コラム廃棄物

リユース回収・リターナブル容器の利用企業事例

2023.12.28

「廃棄物削減」は、環境問題への対策としても企業経営の一環としても大きなテーマです。物価高騰の真っ只中にある現在、今こそ廃棄物削減への取組を強化して「事業系ごみ」の処理効率化・費用節約を実現し、SDGs達成への足がかりにしたい企業も多いでしょう。

近年、繰り返し使える「リターナブル容器」やリユース回収サービスを利用する企業が増えてきました。リターナブルやリユースは、まさにSDGsが目指す「サステナブル(持続可能な)」な製品ライフサイクルの1つの在り方です。大量生産・大量消費からの「大量廃棄」を止め、よりサステナブル指向へと社会が変わってきています。

この記事では、企業のリターナブル容器・リユース回収サービスの利用事例をご紹介します。リターナブル容器が環境問題に与える効果や利用のメリットも解説していますので、合わせてご覧ください。

「リターナブル」は「リユース」の一種

「リターナブル容器」とは、中身を詰め替えて繰り返し使う瓶・缶・箱などを指します。近頃登場したもののように思えますが、日本にガラス瓶が普及した明治・大正期に「びん商」という仕事が生まれ、現在のリターナブルのシステムが確立されていったといわれています。毎朝牛乳を届けてくれる「牛乳配達」を利用した方も多いのではないでしょうか。

リターナブルは「リユース」の一種といえます。中身を詰め直す必要がない製品を繰り返し使うのが「リユース」です。「リサイクル」と混同されがちですが、リユースは「原料に戻さず、製品そのまま」の状態で使いまわすことを指します。この点は、回収した商品にアイデア・付加価値を加えて再利用する「アップサイクル」との違いでもあります。

【参考資料】
ガラス瓶のエコ・ヒストリー|ガラスびん3R促進協議会
3Rとは|3R推進協議会

環境問題へのメリット・影響は?

リターナブル容器やリユース回収の利用が環境問題に与える影響は、大きく分けると次の3つです。

  • ・廃棄物が削減できる
  • ・生産過程で使われるエネルギー・資源を丸ごと節約できる
  • ・温室効果ガス削減につながる

たとえば、現在使われているペットボトルや缶などの飲料容器をすべてリターナブル瓶に替えた場合、固形廃棄物排出量は89.1%、CO2排出量は57.1%も削減できるといわれています。リターナブル瓶のライフサイクルは、プラスチックなどの他素材でできた容器に比べて環境負荷が少なく、繰り返し使うことでさらに負荷を少なくできるのです。

ペットボトルや化学繊維などの石油製品は、生産・廃棄の過程でCO2や硫黄酸化物、窒素酸化物などを排出します。これらの物質は、酸性雨や光化学スモッグなど地球温暖化以外の環境問題とも大きく関わっています。リターナブル容器やリユース製品を利用することで、多様な環境問題に幅広く対策できるのです。

【参考資料】
容器のリユースを当たり前に!環境意識が高いドイツの取り組み事例をご紹介!|Operation Green
LCAを考える|一般社団法人 プラスチック循環利用協会
リユースびんの環境優位性|びん再使用ネットワーク

利用する企業にもメリットが

リターナブル容器は、ワンウェイのものと比べて安価な場合があります。1つの商品を繰り返し使うと、原材料コストが抑えられるためです。デポジット(預り金)が必要な場合もありますが、きちんと返却すれば返金されます。

事業ごみをリユース回収に出す場合は、回収代が発生する可能性はあります。けれども、オフィス家具やOA機器のように「使い捨て」ではない製品の場合、状態によっては買い取ってもらうこともできるでしょう。

回収サービスとは異なりますが、自社主催のイベントとしてフリーマーケットを開催するのもおすすめです。社内で開催すれば、社員同士のコミュニケーションが生まれるきっかけになります。周辺住民も参加できるフリーマーケットであれば、企業を知ってもらう機会になるでしょう。

【参考資料】
アパレル企業が取り組む衣類のリユース活動事例|Operation Green
リユースとは? 再利用にはメリットがいっぱい。企業も個人も注目の、多様化するリユースマーケット|千葉商科大学

リターナブル容器・リユース回収の利用企業事例

客室にリターナブル瓶を導入した「ハイアット セントリック 銀座東京」

東京都中央区にある「ハイアットセントリック銀座 東京」は、国際的なホテルグループ「ハイアットホテルアンドリゾーツ」のブランドホテルです。使い捨てプラスチック削減に取り組むこのホテルでは、2021年から客室にリターナブル瓶のミネラルウォーターを配置しています。

ハイアットセントリック銀座 東京が採用したのは「株式会社JR東日本クロスステーション」の製品「From AQUA リターナブル瓶」です。ミネラルウォーターの「From AQUA」シリーズはJR東日本の「エキナカ」でも人気の商品で、2021年にリターナブル瓶での販売を開始してからは回収スキームも確立されました。

「ハイアットホテルアンドリゾーツ」では、世界各国のホテルで環境問題・SDGsへの対策に取り組んでいます。たとえばアメリカ合衆国・フロリダにある「グランドハイアットタンパ ベイ」では、2023年からホテル内の飲食施設から排出される野菜くずを「タンパ動物園」の動物たちの飼料として寄付しています。このような取組も広義の「リユース回収・利用」といえるでしょう。

【参考資料】
使えば使うほど環境に優しいリターナブル瓶のミネラルウォーター「ハイアット セントリック 銀座 東京」のホテル客室に導入が決定 |株式会社JR東日本クロスステーション
Waste and Circularity | Hyatt World of Care

「アスクル株式会社」の環境配慮型オフィス

東京都江東区に本社を置く「アスクル株式会社」では、OA機器の買い替え時にリユース回収を利用しています。従来、すべて産業廃棄物として処分していたOA機器をリユースに切り替えたことで、CO2の削減に貢献しています。

「一般社団法人 産業環境管理協議会」が算出した参考値では、デスクトップパソコンを処分する際にリユース回収を利用した場合、CO2排出量が通常の処理と比べて10分の1になるとされています。ノートパソコンだと70分の1になる場合もあるため、機材一新のために大量処分したときなどは特に大きな差となるでしょう。

アスクルでは、2014年に本社オフィスの増床・大幅リニューアルを実施しました。その際、床材として国内で発生した間伐材を使用しています。外国産の安価な木材が手に入りやすくなった近年、間伐材が有効利用されずに放置されていることが問題になっています。アスクルではショールームや商談スペースなどに間伐材を利用し、木のぬくもりのある環境配慮型のオフィスを実現しました。

【参考資料】
アスクルの「5つの約束」(環境に関する具体的な取り組み)| ASKUL
ICT分野におけるCO2排出量及びCO2排出削減効果|総務省

「株式会社INPEX」はカフェスペースで使える「マイカップ」を配布

東京都港区に本部がある「株式会社INPEX」は、2020年頃から「赤坂本社エコオフィス活動」に取り組んでいます。2023年には、社内カフェスペースで使われていた使い捨て紙コップを廃止して社員全員に「マイカップ」を配布しました。

マイカップはオーストラリアの企業「KeepCup」のサービスを利用して制作したINPEXオリジナルのものです。コルク製のスリーブにはINPEXのロゴを入れ、55通りの蓋・プラグの組み合わせから社員1人ひとりが好きなカラーリングを選びました。

1人ひとりが自分の好きな色のマイカップを選んだことで、より環境問題・SDGsを身近なものとして感じられるようになりました。内定者研修でも蓋・プラグの組み合わせを選ぶワークショップを実施し、新入社員同士のコミュニケーションのきっかけ作りにも役立っています。

【参考資料】
廃棄物の適正な管理|株式会社INPEX
Case Study>株式会社INPEX|Keep Cup Less Plastic

「イトーキ」は本社リニューアル時にオフィス家具をリユース

事務用品・オフィス設備を取り扱っている「株式会社イトーキ」は、2023年春に本社の大規模リニューアルを実施しました。その際に発生した使用済みのオフィス家具を、NX商事との協働スキーム「中古オフィス家具海外寄付」を利用してカンボジアに寄付しました。

この協働スキームでは、開始から2年間でおよそ2,200点以上のリユース家具をカンボジアの官公庁や学校・病院などに寄付しています。カンボジアはオフィス家具メーカーがなく、多くの企業では木製で手作りの家具が使われています。リユースのオフィス家具を寄付しても地場産業に打撃を与えることが少ないため、イトーキ・NX商事の取り組みの対象国に選ばれました。

オフィスリニューアル時にイトーキが寄付したのは、デスクやチェア、ソファなど約250点です。日本の企業でよく使用されるスチール製の家具は、カンボジアではあまり見られません。強度の高さからカンボジア国内でもニーズが多く、リユース家具の活躍が期待されています。

【参考資料】
イトーキ、NX商事との協働事業「中古オフィス家具海外寄付」を通じて約2年間で2,200点以上をカンボジアへ|ITOKI

「ヴァンフォーレ甲府」のエコスタジアムプロジェクト

山梨県に本拠地を置くプロサッカークラブ「ヴァンフォーレ甲府」では、2004年から始まった「エコスタジアムプロジェクト」の一環としてスタジアムでのフード・ドリンクの販売にリユース食器を使用しています。デポジット代として100円上乗せした価格で販売し、返却後に返金するシステムです。

使用するリユース食器は、山梨県の認定NPO法人「スペースふう」で扱っているものです。この取組により、ヴァンフォーレ甲府では2004年から2022年までの18年間でおよそ79.85トンのCO2削減を実現しました。2023年8月にはスタジアムに「リユース食器回収機」を設置する実証実験にも取り組んでいます。

2020年度には、環境省・日本財団主催の「海ごみゼロアワード」で最優秀賞を受賞しました。「海洋ごみ」の7〜8割は、街で捨てられた廃棄物が流されていったものだといわれています。ヴァンフォーレ甲府のある山梨県には海がありませんが、廃棄物削減への取組が巡り巡って海洋環境の保護に役立っています。

【参考資料】
リユースカップ回収機導入の実証実験のお知らせ|ヴァンフォーレ甲府
ヴァンフォーレ甲府 エコスタジアムプロジェクト|認定NPO法人 スペースふう

まとめ

リターナブル容器・リユース回収を利用して廃棄物削減に取り組む企業事例をご紹介しました。

自社事業の中でリターナブルシステムを導入したり、顧客から使用済み製品を回収したりしている企業も多数あります。けれども、このような仕組みを自社事業に導入しにくい業種の企業も多いはずです。

この記事でご紹介した事例には、職場で従業員が使用するものをリターナブル容器に変更したり、リユース回収で処分したりしたものが多いです。事業に導入しにくい場合でも取り組みやすい環境対策ですので、ぜひ検討してみてください。

(ライター・佐藤和代)


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