コラム再生エネルギー社会・環境基盤

エネルギーの地域循環をするためにできること!地域が活性化した事例も紹介

2023.03.17

再生可能エネルギーを利用して地域で電力を得たいと考えられている自治体や企業は少なくないですよね。

しかし、太陽光パネルや発電所の設置には多額の資金を要し、助成金があっても設置にこぎつけるにはさらに多くの資金が必要です。

日本には手つかずの土地が多く残っているので、その場所を利用すればエネルギー循環が上手くいくはずです。

けれど、発電効率がよくない場所に設置してしまったり、資金を地域外の企業から募ったために発電した電力のほとんどをその企業に使用されてしまったりして、結局は発電装置を設置した地域への還元が少ないという問題点も浮上しています。

そこで今回は、エネルギー循環の概要と課題をはじめ、外国から学ぶ利益流出防止の方法、実際にエネルギー循環ができている地域の実例をご紹介します。

1.エネルギー循環の概要と必要性

(画像引用元:環境省HPより)

エネルギーの地域循環とは太陽光エネルギーや小水力発電など地域で得られるエネルギーを使い、大手のエネルギー供給だけに頼らずに生活していく仕組みです。

具体的には、再生可能エネルギーを発生させる場所が乏しい「都市」に変わり、手つかずの自然が多く残る「農山漁村」をエネルギーを発生させる場所に再構築・活性化させるという方法が使われます。

では「都市はエネルギーをもらうだけもらって、農山漁村だけに負担がいくのではないか」と懸念される方もいるでしょうが、都市部に自然資源や生態系サービス、エネルギーを分譲する代わりに、農山漁村には資金や人材などを供給するといった、双方がwin-winになるようなシステム構造である地域循環共生圏(ローカルSDGs)を元に考えられています。

地域循環共生圏(ローカルSDGs)とは、”農山漁村も都市も活かす我が国の地域の活力を最大限に発揮する構想”を現実化させて地域を活性化、さらに国連「持続可能な開発目標」(SDGs)や「パリ協定」といった世界を巻き込む国際な潮流や複雑化する環境・経済・社会の課題など、複数の課題の統合的な解決というSDGsの考え方も活用できる理想的な循環システムです。

日本には耕作放棄地や森林の荒廃地などのエネルギーを発生させられる手つかずの自然がまだ多く残っているため、再生可能エネルギーを生み出す自然の力農業・林業・漁業などの第一次産業のポテンシャルは依然として大きいのです。

日本は電気を自由に使える恵まれた国ではありますが、そのエネルギー自給率はたった11.8%で、ほとんどのエネルギーを海外からの輸入資源でまかなっている国。

もし、都市部と農山漁村の強みと弱みを補い合いながらもエネルギーの地域循環ができるようになれば、国全体で持続可能な社会を構築することができ、各地域がそのコミュニティーだけで経済や生活が”持続可能”となるのです。

2.地域で利用できる再生可能エネルギー

小さな規模でも行える再生可能エネルギーとして、現在多くの地域で利用されているのは以下の発電方法です。

  • ・太陽光発電
  • ・小水力発電
  • ・風力発電
  • ・木質バイオマス発電
  • ・バイオガスプラント(家畜の糞尿の利用)
  • 地熱発電 など

発電にはそれぞれメリット・デメリットがあります。

例えば立地条件として、太陽光発電は比較的どこでも立地可能ですが、その他の発電所は場所が限られます。

また、太陽光発電や風力発電は天候によって発電量が変動するのに対し、小水力発電や木質バイオマス発電は年間を通して発電量は一定です。

3.再生可能エネルギー導入の際に課題となる点

1.景観面・近隣住民への配慮

発電設備が地域に立地するということは、居住エリアにこれまでなかった工業施設が立地するということです。

もし実際に導入されたとすれば、地域の景観等を壊す可能性が十分に考えられます。

自然しかなかった場所に大きな人工物が設置されれば、周辺住民やその場所を気に入っていた人にとっては当然それを不快に思う方も出てくるでしょう。

設置することのメリット・デメリットを十分考えた上で、周辺住民の生活を脅かすほどの建造物になってしまわないか十分に検討を重ねることが求められます。

2.自然環境保護面での配慮

太陽光パネルを大量に敷き詰めた野立ての太陽光発電では、動植物の分布域を阻害、地域の生態系の豊かさを低下させるなどの可能性があります。また、風力発電などは鳥類の生育環境を阻害するなどの可能性があります。

本来であれば草原や森で自然があふれる、動物が住みやすいはずの場所に設置するので当然でしょう。

森林はCO2低下や地球温暖化の緩和に役立つ地球に与えられた維持システムです。

エネルギー欲しさに設備設置・維持管理を優先させて過度な自然破壊を行うのではなく、自然環境を保護しながら”一部場所を借りるような謙虚な気持ち”が我々には必要ではないでしょうか。

3.地域への利益還元

農山漁村にこのような施設を設置するときに最も問題になってくるのが”地域への利益還元の少なさ”です。

地域の環境に影響を及ぼすものであるにも関わらず、再生可能エネルギー導入に関する資本が地域外企業で大部分を占める場合、その利益は全て地域外へ流出してしまいます。

多くの資金を持っている企業に土地を取られてしまうのはその地域にとっては痛手です。

そのため、地域外企業に土地購入をもちかけられているケースなら地域が出資に関わるなど利益を地域へ還元する仕組みづくりを模索し、全ての利益が流出しないようにしなければなりません。

4.ドイツから学ぶエネルギーの地域循環のための都市と農山漁村の連携

地域に電力が足りないからと省エネするだけでは根本的解決にはならず、また発生した電力が地域から流出してしまえば、そもそも地域に設置する意味はなくなってしまいます。

そうならないためにも、地域に設置されている再生可能エネルギーにより生まれる電力を、地域へきちんと還元できるシステムを構築する必要があります。それを上手く可能にしたのがドイツです。

〜欧州における事例:地域へ利益を還元する方策〜

ドイツのメクレンブルク=フォアポメルン州では、「ウィンドパークへの自治体・市民参加法」という法律を策定し”地域住民への利益還元を確保しよう”としています。

具体的には、投資総額の一定%以上を地域出資(対象:風力発電が立地する半径5km 以内の自治体、住民)に開放しなければならないこと、小口にするなど、出資しやすい環境をつくること、また出資の開放が難しい場合は、利益を自治体や地域へ還元できるような方策をとることなどが定められ、地域へ利益が還元する仕組みがつくられています。

つまり、多く出資した企業があったとしても、発電装置がある地域には必ず電力の供給が保証されるということです。けれど、日本に関しては簡単に法律を変えることはできませんし、大前提として多く出資した企業がそれに見合った還元を受けるのは当然のこと。

ただし、賛同を得た方々から小口などで資金を募り、出資しやすい環境をつくることは日本にもできるはずです。

今やどの企業も電力不足や省エネ対策、SDGsの取り組みを行っていますから、それに賛同してくれた企業、もしくは個人から支援を得ることは可能でしょう。

〈参考〉

書籍:進化するエネルギービジネス 100%再生可能へポストFIT時代のドイツ (村上敦、滝川薫、西村健 佑、梶村良太郎、池田憲昭)

5.循環型再生エネルギーに成功した地域の実例

①下川町一の橋バイオビレッジにおけるバイオマスの有効活用(北海道下川町)

(画像引用元:下川町一の橋バイオビレッジの地域熱供給

北海道下川町では2013 年時点でエネルギー代金が約9億円域外に流出しており、その規模は町の総生産の約6.3%。また、エネルギー代金の流出では石油・石炭製品の流出額が最も多く、次いで石油・原油・天然ガスの流出額が多くなっています。

こうした事態を受け、地域に豊富に存在する森林資源を有効に活用し、再生可能エネルギー によるエネルギー代金の地域内経済循環に取り組みはじめました。

「下川町バイオマス産業都市構想」において「(化石燃料等の)代替エネルギーのための資源としてバイオマスの有効活用と最適化を図り、地域特性を最大限活かしたバイオマス産業を創出する取組を加速化させる」こととし、2017年度までに 30か所の町営施設に 11基の森林バイオマスによる熱供給を導入してきました。

中には集住化や温室ハウスなど複数の施設に対する地域熱供給システムも実現し、町全体の熱エネルギー需要の約 49%を自給するという成果をあげています

また、化石燃料から森林バイオマスへの燃料転換により節約できた町の燃料代を活用し、保育料軽減・学校給食費補助・医療費扶助(中学生まで医療費無償)などを実施できるまでに成長しました。

2016年度にはバイオマスボイラーの導入により約1,900万円の燃料費を削減し、そのうち800万円を子育て支援に活用しまし た。

同町では、2008年から2015年度にかけて森林バイオマスの町内での生産額が年間約1,000万円から約4,500万円へと増加していますが、2015 年でみると、森林バイオマス生産に付随して町内の運輸部門からの調達量が約500万円、林業部門からの調達量も約800万円発生しています。これらは全て町内での生産と消費であり、再生可能エネルギーの導入という環境面の取組が地域内経済循環力を高めた好例といえます。

・うべ未来エネルギー 株式会社(山口県宇部市)

(画像出典元:地域循環共生圏の実現に向けた取組|宇部市公式ウェブサイト

うべ未来エネルギー株式会社は、宇部市が令和元年11月に地域の民間事業者等とともに設立した地域新電力会社です。

市内の再生可能エネルギーを効率的に活用することでエネルギーの地産地消を図り、市公共施設の電気料金の抑制とともに、資金循環を喚起するため、地域内で電力と資金を循環させる仕組みづくりに取り組みはじめました。

市焼却場のバイオマス発電太陽光発電などの再生可能エネルギーによって生み出した電力を購入し、その事業収益を市民サービスに利用しています。

設立当初は市内の再生可能エネルギーの循環づくりに取り組み、市の公共施設の電気料金の抑制に尽力。そして、令和2年4月から小・中学校や市役所本庁舎などの公共施設への電力供給を開始しました。当面は対象を市公共施設(高圧)のみとし、市焼却場の余剰電力を最大限に活用して電力供給していくようです。

将来的には資金循環による地域経済の活性化や市民サービスの向上、さらには低炭素で災害に強いまちづくりを目指しています。

〜会社概要〜

資本金額

1,000万円

出資者 (出資割合)

宇部市(35%)、宇部商工会議所(10%)、(株)オカダ電気(11.5%)、柏原物流(株) (11.5%)、長州産業(株)(11.5%)、(株)山口銀行(5%)、西中国信用金庫(5%)、 (株)西京銀行(5%)、(株)エネルギア・ソリューション・アンド・サービス(5.5%)

電力供給先

市役所本庁舎、市民・ふれあいセンター、小中学校、文化・教育・体育施設、その他(上 下水道施設、給食センター、火葬場など)

電源構成

宇部市環境保全センターが発電する余剰電力を主な電源とし、中国電力(株)の常時バッ クアップ電源、電力卸市場の電力も電源として活用しています。

(うべ未来エネルギー株式会社 公式ホームページより)

〈参考〉地域が主役の 地域循環共生圏のはじめかた ~脱炭素社会に向けて~/兵庫県農政環境部環境管理局

6.エネルギー循環システムを整えて地域を活性化させてみませんか?

農山漁村に発電所ができることで地方のライフラインが整うだけでなく、人手が必要な施設が増えることで雇用環境も潤うなど、広範囲でさまざまなメリットを得ることが期待されます。

さらに、再生可能エネルギーを利用したシステムの利用に意欲的な地域がさらに増えれば、日本各地で地域循環共生圏が実現することでしょう。各地域でエネルギーを得られる発電施設ができ、今後豊富なエネルギー供給が可能になればその周辺地域だけでなく、都市部への生活が潤っていくことは経済の専門家や国の理想です。

その実現にむけて、エネルギーの地域循環へのシステム構築を検討する地域、それに賛同する企業が増えていくことを願うばかりです。

 (ライター:堀内 香菜)


TAGS: エネルギーの地域循環,コラム,再生可能エネルギー,