コラム働き方改革

「大人の食育」を実践する企業事例3選! 野菜中心の社食へ

2024.10.28

学生の頃、給食や生活科の時間に「食育」を学んだことがある人は多いでしょう。しかし大人になってから「食育」を意識する機会は少なく、いつの間にか食事習慣や栄養バランスが乱れがちになっている人は少なくありません。

しかし、実は社会人にこそ「食育」が必要とする声も多いです。食生活の乱れによる慢性的な健康問題は業務パフォーマンスや生産性にも影響するため、企業を挙げて従業員の食生活を見直すケースも少なくありません。

今回は、野菜中心の社食を導入し、「大人の食育」を実践している企業の事例を紹介します。個人の努力に依存しがちな食生活について、企業単位でどう取り組んでいくか、アイディアを参考にしてみましょう。

社会人にこそ「食育」が必要な理由

まずは、社会人にこそ「食育」が必要な理由を解説します。「子どもの食育」だけでなく、「大人の食育」に意識を向けてみましょう。

生活パターンが多様化して食生活が乱れやすいから

大人になると仕事や家族の都合に合わせて生活パターンが多様化し、食生活が乱れてしまうことが多いです。子どもの頃は「3食しっかり食べて早寝早起きできていた」「栄養バランスに配慮した給食があった」という人でも、大人になると必ずしもその生活スタイルを維持できるとは限りません。

例えば、業務の忙しさに追われてつい昼食を食べずに抜いてしまったり、接待が多くてついアルコールの摂取量が増えてしまったりすることは多いです。また、自分で自分の食事を決められる大人になってからは、大好きなファーストフードを口にする機会が増えた、という人もいるでしょう。夜中の暴飲暴食、欠食、野菜不足など、大人が抱える課題は意外と多いものです。

とはいえ、大人になって代謝や体力が下がった状態で食生活まで乱れてしまうと、肥満や生活習慣病の原因になるので注意しましょう。忙しくてなかなか食事に気を遣う余裕がないからこそ、会社など普段いる場所で食育に励むのが理想です。

生活習慣病が表面化しやすいから

30代40代と年齢を重ねると、長年の食生活による課題が表面化しやすく、健康診断で生活習慣病が発覚することがあります。糖尿病・高血圧症・高脂質症(脂質異常症)・肥満・消化器疾患・骨粗鬆症など、食生活に起因する生活習慣病は少なくありません。生活習慣病は少しずつ進行するため明確な自覚症状が出ないケースも多く、気づいた頃には数値が悪化する恐れもあるので注意しましょう。

「食育」をする最も重要な理由のひとつは、健康維持・増進にあります。従業員に常に健康でいてほしいと考える企業こそ、「大人の食育」にチャレンジしてみましょう。

業務パフォーマンスに影響するから

食事・睡眠・運動など日常的な習慣に基づく慢性的な健康問題がある場合、業務パフォーマンスにも影響します。朝食を抜くことによる集中力低下は業務上のミスやトラブルを呼ぶ原因になりやすく、エネルギー不足による倦怠感や疲労感も生産性の低下を招きます。

なお、慢性的な健康問題による業務パフォーマンス低下は「プレゼンティーズム」とも呼ばれており、深刻な経営課題として語られることが増えています。プレゼンティーズムは、出勤はできているものの慢性的な頭痛・腰痛・胃もたれ・疲労感などによって業務パフォーマンスが低下している状態を指す言葉です。業務パフォーマンスが低下している原因が従業員の食生活にあると見抜くことは難しく、日常的な取り組みが欠かせません。

ワークエンゲージメントに影響するから

食生活の乱れが原因で起きる問題は数多く、「集中力の低下が原因で社内評価が下がった」「生活習慣病の症状が出て定期的に会社を休んで通院しなくてはいけなくなった」など、従業員の実生活にも大きな影響を与えます。社会人になると仕事が家族に影響することも多く、治療費や収入減が家計に与える影響も無視できません。

結果、仕事から得られる活力がなくなり、ワークエンゲージメントも低下します。生産性の低下や離職を招くこともあるので、人材の定着と人材活用を意識したい企業こそ、「大人の食育」に取り組んでいるのです。

企業が「大人の食育」に取り組む実践例

次に、企業が「大人の食育」に取り組む実践例を紹介します。解決したい課題によって実践するべき施策も変化するため、以下を参考にしながら自社の課題を振り返ってみましょう。

野菜中心の社食メニューを提供する

既に社食がある企業であれば、野菜中心の食事になるようメニューを一新してみましょう。肉や炭水化物などボリュームのあるメニューであっても、小鉢に野菜を取り入れるなど彩りと栄養バランスに配慮するのがおすすめです。

冬の季節には暖かい野菜スープを、朝の時間帯には朝食替わりになるフルーツスムージーを導入するなど、工夫できるポイントも多いです。

野菜を取りやすい設置型社食を導入する

設置型社食とは、自社のオフィス内に冷蔵庫・冷凍庫を設置し、そのまま食べられる(または電子レンジなどで簡単に調理できる)食品を提供する新たな社食スタイルです。食堂を設置できるスペースのない中小企業や防火管理者・食堂での調理人員を確保できない企業でも導入しやすく、手軽な社食として広がりました。

設置型社食の強みは、保管する食品がある程度日持ちする点や、栄養バランスに配慮したメニューを社食業者が定期的に配送してくれる点にあります。1品100円から購入できる手軽さも、社内定着を後押しする要素となるでしょう。自社の手間を最小限に抑えて健康経営ができるので、「コンビニでお弁当を買うより健康的」「ランチミーティングしながら手早く食べられる社食でよい」などの実感も得られます。

野菜・果物の配布

無農薬栽培した野菜や果物を従業員に直接配布し、自宅での食事を支援する方法もあります。近年の物価高の影響もあり、「価格が高くなりやすい無農薬野菜・果物は手が届かなくなった」と感じる人も増えているため、生活を支援する施策として導入してもよいでしょう。

特に家庭を持つ従業員比率の多い企業で歓迎されやすく、レシピを添えて提供するなどさまざまな工夫ができます。

レストランチケットの配布

提携するレストランで使えるチケットや宅食サービスの利用券を提供する方法もあります。会社外での食事をお得に整えられる施策としても効果的で、「食育」と「家計支援」を同時に叶えられる一石二鳥の方法と言えるでしょう。外回りの営業職やテレワーク社員の多い企業でも導入しやすく、「オフィス内にいる人しか社食の恩恵を得られない」という不公平も発生しません。

ただし、提携先は野菜を上手に活用しているメニューの多いレストランや、野菜・果物・健康総菜に強い宅食サービスにする必要があります。ファーストフード・ファミリーレストラン・コンビニでは食育効果が薄くなる可能性があるので、提携先の選定に注意しましょう。

セミナーやワークショップの実施

食生活や栄養バランスについて考えるセミナー・ワークショップを開催する方法もあります。ヘルスリテラシー教育としても導入しやすく、自分の生活を振り返る機会を提供できます。各栄養素の役割、5つの食品群、カロリー・塩分・糖分の管理法・理想的な食事のタイミングと頻度、調理方法など、「昔学んだけれど忘れてしまったこと」を取り戻す研修にもなるでしょう。

また、社会人向けの食生活セミナーでは、実生活との両立について学べるのも利点です。一人暮らしでも理想的な食事にする方法や、家族の健康を支える食事づくりなど、大人を対象としたセミナーにできればより実生活との関連をイメージしやすくなります。外部から講師を招いて開催すれば、自社にかかる負担も大きくありません。

「大人の食育」を実践する企業事例

最後に、「大人の食育」を実践する企業事例を紹介します。どのような企業でどのような取り組みをしているのか、参考にしてみましょう。

カロリー・塩分を抑えた食事の提供|株式会社タニタ

株式会社タニタでは、社内食堂でカロリーや塩分を抑えた食事メニューを提供しています。新型コロナウイルスが流行した際は感染予防のためお弁当スタイルでの提供に切り替えるなど、フレキシブルな制度にしているのが特徴です。

タニタでは他にもヘルスリテラシー教育やアプリを使った健康状態の「見える化」にも取り組んでおり、多彩な健康経営施策を打ち出しています。体重計・血圧計など健康モニタリングツールに強い会社ならではの、先進的な取り組みとして注目されています。

【参考資料】
株式会社タニタ「健康経営への取り組み」

内臓脂肪対策に役立つ「スマート和食」の提供|花王株式会社

花王株式会社では、食事の量や満足感を減らすことなく内臓脂肪対策ができる「スマート和食」を提供しています。もともとは従業員向けの施策でしたが、現在はその他の企業・地域・高齢者施設向けにノウハウを提供しているので参考にしてみるとよいでしょう。

「スマート和食」プログラムは、和食の提供だけでなく内臓脂肪測定も同時に実施することで、効果を可視化できるのが特徴です。「ヘルシーな料理では物足りない」「がっつり食べないと体力仕事できるエネルギーにならない」などの課題を抱えている企業でも導入できます。

【参考資料】
KaoみんなのGENKIプロジェクト|しっかり食べて太りにくい「スマート和食」

不規則な食事時間を設置型社食で解消|熊本電気鉄道株式会社

熊本電気鉄道株式会社では、栄養バランスに配慮した総菜を社内で手軽に購入できる設置型社食サービスを導入しています。

元々、業務の性質上どうしても食事時間が不規則になりやすいことが課題であり、手軽に食べられるインスタント食品が重宝される背景がありました。設置型社食の導入で時間を問わずいつでも健康的な食事を口にできるようになり、健康診断の数値改善や食生活の充実などの効果が期待されています。

【参考資料】
熊本電気鉄道、『オフィスおかん』の活用で従業員の健康意識向上 人手不足のバス・鉄道業界における人材定着率向上を目指す
シフト制による多様な勤務体系に健康的な食事支援を!従業員の健康意識の向上を実現

まとめ

忙しさが原因の欠食・アルコールを含む会食機会の増加・乱れがちな食生活による生活習慣病など、食事に起因する社会人の課題は意外と多いものです。「大人の食育」は、自分の食生活を見直しながら生活と無理なく両立できるスタイルにするのが理想であり、企業単位で取り組む重要性が広がっています。

本記事で紹介した企業事例や施策例を参考にしながら、自社で導入できそうなものがないか検討してみましょう。企業側の負担が少なく、かつ従業員にとっても大きなメリットになる制度であれば、社内への定着も早くなります。

(ライター:わたなべ)

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