コラムエコスクール再生エネルギー

学校現場から考える再生可能エネルギー発電と環境教育

2022.03.07

再生可能エネルギーにはさまざまな種類があります。代表的なものとしては太陽光、風力、水力(小水力)、地熱、バイオマスなどで、国や自治体の政策的な後押しもあり、その発電量は年々増加しています。

この記事では、そうした再生可能エネルギーを活用した発電設備を学校内に設置するメリットや、具体的な事例について紹介してまいります。

<参考資料・記事>
再生可能エネルギーとは?を分かりやすく!企業の導入事例も紹介! | Operation Green
学校での再生可能エネルギー導入の状況は?子供と環境のための学校づくり事例! | Operation Green

 

伸長する学校の再生可能エネルギー設備

文部科学省では例年、公立学校施設における再生可能エネルギー設備等の、設置状況に関する調査を行っています。2021(令和3)年8月に発表された現時点での最新調査結果によると、全国の小中学校に設置された再生可能エネルギー設備の数は10,629件にのぼっており、調査が始まった2009(平成21)年度と比較するとおよそ5.8倍に増加しました。

設備の内訳は太陽光発電、風力発電、太陽光利用、その他(バイオマス熱利用、地中熱利用、燃料電池、雪氷熱利用、小水力発電の合計)となっており、このうち太陽光発電設備が調査年・学校種別を問わず、最も多く設置されています。

(原図出典:文部科学省)

(原図出典:文部科学省)

<参考資料・記事>
・文部科学省 2018(平成30)年再生可能エネルギー設備等の設置状況に関する調査結果
・文部科学省 2021(令和3)年再生可能エネルギー設備等の設置状況に関する調査結果(概要)

校内発電の主流は太陽光

太陽光発電が主流となった背景には、調査が開始されたのと同じ平成21年より進められた「環境を考慮した学校施設の整備推進(エコスクール)」構想に基づく、学校への太陽光発電推進の政策が大きく影響しています。文科省は各省庁と連携して補助金をはじめとする各種制度を整備、学校施設への太陽光発電導入を支援・推進しました。

風力や水力による発電を行うためには、それに応じた環境資源が必要となりますが、太陽光発電のエネルギー源である太陽光はどこからも得られます。採光のためのパネルを設置する場所が確保できればどの地域でも理論上設置が可能なので、他の方法より導入の障壁が低いのも、増加の一因となりました。

太陽光発電はいまや学校だけでなく自治体や公共機関、一般家庭と幅広く普及しています。学校の場合はエネルギー源としての活用に加え、環境学習の身近な教材として観察や体感ができることもメリットと言えるでしょう。文科省の資料では設置スペースの大小や予算などに応じて、屋上設置型、勾配屋根設置型、壁設置型、ひさし型、ルーバー型と敷設のタイプを事例で紹介しています。

横浜市の事例では、学校側が設備建設にかかわる初期費用や維持管理コストを負担せず、エネルギー会社と提携して校内に発電システムを設置し、発電した電気を購入する仕組みが行われています。蓄電池を活用した災害時の対応や、学校が長期休暇中には周辺公共施設への再供給も想定するなど、自治体と連携した取り組みで活用の可能性を広げました。

<参考資料・記事>
文部科学省 学校施設への太陽光発電導入の推進
文部科学省 学校への太陽光発電導入ガイドブック
文部科学省 学校内における多様な設置場所の事例
「小中学校の屋上に太陽光パネル設置 校内には蓄電池も」(神奈川・横浜:朝日新聞デジタル )

小水力発電の事例

小水力発電とは、ダムのように河川の水を貯めることなく、水の落差と流量を利用して発電する仕組みです。法的に統一された明確な基準があるわけではなく、一般には発電出力が1,000~10,000kw程度のものをそのように称しています。

富山県の市立砺波東部小学校には、ビオトープに設置した「らせん水車」を活用した小水力発電設備があります。2015(平成27)年9月より稼働したこの設備の出力規模は1日当たり230W、全国でも珍しいケースです。
実はらせん水車は大正時代に同市の出身者が考案したもので、北日本新聞によれば95年ぶりに校区内に設置されたとのこと。産学官協働の実証実験として学習と実用の両面に活用されているそうです。

<参考資料・記事>
環境省 小水力発電情報サイト「小水力発電とは」
全国小水力利用推進協議会「水力発電とは」
「砺波東部小で水力発電 らせん水車発祥校区で復活」(北日本新聞)

 

小型風力発電の事例

風力発電というと、海沿いや山など風が強い場所で回転翼を回している、巨大な風車のイメージが強いものです。しかし風力を用いた発電も小水力と同様に、一般の建物や住宅街にも設置できる小型のタイプが存在します。小型風力発電は、発電量こそ多くありませんが比較的導入が簡単で、騒音が小さく設置スペースも少なく済むため、推進に期待がかかっています。

東京都中央区の区立城東小学校では、2010(平成22)年に小風力発電を導入しました。都内の建設会社が寄贈した、長さ1mのブレード4枚からなる発電設備を用いて200Wを出力、LED照明の点灯に活用されます。自然が少ないと思われがちな東京駅の目の前でも、再生可能エネルギー利用ができることを学習する狙いがあるとのことです。

小型風力発電はFIT制度(電力の固定価格買取制度)のもと、高価格で電力会社に販売されていました。これは小型風力発電が再生可能エネルギーとして期待されていたためですが、その後の議論により2018(平成30)年に大型風力発電との区分が撤廃され、大幅に買取価格が下げられました。

このことから小型風力発電設備は全体として減少傾向にあるのですが、学校の場合は目的が売電ではなく教育学習であり、また地域の照明や災害時の非常用電源としても活用できる点から、現在も継続して設置されています。

最近では風力と太陽光を組み合わせたハイブリッド型の発電設備も登場しており、小スペースで設置できるため校内の電光掲示板や実験設備などに活用されています。

<参考資料・記事>
小型風力発電について – JREPO
・「都内の建設会社が寄贈 東京駅前の小学校に風力発電」(TOKYO MX)
シンフォニアテクノロジー:納入例:学校:小形風力発電装置:再生可能エネルギー

学校内発電をめぐる新しい試み

冒頭で紹介したように、学校における発電設備は年を追うごとに拡充しています。子どもたちが再生可能エネルギーによる発電を身近に体感できる学習効果だけでなく、CO2排出量の削減や非常時の電源確保など、こうした動きは地域社会にとっても望ましいものです。

さらに学校と自治体や事業者が手を組むことで、最近では新しいアイディアも生まれてくるようになりました。

大阪府高槻市では、母校で発電した電気を購入して母校を応援する「学校応援でんき」という取り組みを行っています。利用者が支払った購入代金から応援金が高槻市に渡され、環境基金として電力供給校へ還元される仕組みです。各学校はこれを資金に施設の改修などを行えるため、地域と一体化した再生可能エネルギー普及のアイデアとして注目されました。

神奈川県横浜市では、複数の学校の設備を活用した「仮想発電所(VPP:バーチャルパワープラント)」を推進しています。資源エネルギー庁によれば、VPPとは発電量や蓄電量の小さな各地の発電所・発電設備をとりまとめ、あたかもひとつの発電所であるかのように制御して、電力の需要バランスに対応する考え方です。2015(平成27)年の政府による「日本再興戦略」閣議決定と、翌2016(平成28)年の経済産業省「エネルギー革新戦略」でそのフレームが示されました。

横浜市の場合も国の補助金事業を活用し、かねてからCO2削減などの先進事例に取り組んできた市内の「環境モデルゾーン」に位置する、港北区の11小学校で導入されました。既に太陽光発電設備を校内に備えている7校を含む各学校に、東京電力エナジーパートナーが蓄電池を提供。2024(令和6)年12月までVPPとして稼働させる予定となっています。

横浜市では防災拠点などを中心にこのVPPを展開し、災害や停電などの非常時には防災行政無線や、避難者リストを作成・管理するパソコン用の電源として想定するなど「横浜型VPP」を進めていく方針です。

<参考資料・記事>
NTTスマイルエナジー 日本初”母校を応援する電力サービス”「学校応援でんき」、みんな電力より提供開始 
資源エネルギー庁 これからは発電所もバーチャルになる!?|広報特集|
「大豆戸・菊名・篠原西・篠原の4小学校に“仮想発電所”、エコ化や非常時に活用 」 新横浜新聞(しんよこ新聞)

 

最後にひとつ、興味深い取り組みをご紹介しましょう。学校として進められた事例ではありませんが、山形県立酒田東高校2年の生徒3名による「葉っぱ発電」の研究です。

同校理数探究科の3名が課題研究として「葉緑素を用いた色素増感電池」の研究を始めたのは、2019(令和1)年のことでした。担当教諭から「植物で発電ができるかも」という情報を得た3人は必要な器具や薬品の購入費をクラウドファンディングで募り、自分たち主導でこの前例のない研究を進めることに成功しました。

研究は彼らの進級・卒業をもって終了しましたが、再生可能エネルギー発電の可能性と学校における環境教育の親和性は、非常に高いものがあります。再生可能エネルギーが稼働する様子を学校の現場で実体験し、その意義を理解することで社会の発展や技術革新への興味関心を高められれば、未来を担う子どもたちの可能性を大きく伸ばすことができます。より望ましい持続可能な社会の実現に向けて、学校における発電と環境教育のさらなる充実化を、今後も期待したいと考えます。

(ライター:大石雅彦)


<参考資料・記事>
葉っぱから電気!高校生が身近な植物を使った発電実験に挑戦!(佐藤 伶 2019/10/15 公開) – クラウドファンディング READYFOR


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