コラムエコスクール節水・雨水利用

学校での節水事例 水道水の利用による環境負荷は?

2024.12.03


学校でも家庭でも、私たちの生活には水が欠かせません。日本では、蛇口をひねれば水が出てくる生活環境が当たり前となっています。水道水が手元に届くまでには、多くの電力を使用してCO2が発生している事実を、私たちは忘れてしまいがちです。

近年の物価上昇によって、水道代も増加しています。節水はコスト削減にもつながるうえ、現在の子どもたちや未来の世代が豊かな暮らしを送るためにも必要な取り組みです。

この記事では、節水に取り組んでいる学校の事例に加え、水道水の利用による環境負荷を解説します。子どもたちにも身近な「コップ1杯の水」を例に解説するので、ぜひ参考にしてみてください。

水道水の利用による環境負荷とは

あまりイメージがつかないかもしれませんが、水道事業は大量の電力を消費している産業です。年間に日本で使用される総電力量のうち、水道事業は約1%を消費しています。水道水として使うため、また使用した水を放出できる状態に戻すための浄水処理や、浄水場・水道局から消費地への送水に電力を使用するためです。

例えば、東京都水道局の令和5年度の使用電力量は約7.83億kWhでした。電力使用に伴うCO2排出量は42.9万トンです。東京都水道局の浄水場は標高の低い土地にあるため、他の水道局よりも消費地への送水に使う電力が多くなります。

また、近年各地の浄水場に導入されている「高度浄水処理」は、従来の浄水処理よりも多くの電力を消費します。高度浄水処理では、従来の水道水に含まれていた嫌なにおいやごくわずかなトリハロメタン、有機物をほぼ除去できます。2013年度以降、東京都水道局では利根川水系の全浄水場で高度浄水処理の運転を開始しました。より人体に優しい水道水を生産できる技術ですが、電力使用量は増加しています。

日本政府は、2021年策定の「地球温暖化対策計画(改訂)」において、水道事業によるCO2排出量を「2030 年度には21.6 万トン-CO2削減(2013年度比)」という目標を掲げました。しかし、同年のCO2排出量は、2013年度よりも1.1万トン-CO2増加しています。安心安全の水道水を享受し続けるためには、私たち1人ひとりに加えて学校・企業など大きな規模での節水活動が必要です。

【参考資料】
節水はなぜ必要?その理由と学校での過ごし方を学ぼう | Operation Green 循環型○○の実践プログラム
学校での節水活動や雨水活用を通じて水への関心を高めよう | Operation Green 循環型○○の実践プログラム
基本方針1 エネルギー効率化の推進|東京都水道局
東京都水道局環境報告書2024を発行|東京都
上下水道:環境・エネルギー対策|国土交通省

100ミリリットルの水道水を作るには?


コップ1杯分(100ミリリットル)の水道水を作るには、どれほどの電力使用量・CO2排出量が発生するのでしょうか。ここでは、東京都水道局や東京電力の数値を使用して算出します。

標準的な浄水処理施設では、1立方メートル(1,000リットル)の水を浄化するのに約0.3〜0.6kWhの電力を使用しています。100ミリリットルは1,000リットルの1万分の1なので、使用電力は0.03〜0.06Whです。

高度浄水処理の場合、使用電力量は標準処理の2倍です。そのため、100ミリリットルの水道水を作るのにかかる電力量は0.06〜0.12Whとなります。

電力使用にかかるCO2排出量を算出するには、「CO2排出係数」を使います。2023年度、東京電力のCO2排出係数は0.408kg-CO2/kWhでした。100ミリリットルの水道水を作るのにかかるCO2排出量は、このように計算できます。

標準的な浄水処理
→0.3kWh×0.408kgCO2/kWh=0.1224kgCO2
→0.1224kgCO2÷10000=0.00001224kgCO2=約0.012kgCO2

高度浄水処理
→0.6kWh×0.408kgCO2/kWh=0.2448㎏CO2
→0.2448㎏CO2÷10000=0.00002448kgCO2=約0.024kgCO2

環境省のWebサイトには、CO2排出係数の一覧と算出方法が掲載されています。身近なものや行動に発生するCO2排出量を計算してみるのも、学習として面白いでしょう。

【参考資料】
2023年度のCO2排出係数について|東京電力
東京の水道|東京都水道局
東京都水道局における脱炭素化への取組|東京都水道局
算定方法・排出係数一覧|環境省

節水型の設備を導入した学校の取組事例

今庄小学校のエコスクール化による雨水利用

福井県南越前町の町立今庄小学校は、政府の「エコスクールパイロット・モデル事業」認定校です。2007年度の改築によって、太陽光発電や風力発電設備、雨水貯水槽などを設置しました。

今庄小学校では、校舎の屋根から集めた雨水を貯水槽に溜め、ろ過処理をしてトイレ掃除や校庭への水まきに活用しています。また、校内で発生した排水もろ過し、同じように利用できる設備を整えました。

飲み水に適さない水道水や雨水を、再生処理によって利用できる状態にしたものを「中水」といいます。今庄小学校の雨水利用は、雨水や排水をろ過処理によって中水に再生し、水道水の使用量削減を図る事例です。

そのほか、断熱材や複層ガラス・二重サッシなども導入し、寒さが厳しい北陸の冬を省エネ仕様で乗り切れるように整備しました。また、学校の前に川が流れている地形を生かし、校舎1階と川の間に花壇や菜園、ビオトープを造設しています。学校や建物の内と外を自然につなげた今庄小学校の建築は、2008年に「グッドデザイン賞」を受賞しました。

【参考資料】
福井県南越前町立今庄小学校|文部科学省
エコスクール 環境を考慮した学校施設の整備推進|文部科学省
エコスクールパイロット・モデル事業事例集|文部科学省
南越前町立今庄小学校|GOOD DESIGN AWARD

大規模改修時に節水型トイレを導入した矢吹小学校

福島県矢吹町の町立矢吹小学校は、文部科学省「スーパーエコスクール実証事業」の指定を受けて校舎の大規模改修を実施しました。2012年から4年かけて行った改修工事で、トイレをすべて洋式の節水型トイレに取り換えました。

改修前、矢吹小学校の2つの校舎はいずれも建設から40年以上が経過していました。2012年3月の東日本大震災では建物の躯体そのものには大きな被害はなかったものの、老朽化した内部が大きく損傷したため地域住民の避難所として使用できませんでした。大規模改修は、省エネによる脱炭素化の推進とともに、地域の防災拠点となる学校づくりも目指した事業です。

改修には、文部科学省「長寿命化改良事業」による「学校施設環境改善交付金」なども活用しました。節水型トイレに加え、建物内の使用電力・水道量を可視化して省エネをサポートするBEMS(Building Energy Management System)や、人感センサーによる自動オンオフつき照明なども導入しました。暖房効率を高めるため、窓ガラスには二重ガラスを採用、階段室と廊下の間に扉も取り付けています。

【参考資料】
矢吹小学校
快適性と省エネの両⽴を⽬指した、 地域の防災拠点となる⻑寿命化改修|CO-SHA Platform|文部科学省
スーパーエコスクール実証事業について|文部科学省
学校施設のエネルギー使用実態等調査 フォローアップ報告書|国立教育政策研究所

土橋小学校のトイレ改修をいかした環境教育

愛知県豊田市の市立土橋小学校は、2009年の校舎改修の際、トイレを題材とした環境教育を実施しました。トイレの改修を子どもたちにとって身近なテーマととらえ、各種ワークショップや事前・事後学習などを通して節水・節電について考えることが目的です。

環境教育は、実際に改修を手がけた東畑建築事務所の協力のもと実施されました。東畑建築事務所が名古屋市立大学・TOTO株式会社と制作した「トイレカードゲーム」は、トイレの快適さとエコのバランスを遊びながら学べるカードゲームです。節水・節電を意識した行動による効果などもゲームに組み込まれているため、楽しみながら環境意識を身につけることができます。

また、トイレの設計・施工体験のワークショップも実施しました。特に設計ワークショップでは、現在のトイレの模型や図面を実際に見て問題点を考えたり、グループワークで設計案・デザイン案をまとめたりと建築の仕事についても学ぶことができています。トイレタイルのデザインは、実際に児童のアイデアを取り入れたものです。

このような体験を通して完成したトイレには、愛着をもって大切に使うことができるでしょう。土橋小学校では、竣工後もトイレを題材とした環境教育を続けています。

【参考資料】
豊田市立土橋小学校
トイレでエコを学ぼう(豊田市立土橋小学校)|東畑建築事務所
豊田市立土橋小学校|文部科学省

小中学校への雨水貯留タンク設置を進める熊本市

最後に、学校を含めて町全体で節水に取り組んでいる熊本市の事例をご紹介します。

熊本市では、2015年度から市内の小中学校に雨水貯留タンクの設置を始めました。溜まった雨水を鉢植えや花壇への水まき、掃除用の水として活用してもらうためです。

熊本市は市民の水道水を100%地下水で賄っている日本唯一の都市です。阿蘇や九重の山々を水源とする豊富な地下水に、法律で規定されている最低限の塩素のみを加えた水道水を各家庭に送水しています。

豊富な地下水を次世代にもつなげるため、熊本市は2005年に「節水市民運動」を開始しました。特に使用量が増える7月・8月は、市民1人当たりが使った生活用水量を毎日公表する「節水強化月間」です。現在は、2024年度までに「1日1人当たり210リットルまで削減」を目標に取り組んでいます。

市全体で節水を推進するため、一般家庭を対象に雨水貯留槽・タンクの設置に補助金を出しています。上限7万円で必要な費用の2分の1以内の補助が受けられるのは、節水の大きな後押しとなっているでしょう。また、節水コマや節水おもりのような節水器具を取り扱っている店舗の登録制度を作るなど、市民が節水に取り組みやすい環境を整えています。

【参考資料】
世界に誇る地下水都市・熊本|熊本市
小学校への雨水貯留タンクの設置|熊本市
雨水貯留施設補助制度のご案内|熊本市
令和4年度(2022年度)「学校版環境ISOへの取組」好事例紹介 |熊本県

まとめ

節水に取り組んでいる学校の事例をご紹介しました。

今回ご紹介した事例は、いずれも雨水貯留槽・タンク、節水型トイレなど、節水しやすい設備を導入した事例でした。「2050カーボンニュートラル」を実現するため、政府・地方自治体や民間企業ではエコスクール化の推進事業を行っています。節水器具や設備を学校に導入したい場合は、ぜひ行政や企業のホームページをチェックしてみてください。

また、節水への取組は設備導入だけではありません。水道水を使うときの小さな心がけはもちろん、水や省エネの大切さを実感できる環境学習が子どもたちの基盤となります。環境問題を身近に感じられるきっかけの1つとして、暮らしの中の水について一緒に考えてみてください。

(ライター:佐藤 和代)


TAGS: CO2削減,SDGs,エコスクール,カーボンニュートラル,学校,導入事例,省エネ,節水,雨水の利用,