コラムCO2削減リジェネラティブ

「リジェネラティブ」とは?サステナブルを超える企業の取組 

2025.02.06


近年、サステナビリティへ向けたさまざまな実践のなかで、環境問題を解決する手法として「リジェネラティブ」という言葉が大きな注目を集めています。

「リジェネラティブ」とは「再生型」を意味する言葉。できる限り環境負荷をなくし、地球で人間が暮らしていけることを目指す「サステナブル」に対し、「リジェネラティブ」は、自然を回復・復興・再生させていくこと、積極的に環境をよくしていくことを指します

「リジェネラティブ」な取り組みとは、どのようなものなのでしょうか? 今回は、リジェネラティブな調達に取り組む企業事例を取り上げながら、リジェネラティブについての理解を深めていきます。

気候変動の解決策「リジェネラティブ農業」

リジェネラティブを理解するうえで欠かせないのが、「リジェネラティブ農業」の取り組みです。「リジェネラティブ農業」は「環境再生型農業」とも呼ばれ、土壌を修復・改善して、自然環境の回復につなげることを目指しています。具体的な手法として、土を耕さずに農作物を栽培する「不耕起栽培」などが挙げられます。

土壌は、健康であればあるほど多くの炭素を吸収(隔離)することから、リジェネラティブ農業は大気中のCO2を減らし、気候変動を抑制する効果的な手法として期待されています。

世界の温室効果ガス排出量の内、およそ4分の1を占めるのが「農業」。そのため、炭素を吸収(隔離)するリジェネラティブ農業が気候変動に対する大きな解決策になり得るのです。

リジェネラティブな取り組みに積極的な企業としてこのあと取り上げるパタゴニアでは、「現存の農地が環境再生型有機農業に移行すれば、世界中の毎年の二酸化炭素排出量の100%を土壌に隔離することができる」という「ロデール・インスティチュート」の研究者による予測(2014年)を公表しています。

【参考資料】
リジェネラティブ・オーガニック認証発表|パタゴニア
リジェネラティブ農業(環境再生型農業)とは・意味|IDEAS FOR GOOD

リジェネラティブなビジネスにメリットはあるのか?

リジェネラティブなビジネスとして、リジェネラティブ農業による調達に取り組む企業が加速しています。

今まで以上にトレーサビリティが確保されたエシカルな商品への消費者ニーズが高まっているなか、企業がリジェネラティブ農業によって生産された原材料の調達に取り組めば、気候変動への対策や温室効果ガスの排出削減にもつなげられます。

自社工場での製造だけでなくサプライチェーン全体の気候変動対策になることから炭素を吸収(隔離)する“脱炭素型”のリジェネラティブ農業による調達は、大きなメリットがあるといえるでしょう。

【参考資料】
環境再生型農業をビジネスに取り入れるメリットとは|サステナブル・ブランド ジャパン

「リジェネラティブ」を実践する企業事例3選

リジェネラティブ農業によるコットン製品や食品を幅広く展開|パタゴニア

アメリカ発祥のアウトドアブランドであるパタゴニアでは、長年従来農法とオーガニック農法を比較・研究してきた「ロデール・インスティテュート」とオーガニック石鹸のメーカーである「ドクターブロナー」を含む複数の団体と協同で「リジェネラティブ・オーガニック・アライアンス」を設立しました。

米国の認証機関「NSFインターナショナル」が管理機関となり、リジェネラティブ・オーガニック・アライアンスとともに「リジェネラティブ・オーガニック認証」が立ち上げられています。

パタゴニアは「リジェネラティブ・オーガニック認証」に基づいて作られたコットンを、一部の製品に使用しています。

1996年からコットン製品に100%オーガニックのバージン・コットンのみを使用し、トレーサビリティに積極的な姿勢を見せていた同社は、その後、リジェネラティブ・オーガニック認証を実践してコットンを育てる農家を支援しはじめました。オーガニック、不耕起、省耕起などの方法を優先的に取り入れて健全な土壌を育成し、人間と動物の福祉を尊重するものです。

2018年にはインドの150以上の農家と協働で、リジェネラティブ・オーガニック認証に基づき試験プログラムで栽培されたコットンを初めて収穫。2022年春に、リジェネラティブ・オーガニック・サーティファイド・コットン製品を販売しました。

このプログラムで利益を得ながらコットンと食物を育てる農家の数は、2,000以上にのぼります。

また、パタゴニアでは食品事業を通じて地球環境の改善へ挑む「パタゴニア プロビジョンズ」を展開。“私たちの食べるものはすべて地球に影響を与える。だからこそ、私たちは土壌と水を再生させる食品を約束する”という思いが込められています。

「パタゴニア プロビジョンズ」では、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)のもと、不耕起有機栽培により育てられた国産大豆を使用した「オーガニック味噌」や、環境修復型の農法により育てられた原料を使って伝統的な技法で発酵させた日本酒などを扱います。

【参考資料】
パタゴニア プロビジョンズ|パタゴニア
リジェネラティブ・オーガニック・サーティファイド・プログラム|パタゴニア

2030年には50%をリジェネラティブ農業により調達|ネスレ

世界的なコーヒーブランドであるネスレは、2025年までに主要な原材料の20%をリジェネラティブ農業により調達。さらに2030年までに、50%をリジェネラティブ農業により調達することを目標としています。

土壌の健康を回復させると同時に、CO2など温室効果ガス排出量を削減し、気候変動による影響を減らそうと積極的に取り組んでいます。2050年までにコーヒー豆栽培に適した土地が約50%減少するという予測(米州開発銀行による)があり、すでに世界中の多くのコーヒー農家が、異常気象によって、収穫物に影響を受けているためです。

リジェネラティブ農法による調達は、小麦やココアなど一部で開始され、コーヒー農家がリジェネラティブ農法へ移行支援する取り組みも始まりました。

2022年には、再生農法についての生産者研修を実施。対象になった生産者は14カ国、10万人以上にのぼります。さらに病気や干ばつに強く、収量が高いコーヒーの苗木を2,300万本配り、コーヒー畑の再生や生産性の向上、農薬の使用減の支援を実施しています。

【参考資料】
「ネスカフェ プラン2030」、生産者の再生農法への移行が進む|ネスレ日本株式会社
ネスレが持続可能なコーヒー栽培に向け新たな取り組み――インドネシアで気候保険を提供|サステナブル・ブランド ジャパン

リジェネラティブな調達に注力|ラッシュ

ラッシュの代表的な取り組みに「リジェネラティブ・バイイング」が挙げられます。原材料の購買を通して、社会や環境に対して再⽣的な活動ができないか、と2016年から少しずつ始まった取り組みです。

マイナスをゼロにしながら、持続可能な方法を追求する「サステナビリティ」という考え方では十分ではなく、この地球をよりみずみずしく、豊かな状態にするためにはゼロからプラスを生み出していく行動が必要であり、それこそがリジェネラティブが意味する行動だと捉えています。

インドネシアのスマトラ島では、多くの⽣き物が暮らしていた⼟地だったにも関わらず、パーム油の一大産業を目的に森林が伐採され、アブラヤシの単一栽培により生態系が崩れたほか、密猟者や違法伐採者により多くの動物が絶滅の危機に直面している状況でした。

そこで、パーマカルチャーによって倒れかけている松の⽊を取り払い堆肥化させ、⼟壌再⽣を始めたところ、⾒違えるほど作物の発育が進みました。今では、植物が成⻑する上で必要不可⽋な窒素を固定する植物であるバニラや、レモングラス、パチョリ、シトロネラを育てていて、原材料の一つであるスマトラダークパチョリオイルは、こうした取り組みの結果、調達が実現した原材料です。

「リジェネラティブ・バイイング」では、森林伐採の防止や農地再生で大気中のCO2を削減するだけでなく、豊かな生態系の復元を目指している点も特徴です。

例えば、日本の里山と生物多様性の再生を目指す「渡り鳥プロジェクト – サシバを追え!」では全国各地の里山から調達した米粉や米ぬかを製品に取り入れたり、原発事故の被害を受けた福島県南相馬市で農地とコミュニティの再生のために生産され始めた菜種から採取した油を石鹸に使用したりと、環境再生への大きなアクションを起こしています。

【参考資料】
生物多様性にポジティブな影響を与える|ラッシュジャパン合同会社
スマトラのガヨ・パーマカルチャーセンターと持続可能な農法|ラッシュジャパン合同会社

環境再生はまだ始まったばかり。現状はリジェネラティブな取り組みへの答えはまだなく、これから探していく必要があります。いま大切にしたいのは、リジェネラティブの考え方を取り入て、実践を重ねていくことです。

リジェネラティブ農業のように、土壌の改善や温室効果ガス削減の促進、生態系の回復など、環境再生というポジティブなアクションが、地球環境にいい影響を及ぼすと期待しています。

(ライター:藤野あずさ)

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