SDGsのゴールである2030年が迫りくる昨今、環境問題や持続可能な社会の実現に関する関心が、ますます高まってきています。以前からボランティアとの親和性が高く、様々な活動が行われてきた学校においても、環境保全を意識した取り組みが従来にも増してなされるようになってきました。
この記事では、学校とボランティア機会の提供、特に環境の分野における児童・生徒、学生のボランティア活動について、考えていきたいと思います。
学校教育におけるボランティア活動の位置づけは、昭和22年の学校教育法に定められた「自主、自律及び協同の精神(中略)の発展に寄与する態度を養う」という規定に求めることができます。この法律は2001(平成13)年に社会教育法と共に改正され、地域や教育機関が連携して子どもたちの体験活動拡大を促進するための、法的根拠となっています。
また全国社会福祉協議会(全社協)では、1977年からボランティア協力校の指定事業「学童・生徒のボランティア活動普及事業」を実施、ここでは福祉教育の観点からのボランティア活動の重要性が問いかけられました。
これらの方針を集約するかたちで、1998年学習指導要領が改訂され「総合的な学習の時間」が学校カリキュラムとして始まりました。その一環として「福祉」分野が大きな柱のひとつになり、授業に取り入れられることとなったのです。
さらに2002年、環境問題の深刻化が懸念されるようになるとESD(持続発展教育)という日本発の新たな教育理念が提唱され、2004年には環境教育推進法が施行されて、教育現場での環境教育が本格的にスタートしました。
<参考資料・記事>
・学校教育法 | e-Gov法令検索
・群馬県社会福祉協議会 「学童・生徒のボランティア活動普及事業
・持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development):文部科学省 (mext.go.jp)
以上のような背景から、学校におけるボランティア活動では「自主・協働精神の涵養」「社会福祉教育」「環境教育」さらには昨今の「SDGs」が深く関係しあっており、理念成立の当初に比してさらに多面的な展開が期待されるようになっています。そしてその一方で、現場では新たな課題も生まれました。
例えば順天堂大学スポーツ健康科学研究科が平成20年に行った千葉県福祉教育協力校へのアンケート調査では、
・単なる奉仕活動や単発のイベント,交流事業などで終わっている
・現状や課題を明確にするための調査等は行われていない
・福祉教育が必ずしも本当の理解や活動への動機付けにつながっていない
などが福祉教育における課題として提示されています。
また日本教育新聞では、2019年8月の記事で「学習課題が広範囲なのにもかかわらず、教科ごとにまとまっていて教科間の連携が少ない(同記事より抜粋)」と指摘。重要性の高まりとともに多種多様に拡がりを見せる環境教育に対して、幼小中高の各教育段階に応じた体験の設計と、学校単体で実施するのではなく地域や家庭との連携を強化することが重要だと指摘しました。
名寄市立大学社会保健福祉学部福祉学科が2017年に発表した論文では、本来学校における福祉教育とボランティア活動は切り分けて実施することが望ましいにもかかわらず、現状しばしば混在されるという報告が出されました。ボランティア活動が福祉教育の中心と位置づけられてしまうことに対し、意図が変容しているのではないか、という問題提起です。
環境活動家の田中優氏は、児童や生徒のボランティアへの参加を学校側が半ば強制的に促すことは、子どもたちの自主性を阻害する危険性を含む、と警鐘を鳴らしています。
せっかく自主性を育て、社会への参加と貢献の機会を付与するボランティアが、ただ大人の指示に従うだけのものであったり、振り返りがないまま単なる恒例行事と化してしまうのは、あまりにもったいないことではないでしょうか。
<参考資料・記事>
・順天堂スポーツ健康科学研究「学校と地域が連携した福祉教育推進の現状と課題に関する一考察」
・日本教育新聞「環境教育の重要性とは 未来を託す子どもたちに何を教えるべきなのか」
・名寄市立大学社会福祉学科研究紀要 「学校における福祉教育とボランティア活動の混在化 関する一考察:学校と社会福祉協議会で支える福祉教育」
・学生ボランティアの「正しいススメ」 | 公益財団法人私立大学退職金財団 (shidai-tai.or.jp)
多くの学校では1998年の新指導要領に基づく「総合的な学習の時間」、および2002年のESDの枠組みをベースとして、環境ボランティア活動をカリキュラムに組み込んでいます。それにより集団学習としてすべての子どもにボランティア体験の機会が均等に与えられ、児童・生徒の意識が社会に向かうきっかけとなっていることは間違いありません。
ただ前述したように本来的には自主自発が前提であるはずのボランティア活動が、他の学校行事と同一視されてしまい、学習単位の取得と評価にも反映される仕組みがとられていることについては、賛否両論が存在します。
現場では多忙な業務のなか、どうすれば子どもたちに望ましいボランティアの機会が用意できるのか、試行錯誤を繰り返しながら模索している様子がうかがえます。
望ましいのは「現状における課題」の章で紹介したように、「自主・協働精神の涵養」や「社会福祉教育」「環境教育」「SDGs」など複数の目的を混在させず、それぞれ切り分けて取り組むことではないでしょうか。
そして、ボランティアというもともとの考え方からすれば、子どもたち自身が自主的に活動できる環境を整えることが大切だと考えられます。
ひとつの方法論として「コミュニティスクール(学校運営協議会)」の活用があげられるのではないでしょうか。コミュニティスクールは、「地域とともにある学校づくり」を進める法律(地教行法第47条の5)に基づき、教育委員会が学校や地域社会、家庭などの実情に応じて設置するものです。
千葉県浦安市では「東京湾の生き物のゆりかご」と呼ばれる三番瀬干潟を保全するため、民間主導で定期的にクリーンアップ活動を行っています。この活動には市内の小中高に在籍する多数の児童・生徒が参画し、ゴミ拾いと共に野鳥や海棲生物の観察、環境保全学習などのボランティアを体験しています。
【事例紹介】
・大作戦報告 – 浦安三番瀬を大切にする会 (ciao.jp)
・【社会貢献】浦安三番瀬クリーンアップ大作戦 – 千葉県立浦安高等学校 (chiba-c.ed.jp)
・ボランティア活動 – 千葉県立浦安高等学校 (chiba-c.ed.jp)
県立浦安高校の場合も、学校側が主体者にならずにあくまで生徒の社会貢献活動に対して「支援を行う」というスタンスで取り組まれました。個人でもサークル単位でも、基本的に参加は自由意志に基づきます。
<参考資料・記事>
・コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度):文部科学省 (mext.go.jp)
環境系のボランティアというと、浦安市の事例のようにクリーンアップ、清掃活動がすぐに思い浮かびます。このほか、ジャンルとしては
といったさまざまな切り口が考えられます。そのボランティア活動の主たる目的はどれか、事前学習や成果感を認識させるためにも、子どもたちに示す際には明確にしておくとよいでしょう。
また、学校行事・カリキュラムの一環として実施する場合と、個人での活動を支援する場合、クラブやサークル活動としての活動を後押しする場合など、違いをはっきりさせておくことも大切です。
そして単位評価とは別の文脈で、日々続けるボランティアの意義を実感させ、達成感を体験させることもまた重要です。
「公益財団法人 風に立つライオン基金」では2016年より毎年、全国の高校に所属する団体と個人を対象に交流・発表の場として「高校生ボランティア・アワード」を主催しています。
コロナ禍により昨年・一昨年はオンライン開催でしたが、2022年は3年ぶりの会場開催が予定されています。募集期間は2022年3月1日(火)〜6月12日(日)、高校関係者は普段地道な活動を行っている生徒にぜひ告知してみてはいかがでしょうか。
環境保全はボランティアの中でも大きなテーマでありながら、地域と密接に結びつく学習体験の機会を提供するものです。効果的に活用し、また教員側の負担を軽減するためにも
・まず教える側が歴史や事例、地域のニーズや課題などをよく把握しておく
・コミュニティスクールや行政、市民団体など学外協力機関と連携する
・学内に何らかのかたちで情報センター的な機能を設ける
・参加者には事前学習を促し、経過を見守ると共に達成感を体験させる
・自分で考え、動く態度を奨励・支援し、やみくもに評価に結びつけない
など、学校ごとでのガイドラインを作成しておくことをお勧めします。
最後に、地域の特色を生かした環境ボランティア体験の実例として、徳島県阿南市立椿町中学校の取り組みをご紹介します。
四国最東端に位置する阿南市は、毎年6月から8月にかけてウミガメが産卵にやってくることで知られています。市では環境学習と地域活性化の両面でウミガメの保護観察活動を実施しています。以前この活動に取り組んでいた蒲生田小学校が生徒数減少のため1992年に休校、活動存続が危ぶまれましたが阿南市立椿町中学校に引き継がれ現在に至っています。
同中学では学校公式のカリキュラムにこの活動を取り入れており、年間70時間の「総合的な学習の時間」に加えて理科2時間、国語2時間、社会2時間、美術2時間の計78時間を取得単位として設定しました。
外部の指導者を積極的に招き、地元の観察者や研究者、卒業生、漁師、姫路水族館など多方面の協力を得て成果を上げています。
文部科学省の資料では、この活動について「地域の特性を生かして,子どもが自ら問題を意識し,その解決へ向けて計画を立て,行動化していく自然体験活動という特徴を持つ。広い意味での環境保護活動を通して子どもが自ら学び,自ら考えていく力を育む取組といえる(同資料より抜粋)」と結んでいます。
<参考資料・記事>
・ボランティアアワードとは | 高校生ボランティア・アワード (lion.or.jp)
・徳島県阿南市立椿町中学校「ウミガメの保護観察活動を通して命や環境問題について学ぼう」
(ライター:大石雅彦)