライター 大石雅彦)
<参考リンク>
金融庁「金融行政とSDGs」
地方創生にESG投資引き込め | 日経ESG (nikkeibp.co.jp)
CSRを巡る動き: 地域金融機関におけるSDGsの現状と今後求められる対応|日本総研 (jri.co.jp)
京葉銀行グループSDGs宣言 | 京葉銀行 (keiyobank.co.jp)
地方銀行がESG経営推進の旗手となる 企業事例--滋賀銀行 | GLOBIS 知見録
地銀によるSDGsの達成に向けた取り組み~SDGs宣言と具体的なアクション~ (sdgsinsight.com)