コラムCO2削減

モーダルシフトとは? サステナブルな物流で脱炭素!

2023.10.11

自家用車、バス、トラック、電車、船、飛行機…と、人やモノを運ぶにはさまざまな手段があります。
しかしCO2排出量は、運ぶ人やモノの量と距離が同じだとしても、それぞれ大きな差があります。

国土交通署の2021年度統計によると、日本のCO2排出量(10億6,400万トン)のうち、運輸部門からの排出量(1億8,500万トン)は17.4%をも占めています。また、自動車全体では運輸部門の86.8%、なかでも貨物自動車が運輸部門の39.8%を排出しています。

CO2削減かつカーボンニュートラル社会実現のために、より環境負荷の少ないものへ移動・輸送手段を変更する動き、サステナブル・モビリティに関心が高まっています。

さらに、近年世界で注目され進んでいる「モーダルシフト」とはどのような取り組みなのか、どんな企業事例があるのか、サステナブル・モビリティを踏まえてご紹介します。

求められるサステナブル・モビリティ

数多くの気候変動への報道や、政府が発表した2050年に向けたカーボンニュートラル実現に向けて、グローバルな企業はいち早くサステナブルな物流・輸送に転換していく戦略を掲げ、動き出しています。具体的には、物流ルートの最適化や、企業内でのエコドライブ向上によるCO2排出削減、またEV(電気自動車)シフト促進など、様々な形で脱炭素の取り組みへ貢献しています。

さらに近年、顧客や投資家など企業のステークホルダーの多くは気候危機対策に積極的に参加する企業を望む傾向が強くあります。さらに、サステナビリティへの活動を事業に盛り込む企業は、最近関心が高まっているESG投資ファンドの組み入れ対象になっています。

物流や輸送に関わりが少ない企業でも、社内移動や出張の際に飛行機よりも鉄道を選ぶ、出張や遠征会議をリモートワークに置き換えるなど、さまざまな方法で応えることができます。

また、温室効果ガスをオフセットするプログラム(カーボン・オフセット)を通じ、経済発展のために排出したCO2を補填することも可能です。

モーダルシフトでCO2削減に貢献

物流や輸送分野のCO2排出を大幅に削減できる策として、モーダルシフトが大きな期待を集めています。

しかし統計データによると、依然として物流手段の主軸はトラック輸送です。モーダルシフトの意味やメリットについてご説明します。

モーダルシフトとは?

現在の輸送手段として、トラック輸送、船舶輸送、鉄道輸送、航空輸送、バイクや自転車輸送が一般的です。

モーダルシフトとは、その中でも中型〜大型トラック等で行われている貨物輸送を環境負荷の少ない鉄道や船舶の利用へ転換することを指します。

環境負荷の低減は多くの企業で社会的責任として位置づけられ、商品の生産から廃棄にいたるまで多くの場面で取り組まれています。その中で輸送・物流における策の中でも、モーダルシフトは環境負荷低減への効力が大きい取り組みです。

モーダルシフトの説明図
画像元:物流 モーダルシフトとは?|国土交通省

モーダルシフトを推進するメリット

具体的に、国土交通省の調査によると、1トンの運送品を1kmの距離で運ぶ際に排出されるCO2の量は、自家用貨物車は1.1kg、トラックなどの営業用貨物車が216gであるのに対し、船舶は43g鉄道は20gしか排出されません。

つまり、貨物輸送の方法をシフトチェンジすることで、鉄道利用では約91%、船舶利用なら約80%もCO2削減することができます。このように、地球温暖化対策としてモーダルシフトは非常に効果的です。

さらにSDGsの目標の一つとして、働き方改革の観点からもモーダルシフトは注目されています。モーダルシフトを行うと、最寄りの転換拠点になる場所まで、もしくは最寄りの転換拠点からの運行のみで済むため、効率的な輸送業務を行うことができます。

こうした社会の動向も反映され、これまでモーダルシフトは500km以上の長距離輸送でないと困難だと考えられていましたが、最近ではおよそ300km〜400kmというような比較的短距離輸送でのモーダルシフトの実践も増えています。

サステナブル物流・輸送の取り組み事例

環境負荷へ配慮した、サステナブルな物流への取り組み事例として以下の3つの事例をご紹介します。

中継輸送サービス「SLOC」

「新しい物流のかたち」を生み出すためのプロジェクトである「SLOC(Shuttle Line Of Communication)」 は、静岡県浜松を中継地点とする東西のゲートウェイで分離することで、関東地方から関西地方に荷物を運ぶトラックが浜松で一旦荷物を下ろし、つぎに関西から浜松まで来たトラックがその荷物を受け取り、また関西地方まで戻り運ぶという仕組みです。

物流業界における大手企業であるデンソー、アスクル、エレコム、タカラスタンダード、三井倉庫ロジスティクス、安田運輸、大和ハウス工業は7社合同で、この幹線中継輸送サービスSLOCの実証実験を行いました。

期間は2023年7月10日〜14日までで、静岡県浜松市と埼玉県坂戸市を中継地点としながら、関東・関西間にて実施されました。

物流業界においてこのSLOC導入は、労働環境を改善することはもちろん、輸送効率の向上によるCO2削減で「環境」に配慮した物流を目指すことが可能になります。

日本郵船

海上輸送に加え、トラックによる陸上輸送などあらゆる輸送モードに対応するグローバルな総合物流企業の日本郵船は、高出力燃料電池に水素を利用する、船のゼロ・エミッション化実現を目指す日本初の取り組みを開始しました。

燃料に水素を使用することで、燃料利用時のCO2排出量はゼロとなります。この船舶用燃料電池の開発に成功すれば、2024年には中型観光船として実験船を就航し、この実験結果を受け、貨物船への導入の可能性も検討されます。

DHL Express

2025年までのネット・ゼロ・エミッション達成へ向け、2023年2月よりドイツ運送会社DHLは、持続可能な航空燃料(SAF)を使用し、輸送に伴うCO2排出量を削減できる新しい輸送サービス「GoGreen Plus」を開始しました。

SAFとは、廃油を原料として製造された再生可能な燃料です。廃棄物や残さいを原料としているので、従来のジェット燃料と比較すると最大80%の温室効果ガス排出量の削減が見込まれます。

国際エクスプレス業界初のサービスとして、カナダ、イギリス、イタリア、デンマーク、スウェーデン、オーストラリア、南アフリカ、アラブ首長国連邦で開始される予定です。

さらに2050年までに、自転車や電気自動車を全体の配達の約7割に用いることで、CO2削減を目指していくということです。

今後のサステナブル・モビリティへの課題

さまざまな物流企業が、分野ごとにそれぞれ事業を行う輸送・物流業界は、ムダやムラが発生しやすい環境です。

さらに物流分野における「需要と供給のギャップ」は課題を抱えています。

年々、EC市場の拡大を背景に、消費者の購買行動が多様化していることが大きな要因です。小ロット取引の普及は配送ルートを複雑化させ、再配達問題や返品対応への問題を抱えています。

一方で供給側はこの動きに追いついていない現状もあります。トラック運転手をはじめ、供給を支えるリソースの不足と深刻化しているタスクの増加は、労働環境への負担はもちろん、運送時のCO2排出量の削減を妨げてしまいます。​​

需要と供給のバランスを管理し、適切に物流サービスが機能するように促すことが必要不可欠です。

このサステナブル・モビリティの実現は、決して簡単なものではありませんが、これがスタンダードになればCO2削減などの環境配慮対策への大きなアプローチが可能となり、物流作業の効率化向上へつながります。

カーボンニュートラル社会の実現へ向け、大きな影響を与えている物流企業は、事業戦略の一環としてこのサステナブル・モビリティを推進する有効な施策を計画することが必要不可欠です。

個人でできるサステナブル・モビリティ

環境に配慮されたモビリティ手段が変革している中、個人レベルでも実践可能な例をいくつか挙げてみましょう。

公共交通機関、自転車や徒歩の積極的な活用
自家用車の使用を減らし、電車やバスを利用した計画的な移動をすることで、自動車から排出されるCO2削減へ貢献できます。

長距離移動の場合 新幹線や特急電車を利用
公共交通機関で移動のできる旅行プランを優先しましょう。やむなく飛行機を利用する時は、排出されるCO2を別の手段で埋め合わせるカーボン・オフセットという考え方を導入してみましょう。

エコカーへの乗り換え
CO2や大気汚染物質の排出が少なく、環境への負荷が少ないEV車等のエコカーを検討することは多くのメリットを持っています。エネルギー効率も良く、燃費性能の高い経済的な車としても注目は高まっています。

通販における配達先を、配達スポットにする
ECサイトを利用した受発注の普及により、個人の宅配便の取扱い個数は年々増え、それに伴い再配達も増加しています。トラックの移動によるCO2排出量の総量は約42万トン(東京ドーム170杯分ものCO2排出)です。個別配達や再配達を減らすことで、余分なCO2の排出削減にもつながります。

物流以外の企業や個人においても、身近な取り組みから始めることで環境保全へ貢献していくことができるのです。

(ライター:井尻 水晶)

〈参考資料〉
環境:運輸部門における二酸化炭素排出量 – 国土交通省
気候変動キャンペーン |「移動」を「エコ」に。 smart moveとは|環境省
モーダルシフトとは?|国土交通省
物流:宅配便の再配達削減に向けて – 国土交通省
もっと自由な受け取りで宅配便の再配達を無くそう!「COOL CHOICE」|環境省
SLOC(幹線中継輸送サービス) 事業紹介 | DENSO – 株式会社デンソー
SDGs | サステナビリティ | 鈴与株式会社
持続可能性 – DHL – Japan 日本
高出力燃料電池搭載船の実用化に向けた実証事業を開始 | 日本郵船株式会社
国土交通省|日本版MaaSの推進


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