コラムCO2削減再生エネルギー

化石燃料からのダイベストメント 日本・世界の企業事例 

2024.02.23

SDGsが広く周知された近年、企業経営にも環境問題への意識の高さが求められています。世界の投資家・機関投資家の間では化石燃料からのダイベストメント(投資撤退)が盛んになってきました。

事業において化石燃料を多く使用する企業からダイベストメントすることで、温室効果ガスの発生を抑制しようとする動きが世界各国で始まっています。そのようななか、日本では化石燃料からのダイベストメントがあまり進んでいません。なぜでしょうか?

この記事では、国内外のダイベストメント事例を5つご紹介します。日本でダイベストメントが進まない理由や、企業のダイベストメント防止策も解説していますので、合わせてご覧ください。

「ダイベストメント」はSDGs実現への1つの手段

「ダイベストメント(divestment)」は、一般に「投資撤退」と訳されます。海外では企業経営の世界で以前からよく使われていて、自社のメインではない事業・業績がよくない事業を売却することを「ダイベストメント」と呼んできました。

現在の日本で「ダイベストメント」というときは、主に化石燃料を使う事業・企業からの投資撤退を指しています。石油・石炭などの化石燃料を使った火力発電では、温室効果ガスが大量に発生します。火力発電所やその電力を使う企業から投資撤退することで、地球温暖化防止につなげようという投資方針です。

化石燃料からのダイベストメントは、2011年にアメリカ・ペンシルバニア州の学生たちが行ったキャンペーンから始まりました。学生たちはすべての化石燃料からのダイベストメントを大学に求め、その運動がどんどん広がっていったのです。

海外では、LGBTQや障害者への不当な扱いや人種差別を行った企業、またタバコ産業に対してもダイベストメントが行われています。自らが「よくない」と考える事業・企業に資金を与えないことで社会を変える取り組みは、個人レベルでも企業・国家レベルでも今後増加していくでしょう。

【参考資料】
どうやって運動が世界に広がったの?|350 Action

世界的に増加している「エシカル投資」

近年、投資先に地球環境や社会、人権などに配慮した企業を選ぶ「エシカル投資」が増加しています。化石燃料からのダイベストメントも、今までの投資先ではなく別のグッドソーシャルな企業に切り替える「エシカル投資」の一環といえるでしょう。

エシカル投資には、大きく分けて2つの選定基準があります。

  • SRI投資:その企業が倫理的・社会的責任を果たしているか
  • ESG投資:その企業が環境・社会・企業統治に十分配慮しているか

SRI投資の選定基準は、逆にいえば「倫理的・社会的責任を果たしていない企業には投資しない」ということです。この考え方は「ネガティブスクリーニング」と呼ばれます。化石燃料からのダイベストメントは、ネガティブスクリーニングの結果です。

ESG投資の「環境・社会・企業統治に配慮している企業には積極的に投資する」という考え方は「ポジティブスクリーニング」といいます。温室効果ガス削減に向けた企業活動は、「環境(environment)への配慮」として大きなアピールポイントになるでしょう。

【参考資料】
エシカル消費だけじゃない!エシカル投資がすぐわかる解説!|Operation Green

日本が遅れをとっているのはなぜ?

日本で化石燃料からのダイベストメントが進んでいない理由は、再生可能エネルギーが普及しづらい地形にあります。

日本の国土は、およそ3分の2が山地・森林です。起伏に富んだ地形では、太陽光発電パネルや風力発電設備などの設置が難しく、仮に建設できても効率のよい発電がなかなかできません。また、2011年の福島第一原子力発電所の事故を受けて原子力発電のシェアも減少しています。

化石燃料による発電に頼らざるを得ない地理的な理由はあるものの、日本はその化石燃料のうち90%近くを輸入しています。

特に原油はサウジアラビア・アラブ首長国連邦などの中東諸国、そしてロシアからの輸入がほとんどです。政情が不安定な中東地域、ウクライナとの戦争を続けているロシアからの原油供給を安定的に続けていけるかどうか、見通しはつきにくいでしょう。

数百年先の未来にも安定した電力供給を行っていくためには、日本でも化石燃料からのダイベストメントが必要です。さまざまな発電方法を組み合わせた「エネルギーミックス」を目指して、日本でも多様な取り組みが始まっています。

【参考資料】
日本が抱えているエネルギー問題|資源エネルギー庁
なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み|資源エネルギー庁

国内大手銀行によるダイベストメント事例

火力発電所への融資を停止した三菱UFJフィナンシャル・グループ

2019年、三菱UFJフィナンシャル・グループは自社の「MUFG環境・社会ポリシーフレームワーク」を改定し、火力発電事業への融資基準を厳格化した新たな方針を示しました。また、森林・パーム油・鉱業分野の融資は「特に留意が必要な事業」に指定しています。

改定したフレームワークでは、火力発電所の新設・既存施設の拡大事業への融資は「原則として行わない」としています。仮にファイナンスを実施する場合には、その国のエネルギー政策や実情、国際ガイドラインを踏まえたうえで「慎重に検討する」と定めました。

【参考資料】
方針・ガイドライン|三菱UFJフィナンシャル・グループ
「MUFG環境・社会ポリシーフレームワーク」に基づく環境・社会配慮の実現|全国銀行ecoマップ

三井住友トラスト・ホールディングスのサステナビリティ方針

2021年、三井住友トラスト・ホールディングスは「リスクマネジメントの一環」として環境負荷の大きい事業への融資を原則として行わない方針を示しました。「気候変動リスク」が上昇しているという考えのもと、石炭火力発電や森林・パーム油・水力発電事業などへの融資を制限しています。

地球温暖化と度重なる異常気象、さらに近年の「脱炭素」に向けた社会・経済構造の変化は、金融機関にも大きな影響を及ぼします。三井住友トラストの公式HPでは、サステナビリティ方針とリスクマネジメントの内容が公開されています。

【参考資料】
リスクマネジメント|三井住友トラスト・ホールディングス

海外のダイベストメント事例

「スウェーデン教会」のダイベストメントは宗教団体で世界初

「スウェーデン教会」は、世界で初めて化石燃料からのダイベストメントを実施した宗教団体です。2008年から少しずつ石炭火力発電事業から投資を引き上げていき、2014年に完了しました。

スウェーデン教会はヨーロッパの中でも「信仰に基づいた投資活動」を主導している宗教団体で、スウェーデンの人口の半分が所属しています。リベラルな姿勢でも知られていて、2009年に同性カップルの挙式を承認、2017年には聖職者に向けて「性的に中立な言葉を使って神について語る」ことを命じました。

アフリカ初の化石燃料ダイベストメントを行ったケープタウン

南アフリカ共和国の首都・ケープタウンは、南半球の主要都市の中で初めて化石燃料ダイベストメントに取り組んだ都市です。2017年に投資撤退を宣言、2019年には国際サミット「Financing the Future(未来のためのファイナンス)」を開催しました。

南アフリカには、1980年代のアパルトヘイト政策をアメリカのダイベストメントによって覆した歴史があります。政府によって人種隔離政策が行われていた当時、アメリカのおよそ90の都市が南アフリカ政府と関連企業から一斉に投資撤退するキャンペーンを行いました。このダイベストメントによって政府は弱体化し、民主主義の時代を迎えることができたのです。

【参考資料】
【南アフリカ】途上国でもプレゼンスが増すダイベストメント|350 Action

化石燃料関連事業への融資を停止した「欧州投資銀行」

EUの政策金融機関「欧州投資銀行」は、2021年末に石油・ガス関連事業への新規融資を停止しています。方針決定にあたって開かれた会議では、EU諸国のうちフランス・ドイツなど19か国が賛成票を投じました。

一方で、反対・棄権をした国もあります。天然ガス事業を推進したいポーランドなど7か国や、「新たな方針では原子力発電事業が融資対象となる」とオーストリア・ルクセンブルクです。さまざまな考えをもつ国々が「欧州連合」としてどのように歩み寄り、発展していくかが注目されています。

【参考資料】
2020年以降の枠組み:パリ協定|外務省

ダイベストメント防止に向けた企業の動き

再生可能エネルギー発電事業に力を入れる「三井物産」

三井物産株式会社は、発電事業のうち再生可能エネルギー発電の比率を2030年までに30%に引き上げるのを目標にしています。2019年時点では、世界各国で進めている発電事業のうち、再生可能エネルギー発電の割合は15%でした。約10年で割合を倍増させるために、さまざまなソリューションを生み出しています。

2018年には石炭事業にもダイベストメントを図り、発電に用いる「一般炭」の新規資産積み増しを停止しました。また、オーストラリアに保有していた「燃料炭」の鉱山権益を売却するなど、少しずつダイベストメントを進めています。

【参考資料】
脱炭素ソリューション Green&Circular|三井物産株式会社
Environment|三井物産株式会社

高度なサステナビリティ経営を推進する「住友商事」

住友商事は「高度なサステナビリティ経営」を目指し、2020年6月に「6つの重要社会課題」とそれらに対する長期目標を定めました。翌年には具体的なアクションプランを策定、特に「気候変動緩和」に関する取り組みに力を入れています。

2022年には、「2040年代後半までにすべての石炭火力発電から撤退」を明言しました。また、環境に配慮した事業の資金調達に向けて「グリーンファイナンス・フレームワーク」を策定し、集めた資金を再生可能エネルギーでの発電事業や森林事業、5G関連事業へ投資しています。

【参考資料】
重要社会課題と長期・中期目標|住友商事

2030年までの「カーボンニュートラル」を目指す「Apple」

2020年、Apple社は「2030年にはカーボンニュートラルを達成する」と宣言しました。事業としては2020年時点で既に達成しているため、製造サプライチェーン・製品ライフサイクルまで含めたカーボンニュートラルの実現に向けて動き出しています。

2015年の「パリ協定」では約120以上の国・地域が「2050カーボンニュートラル」を目標としましたが、Apple社が目指すのは「20年前倒し」での実現です。公式ホームページのニュースルームでは、温室効果ガス削減への具体的なアクションを公開しています。

【参考資料】
企業独自のカーボン・オフセット!商品・イベント事例と背景|Operation Green
Apple、2030年までにサプライチェーンの 100%カーボンニュートラル達成を約束|Apple

まとめ

ダイベストメントは、企業だからこそできる地球環境への取り組みです。個人レベルでの環境活動ももちろん大切ですが、企業の「化石燃料を使わない」「化石燃料を使う企業からは投資撤退する」という判断は社会全体に大きな影響を与えることができます。

南アフリカのアパルトヘイトへのダイベストメントのように、投資撤退がその国のあり方を変えた事例もあります。化石燃料からのダイベストメントも、多くの企業が実施することでより力をもつのです。
また、自社がダイベストメントを受けないように「サステナビリティ経営」を推進することでもCO2削減を目指せます。地球温暖化防止に向けて、企業・社会全体で取り組んでいきましょう。

(ライター:佐藤 和代)


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