世界的な廃棄物問題に対し、ごみ処理の対策やリサイクルだけでは環境保護には追いつくことは不可能です。
ごみの処理方法として、燃やす・埋め立てる・リサイクルの3つがあります。
日本は、8割近くも焼却処分に頼っている「焼却大国」です。リサイクル処理も含め、これらの工程で地球温暖化の主な原因となるCO2が大量に排出されています。
そこで生産者・消費者・行政3者が協力し、CO2削減かつ廃棄物を増やさない工夫をしようという背景から、ゼロ・ウェイストに意識を持つ人が年々増えています。
世界各地では100を超える自治体が「ゼロ・ウェイスト宣言」を採択しており、日本では2003年に徳島県上勝町、2008年に福岡県大木町がゼロ・ウェイスト宣言を出しました。以降、奈良県斑鳩町、熊本県水俣市や福岡県みやま市などが続き、ゼロ・ウェイスト宣言をする自治体は増加しています。
この記事では、どこよりも早くゼロ・ウェイスト宣言をし、実践し続けている上勝町のイニシアチブな行動や分別などの事例をご紹介します。
徳島県の山あいに位置し、江戸時代から変わらない棚田や美しい風景が残る上勝町。
四国で一番小さな人口規模の町は、2003年に町内から出るごみをゼロにする目標を掲げ、どこよりも早く「ゼロ・ウェイスト宣言」を打ち出しました。ごみ収集場は町内に1箇所のみ、収集車もありません。
町民自ら家庭で出たごみをゴミステーションに持ち込み、45分別に仕分けるなど徹底した分別をし、ごみを資源へと生まれ変わらせています。
その結果、上勝町は現在約81%のリサイクル率を維持しています。ゼロ・ウェイストへのきっかけや、実現した秘訣を詳しく見ていきましょう。
上勝町は最初から環境意識の高い地域であったわけではありません。
90年代後半までは、小さな焼却炉や家で排出されたごみに火をつけて燃やす「野焼き」が行われており、有害なダイオキシンが大量に排出され県から指導を受けていた地域でした。1997年の廃棄物処理法の改正により、野焼きは続けられなくなり、設置した焼却炉からは基準値以上のダイオキシンが検出され、わずか3年で使用できなくなりました。その際に、財政上の理由から焼却炉を新しくつくるのではなく「燃やすごみを出さないために、徹底した分別で資源に変える」という決断をしたことが、町内ゼロ・ウェイストのきっかけになりました。
上勝町民がごみを分別する場所(ゼロ・ウェイストステーション)には、ごみを13種類45分別するためのボックスが置かれています。
一部を紹介すると、紙類だけでも9分別、プラスチックは6分別、金属類は5分別、ビンでも茶色や透明など4分別、と細かく分けられています。ごみ箱ごとに説明書きが添えられているので、個人が出すごみはいったいどれに振り分けられるかを捨てる前に確認することができます。
つぎに、家庭ごみの3〜4割を占めている生ごみは、町がコンポストや生ごみ処理機の購入費用を補助しており各家庭で堆肥化できる仕組みを作っています。生ごみの含水率は80〜90%で焼却効率が悪く環境負荷も大きいのです。「焼却大国」である日本から、生ごみを減らすだけでも、焼却に使用する化石燃料を減らし、CO2削減にもなり、当然地球温暖化防止に繋がります。
さらにこのゼロ・ウェイストステーションはごみ置き場ならではの嫌な臭いがありません。その大きな理由は、生ごみは回収しないこと、食品の入っていた容器は洗って乾かしてから持ち込むことが決まっているからです。
このようにごみの分別を徹底しリサイクルできる資源として回収することで、輸送と焼却で発生する温室効果ガスも減らすことが可能です。3R(Reduceリデュース・Reuseリユース・Recycleリサイクル)で提言される「混ぜればごみ、分ければ資源」のように、リサイクルに回るものは資源としての価値が生まれます。その結果、平均で古紙類だけで約110万円、金属類も約60万と、立派な資源として収益を得ることができています。
協力してくれている町民へは、経済的に直接還元できるポイントサービス「ちりつも」があります。町民はリサイクル回収として、歯ブラシ、かたい紙芯や紙パック、液体洗剤などの詰め替えパックを分別して捨てると、ポイントがもらえます。溜まったポイントは、トイレットペーパーや台所洗剤などの日用品などさまざまな商品と交換することができます。さらにリサイクル回収だけでなく、町内の食料品店や飲食店にマイ容器を持って行って買い物をしてもポイントが貯まる仕組みになっています。
行政だけでなく、企業などが自主的に行い、趣旨に賛同する町民が参加する回収プログラムもあります。
・上勝中学校:ベルマーク運動としてインクカートリッジの回収
・株式会社日誠産業:出荷用シールの台紙の回収
・ライオン株式会社:テラサイクル回収拠点として、歯ブラシを回収
・花王株式会社:テラサイクル回収拠点として、シャンプーや洗剤類の詰め替えパックの回収
2020年4月、町の中心部にあった旧ゴミステーションが利便性を考えリニューアルされ、上勝町ゼロ・ウェイストセンターが完成しました。町民が唯一ごみを出すことができる場所であり、国内外からの視察先、企業のテレワークや研修先、修学旅行先としても選ばれています。
施設・敷地内には、まだ使えるけれど不要なものを無料で持ち込み、持ち帰れる循環型コミュニティスペース「くるくるショップ」や、企業・ホテル宿泊者が利用できるオフィスラボ、貸し切り可能なホールなどが入っています。
さらに、併設されている宿泊体験型ホテル「HOTEL WHY」では、滞在中に出たごみがどのようにリサイクルされるかを学び、使い捨てアメニティが用意されていない代わりに、必要な分だけの石鹸を切り分けて提供するなどのゼロ・ウェイストアクションを体験することができます。
ここは上勝町をゼロ・ウェイストタウンとして世界に向け発信する、町民の中心的な存在であると言えます。
約81%のリサイクル率を達成している上勝町ですが、もちろんまだ「焼却・埋め立てごみ」として処分されてしまう資源が約20%あることは事実です。それは、町民と行政の協力だけでは解決できない問題です。
ごみ問題の解決には、最終的に捨てる消費者だけではなく、生産の段階でかかわる生産者を巻き込む必要があります。上勝町では町内の事業者だけでなく、様々な企業とも連携を推進しています。
2016年より、上勝町で「RecyCreation(リサイクリエーション)」という社会実験を行っています。「洗剤類の詰め替えパック」を個別回収し、リサイクル再生樹脂でブロックを作っています。「おかえりブロック」は上勝町に形を変えて戻り、子どもたちにごみの資源化を体感してもらう教材として親しまれています。
徳島県内にある日誠産業では、難再生古紙のリサイクルに挑戦し、独自の技術によってアルミ付き紙パックは2012年から分別回収ができるようになりました。
2023年5月29日に締結された、「ボトル to ボトルリサイクル」はサステナブルな循環型社会の実現に貢献することを目的とした包括連携協定です。来年4月から、町内で分別回収された使用済みペットボトルは、すべてリサイクル事業社で新しいペットボトルに生まれ変わり、サントリーの飲料製造に使用される計画です。
上勝町はこれまでもペットボトル分別回収に尽力をしてきたものの、全てが新しいペットボトルに再生されることはなく、焼却されてしまうものもありました。この取り組みは、上勝町のリサイクル率を高め、よりゼロ・ウェイストに近づく大きな一歩になります。
わたしたち人間以外、ごみや産業廃棄物を出すことはありません。地球環境の持続可能性のために、CO2を含めた一方的な排出を改め、循環を一番に考えることが必要な時代になりました。
そんな時代に、上勝町の「ゼロ・ウェイスト」の取り組みは、価値ある参考事例として国内外から注目を集めています。なによりも町民の方の大きな理解と志があったからこそ、20年経った今、大きな結果として残っています。
サステナブルな循環型社会実現という目標の大きな一歩のために、世界的な広がりを見せる地域レベルでの取り組みに目を向けてみましょう。
〈参考資料〉
地域脱炭素とは – 脱炭素地域づくり支援サイト|環境省
地域脱炭素ロードマップ 概要|国・地方脱炭素実現会議
ゼロ・ウェイストタウン上勝 | ZERO WASTE TOWN Kamikatsu
ちりつもポイントキャンペーン | ZERO WASTE TOWN Kamikatsu
上勝町 ゼロ・ウェイストセンター WHY
ゼロ・ウェイストアクションホテル “HOTEL WHY”
ごみの話|環境省
生ごみ焼却ゼロプラットフォーム
(株)日誠産業
花王 | 徳島県上勝町で「リサイクリエーション」を実施
SUNTORYと水平リサイクルに関する協定を締結 | ZERO WASTE TOWN Kamikatsu
(ライター:井尻 水晶)
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