近年、環境ボランティアに取り組む企業が増加しています。
経団連による2020年の調査では、多くの企業が社会貢献活動を「CSR(企業の社会的責任)の1つ」と認識し、8割以上の企業が「社会貢献の一環」として社員によるボランティア・寄付を推進していることが分かりました。
さまざまなボランティア活動のなかでも、環境・自然保護に向けた取り組みは周辺地域に還元しやすいことが特徴です。
この記事では、国内の大手企業が取り組んでいる環境ボランティア事例を5つご紹介します。その活動がどのように地域に役立っているのかも解説していますので、合わせてご覧ください。
企業が環境ボランティアに取り組むメリットとして「CSR活動としてアピールできる」ことが挙げられます。
CSRに向けた取組は法律で義務化されたものではありませんし、必ずしも直接的な利益が上がるわけではありません。けれども、「企業のイメージアップにつながる」「人材育成の契機にもなる」「社員の帰属意識・貢献意欲が上がる」など、長期的に見た場合のメリットが多いです。
環境ボランティアの場合、ステークホルダーの中でも特に地域住民とのコミュニケーションが増えやすいのも特徴です。自社について知ってもらう機会にもなりますし、地元の人たちを巻き込んだ環境活動も可能でしょう。
また、投資家を対象にした調査では、SDGs(持続可能な開発目標)に熱心な企業への投資意欲・好感度はいずれも高いという結果が出ています。環境・社会・ガバナンスを重視した「ESG投資」も年々増加傾向にあるため、これからの企業には日本社会や世界・地球全体に目を向けた長期的な活動がますます重要視されるでしょう。
【参考資料】
社会貢献活動に関する アンケート調査結果|日本経済団体連合会
ESG投資について|財務省
熊本県菊陽町の「富士フイルム マテリアルマニュファクチャリング」は、熊本の豊かな水資源を守るため、涵養林・涵養田の整備に取り組んでいます。
南阿蘇村の「富士フイルム 光の森林(もり)」は、同社が熊本県や森林組合と連携して整備している5.24ヘクタールの山地です。2007年からの15年間で、およそ13,000本の木を植樹しています。また2010年からは、菊陽町の農家の力を借りながら涵養田の整備にも着手しました。
富士フイルム九州エリアの「ディスプレイ用光学フィルム」製造事業には、地下水が不可欠です。事業活動にも重要な水資源を守るため、涵養林・涵養田での水質保全のほか製造に使用する水の再利用にも努めています。このような活動が評価され、2023年2月には13年連続となる熊本県の「森林吸収量認証」を受けました。
【参考資料】
富士フイルムマテリアルマニュファクチャリング 九州エリアの地域貢献|富士フイルム
ディスプレイ用光学フィルムの製造に用いる水資源を有効活用|富士フイルム
「富士フイルム 光の森林」のように、その地域の水資源を利用するために特に重要な森林を「水源涵養林」といいます。その地域を流れる河川や取水施設の上流に位置していて、雨水をろ過して澄んだ地下水にしたり、洪水・水不足を防ぐ役割があります。同じ役割を果たす田畑が「涵養田」です。
「光の森林」がある南阿蘇村は熊本県の内陸部、阿蘇山の南側に位置しています。「名水の里」として知られていて、2008年には「平成の名水百選」に選ばれました。富士フイルムの環境ボランティアは、南阿蘇村の豊かで良質な水資源を守るのに役立っています。
【参考資料】
水源かん養林|神奈川県
河川の流れを安定させ、地下水を涵養する働き|農林水産省
名古屋市に本社を置く「ブラザー工業」は、岐阜県郡上市にある28ヘクタールの山地を「ブラザーの森 郡上」と名づけ、2008年から森林整備ボランティアに取り組んでいます。ブラザー工業の社員やその家族、地元住民らとともに植樹し、森林の生育を妨げる雑草・蔓などを取り除く活動を続けてきました。
郡上市では高度経済成長期に建設されたスキー場跡が放置され、荒れ地となっていました。そのような荒れ地を活用した「ブラザーの森 郡上」は、豊かな山林と生態系の再生を目指したプロジェクトです。
2014年からは名古屋大学の協力も得られるようになり、豊かな生態系の回復に努めてきました。その結果、ブラザーの森では「ギフチョウ」をはじめとする希少な動植物が見られるようになり、かつての生態系を取り戻しつつあります。
【参考資料】
ブラザーの森 郡上|ブラザー工業株式会社
生態系回復プロジェクト支援 ーブラザーの森ー|名古屋大学
SDGsが広く認知されるようになった近年、経済面でも持続可能な発展を目指した「ESG投資」が増えてきました。ESGのうち「環境(Environment)」要素に注力した取組として、上に挙げた事例のような「企業の森づくり」が活発化しています。
「企業の森づくり」では、植樹ボランティアや森林保全のほか、地元企業や地方自治体と連携した森林再生事業・木工業など、さまざまな活動が展開されています。「企業の森づくりサポート制度」はすべての都道府県にあり、森づくりに取り組みたい企業と地元の関係者をつないで活動のサポートをしてくれる「森づくりコーディネーター」も配置されました。
【参考資料】
企業の森づくり|森ナビ・ネット
企業による森づくりの歴史と変遷|森ナビ・ネット
大手自動車メーカー「ホンダ」は、2020年に東京・八王子市と活動協定を結び、特別緑地保全地区「上川の里」で里地里山保全活動を始めました。雑木林の整備や植樹などの里山保全をはじめ、田植えや野菜の苗植え、収穫などの畑作・水田復元活動など多様な環境活動に取り組んでいます。
「上川の里」での活動には、社員やその家族がボランティアとして携わっています。子どもたちと一緒に里山で活動できるため、環境教育・自然教室としての役割も担っています。地元の人たちだけではなく、社員にも喜ばれている取組です。
【参考資料】
里地里山保全活動|Honda
人間があまり立ち入らない山地と市街地の間にある、集落と周辺の林や農地、ため池などで構成されている地域を「里地・里山」と呼びます。食物や木材・水など「自然の恵み」の供給源であり、動植物の生息地としても重要な場所です。
里地・里山は、古くから農業・林業など適度に人の手が入ることで保たれてきました。けれども住民の減少・高齢化や主要産業の変化などによって、その存続が危ぶまれているところも数多くあります。衰退していく里山の現状を受け、国内では里地・里山の保全活動に取り組む団体が増加しています。
【参考資料】
自然環境局 里地里山の保全・活用|環境省
「NTTドコモ」では、全国各地にある支社の地域周辺でビーチクリーン活動に取り組んでいます。ここでご紹介するのは「ドコモCS中国」の活動です。
ドコモCS中国は、1999年から広島県安芸郡の「ベイサイドビーチ坂」でビーチクリーン活動を行ってきました。一般社団法人「JEAN」主催の「クリーンアップキャンペーン」に「キャプテン参加」する形式をとり、ドコモCS中国では社員とその家族による清掃活動を「キャプテン」として運営しています。
収集したごみは量・内容などをまとめ、JEANに報告しています。このデータは世界中で集められていて、ごみ・汚染の発生を防ぐシステムづくりに活用されています。
【参考資料】
ビーチクリーンアップ活動|NTTドコモ
ボランティア活動の推進|NTTドコモ
一般社団法人 JEAN
ビーチクリーン活動で収集される「漂着ごみ」や、漂流ごみ・海底ごみを合わせて「海洋ごみ」と呼びます。海洋ごみのおよそ8割は陸地で発生したものといわれていて、その6割以上を占めているのがプラスチックです。
海中のプラスチックは半永久的に分解されず、漂流する間に小さくなっていきます。5ミリ以下になった「マイクロプラスチック」は、魚などの海洋生物がエサと間違いやすく、誤って飲み込み死んでしまう事例が世界各地で起こっています。今はまだ報告されていませんが、魚介類を食べる私たちへの影響も否定できません。
海洋ごみの問題を受けて、日本国内でもさまざまな活動が行われ始めています。海のない内陸部でも、河川・湖の環境保護活動が巡り巡って海洋資源を守るでしょう。
【参考資料】
今、知っておきたい海洋ごみの実情|日本財団
海洋ごみって何?|海洋ごみポータルサイト
東京都に本社を置く「アビームコンサルティング株式会社」は、2007年から富士山麓の清掃・外来種駆除活動に取り組んでいます。特定NPO法人「富士山クラブ」の活動に参画した環境ボランティアで、2022年度には約300キロものごみを回収しました。
2019年からは、コンサルティング技術を生かして富士山クラブ内の課題解決に向けたプロボノ活動も開始しました。会員情報システムや新人研修内容の選定をはじめ、外国人登山者への啓蒙活動などをサポートしています。
【参考資料】
富士山の自然環境保全|アビームコンサルティング
認定特定非営利活動法人 富士山クラブ
日本各地で問題となっている「外来種」は、富士山麓周辺でも確認されはじめました。2013年の世界文化遺産登録以降、外国人登山者が大幅に増加したことが原因の1つと考えられていて、在来の高山植物への影響が心配されています。
山梨・静岡両県では、外来種対策として市民ボランティアによる駆除活動のほか、種子を取り除くマットの設置、在来植物と外来種の見分け方講座などを行っています。富士山のように地元で愛される山河・動植物の保護活動は、企業の環境ボランティアとしてもおすすめです。
【参考資料】
クラウドファンディングを活用した富士山麓における外来種対策について|山梨県
外来種について(外来植物駆除作戦のご案内)|富士市
企業の環境ボランティアには、さまざまな取り組み方があります。
周辺地域の清掃活動・植樹イベントに参加するほか、主体となって環境活動を運営するのもおすすめです。地元企業や地域住民と共同で行う環境活動は、自社について知ってもらう機会にもなります。
環境ボランティアの魅力は、自社の強みや理想像、また周辺地域の特性などによってさまざまな取り組み方が考えられることです。「この企業だからこそできる」環境活動は、CSR活動としても大きくアピールできます。できることから少しずつ、環境ボランティアの実施を検討してみてください。
(ライター:佐藤 和代)
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