新型コロナウイルスの流行によって、学級閉鎖や休校を余儀なくされた学校は数多くあります。クラスメートや先生のいない自宅で生徒たちは学習に取り組むことになりました。そのようななかで急速に発展したのが、Web会議ツールを使用したオンライン授業やICT教育です。
コロナ禍以前、文部科学省は2019年に「GIGAスクール構想」を開始しました。「令和時代のスタンダードな学校像」を目指して5年ほどが経ち、児童生徒に1人1台のモバイル端末が行きわたった学校や地方自治体も増えています。
オンライン授業へのハードルも低くなった現在、各学校はどのようにICT教育を進めているのでしょうか。この記事では、オンライン授業に取り組む全国の学校事例とともに、教員側のメリット・デメリットを解説します。
ライブ双方向型のオンライン授業では、ZoomやGoogle MeetなどのWeb会議ツールを使ってリアルタイムで授業ができます。生徒はチャットで先生に質問できるほか、音声での発言も可能です。教師側が生徒を複数人ずつに振り分けることもできるため、グループワークにも使えます。
ライブ双方向型の主なメリットは、次の3つです。
・生徒が理解しているか確認しやすい
・画面越しで顔や表情を見られる
・生徒と教師を1対1でつなぐ二者面談が可能
クラスの全員を対象に授業を行った後、個人の理解度に応じて解説したり課題を与えたりできます。オンラインであっても顔が見られるため、生徒の体調不良やメンタルヘルスの問題に気付きやすいのもメリットです。
また、オンライン授業は環境負荷の低減にもつながります。ライブ双方向型では、児童生徒は自宅でオンライン授業を受けるため、実際に学校にいるのは教職員のみです。そのため、照明や空調設備、水道の利用量が格段に減り、CO2やフロンガスなど温室効果ガスの発生が抑制できます。コスト削減にもつながるでしょう。
一方、デメリットとなりうるのは次の3点です。
・大人数向けに配信できるように、PCなどのOA機器の準備が必要
・安定したネットワーク回線がないと授業がしにくい
・生徒の集中力を持続させるため、ライブ配信ならではのスキルが求められる
特に、配信用OA機器やネットワーク回線の問題は大きいです。脆弱なネットワーク回線や古いPCなどでは、配信が途切れたり音声にムラが発生したりしやすくなります。不慣れな場合、配信するための各設定に手間取ることもあるでしょう。
【参考資料】
オンライン教育について|文部科学省
授業をオンライン化するための10のポイント|大阪大学
オンデマンド型では、あらかじめ準備した授業動画を生徒たちにそれぞれ視聴してもらいます。生徒は好きなタイミングで動画を見られるうえ、一時停止して語彙を調べたり繰り返し再生したりと、自分のペースで学習を進められます。また、テロップやエフェクトで動画を装飾すれば、よりわかりやすい授業も可能です。
オンデマンド型には次のようなメリットがあります。
・授業動画を1度作成すれば繰り返し使える
・修正や情報のアップデートも可能
・各生徒の視聴履歴を確認し、分析できる
動画をアップロードできれば、その後の授業時間は生徒のサポートや別の業務に当てられます。学習内容に関する新しい情報やデータがあれば、動画そのものの修正やメールでの周知によって最新情報を伝えることもできるでしょう。
ライブ双方向型と同様、オンデマンド型のオンライン授業にも環境負荷の低減が期待できます。オンデマンド型の場合、教職員のリモートワークも可能です。学校での電力使用量がさらに減らせるうえ、自家用車での通勤時に発生する排気ガスの抑制にもつながります。
デメリットは次の3点です。
・動画作成に時間やコストがかかる
・生徒とのコミュニケーションがとりづらい
・学習を管理するためのツールも必要
当然のことながら、今まで動画作成をしたことがない方も多いはずです。時間とコストに加え、教師側のITスキル向上も求められます。動画作成を委託する場合は料金もかかるでしょう。
【参考資料】
オンライン授業のメリットと必要性!これからの学校教育に必要なIT技術|Operation Green
オンライン授業を実施する際の留意点|厚生労働省
京都府立鳥羽高校では、Microsoft Teamsを活用した学習支援に取り組んでいます。新型コロナウイルスの流行によって開始したオンライン授業を、登校再開後にも継続している事例です。
鳥羽高校では授業や講座ごとにMicrosoft Teamsに「チーム」を作成し、その中で課題・質問の送受信を行っています。Teamsでは生徒1人ひとりの進捗状況を確認できるため、教員はそれぞれの理解度に応じた学習サポートが可能です。共同編集機能を使ったグループワークや探究活動など、Teamsによって進めやすくなった学習もあります。
また、休校期間にも学習が滞りなくできるよう、高校のHP上に課題についての質問を受けつけるフォームを作成しました。質問・回答は同HPで公開し、すべての生徒が参考にできる形を作っています。
【参考資料】
京都府立鳥羽高等学校
学びを止めない! これからの遠隔・オンライン教育|文部科学省
京都府が目指す学びの保障|京都府教育委員会
宮城県の仙台市錦ケ丘小学校は、モバイル端末を効果的に活用したオンライン授業を実施している学校です。ライブ双方向型による工場見学や地域の防災教育など、教科の枠に留まらない学習を展開しています。
児童は日常的にモバイル端末を持ち帰り、課題としてデジタルドリルにも取り組みます。クラウド環境の充実によって、授業内容と家庭学習をスムーズに行き来できる仕組みを整えました。
また、教員の業務効率化にもICT機器を導入しています。それぞれの教室と職員室をチャットでつなぎ、児童の出欠や家族への伝達事項などをすぐに連絡できるようにしました。職員室にはデジタルサイネージを設置し、行事予定などを全教員が確認しやすくしています。
錦ケ丘小学校がある宮城県は、ICT教育の普及に力を入れています。特に仙台市の教育委員会では、コロナ禍による休校期間中にPowerPointによる動画作成の手順をHPで公開し、各学校の教員が学習動画を作成できるようにサポートしました。
【参考資料】
仙台市立錦ケ丘小学校
教育の情報化推進部会の取組|仙台市教育委員会
ICTを活用した授業づくり|宮城県
宮崎県の五ヶ瀬中等教育学校は、1994年に全国初の公立中高一貫校として開校した学校です。2020年から学習者用端末の整備を進めており、同年12月には宮崎県とGoogleによる「1人1台Chromebook実証研究フィールド校」に指定されました。
現在、1~3年生はWindows端末、4~6年生はChromebookを使用しています。大自然に囲まれた立地を活かしたフィールドワークが多いため、校外学習の際はタブレット部のみ持ち歩けるようデタッチャブルタイプの端末を採用しました。
寮でも使えるようにインターネット環境も整備したため、寮にいながら東京大学主催のオンライン講座に参加したり、姉妹校であるフィンランド・オウルルセオ高校の生徒とZoomでやりとりしたりと、学びの幅を広げています。
五ヶ瀬町は宮崎県と熊本県の県境に位置しており、交通の便は決してよくありません。オンライン授業の導入は、地方にいながら都市部の大学の講座を受講できるなど、教育格差対策としても注目されています。
【参考資料】
宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校
グローバルフォレストピアの様子|宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校
研究開発実践報告書【1年次】|文部科学省
石川県能美市では、市内の小中学校で日常的にオンライン授業を実施しています。2020年11月からChromebookを導入し、翌年から本格的な活用を開始しました。
児童生徒には1人1台Chromebookを支給されており、持ち帰って家庭学習に使用することも認められています。そのため、学級閉鎖や台風・大雪などによる休校の際にもスムーズにオンライン授業を受けることができます。校内の相談室などに登校している児童生徒も授業に参加できるように環境が整備され、教員にもノウハウが蓄積しています。
能美市は、ICT教育の充実に向けて市の独自予算も確保しています。全教職員に1人1台のモバイル端末を支給し、GoogleアカウントやGmailアドレスも1つずつ専用のものを割り当てました。令和6年能登半島地震ではGoogle Classroomを使って自発的に安否を報告した児童生徒も多く、教職員含め学校で日常的にICT機器を利用してきた成果が表れています。
【参考資料】
能美市|リーディングDXスクール
令和4年度学校における教育の情報化の 実態等に関する調査結果(概要)|文部科学省
GIGAスクール構想に関する各種調査の結果|文部科学省
熊本県高森町では、学校と教育委員会・行政が協力してICT教育の推進に取り組んでいます。2019年度には児童生徒に1人1台のモバイル端末を支給し、クラウドサービスを利用した教育の研究を始めました。文部科学省「遠隔教育システム導入実証研究事業」を継続して受託し、オンラインでの合同授業や授業と家庭学習を連動させる教育方法などを研究しています。
例えば、町立高森中央小学校の4年生は「高森ふるさと学(総合的な学習の時間)」で地域の祭りを盛り上げるために計画を立て、調査や実践に取り組みました。祭りの関係者に児童自らがアポをとってオンラインインタビューをしたり、デジタルリーフレットを作成したりとICT機器やオンラインサービスを存分に活用しています。1人ひとりの作業はクラウド上で共有されているため、自然な意見交換やサポートも生まれました。
また、令和2年に開設された「高森町タブレット図書館」は、約1万冊の蔵書をもつデジタル図書館です。電子書籍であれば、1冊を複数人がそれぞれのモバイル端末で閲覧できるため、特に調べ学習や家庭学習で役立っています。令和5年には小学生以上のすべての住民にアカウントを発行し、町全体のDXも進んでいます。
【参考資料】
熊本県高森町の実践報告 町を挙げて取り組むGIGA端末の活用とその工夫 リーディングDXスクール事業 公開学習会 リポート Vol.4|リーディングDX
全国遠隔教育フォーラム|文部科学省
自立した学習者の育成~子供を学びの中心に据えた授業デザインの構築~(熊本県高森町立高森中央小学校):文部科学省
オンライン授業について、教員のメリット・デメリットとともに事例を紹介しました。
初期費用や時間的コストこそかかりますが、オンライン授業はこれからの時代に必要不可欠です。授業科目の中での活用としてはもちろんのこと、生徒たちのITリテラシーの涵養にもつながります。
また、ICT教育は学びの幅を大きく広げる可能性もあります。子どもたちの多様な学びのために、ぜひオンライン授業の導入を検討してみてください。
(ライター:佐藤 和代)