コラムエコスクール

修学旅行が変えていく?レスポンシブルトラベルという新しい旅行概念

2022.02.26

レスポンシブルトラベル、あるいはレスポンシブルツーリズムという言葉を聞いたことがあるでしょうか。

レスポンシブル(responsible)とは「責任ある」という意味で、「旅行者にも旅する者としての責任がある」ことを再確認させてくれる、比較的新しい概念です。

2020年初頭から始まったCOVID-19感染拡大の影響を受けて、学校にとって大きな行事である遠足や集団合宿、修学旅行が対応を余儀なくされています。レスポンシブルトラベルという考え方は、これまでの学校旅行のあり方を変える、新たな旅行体験の可能性を秘めるものです。アフターコロナの現在から2030年のSDGsゴールに向けて、今後ますます注目度が上がっていくものとなるでしょう。この記事ではそのレスポンシブルトラベルと、学校の旅行行事について考えてみることにします。

きっかけはハワイ州の取り組みから

レスポンシブルな旅行という考え方が普及し始めたのは、米ハワイ州観光局の取り組みがきっかけでした。

ハワイにはもともと「正しく、調和のとれた状態」を表す現地の言葉「Pono(ポノ)」という概念がありました。観光客の行動によって現地の環境が乱されたり、そこに住む人々との間でトラブルが起きたりすれば、正しいポノの状態が崩されます。そこで観光者と現地の人々が本来あるべき望ましい関係性を築けるよう、ポノの考え方に基づいて過度の商業化を抑制したり、自然や文化を保護するガイドラインを設定しました。それがハワイ州観光局のレスポンシブルツーリズムにおける「5つのアクション」です。

01.海洋動物に出会っても、むやみに近づかない
02.有害成分の入った日焼け止めの使用禁止
03.森林を訪れるときは靴裏の泥を落とす
04.進入禁止エリアに侵入しない
05.エコバッグやマイボトル、マイストローなどを持参

※ハワイ州観光局公式ポータルサイト より抜粋

観光地やリゾートに多くの人々が訪れることで経済的な効果が生まれる反面、地元の日常生活を脅かしたり、環境に悪影響が出るなどデメリットも生じます。このハワイ州の取り組みは、観光に伴うそうしたマイナスの側面を最小限に抑え、地元の歴史・文化や地域社会に敬意を払うツアーの在り方を、私たちに示してくれました。

日本でも、外国人観光客の増加を狙ったインバウンド需要の弊害が、一時期話題となりました。コロナ禍により今では落ち着きを取り戻しているものの、例えば京都では「観光公害」とまで称される事態が起こっていたことも、記憶に新しいところです。メディアでは私有地への無断立ち入りや無断撮影、混雑が増した交通機関など、さまざまな弊害が報道されました。

原因は旅行客のマナーの問題だけでなく、地域生活を維持するうえでの適正なキャパシティを超えた「オーバーツーリズム」にあります。ハワイや京都の事例から、今後旅行の対象となる地域において、質と量の両面をコントロールしていく動きが強まるのではないか、と予想されます。

<参考資料・記事>
ハワイ州観光局公式ポータルサイト
観光公害の現状と対策 ― 京都で何が起こっているのか | 公務員総研

学校とレスポンシブルトラベルの現状

千葉県のJR銚子駅前に、ある石碑が立っています。「日本初の修学旅行到達の地」と書かれたそれは、1886(明治19)年に東京師範学校の生徒99名が、長途遠足の目的地として当地に訪れたことを示すものです。銚子訪問の目的は、11泊12日の日程の仕上げとして浜に出て、操網法や海藻の乾燥などの実習を行うためでした。

戦後、我が国の修学旅行は実地学習という目的を超え、京都や奈良、広島、沖縄などといった歴史・文化上重要な意味を持つ場所を訪れるケースが主流となりました。こうした地域は有名な観光地でもあり、集団行動における規律の遵守や、ゴミの持ち帰りなどは以前から強く指導されてきました。生徒自身が旅行先の行動プランを立てる試みも古くからおこなわれており、改めて修学旅行などで「旅行者としての責任ある行動」を考えるのは、意外に難しいものです。

福井県あわら市では、ひとつの考え方として「SDGs」を修学旅行に取り入れる仕組みづくりを推進しています。森林が多くバイオマス事業を推進する同市では、これまで企業や自治体を対象としていたこれら施設への視察を生徒・学生に拡大、地域の特色を生かした学びの場として提供しました。また、事前に学習したカーボンオフセットの知識を踏まえたうえで、旅行の移動手段にこれを取り入れる「カーボンオフセット・CO2ゼロ修学旅行」なども、旅行企画各社から提案がなされています。

SDGsは、修学旅行の新たな潮流として確かにひとつの切り口ではあります。

しかし「持続可能性を考える」ことは現代に生きる我々すべての責任であり、「旅行者としての責任」を考えるレスポンシブルトラベルとはフォーカスの方向が若干異なります。CO2ゼロ旅行のパッケージも、実際は移動手段に「非化石証書」を活用する仕組みに過ぎず、それを殊更に掲げて脱炭素社会の免罪符としてしまうのは、あまり意味がありません。

政府もまたSDGs達成の一環として観光庁で取り組みを始めましたが、まだ十分な指針にはなりえていない様子です。

「旅行するものの責任」という観点からは「感染症の拡大防止」に留意することが今は重視されていますが、集団行動では基本的に意識しなければならない基準であり、必ずしも修学旅行などの学校行事に限ったこととは言えません。

<参考資料・記事>
日本一・日本初の銚子 | 銚子市観光協会
・福井県あわら市の取り組み事例あわらは修学旅行プラン充実(1) 「バイオマス」でSDGs学習 | トラベルニュースat今すぐにでも出たくなる旅 
修学旅行でSDGsを学び、カーボンオフセットを実現「CO2ゼロ旅行プログラム」発売開始|JTBグループサイト 
修学旅行用SDGsマップ「沖縄」発売へ│Future Earth〜ミライの地球を考える〜
観光庁に「持続可能な観光推進本部」を設置しました | 2018年 | トピックス | 報道・会見 | 観光庁
コロナに感染しない、させないために…すべての旅行者への御願い|トラベルズー | トラベルズー

学校とレスポンシブルトラベルの可能性

我が国におけるレスポンシブルトラベル、レスポンシブルツーリズムはまだ始まったばかりで、遠足や修学旅行へこの概念を効果あるものとして取り入れるには、実際のところまだ事例が不足しているのです。

コロナ対策も含めて学校旅行という分野で、今後どのような可能性が望めるのかについては、常識にとらわれない現場からの発想、チャレンジが求められます。

一般社団法人NEXT TOURISMでは「観光甲子園」という取り組みを行いました。高校生を対象に「自分の町を舞台にした、SDGsを体験する修学旅行プラン企画」を動画にして競うというコンテストで、ここにひとつの可能性が見出せます。

学校の仲間と集団で別の地域に移動し、連泊して非日常的な体験を得るというのが一般的な修学旅行です。このフレームを拡大し、そこにあるものを鑑賞しに行く受動的な態度ではなく、その場で何かを主体的に行うスタイルの修学旅行があってよいのではないでしょうか。

通常の場合も事前に学習とリサーチを行い、現地で体験して終了後にそれを振り返るプロセスが採られますが、これを適用して「期間中に何かのプロジェクトを遂行する」のも面白いと思います。例えば観光甲子園のように修学旅行に相当する数日間で動画や映画を一本撮る、社会的・経済的な地域の課題を調査しその解決策をプレゼンテーションするなど、生徒自身で話し合うことを通じて、さまざまなアイディアの創出が期待されます。

コロナ禍以降、実際に現地に移動せずにVR技術を活用したバーチャル修学旅行の事例がありましたが、こちらも活用の可能性が広がるものです。

レスポンシブルトラベルはまだ始まったばかり、生まれたばかりの概念です。これを発展させ、より効果のあるものにしていくために、教育の最前線である学校は大きく貢献するポテンシャルを持っています。そして政府や教育行政、民間事業者には多くの事例を収集・蓄積し、研究を進めることを期待したいところです。

<参考資料・記事>
観光甲子園のコンテスト解説 – 2020
これからの修学旅行のキーワードは「オンライン」と「地域活性」にある – オンラインスタディツアー

(ライター:大石雅彦)


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