コロナ禍で浸透したテイクアウト。飲食店に人を集めるのが難しい中、お店・利用者双方にメリットがある素晴らしいサービスですが、使い捨て容器が大きな問題になっています。
全国の都道府県県庁所在地で2019年・2020年の4月〜6月のごみの量を比較したところ、2020年度の「容器包装プラスチック類」は前年度から10.5%増加していました。この急激な増加には、テイクアウトの普及が大きく影響していると考えられます。
プラスチックごみは一部リサイクルされるとはいえ、リサイクルの過程でも温室効果ガスが発生します。
地球温暖化や海洋プラスチックごみの問題が深刻化する中、プラスチックごみの増加は早急に食い止めなければなりません。
この記事では、プラスチックごみを減らすヒントとして、環境先進国ドイツで広まっているリユース容器の2つのサービスをご紹介します。面倒なデポジットも無く容器を循環させている、非常に興味深いサービスもあります。日本でのリユース容器導入の参考にしていただければ幸いです。
まずは、プラスチックごみを減らさなければいけない理由を詳しく見ていきましょう。
プラスチックは、石油・廃プラスチック・植物を原料としたものに分けられます。ですが、2017年に日本国内で生産された樹脂(プラスチックを作るための原料)のうち、約92%が石油からできていました。廃プラスチックからできたものは約8%、植物由来のものは1%にも満たないという結果です。
石油資源は有限であるため、大量のプラスチックを生産しつづけることは資源の枯渇につながります。
プラスチックは製造・処分・リサイクルの過程で、地球温暖化の原因となる温室効果ガス(CO2)を大量に発生させています。プラスチックによる温室効果ガス排出量は、世界の排出量の4.5%を占めているのです。
地球温暖化による気候変動はすでに世界で発生しており、温室効果ガスの削減も急がなければなりません。
2050年には海のプラスチックの量が魚の重量を上回ると言われています。すでに海洋生物の体内からはプラスチックが発見されており、海の生態系への影響も懸念されています。
このように、プラスチックは地球環境への影響が非常に大きいのです。プラスチックはわたしたちの暮らしに欠かせないものですが、生産量・廃棄量を減らすための取り組みが早急に必要です。
環境問題に度々悩まされてきた歴史から、国民が地球環境への高い関心を持っているドイツ。環境保護に力を入れていない企業は消費者から悪いイメージを持たれ、投資家から資金を集められないこともあります。
政府も環境保護の為に法整備を進めており、2023年1月には容器包装廃棄物法を改正しました。持ち帰りの食料を販売する一定規模以上のレストラン・カフェなどは、持ち帰りの際にリユース容器を選択できるようにすることを義務付けています。
ここからは、ドイツで利用できるリユース容器のサービスについて詳しく見ていきましょう。
2017年に設立された、リユース容器を提供する「RECUP」。業界最大手と言われ、ドイツ全土で11,800以上の店舗に展開している上、近隣の国々でもサービスを提供しています。
利用者は、RECUP対応店舗で商品代金の他にデポジットを支払って商品を購入します。使い終わったら、RECUP対応店舗(購入店舗以外も可能)に返却すれば、デポジットが戻ってくる仕組みです。
RECUPが提供するリユース容器には飲料用のRECUPと食品用のREBOWLの2種類があります。それぞれの特徴は下記のとおりです。
・RECUP
使用可能回数:約1,000回、デポジット:1ユーロ
・REBOWL
使用可能回数:約200〜500回、デポジット:5ユーロ
RECUPは17回、REBOWLは11回使用すると、製造・洗浄で消費する資源が使い捨て容器製造よりも少なくなります。
RECUP・REBOWLはプラスチックでできています。「プラスチックの容器は環境負荷が大きいのでは?」と疑問に思われるかもしれませんが、ポリプロピレンのみで作られているため、寿命を迎えたものは100%リサイクルができます。リサイクルに必要なエネルギーも、ポリプロピレンはステンレスやセラミックと比べて低いのです。いずれも、人体に悪影響を及ぼす可能性のある化学物質「BPA」は含まれていませんので、安心して利用できます。
さらに、割れない素材でできており電子レンジも使えるので、店員も利用者も扱いやすい容器です。リユース容器を普及させるには、容器の利便性も重要になるでしょう。
2020年にサービスをスタートした「Relevo」は、デポジットなしでリユース容器を提供する仕組みを作りました。
サービス提供から2年あまりで2,000以上の店舗とパートナーシップを組んでおり、Relevoが多くの店舗から支持を得ていることが分かります。
Relevoはデポジットの代わりとして、QRコードとアプリを活用しています。対象店舗で商品を購入したら、容器に付いているQRコードを専用アプリで読み取り、14日以内にふたたびQRコードを読み込んで対象店舗で返却する形です。
レンタルは無料ですが、期間内に返却しなかった場合は5〜10ユーロが請求されます。返却忘れを防ぐため、Relevoアプリで返却期間を常に確認でき、返却期間を知らせてくれるアプリの通知もあります。
RelevoもRECUPと同様、耐久性・利便性が高いリユース容器です。約1,000回再利用ができ、使えなくなった容器は100%リサイクル可能です。
BPAが含まれていないため安心して利用できる上、電子レンジにも対応しています。
リユース容器を導入した店舗にもメリットがあります。2つのメリットをご説明します。
RECUPの料金は月額25〜45ユーロ。1日に12個以上のドリンクをRECUPで提供すれば、使い捨て容器より安価になります。
先ほどもお伝えしたように、ドイツは非常に環境意識の高い国です。環境保護を行っていないと収益が低下したり、投資家から資金を集められなかったりと、企業の経営に悪影響がある可能性もあります。
リユース容器を導入すれば、企業のイメージアップにつながるでしょう。
リユース容器を導入するデメリットもあります。2つのデメリットと対応方法をご紹介します。
リユース容器は各店舗で洗浄しなければなりません。使い捨ての容器と比べるとどうしても手間は増えてしまうでしょう。
ですが、RECUP・Relevoともに食洗機での洗浄が可能です。店内で提供するセラミック製のお皿などと一緒に洗浄できることで、洗浄の手間を最小限に抑えています。
その結果、どちらも多くの店舗で利用されるサービスに成長しています。
残念ながら、利用者が容器を返却しないケースもあります。これを防ぐため、RECUPではデポジットを導入し、Relevoは期限内に返却しなければ容器代を請求される仕組みになっています。
このようなペナルティは、どこの国であっても必要でしょう。
日本でも徐々にリユース容器のサービスが始まっています。
東京都の渋谷・丸の内・大崎エリアでテイクアウト容器のリユースの実験を行っている「Re&Go」。スターバックスコーヒー・ローソン・ナチュラルローソンなどの大手チェーン店が実証実験に参加しています。
LINEアプリを使って利用者登録をすれば、利用者は無料でリユース容器を利用できます(※)。容器を返却しなかった場合は容器代として2,000円請求されますが、洗わずに返却できるため、返却の手間もかかりません。
実証実験の期間中に利用者・参加店舗が増え、広い地域でサービスが広まることを期待したいですね。
※実証実験終了後は有料になる可能性もあります。
ドイツではRECUPだけでも11,800以上の店舗で導入されています。2023年1月の法改正によって持ち帰り容器にリユースの選択肢を提供する義務ができたことで、リユース容器の浸透はさらに加速するでしょう。
一方日本では、リユース容器の導入は限定的となっています。企業・消費者双方の努力によって、環境負荷の大きい使い捨てのプラスチックを一刻も早く減らさなければなりません
企業は環境に配慮したサービスを積極的に導入し、消費者はそのようなサービスを積極的に使うことが求められます。今回ご紹介したドイツの事例を参考に、あなたのお店や企業でもリユース容器の導入をぜひ検討してみてください!
(ライター:小森 さほ)
<参考資料>
・プラスチック製品の原料は?|一般社団法人 産業環境管理協会 資源・リサイクル促進センター
・プラスチック問題とは|横浜市
・カーボンニュートラルで環境にやさしいプラスチックを目指して(前編)|経済産業省 資源エネルギー庁
・環境科学:温室効果ガス排出モデルにプラスチックをどのように組み込むのか|nature asia
・マスクだけじゃない プラごみ問題とコロナ禍|読売新聞オンライン
・ドイツ企業が「環境対策」にカネをかけても、増収増益を維持できる理由|ダイヤモンド・オンライン
・ドイツのレストランなど 「リユース容器」の選択肢提示が義務に|Forbes JAPAN
・RECUP公式サイト
・リターナブルカップや容器が生活に入り込む ドイツの「ネオ・エコロジー」の取り組み|未来コトハジメ
・Relevo公式サイト
・テイクアウト容器のシェアリングサービス「Re&Go」の実証実験に参画|PR TIMES
・Re&Go公式サイト