コラムCO2削減エシカル消費

「野菜中心の食事」を企業で推進するメリットと事例

2024.03.06


近年、日本でも「ヴィーガン」について耳にするようになりました。「ヴィーガン」とは、ベジタリアン(菜食主義)の中でも肉・魚介類や乳製品・卵、はちみつなど動物由来の食品はすべて摂らないとする人たちのことです。「動物を倫理的に扱うべき」という考えのもと、完全菜食主義に取り組んでいます。

日本にはベジタリアン人口が5%、そのうちヴィーガンは1.9%いるといわれています。「菜食主義」とまではいわなくても、健康管理のために野菜を意識的に摂る人や野菜不足を気にする人は多いでしょう。

実は、野菜中心の食事は人間だけでなく地球環境にもよい影響を与えます。この記事では、野菜中心の食事が環境問題・SDGsにどう関わっているのか、推進に取り組む企業の活動事例とともにご紹介します。野菜中心の食事がもたらす企業へのメリットについても解説していますので、合わせてご覧ください。

「野菜中心の食事」とSDGsの関わり

「野菜中心の食事」の推進は、SDGsの達成にも大きく関わっています。たとえば「1:貧困をなくそう」「2:飢餓をゼロに」のような食糧問題は、牧畜にあてる土地・費用を農作物の生産に回せば解決できるとされています。

実は現在、世界では全人口の食糧をまかなうことができる量の農作物が既に生産できています。それでも食糧問題が発生しているのは、農作物のおよそ3割が家畜のえさとして使われているからです。食肉を生産するには大量の飼料が必要なうえ、その飼料を育てるために広大な土地が使われます。肉の消費量を抑えることで、これらの土地・資源を農作物の生産にあてられると考えられています。

また、ベジタリアンやヴィーガンなど「食の多様性」を認めることは「10:人や国の不平等をなくそう」につながっています。世界中の国々にはそれぞれさまざまな食文化があり、また信仰や体質・アレルギーなどによっても食べられるもの・食べられないものは異なります。人々が自由にさまざまな国を行き来するようになっている現代では「食の多様性」への対応が必要です。

【参考資料】
SDGs×食品産業|農林水産省

「畜産環境問題」とは


野菜中心の食事は「畜産環境問題」によい影響を与えます。SDGsでは「13:気候変動に具体的な対策を」「15:陸の豊かさも守ろう」と関連します。

現代の畜産業は、地球環境に大きな影響を与えています。近年「家畜のげっぷからメタンガスが発生している」と話題になりましたが、家畜の排泄物も処理が不適切であれば水質汚染につながります。家畜をより丈夫に、また美味しく食べられるものにするために投与される抗生物質・ホルモン剤なども水質汚染の原因です。

家畜に与える飼料を育てる土地を確保するための森林伐採は、地球温暖化の一因になっています。飼料に使用される化学肥料や除草剤、農薬による水質汚染・土壌劣化も深刻です。

また、生物多様性も失われています。地球上の生物のうち野生動物は4%しかいないのに対し、家畜は約60%を占めていて大きく偏っています。人間の割合は36%であることからも、家畜が多すぎることが分かるでしょう。

肉食を減らし、野菜中心の食生活に切り替えることで間接的に家畜を減らすことができます。1人ひとりの食事量から考えると微々たるものと思えるかもしれませんが、企業全体で取り組めば「食べなかった肉の量」は確実に増えます。その取組が地域社会に大きなムーブメントを生むかもしれません。企業が取り組む環境活動には大きな力があるのです。

【参考資料】
畜産環境問題とは|農林水産省
牛のゲップだけじゃない。肉の大量消費が引き起こす10の環境問題まとめ|GREENPEACE

企業にとってメリットも

野菜中心の食事の推進は、企業にもメリットがあります。

いま、社員の健康管理を経営戦略とする「健康経営」が注目を集めています。社員の健康への投資が、業務パフォーマンスの向上、そして、業績や株価といった企業価値の向上につながると期待されているのです。

実際、社員の健康と企業の営業利益には強い関連性があることがわかっています。社員食堂などで野菜中心のメニューを提供すれば、社員の健康管理に携われます。

また、多くの野菜・果実は肉や魚介類より安価なので、節約にもなります。

さらに、従業員の多様性に配慮できるのも大きなポイントです。グローバル化が進む現代、さまざまな国籍・宗教の人が働いている企業も多いでしょう。また、健康を意識してベジタリアンになる人や動物愛護のためにヴィーガン食に取り組む人も増えています。さまざまな従業員に配慮する先進的な姿勢は、意識の高い就活生・求職者へのアピールになるはずです。

【参考資料】
宗教別・信念|東京都 多言語メニュー作成支援ウェブサイト
健康経営(METI/経済産業省)
健康経営と企業の業績の関連性

社員食堂で「野菜中心の食事」を推進する企業事例

「日本マイクロソフト」は野菜ソムリエ認定の社員食堂をオープン

東京都港区の「日本マイクロソフト株式会社」は、2014年に日本初の「野菜ソムリエ」認定社員食堂「One Microsoft Café」をオープンしました。マイクロソフト社の「One Microsoft Café」は2011年から「エームサービス株式会社」に運営を委託している社員食堂で、野菜ソムリエの認定を受けてリニューアルオープンした形です。

「One Microsoft Café」は、開店当初から社員の健康増進に力を入れていて「旬の野菜がたくさん摂れる」と高い評価を得ていました。2012年には社食メニューのレシピ本も発売、このような取組が評価されて「日本野菜ソムリエ協会認定レストラン」の登録に至りました。

リニューアル後は、管理栄養士監修の1日に必要な野菜量の3分の2が摂れるランチボックス「Vege Box」などより多くの野菜が摂れるメニューが登場しています。また、社員食堂で提供している野菜・果物を社員に格安で販売する野菜持ち帰りシステム「Vege to Go」も導入されました。野菜中心の食生活を積極的に推進している企業です。

【参考資料】
日本マイクロソフト「One Microsoft Café」日本野菜ソムリエ協会 認定レストランとして本日よりリニューアルオープン|Microsoft
日本野菜ソムリエ協会認定レストランとは

「JA全農」は福利厚生として「オフィスで野菜」を導入

東京都千代田区に本部を置く「JA全農」では、昼食にワンコインで野菜をプラス1品できるサービス「OFFICE DE YASAI(オフィスで野菜)」を導入しました。このサービスは「株式会社KOMPEITO」が2015年から提供しているもので、オフィスに設置した冷蔵庫に配達されるサラダ・カットフルーツなどを社員が格安で購入できるシステムです。

JA全農は高層ビルの34階にあるため下の階や屋外のレストラン・カフェに行きづらく、以前は昼食をカップ麺などで簡単に済ませる社員が多数いました。「OFFICE DE YASAI」では、ワンコインでパワーサラダやフルーツを購入できるため「手軽に栄養バランスのよい食事を摂れる」と好評です。KOMPEITOでは、サラダの自動販売機やリモートワークの社員にスムージーを届けるサービスなども展開しています。

【参考資料】
「OFFICE DE YASAI」を展開する株式会社KOMPEITOインタビュー|JA全農
「JA全農」の導入事例|OFFICE DE YASAI

「日本精機」は野菜が豊富な「ウェルネスランチ」を開発

新潟県長岡市の「日本精機株式会社」の社員食堂では、2019年から野菜を豊富に使用した「ウェルネスランチ」を提供しています。「食べることで自然と健康になれる」をコンセプトに、1日に必要な野菜摂取量の半分以上が摂れるメニューを開発しました。

日本精機の「ウェルネスランチ」には、「1日に必要なタンパク質の3分の1以上が摂れる」「塩分3グラム未満」「700キロカロリー以下」などさまざまな規定があります。この取組が評価され、2019年には「第8回健康寿命をのばそう!アワード」で「厚生労働省健康局長優良賞」を受賞しました。

また、地元・新潟県の企業とコラボメニューも開発しています。たとえば「ベジそぼろ丼」は、亀田製菓グループの「大豆と玄米のベジミンチ」を使用したメニューです。日本精機の取組から、地域を巻き込んだ「野菜中心の食事」推進の動きが生まれています。

【参考資料】
NS健康白書 2023|日本精機
社員食堂でのSDGs・健康経営メニュー『ベジそぼろ丼』(亀田製菓グループ「大豆と玄米のベジミンチ」使用)/取組みが、報道ニュースに取材されました|日本精機

総合商社「丸紅」は社食で「サステナブルフードDAYs」を開催

東京都の総合商社「丸紅株式会社」の社員食堂では、2022年から期間限定で「サステナブルフードDAYs」を開催しています。自社で取り扱っている商品のうち、サステナブルフードを使ったメニューを提供する4日間のイベントです。

2022年には2回行われ、「大豆ミート」のロコモコ丼やとんかつ、ツナサンドなどが提供されました。また、デンマークのサステナブルな養殖業の鮭・いくらを使った「はらこ飯」など、野菜食ではないサステナブルメニューも考案されています。

第2回では、食材の「カーボンフットプリント」をメニューに表記するという日本初の試みも実施されました。一般社団法人「サステナブル経営推進機構」との共同研究によるもので、定番メニューについてはイベント後も表記を続け、環境に対する社員の意識・行動の変化を調査しています。

【参考資料】
食料第一本部|丸紅株式会社
【SuMPO・丸紅】食品メニューのカーボンフットプリント表示と消費行動変容の調査について|一般社団法人サステナブル経営推進機構

「ニッコクトラスト」は「ミートフリーマンデー」に参加

給食会社「株式会社ニッコクトラスト」では、2018年から各支社の社員食堂で「週1ベジメニュー」に取り組んでいます。世界的には「Meat Free Monday」と呼ばれるキャンペーンで、ミュージシャンのポール・マッカートニーが提唱している「週1日の野菜食」の推進活動です。

同社は事業としても野菜食の提供を行っています。2017年には、受託運営する内閣府食堂で毎週⾦曜⽇にベジタリアン・ヴィーガンメニューの提供を始めました。現在では⾸都圏の企業を中⼼に、要望に合わせたペースでベジメニューを継続提供しています。

近年では事業で使用する食材を植物性のものへ切り替えることで、温室効果ガス削減にも取り組んでいます。2020年には100トン、2021年には110トンのCO2を削減するなど着実に成果を上げている取組です。

【参考資料】
ビーガンメニューの社員食堂|ニッコクトラスト
総合給食会社「ニッコクトラスト」、ベジへの取り組み本格化|ミートフリーマンデーオールジャパン

まとめ

野菜中心の食事がなぜ環境によいか、企業の推進事例とともにご紹介しました。

ご紹介した企業の中には、環境保護ではなく社員の健康増進を目的として野菜食に取り組んでいる企業もあります。従業員の健康管理にも役立ち、結果的に環境問題にもよい影響を与えるのであればメリットが多いはずです。

また野菜中心の食事の推進は、宗教的に肉食が禁止されている人や動物愛護・倫理、健康意識など個人のポリシーとして菜食主義を行っている人など、さまざまな背景をもつ社員への配慮にもつながります。人々の多様性を受け入れ、それぞれが働きやすい企業の創造が求められる現在、少しずつ「食」から変革を起こしてみてはいかがでしょうか。

(ライター:佐藤 和代)

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