それにより、輸送にかかる二酸化炭素の排出量が抑制されるとともに、流通に要するエネルギーや経費の節減など環境への負荷が低減されるのです。
今回は、各地での活動事例も交えながら、給食へ地産地消を取り入れる動きについて解説していきます。
「地産地消」は生産者や消費者の垣根を超え、ひいては私たちの未来に大きな影響を与えるものです。ここでは、地域で収穫した食品を地域で消費する「地産地消」のメリットをご紹介していきます。
みなさんは、普段口にする食材がどこから来たものなのか考えたことはありますか?日本は、大量の食料を外国から輸入している国です。食品の「量」と「移動距離」を算出し環境への負荷を数値にした「フードマイレージ」という指標では、日本の数値が問題視されています。
今後はCO2削減に向けて、輸送にかかる二酸化炭素量を抑制することが大切です。
玉ねぎ一つをとっても、外国産のものを輸入しようと思えば船で海を渡り、目的地まではトラックを乗り継ぐ必要があるでしょう。しかし、地域で取れた野菜を地域で消費しようとすれば、その分輸送にかかる時間やエネルギーが大幅にカットされます。
地産地消をすることで環境への負荷が下がり、CO2排出量が削減されるのです。
農林水産省の発表では、令和3年度の日本における食品ロス量は523万トンに及んだとされています。食品ロスとは、本来食べられるにもかかわらず捨てられている食品です。
捨ててしまう要因に、「食品の傷み」が挙げられます。輸送による変形や破損などで、市場に出せなくなる食材も少なくありません。しかし、地産地消だと輸送機会が減ることで、そのリスクが下がります。
また、収穫したものがすぐに消費者のもとへ渡るため、新鮮な食品を届けられます。それにより、傷みや劣化を抑えることができるのです。地産地消をすることで、食品ロスの低減に繋がります。
地域で生産されたものが地域で消費されることで、地域内に資金が還元され経済が循環します。地域で生産の需要が高まればその分生産が盛んになり、地域が活性化されます。
農業体験や収穫体験、直売所などを通して、生産者と消費者が直接つながる機会も増えるでしょう。それにより新たな販路が開拓され、生産者の経営向上も期待できます。
消費者にとっても地元の採れたて新鮮食品を味わえるため、地産地消は地域全体にいい影響をもたらすものの一つです。
〈参考資料・記事〉
いいこといっぱい地産地消ー農林水産省
最新の食品ロス量は523万トン、事業系では279万トンにー農林水産省
現在、農林水産省は「第4次食育推進基本計画」をもとに、給食へ地産地消の食材を取り入れる動きを推進しています。ここでは、そのメリットや現状について解説していきます。
給食へ地産地消の食材を取り入れることにより、食に関する指導の「生きた教材」として活用することができます。地域の自然・ 文化・産業等に関する理解を深めるとともに、生産者の努力や食に関する感謝の気持ちを育む上で重要です。
また、地産地消の食材を活用することで、CO2削減の観点から環境負荷の低減につながります。未来を担う子どもたちが持続可能な食生活を実践することの一助にもなるでしょう。
農林水産省が発表する「第4次基本計画」では、地産地消の食材を給食に活用する割合を現状値(令和元年度)から維持・向上した都道府県の割合を90%以上とすることを目指すこととされています。
令和3年度の学校給食における地産地消の食材活用の全国平均は、金額ベースで56.0%となっています。都道府県別に見ると、使用割合にはばらつきが見られます。
〈参考資料・記事〉
地産地消の推進についてー農林水産省
地場産物等の活用の推進/農林水産省
ここでは、実際に給食へ地産地消の食材を取り入れている地域の事例を紹介します。それぞれの活動の実態を解説していきます。
群馬県高崎市は、平成8年から学校給食へ地産地消の食材を取り入れています。
初年度は約 1 トンの供給量だったが、平成 17 年度には約 77 トンまで供給量が増加しました。
群馬県推奨米である「ゴロピカリ」、「高崎しょうゆ(高崎市産大豆・小麦を使用)」、「高崎特栽 ソース(高崎市産特別栽培玉葱・特別栽培トマトを使用)」「高崎うどん(高崎市産小麦を使用)」など、地元の食材を使用した食品も取り入れられています。
給食へ地産地消の食材を取り入れるメリットを、高崎市は以下のように挙げています。
・新鮮な食材が利用できる
・生産者の顔が見えるため、安心して食材が利用できる
・委託農家に協力してもらい、農産物の観察や収穫など児童・生徒の体験学習に活用できる
・減農薬、減化学肥料栽培など、より安全な食材の提供を(委託農家に)お願いできる
圃場における体験学習や、生産者を学校に招いての交流給食等も行われており、児童・生徒の「地域や地場農産物への関心や親近感の向上」が図られているという実績があります。
しかしその一方、課題として高崎市は以下のように挙げています。
・.一部の農産物にしか対応できていない
・一部の食材は市内すべての学校・園には届けられない
多種多彩な野菜を活用するため、多様な種類の栽培を委託農家に要請するほか、他の野菜を栽培する農家と新たに契約するなどの方法を検討する必要があります。
また、生産農家が限定されている食材は、その農家が市内すべての学校へ配達することはできません。そのため市内全域の適切な場所に、多様な種類の食材をつくる生産者を確保する必要があるでしょう。
<参考資料・記事>
地場産食材の活用/高崎市ホームページ
学校給食における地産地消の推進に向けての優良事例調査結果について/農畜産業振興機構
群馬県高崎市の事例/農畜産業振興機構
千葉県千葉市では、平成10年から学校給食へ地産地消の食材を取り入れています。
野菜はニンジン、ダイコン、ジャガイモ、コマツナ、ホウレンソウなどで、毎年10月から1月の4か月間は千葉市産の新米(コシヒカリ)を米飯に使用しています。
「人参ゼリー(ちはなちゃんゼリー)」「人参ペースト」(千葉市産)、「さつまいもプリン」(香取市産)など、地元の食材を使用した食品も取り入れられているのです。
給食へ地産地消の食材を取り入れるメリットを、それぞれの機関は以下のように挙げています。
【千葉市教育委員会・千葉市農政センター】
・児童・生徒に正しい食材の知識を身につけてもらう。
【千葉県学校給食会】
・ 児童・生徒が、郷土を愛する心を育む良い機会となり、学校給食を通じて千葉市の農業や歴史・文化・風習を学習するという教育的効果を期待している。
【JA 千葉みらい】
・地域に根ざした食農教育を通じて、それぞれの特徴や特色に応じ、「食」や「農」の大切さを子供たちに再認識してもらう。
・「食べること」を共通語に、学校と家庭が互いに理解し、食文化の発展に資する。
表のように、地元で取れた旬の野菜を、毎月各地区の給食に取り入れているのです。あわせて、使用した食材の生産者が小学校にて出張授業をすることで、食育・地域農業への興味の喚起に取り組んでいます。
また、千葉県全域での取り組みとして「千産千消」が挙げられます。「ちばの恵みを取り入れたバランスのよい食生活の実践による生涯健康で心豊かな人づくり」を基本目標に掲げ、地産地消を進めているのです。毎年11月には「千産千消」デーが設定されており、各学校で地産地消の食材を使った献立をつくり、取り組みを推進しています。
<参考資料・記事>
学校給食での地場農産物の活用について紹介します/千葉市
小中学校給食での地場農産物の利用について/千葉市
令和4年度の取組(千産千消デー)/千葉県教育委員会
千葉県千葉市の事例/農畜産業振興機構
今回は、各地での活動事例も交えながら、「給食へ地産地消を取り入れる動き」について解説しました。市町村や教育委員会が主体となって取り組んでいる事例のほか、民間の団体でも給食へ地産地消の食材を取り入れることに向けて動いているので、納入先として検討してみてはいかがでしょう。
地産地消を取り入れることは、CO2削減など環境問題へのアプローチのほか、学校園での食育や地域への活性化にもいい影響を及ぼします。今後、この動きが全国へと広がっていくといいですね。
<参考記事>
民間の団体の取り組みーゆめプロホームページ
(ライター:上野ちか)
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食べ物の地産地消の問題を解決する地域の取り組み