コラム社会・環境基盤

人と自然の共生社会への取り組み!千葉県いすみ市の事例

2023.02.10

消費者庁では2015(平成27)年のSDGs国連採択を受けて、同年より「倫理的消費」調査研究会を発足させました。そこで得られた議論を踏まえ、多くの活動主体と連携を取りながら、社会や環境に配慮したエシカルな商品購入・消費行動の支援を続けています。

そのようななか、千葉県いすみ市が現在も継続的に行っている「自然と共生する里づくり」の活動が、注目を集めています。自治体と地場の生産者と産業界、学校、市民グループらが連携することにより、環境保全や自然教育、学校給食の有機食材化、農業の活性化といった具体的な成果を次々とあげているからです。

この記事ではその取り組みを詳しく紹介します。

消費者庁が推進するエシカル消費

全国各地域の自治体を中心とした取り組みは、同庁のwebサイト「みんなのエシカル消費」にまとめられています。しかしそれらの具体的な活動内容を追ってみると、ほとんどが以下のような間接的な取り組みであることがわかります。

・後援会や出前講座、ワークショップの開催
・啓発パンフレット・ポスターなど広報アイテムの制作と配布
・パネル展示やフェスタなどのイベント開催
・期間を限ったキャンペーン、コンテストの実施

消費者庁主導のこの活動では、官公庁および自治体に期待された機能が、まずSDGsを見据えたエシカル消費の「普及・啓発」にありました。そのため、どうしても「自治体自身が率先垂範して、自らの業務システムをエシカルなものに変えていく」といった、直接的な取り組みをするまでには至らなかったようです。

里山・里海の環境を持つ、いすみ市の特性を活かした取組み

そんななかで素晴らしい取組をしているのが千葉県いすみ市です。いすみ市は、千葉県南東部の外房(太平洋)側に位置する人口36,000人ほどの街です。平成17年の市町村合併政策により、夷隅町・大原町・岬町の3町が合併して誕生しました。千葉県の形状をかたどったマスコットキャラクター「チーバ君」の、ちょうど背中の部分にあたります。

2015年のSDGs国連採択より3年さかのぼる2012(平成24)年5月、同市に「自然と共生する里づくり連絡協議会」が設立されました。この試みの特色は、持続可能性や環境保全を啓発する段階を軽々と超えて、実際に地域で活動する農業生産者、教育機関、市や県などの行政、市民団体らが連携することにより「環境と経済の自立」を実現している点にあります。

官公庁や民間事業者、学校、農家、市民グループなど多様なバックグラウンドの45団体(2018年時点)が協力、「自然と共生する環境」の整備を進めることで、以下のようなオーガニック農業のビジネスプラットフォーム化に成功しているのです。

・水稲無農薬栽培の体系を実証、確立する

・継続的な技術研修会を開催、市内外への波及効果を実践しつつ年々その規模を拡大

・有機栽培米を特産品として市民と共に育て、ブランド化

・2017年10月より有機栽培米を市内に13あるすべての小中学校に給食として提供。全量有機米給食は全国初

・地元直売所と連携し、独自の認証基準を設けた地場産有機野菜の学校給食への供給体制を構築

・有機野菜(いすみそだち)や有機米(いすみっこ)のブランドネーム公募により、地元とのエンゲージメント(結びつき)を強化

・有機栽培農家の収入の向上及び安定化、産業基盤化

・学校からの要望を受け、「生き物観察会」など環境学習や食農体験学習を実践

・都会や全国各地の来街を対象とした体験型観光(エコツーリズム)を推進

このように「自然と共生する環境」の整備は、離農や高齢化、外来種の野生化などを原因とする里山コミュニティの衰退に歯止めをかけ、持続可能な地域づくりの先進例としていすみ市のイメージアップにも大きく寄与しました。

有機農業の基盤拡大と需要の開拓

2013年、市が「自然と共生する環境」活動の一環として有機米の生産に取り組み始めたとき、プロジェクトに参加した農家はわずか3名でした。作付面積は0.2ヘクタール、収穫量は実に0.24トンだったのです。それが4年後の2017年には23名の農家が14ヘクタールの田地で有機米を栽培、市内全小中学校給食用の計約2300人分の米(約42トン)の供給確保を実現したのです。

それを可能にしたのは、掛け声だけに終わらない関係者の熱意でした。

「自然と共生する里づくり」の基本理念の普及と啓発に始まり、環境と経済を両立させることを目標に、まず地域の生産者を対象とした研修を実施しました。そして継続とさらなる拡大に向けて新規就農者・転換者を対象とした土づくり実証および栽培指導を実施、JAと連携して販路の開拓や実需者と連携した販促活動も行います。同時に学校給食への有機米・有機野菜の導入を図り、児童の健康増進や地産地消の食育に資すると共に、農産物の安定的な供給先を確保しました。

加えて新規需要作物(インド野菜)の栽培等により、地場農業への新規参入・転換を促し、結果として有機農業の取組農家数と面積が年々増加、「観光と経済の両立」を見事に達成することができたのです。

【取組の実例】いすみ市webサイト・自然と共生する里づくりの取り組み より

自然と共生する里づくりシンポジウムの開催

市の農林課農政班が主体となり、「自然と共生した豊かないすみ市」を実現していくために、市民がビジョンを共有するシンポジウムを開催しています。

いのち育むモデル水田

いすみの気候風土や土壌条件等にあった水稲無農薬栽培体系を確立するために、実証の場としてモデル水田を運営しました。ここでは、

・生産物の安全性
・環境への負荷
・生物多様性の観察と検証
・品質や収量、生産コストの検証
・資源等の循環研究

など理想とする稲作体系の実践的な研究が行われています。

いのち育む無農薬・有機稲作ポイント研修会

農薬や化学肥料を使用しない農業は、もともと多様な生物相が見られるいすみ市の生態系を維持し、それら生き物の持つ力を活用しながら行われます。そうした先進的な水稲無農薬栽培の技術研修会が、年5回開催されています。

いすみの有機米ブランド化プロジェクト

市内の学校給食に提供される有機栽培(特別栽培米)を、いすみ市の新たな特産品としてブランド化しようとプロジェクトが組まれました。販路の確保や理念の普及促進活動を展開、 合わせて平成27年に2,492件の公募案の中から、「いすみっこ」という名称が決定されました。

“いのちの循環”学習支援

「自然と共生した豊かないすみ市」の取組みは、食育、地域学習、環境教育のまさに活きた教材です。 学校などからの要望を受け、多様な生きものであふれる有機水田で子供たちが土とふれあい、循環の大切さを楽しく学んでいます。

学校以外でも、大人や子供の別なく楽しめる観察会を開催、都市部から農業体験を募ったり、田園や自然を舞台としたエコツーリズムも盛んに行われています。

(ライター 大石雅彦)

<参考リンク>

みんなのエシカル消費|エシカル消費特設サイト[消費者庁] (caa.go.jp)
自然と共生する里づくりの取り組み/いすみ市 (isumi.lg.jp)
いすみっこ  (isumikko.com)
いすみ市の有機農業推進について 千葉県いすみ市農林課主査 鮫田晋

 


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