気候変動の問題に対する世界規模の取り組みであるネットゼロやカーボンオフセット。
2015年のパリ協定にて、CO2削減に対する国単位での活動が始まって以降、利益の向上を中心とした事業から、水質悪化を防ぐ商品の開発や、CO2を出さないシステム転換といった、環境に配慮した取り組みが行われるようになってきました。
そして、日本の環境省が「SBT」への加入や「RE100」に公的機関として世界初のアンバサダーになってからは、賛同した多くの有名企業や大企業が参加し、「ネットゼロを目指して各々の企業がCO2削減に挑戦する」と宣言しました。
このように、大企業がネットゼロ宣言したことにより社会にどんな影響があったのか、ネットゼロのために大企業が行っていること、さらに現在の日本のネットゼロ達成率についてまとめましたのでご覧ください。
2015年のパリ協定以降、ネットゼロへの目標達成のために様々な経営戦略や詳細な指針が国際的に決定していきました。気候変動に対応した経営戦略の開示(TCFD)や脱炭素に向けた目標設定(SBT、RE100)などを通じ、脱炭素経営に現在必死に取り組んでいます。
石油・ガス、自動車、航空など、これまで大量のCO2を排出してきた業界の大手企業が、脱炭素化への迅速な移行を目標としたことは大きな前進となり、国際的なESG投資の潮流の中で、自らの企業価値の向上につながることが期待できます。
現在、日本の有名な大企業が続々とネットゼロ宣言を出し、それに向けた事業を展開しています。そもそも、ネットゼロとはカーボンニュートラルと似た意味で使用されている言葉で、”温室効果ガスの排出量を可能な限りゼロに近づける”政策です。
※この場合の”ネット”は『正味:余分なものを取り除いた物の本当の中身・実質的な数量』を意味します。
下の図にもあるように、森林の木々によって再吸収・除去できる程度内で温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンガスなど)を発生させても良いと言い換えることもできます。
(画像引用元:広報パンフレット|資源エネルギー庁)
経済の中心に近い場所にいる大企業がCO2削減への事業転換に前のめりであることは、
など、日本の気候変動問題への取り組みに繋がることは間違いないでしょう。
国際的な気候変動問題に対する指針や行動目標を提示したTCFDやイニシアチブ(構想)を示したSBT・RE100など、企業が参考にしている行動目標について詳しくまとめました。
気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)は気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するために設立された機構です。
2023年1月時点では日本では1,199の企業・機関が賛同の意を示しています。2017年6月に最終報告書を公表し、企業等に対し、気候変動関連リスク、及び機会に関する下記の項目について開示することを推奨しています。
TCFD提言に沿った情報開示を行い、気候関連リスク・機会に関する理解が深めることで、管理の強化および適切な情報に基づく戦略の策定が可能となります。TCFDの提言を元にシナリオ分析を活用することで、企業が予想していなかった新たな事業機会とニーズを発見し、戦略を立てられる可能性が飛躍的に高くなります。
SBT(Science Based Targets :科学的根拠に基づく目標)とはパリ協定が求める水準と整合した、5年〜15年先を目標年として企業が設定する温室効果ガス排出削減目標のこと。DP・UNGC・WRI・WWFの4つの機関が共同で運営しています。(2022年2月現在、日本企業154社が認定)
分かりやすく日本企業でいうと、食品会社「味の素」は『Scope1,2を総量で2018年比で2030年までに50%減、Scope3をトン生産量あたり原単位を2018年比2030年までに24%減する』と成約し、SBTの認定を受けることができました。
認定された企業は、削減の実践を行いながら、SBTに進捗を追跡開示し5年に1回は目標を見直しながら、成約した数字を目指します。
SBTの認定を受けることで、CDPで高評価が得られたり投資家・消費者へアピールできたりと様々なメリットがあることから、大企業が続々と参加を宣言しています。
「Renewable Energy 100%」の略称で、事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達することを目標とする国際的イニシアチブを指します。
日本では2022年3月時点で66社の大企業が加盟しました。
推奨されている方法は
〈参考〉
(1)目標:2030年までに店舗使用電力の50%を再生可能エネルギーに切り替え、2050年までに店舗でのCO2排出量をゼロにする。(国内外で約300モール、総合スーパー約630店舗を展開。)
(2)具体的な取り組み:
(1)目標:2050 年に向けた世界の CO2 排出に対する削減インパクトを目指す
(2)具体的な取り組み:
環境省では温室効果ガス削減のための対策として『ネットゼロの基盤となる8つの重点対策』を発表しています。
この中から企業様の中で取り組みやすい対応策に限定してご紹介していきます。
”ネットゼロ”を建築技術で可能にするZEB(ゼブ)とZEH(ゼッチ)が注目されており、企業への導入も推奨されています。
(画像引用元:ZEBとは? 環境省「ZEB PORTAL」 )
ZEBとはNet Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のことです。
オフィスビルや公共施設などの建物の中では人が活動しているため、エネルギー消費量を完全にゼロにすることはできませんが、省エネによって使うエネルギーをへらし、創エネによって使う分のエネルギーをつくることで、エネルギー消費量を正味(ネット)でゼロにすることができます。
一方、ZEHとはNet Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略称で、エネルギー収支をゼロ以下にする家」という意味です。つまり、家庭で使用するエネルギーと、太陽光発電などで創るエネルギーをバランスして、1年間で消費するエネルギーの量を実質的にゼロ以下にする家ということです。
従来よりも高額であることを除けば、新規の建築に取り入れることは比較的容易です。しかし、既存のオフィスやビルなどをZEB化することは簡単ではないでしょう。
既にそこで働く人々や建物を利用している人々がいるため長期の改修工事が困難、既設の設備システムを大きく変えることが困難といった、新築時にはない課題が存在します。
ですが、ZEB化を実現した事例も実は存在しており、新潟県柏崎市が設置する柏崎海洋センターでは、高効率機器・高COP型ヒートポンプ・ペレットストーブなどのエシカルな機器を導入したことで、省エネ率は51%となり、ZEB Ready(省エネ率50%以上75%未満)を達成する見込みです。また、排熱を利用したコージェネレーションシステムにより、年間の一次エネルギー使用量のさらなる削減が期待されています。
(画像出典元:2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討/経済産業省)
住宅からの熱損失の8割は「壁、天井、床、開口部」。そのため、省エネ性能の高いものへの入れ替えが課題になっています。
ZEBの取り組みにて電力を”作る”システムを取り入れることも大切ではありますが、まずは新しいサッシ・ガラス・断熱材に変更し、エアコンの稼働量を減らす省エネ対策から始めることをおすすめします。
ゼロカーボン・ドライブは、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使って発電した電力(再エネ電力)と電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池自動車(FCV)を活用した、走行時のCO2排出量がゼロのドライブです。
CO2排出量が多いガソリンを使用した乗用車が一般的ですが、日本におけるCO2排出量のうち一般家庭の自家用車を含む運輸部門からの排出が17.7%(2020年度)を占めています。
自動車の脱炭素化も温室効果ガスの削減には欠かせませんので、社外への移動や商品の流通のための社用車、通勤に使う社員の車のエコ・ドライブ化も推進していくべきでしょう。
〈参考〉
2015年のパリ協定以降、温室効果ガスを減らす取り組みが世界で行われていますが、目標の2050年まで残すところ27年となってしまいました。
そんな中、国や大企業が先陣をきってネットゼロ宣言を表明されました。そして、経営戦略の開示TCFDや脱炭素に向けた目標設定(SBT、RE100)を軸とした社内改革を開始し、脱炭素化に真摯に向き合われています。
環境省では企業向けに推奨する脱酸素化への後押しや促進のため、脱炭素経営推進ガイドブックを作成したり、脱酸素化に向けた企業向けの勉強会なども開催しています。
「大企業も行っているような、環境破壊を食い止める活動を自社にも取り入れていきたい」という企業様は、オフィスのZEB化やエコドライブなど、身近なところから検討していただけると嬉しいです。
(ライター:堀内 香菜)