画像:一般社団法人エシカル協会HPより引用
2020年6月18日、未来を創る組織のエコシフトを支援するOperation Green主催のオンライン講座の第5回を行いました!
エコシフトを実践する団体や企業の最前線で事業を推進するトップランナーを講師に迎えて全8回のこの講座の今回の講師は、TBS系「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンターとしてご活躍し、今は一般社団法人エシカル協会代表理事の末吉里花氏。
今回は、私たちの日々の小さな選択の積み重ねで未来を変えることができる「エシカル消費」について教えていただきました!
1.ファストファッションを安く作る背景には、時給12~13円で1日14時間働く、途上国の若い女性がいる。おやつのチョコレートを作る背景には、児童労働でカカオを収穫する、チョコレートの味を知らない西アフリカの子どもたちがいる。私たちの何気ない日々の消費は、地球上のどこかで誰かの人権侵害につながっているかもしれない。
2. エシカル消費とは、社会や地球環境、地域の活性化、そのモノをつくるプロセスに関わる人を配慮した消費のこと。モノの背景がわかり、顔の見える消費。フェアトレード、再生可能・自然エネルギーの利用、地産地消、伝統工芸、省エネ商品など多岐にわたる。
3. 日本のGDPのうち、家計消費は297.1兆円と6割を占める。日々の小さな選択だけど、皆がやらなければ何も変わらず、「小さなことだけどやるんだ!」と思って取り組めば社会は変わる。
今は一般社団法人エシカル協会の代表理事として、エシカルの本質について自ら考え行動し、変化を起こす人々を育むために、「エシカル・コンシェルジュ講座」を全国の企業や自治体、教育機関で登壇し、行政機関とも連携して人々の意識を変える活動に奔走されている末吉さん。
そんな末吉さんも、社会人になったころは「自分さえよければいいと思っていた」と教えてくれました。その意識が変わったのは、TBS系「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンターとして世界の秘境を訪ね、世界は一部の利益や権力のために、多くの立場の弱い人たちや美しい自然が犠牲になっていることを目の当たりにしたから。
そして人生のターニングポイントとなったのが、アフリカの最高峰・キリマンジャロの登頂取材だったそうです。
それは、当時「キリマンジャロの氷河は、地球温暖化の影響で2010~20年の間に完全に溶けてしまう」という科学者たちの発表をうけ、現状を確認するという取材でした。
実際に登頂して、末吉さんは大きなショックを受けました。何故なら氷河は、2004年の時点ですでに本来の1割から2割程度になっていたからです。
地球は1つしかなく、同じ地球上で暮らす日本での生活が、こういうところにも悪い影響を何か及ぼしているのかもしれない。
そう思った末吉さんは居てもたってもいられず、世界で起きているような現実を日本に伝え、そして解決に導くような活動をライフワークにしようと山頂で決心したそうです。
キリマンジャロの麓のタンザニアには、氷河の雪解け水を生活用水にして暮らす人々がいます。氷河がなくなることは、彼らにとっては死活問題です。温室効果ガスの1つ、CO2の日本の排出量は世界5位(外務省)。末吉さんの話を聞いて、日本に住んでいる以上、私たちの暮らしが温室効果ガスをほとんど排出していないタンザニアの人びとの生活を脅かしていることに、誰一人無関係だとは言えないのではないかと思いました。
※参考:キリマンジャロの雪に関する記事「世界水の日:キリマンジャロの雪」(National Geographic)
つい目先に捉われ、忘れてしまいがちですが、経済活動や人間活動の持続可能性は、健康な地球の活動によって支えられています。だからこそ私たちはまず、今気候危機に直面している「私たちの家」である「地球」を守らなければなりません。
そして誰ひとり取り残さないためには、環境問題だけでなく、先進国に住む私たちの「もっと安く手に入れたい」という欲求の犠牲になっている人に思いを巡らせなければなりません。
たとえば世界で1億5200万人の子どもたちが働いている、児童労働問題。日本国内だけに目を向ければ、「関係ない」と思う人もいるかもしれませんが、日本人もこの児童労働問題と密接な関わりがあります。
なぜなら、国内で安く手に入る多くのものが途上国で作られ、その現場では子どもたちが働いているからです。
たとえば、西アフリカではチョコレートの味を知らない子どもたちが、原料となるカカオを収穫しています。
安い洋服の原料となるコットン畑でも、子どもたちが働いています。使用する農薬や殺虫剤の問題もあり、コットン農家やその家族、畑の近くに住む人々などを含む年間2~4万人もが農薬や殺虫剤の被害で命を落としています。
私たちが毎日飲むコーヒーも、途上国の農園では子どもたちがコーヒー豆を収穫しているかもしれません。世界のサッカーボールの7割はパキスタンで生産されていますが、学校にも行けない子どもたちが作っている場合があります。
末吉さんが紹介してくれた、「何気なく消費しているモノの背景」には悲しい事実がたくさんありました。
なかでも悲惨な事実が、1,100人以上が命を失ったバングラデシュのダッカの縫製工場崩壊事故です。ここではファストファッションや世界的なブランドの洋服を下請けで製造しており、亡くなった多くの若い女性の生産者たちは1日14時間、時給12~13円で働いていました。
※参考:バングラデシュのダッカの事故のドキュメンタリー動画(The New York Times)
私たちが消費するモノの背景には、気候危機や人権侵害、貧困問題、生物多様性の損失の問題など、様々な問題がおきています。それらはどこから手を付けていいのかわからない大きな問題ですが、末吉さんは
「知らなければ、『問題』にすらならない。問題は認知して初めて、解決策が導きだせる。だからとても大事なのは、背景を私たちが知ること、知ろうとすること」
と力強く訴えました。
「知ること」が第一歩であり、問題を知ったなら、人間はその良心から行動を変えることができる、とも末吉さんは教えてくれました。その例が、ドイツで行われたあるキャンペーンの動画です。
これは、1枚約240円のTシャツの自動販売機で、コインを投入すると製造過程として、1日14時間労働で時給12~13円働く人たちが映し出されます。その動画が終わり、「あなたはそれでもこのTシャツを買いますか?」というメッセージがでてくると、ほとんどの人は「購入する」ではなく「寄付をする」というボタンを選んだそうです。
日々の消費では、「寄付をする」というボタンはありませんが、私たちはモノやサービスつくられる背景やその影響に配慮した、良心の消費=エシカル消費を選択することができます。
エシカル消費は、実は日々のなかにたくさんあり、このように多岐にわたります。
また、世界にはエシカル消費の認証制度も多数あり、日本でもこのようなマークを目印にエシカル消費を選ぶことができます。
Operation greenが主催するオンライン講座「Stay at home, Eco at home」で紹介してきた、自然電力のエネルギーや、ダイベストメントもエシカル消費。
末吉さんは、
「エシカルはそこに物語があり、モノの背景がわかり、顔の見える消費。ぜひストーリーが気に入ったもの、気になるものを生活の中に取り入れて、マイエシカルを宣言し、それをずっと習慣にしてください!」
と参加者に呼びかけました。
「そんな小さなことをやっても意味があるのか?と思う方もいるかもしれないけれど、意味はあります!皆が『こんな小さなことでは変わらない』と思ってやらなければ何も変わらず、皆が『小さいけどやるんだ!』と思って取り組めば社会を変える力になります!」
と末吉さん。また、「消費」だけでなく、「そもそも消費をしない」という「6R」の視点も大切です。
【6R】
・Refuse:断る。たとえば、レジ袋を要らないといおう!
・Reduce:減らす。これは一番大事。リサイクルできるからといって、たくさん作って消費しているのでは意味がない。
・Repair:修理して使うのも大事。
・Reuse:もう一度使うのも大事。
・Repurpose:別の目的でオシャレに再利用!(アップサイクル)
・Recycle:リサイクルは最後。
この6Rは上から順番に重要で、リサイクルは「最後」。「リサイクルするから、どんどん消費していいというわけではない」と改めて肝に銘じないといけないとしみじみ思いました。
そして最後に末吉さんは、末吉さん自身がこの言葉を胸に活動しているという素敵なメッセージを残してくれました。
「自分の持っているお金の1%を社会のために使う。
もしお金がなければ、自分の持っている時間の1%を社会のために使う。
もし両方とも持っていなければ、自分の心の1%を社会のために使う」
これはお父様から伝えられた言葉だそうです。
参加者からの質問にもありましたが、エシカル商品は適正な価格を生産者に支払っていることから、値段が高いものも多く、それが1つの壁となっています。
「少しでも安く手に入れたい」という「自分さえよければ」という思いからだけではなく、作ってくれた人に思いを寄せて社会のために使うという気持ちでモノを選び消費する機会を、私自身も1つずつ増やしていこうと思いました。
(レポート:Earth Company 小松紀子)
講師プロフィール
一般社団法人エシカル協会 代表理事 末吉里花
慶應義塾大学総合政策学部卒業。TBS系『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターとして世界各地を旅した経験を持つ。日本全国の自治体や企業、教育機関で、エシカル消費の普及を目指し講演を重ねている。著書に『祈る子どもたち』、『はじめてのエシカル』。絵本『じゅんびはいいかい?〜名もなきこざるとエシカルな冒険〜』。消費者庁「倫理的消費」調査研究会委員(’15.5〜’17.3)、東京都消費生活対策審議会委員、日本エシカル推進協議会理事、日本サステナブル・ラベル協会理事、NPO法人FTSN関東顧問、認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパンアドバイザー、損保ジャパン日本興亜環境財団評議員、一般社団法人地域循環共生社会連携協会理事、花王株式会社ESGアドバイザリーボード、新渡戸文化学園NITOBE FUTURE ADVISOR、1%forthe Planetアンバサダー、ピープルツリーアンバサダー、日本ユネスコ国内委員会広報大使。