「子どもたちの給食の食べ残しが気になる…」
「給食と食育を繋ぐ取り組みはないだろうか?」
と考えている先生方は多いかと思います。食品ロスはSDGsの目標のひとつにも取り上げられており、日本でも学校給食における食品ロスの現状は深刻と言われています。
食べ残しの削減を目的とした食育・環境教育の取組を行っている市区町村は多くあり、食べ残しの削減に繋がった事例も多くあります。
そこで今回は、
・学校給食から発生する食品ロスの状況
・学校で食育に取り組む意義
・どうして食べ残しが出るのか
・給食の食べ残しに関する取組事例の紹介
について、紹介します。子どもたちへの食育に取り組み、給食の食べ残しを減らしたいと考えている方は、ぜひ最後まで読んでみてくださいね。
はじめに、給食の食べ残しの現状を紹介します。
環境省は、学校給食から発生する食品ロス削減や食品廃棄物リサイクルの取組状況などを把握するため、全国の市区町村を対象としたアンケートを行いました。調査の結果、児童・生徒1人当たりの年間の食品廃棄物の発生量は、推計で約17.2kgであることが分かりました。(図1)
食品廃棄物の種類別に見ると、食べ残しが7.1kg (約41%)と最も多く、次いで調理残さが5.6kg (約33%)となっています。
それでは、なぜ学校で食育に取り組む必要があるのか、その意義を確認していきましょう。
食品廃棄物・食品ロスの削減は、「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標の一つです。SDGsの目標に、「 つくる責任 つかう責任」 という項目があります。この目標には11項目の具体的なターゲットが設定されており、その3番目が以下です。
「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる」
また、令和元年10月には食品ロスの削減の推進に関する法律が施行され、 地方公共団体が食品ロス削減の施策の策定や実施の責務を有することが定められました。
さらに、学校給食調理施設も、食品廃棄物・食品ロスが発生している施設のひとつです。 国が定めている「食品リサイクル法基本方針」において、学校給食調理施設は、食品関連事業者の取組に準じて食品循環資源の再利用等を促進すべき施設と位置付けられています。
世界の貧困地域で飢餓が発生している一方で、先進国では食べられる食品が大量に廃棄されているという現状を解消するために、私たちも食品ロスを自分ごとと捉えて行動する必要があるのです。
給食の食べ残しが発生する理由としては、主に以下の3つが考えられます。
・給食に嫌いなものがあるから
・給食の喫食時間が短いため
・給食の量が多いから
環境省の事業の報告会「食べ残し削減と子どもの食育」によると、子どもたちが苦手な食べ物を食べられるようになるには、2つポイントがあるそうです。
1つ目は自信を高めることです。どんな小さなことでもいいから成功体験を持つことが大切で、苦手なものが1回食べられたというのも小さな成功体験になります。
2つ目は、重要性を高めること。残さずに食べると自分にとって「いいこと」がある、と知ることです。たとえば、体が大きくなる、風邪をひかなくなる、作ってくれた人が喜ぶ、などを子どもたちが理解することが大事だといえます。
また、喫食時間については、残菜率が高いクラスほど喫食時間が短い傾向にあるそうです。多くの学校では、給食が終わってから休み時間を取っているため、給食もそこそこに遊びに行ってしまう生徒が多くなりますよね。米国の研究結果によれば、休み時間を給食の前に持ってきたところ、残菜量が減ったという結果も出ているそうです。
このように給食の食べ残しの発生原因に対して、具体的な対応策を実践していくことが重要です。
ここでは、子どもたちの食への意識を高め、給食の食べ残しを減らすために実践されている取り組みを3つご紹介します。
山梨県甲府市では、給食の食べ残しの削減や堆肥化、肥料化による資源の有効活用などを目標に、甲府市環境部、甲府市教育委員会が主体となって、市立小学校や登録再生利用事業者などと連携した取り組みを行なっています。
主な取り組み内容は以下のとおりです。
【食べ残しの削減(リデュース)】
・給食支援員による残食量調査
・残食を減らすことの呼びかけ
【食品残渣の有効活用(リサイクル)】
・登録再生利用事業者への持ち込みによる堆肥化
・しんぶんコンポストキットを使った堆肥化体験
・学校敷地内に設置した生ごみ処理機による液肥化
【啓発活動(食品ロスを知る)】
・イベントの開催(「学んで・減らそう!食品ロス」、「親子料理教室」)
・食品ロス問題啓発教材の作成、配付
ごみ減量に関する啓発を行うため減量課職員で構成された「ごみ減らし隊」が出前講座やエコ工作教室を実施。また、野菜をハートや花型に調理する工夫など給食支援員のアイデアで、食べ残しが多かった学校の食べ残し量が最大65%程度削減されるなどの効果が現れています。
また、平成25年度より市民に無料配布している、レジかごや新聞紙を容器とした堆肥化装置を用いてごみ減らし隊が小学校で堆肥化を生徒に指導。堆肥化に協力してくれた児童を、「ごみへらし隊」の隊員に任命するなどの啓発活動も積極的に行っています。
2017年9月時点では給食の食べ残しが捨てられていることを「知らなかった」 児童は24%でしたが、取組が定着した 2018年1月時点では6%にまで減少し、 ほとんどの児童が食べ残しの廃棄を認識することにも繋がっている取り組みです。
静岡県藤枝市では、さまざまな教材を用いた食育授業が展開されています。
・動画の活用…給食を作る様子や、生産者・栄養教諭の思いを描いた動画教材を鑑賞後、「わかったこと」と「これからどうしたらいいか」について発表。
・クリアファイルの活用…食品ロスを学べる「クリアファイル」を、市内小学校5年生と中学校1年生に配布。
・「食べきりマット」の活用…給食時の栄養指導や食育に使えるツールとして、ナフキンの代わりに給食時に使える「食べきりマット」を作成し、給食指導を実施。
・「いただきました!チャレンジ」シート…食品ロス削減のために自分ができることを「めあて」として考え、1週間日記形式で記入しチャレンジするシートを作成。チャレンジシートに保護者のコメントを記入する欄を作成し、冷蔵庫用マグネットを配布して家庭での取り組みを行った。
他にも、藤枝市独自の取り組みとして、ABCクッキングスタジオと連携し、「家庭でもできる学校給食新メニュー」を開発し、レシピを公表したり、サツマイモ収穫体験や味噌作りなどを行っています。
数々の取り組みの結果、モデル校2校ともに、事業の実施前に比べ残食率が減少し、 低い数値となりました。 また、モデル校全児童に実施したアンケートでは、給食を「よく残す」と答えた児童が7.4%減少。学校から家庭まで、日常的な食べ残しに関する意識醸成の成果が出ている取り組みです。
北海道音更町では、町独自の取組として、JAおとふけの施設で給食残渣の液肥化を行いながら多様な取組を実施しています。
主な取り組みは以下の通りです。
・給食の調理残渣や食べ残しを、JAおとふけのバイオガスプラントに提供し、液肥や発電に活用するというリサイクルを実施。
・給食残渣由来の液肥を用いて小学校2・3年生が、トウモロコシやニンジンなどの農産物を栽培する授業を行ない、野菜を給食で試食。
・食べ物の大切さや食品リサイクルの全 体像等を伝える動画・マグネットを作成し、栄養教諭が座学を実施。
その結果、授業を行った3年生では、残食量が5.7kg/日から4.7kg/日へと減少。保護者からも、子どもが料理に対しても興味を持ち、手伝ってくれるようになったなど、子供たちの食への意識の変化が感じられる取り組みです。
今回は、給食での食育への取り組みについて紹介しました。給食の食べ残しを減らす意義や、給食の食べ残しに繋がる原因は確認できたでしょうか?
自治体やJAなどの協同組合、家庭と連携して子どもたちの食育に取り組んでいる学校が日本にも多くあります。
・日頃の給食指導で実践できることを見つけ実践する
・自治体や家庭と連携した取り組みを考えてみる
など、それぞれの現場から給食の食べ残し取り組みへの活動を始めてみましょう。
(ライター:上崎有紀)
<参考記事>
・環境省 学校給食から発生する食品ロス等の状況に関する調査結果について
・千葉商科大学 SDGs達成のため、「食品ロス」を減らそう、なくそう
・甲府市環境部・甲府市教育委員会「平成29年度学校給食の実施に伴い発生する廃棄物の3R促進モデル事業」
・環境省 「学校給食の実施に伴い発生する廃棄物の3R促進モデル事業 事例集」
・「もったいない気持ちを高めても食べ残しは減らない」学校給食で子どもが苦手な食べ物を無理なく食べる秘訣