コラム廃棄物

2022年までに全面禁止!インドが国を挙げた「脱プラ」を決意

2019.12.11

 

すべてが入り混じった魅惑の国、インド。

あらゆる刺激や美しさに満ちている反面、街を歩いている時、列車の車窓から風景を眺めている時などによく目にする光景が、たくさんのごみの山です。インドでは1日あたり、ジェット機約75機分ぐらい*に相当する、約26,000トンのプラスチックごみを排出しているとされています。

聖なるガンジス川は、中国・長江に次いで、世界で2番目に海へプラスチックごみを流出している川だという論文もあるほどです。(Nature Communications/2015)

そんなインドが、近い将来市民の生活を変えるような、果敢な政策に踏み出しました。

海だけではなく、じつは私たちの生活にもつながっている

いま世界が直面する、深刻な海洋プラスチックの問題。人間活動のなかで使用されたプラスチックが、きちんと処理されずに海へ流れ込んでいることによって起きているこの国際的課題に対し、国内外では各国の方針をはじめ、企業・教育機関などのあいだで急速に「脱プラスチック」の動きが広まってきています。

最近ではスコットランドで、漁業網やプラスチックごみを飲み込んだマッコウクジラが打ち上げられたというニュースが、また新たに報じられました。

海洋プラスチックの問題には、そのような海の生き物や生態系に与える影響だけではなく、海を漂うプラスチックが人間の体内にも取り込まれているという「健康被害」の可能性と、もともと石油からつくられているプラスチックを生産拡大し続けることや、それらを処分する際に発生するCO2によって引き起こされる「地球温暖化」の要因も含まれています。

牛もプラスチックごみを食べてしまう?動き出したインド

これらの事態に加えインドでは、ヒンドゥー教で神聖とされている牛が誤ってプラスチックごみを食べてしまうかもしれないこと、モンスーンの時期にペットボトルごみが蚊の繁殖地となることで、地域住民が蚊を媒介して伝染する病気のリスク、そこから発生する悪臭にもさらされていることなどが問題視されてきました。

そんななかナレンドラ・モディ首相は、ガンジーの生誕150周年記念に当たる10月2日に行われた国民演説で、「2022年までに6種の使い捨てプラスチック使用の全廃」を達成することを宣言。

しかし、プラスチックを扱う産業や小売業などにとってこの方針は大きな打撃となるため、反発の声もあがっています。

ペットボトル飲料水業界は政府へ対し、「飲料用のペットボトルは使い捨てプラスチックに分類されるべきではない」と訴えたほか、急速なプラスチックからの代替は不可能であることから、約3,000億ルピー(約4,500億円)の損失が出ることを警告していました。(THE TIMES OF INDIA/2019.9時点)

また、インドのプラスチック加工産業では現在400万人以上が雇用されているという事実(全インドプラスチック製造業者協会(AIPMA)調べ)についても、慎重に対応していかなければならない課題です。

インドにおける企業の脱プラスチック事例

そうしたなかでも国内ではすでに、各企業が相次いで脱プラスチックの対策に乗り出しています。

ムンバイに本社を置くコングロマリット持株会社、「The Mahindra Group」では、社内でプラスチックボトルを使用することを取りやめ、代わりに瓶ボトルを導入しています。

「スタートを切りましたが、まだまだやるべきことはたくさんあります」。そう述べるのは、同グループの中核企業である自動車製造会社「Mahindra & Mahindra」のサステイナビリティ最高責任者、Anirban Ghosh氏。

一方、社員が責任をもってこのキャンペーンに協力してくれていることで、着実にプラスチックの使用削減へ向かっているともGhosh氏は話しています。

また、デジタル決済プラットフォームサービスを提供する「PhonePe」(本社・バンガロール)は11月、40拠点を越える支社を含めた全社で、使い捨てプラスチックの使用を禁止することを発表しました。

同社ではすでに、すべての社内カフェから使い捨てプラスチックカップやプレート、フォーク類の撤去を完了させたほか、ゴミ袋も生物分解性の紙をベースにした素材のものに切り替えたとのこと。

社内で使用するマーケティング資料も、よりエコフレンドリーで、100%再生可能な素材にする計画だといいます。

そのほか、電子商取引企業「Flipkart」(本社・バンガロール)では、入社した従業員へスチール製のマイボトルを配布。「オフィスで行っている行動は自宅でも模倣できること。ここではプラスチックボトルや紙コップは使用されていません」と、同社の広報担当者は述べています。

最後に

インド国内におけるこのような環境問題への取り組みの流れは、Goldman sachsが2018年にグローバルでローンチしたキャンペーン「Bring Your Own Mug (BYOM)(マイカップを持参しよう)」に続くものだという見方もあります。(The Economic Times)

すでに日本国内のオフィスでも、マイボトルを使用する人々は増えつつありますが、こうした思い切ったキャンペーンを社内や組織で実施することが、そこで普段1日を過ごす人たちにとって、海洋プラスチックの問題に対する意識改革をもたらす、大きなきっかけとなるかもしれません。

プラスチックごみの排出量が「1人当たりで世界第2位」(国連環境計画UNEPによる報告書/2018)とされる日本。世界中で広まるプラスチック廃止の流れをどう受け止め、変化を起こしていくのか。その問いに対する真摯な取り組みが、今後のサステイナブル経営における鍵となるのではないでしょうか。

 

(ライター:Sara Sugioka)

 

 

<参考記事>

India Inc readies for a life without plastic

How plastic ban will affect businesses and consumers

India’s plastic waste crisis is too big, even for Modi

Reuters / Goldman Sachs ditches single-use plastic products

PhonePe Bans Single-Use Plastics across All its Indian Offices

*ジェット機約75機分ぐらい:https://www.ana.co.jp/travelandlife/trivia/vol19/


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