子どもの晴れやかな進学をお祝いする時期が近づく頃、保護者を悩ませるのが「制服・学用品の購入」です。進学費用だけでも一定の金額がかかるうえに、制服や学用品は学校側から指定されることがほとんどで、自前で用意することができないためなかなか節約もできません。
なかには経済的な事情で「冬服のスカートが買えなくて夏服をそのまま転用している」「サイズアウトした制服を使いまわしている」という家庭もあり、深刻な課題となることも。兄弟姉妹で進学先が異なればお下がりもできず、新品購入するしかないのが常でした。
しかし、近年は「制服バンク」として中古の制服・学用品をリユースする手法が広がっています。今回は、環境にもお財布にも優しい「制服バンク」の取り組みについて、学校・自治体での事例を紹介しながら解説します。
制服バンクとは、不要になった制服・学用品を集めて次の利用者に渡す「リユース」の手法です。捨てられる制服を減らすため過剰生産の予防や環境対策につながる他、経済的な事情で制服購入を躊躇う人の支援にもなる手法として注目を集めました。
「制服バンク」という名前で制度を運用している市区町村が多いですが、実際の回収品目は下記の通り多岐に渡ります。
なお、集められた制服・学用品はクリーニング・補修・補正をして次の利用者に渡されるため、一目で中古品であるとわかることはありません。体操着や柔道着の刺繍も丁寧に外して新しい人の名前をつけるので、自分だけのアイテムとして再利用できるのが特徴です。
次に、制服バンクのメリットを解説します。制服を譲る人、次に使う人、学校・市区町村・地域など多彩な視点から見たメリットを解説するのでご参考にしてください。
利用者にとっての大きなメリットとして、制服購入費用を抑えられることが挙げられます。進学先の制服を着た我が子を楽しみにする一方、学校によっては制服や学用品一式を揃えるだけで10万円以上かかるケースが少なくありません。みんなでお揃いの制服を着用する以上、「購入しないわけにはいかない」のが現状で、家庭によっては非常に苦しい出費となるでしょう。
特に私立校の場合、制服だけでなくセーターやジャンパーなど季節用品やバッグ・靴下・ネクタイ・校章まで指定用品で揃えなくてはいけないケースがあります。制服バンクを通して出費を抑えることができれば、その分子どもの進学祝いや家族でのレジャーに使える費用が多くなり、家族にとっても子どもにとってもメリットがあると言えます。
なお、制服バンクで扱う品は、非常に安価な価格で取引されるケースと完全無償で譲渡されるケースとがあり、地域や業者によって異なります。特に学校主導で実施される制服バンクの場合、文化祭や入学説明会を利用したバザー形式で無償譲渡がおこなわれることが多いです。
前述の通り、制服バンクに預けられた品はクリーニングや補修・補正を経て次の利用者に手渡されるため、一目で中古品だと知られることがありません。十分に使える状態で譲渡されるので、子どものコンプレックスを刺激するリスクも防げます。
同様に、「自分の制服を譲渡した(売った)」ということが周りに伝わらないよう、十分な配慮をしている市区町村も多いです。前の使用者の記名は全て外される他、ロッカーや宅配便を使った非対面での譲渡に対応している市区町村・学校もあるのでチェックしてみましょう。
育ち盛りの子どもたちが着用する制服は、あっという間にサイズアウトして小さくなってしまうことが多いです。また、運動部にいてジャージや体操着の汚れが激しくなったり、頻繁な洗濯が間に合わなくて保護者が困ったりすることも多いもの。制服バンクは洗い替えやサイズアウト対策としても有効で、家庭に合った活用法があります。
「普段使う制服スカートは短く切ってしまったけれど、フォーマルイベントや進学面接用に1日だけ使える標準丈のスカートを追加で購入したい」
「あっという間に身長が伸びて制服がパツパツになってしまったが、卒業まであと半年なのでなんとか我慢してほしい」
というシーンで制服バンクの利用を検討してもよいでしょう。子どもの好みや体格に合わせたジャストサイズの制服を使いつつ、お財布の負担も抑えられる理想的な手法として確立しています。
制服や学用品は思い出の詰まったアイテムで、卒業したからといってすぐに捨てられない家庭も多いです。とはいえ、ずっと保管しておいても箪笥の肥やしになるだけで、「捨てるに捨てられない」状態になった経験のある人もいるでしょう。
制服バンクは思い出を次の人に引き継げる手法でもあり、「捨てるのは忍びないけれど次の人の役に立つなら」と手放す決意をする人も増えています。市区町村や学校が手掛けている制服バンクであれば譲った制服が悪用されてしまうリスクもなく、安心・安全に引き継げるのも魅力です。
制服リユースは基本的に無償での寄付・譲渡となることが大半ですが、地域やサービスによっては卒業生から制服を買い取るケースがあります。子どもの卒業を祝うちょっとしたお小遣いにすることも、家計が苦しい家庭が制服を手放して生活費にすることもできるため、ただ寄付を募るより積極的に協力してもらえるのがメリットです。
また、金銭だけでなく学校オリジナルグッズや新しい学用品と制服と交換する方法もあります。学校の校章やキャラクターが印字されたパスケース等であれば、卒業の記念品としても使えるでしょう。ボールペンやノートなど、日常使いしやすく、かつ制服リユースの運営費用を大きく圧迫しない小さなプレゼントも、寄付を呼び掛けるきっかけとして使えます。
制服バンクは、ごみ削減・過剰生産予防など環境対策になるのもメリットです。通常、捨てられた制服は燃えるゴミとしてそのまま焼却処分されてしまいます。制服バンクを経由してリユース・リサイクルできれば、無駄な焼却をなくしてCO2排出量を削減できます。「大量に作って大量に捨てる」というモデルから脱却できるので、環境対策の一環として積極的に制服バンクを薦める学校も出てきました。
自分の何気ない行動が、家庭のためにも環境のためにもなると思えば、制服バンクの意義も実感できそうです。
ここでは、制服バンクを実施している市区町村・学校の事例を紹介します。市区町村が主導して地域の制服を幅広く集めているケースもあれば、自校のアイテムだけを対象に学内バザーや入学説明会で公開している学校もあるので、運用手法の参考にしてみましょう。
NPO制服バンク福岡では、福岡市内で制服バンクの活動を実施しています。卒業後概ね3年以内の制服やブラウスなどを対象としており、文房具・肌着・上靴等は新品に限定しているのが特徴。使わなくなった制服だけでなく、「予備に買っておいたが使わないまま卒業してしまった上履き」なども回収・利用できるのがメリットです。
なお、市区町村と協力して福岡県内各所で回収をしているのもポイントです。例えば、福岡市東区内の公民館、小倉南区内の市民センター、北九州市母子寡婦福祉会など公的施設を回収場所とすることで安全性をアピールできるようになりました。その他、市内各地にある学生服リユースショップやスーパーなど、地域に根差す店舗での回収も広がっています。
【参考資料】
千葉県市川市では、社会福祉法人市川市社会福祉協議会と地域のリユースショップ「ゆずりばいちかわ」が協力して制服バンクを運営しています。社会福祉協議会では提供(試着)場所の提供や回収ステーションの拡充を、ゆずりばいちかわでは回収された制服等のメンテナンスや修理を主に担当しているのがポイント。後援に市川市PTA連絡協議会や地域学校共同活動推進員などもついており、必要としている学生への無償提供が進んでいます。
また、中学・高校だけでなく幼稚園の制服や小学生のランドセルなども回収対象としている他、制服リメイクなども受け付けているのが特徴です。制服リメイクを依頼すると、自分の制服がぬいぐるみサイズの小さな制服となって戻ってくるので、「譲るのではなくコンパクトにして手元に置いておきたい」というニーズにこたえています。
【参考資料】
社会福祉法人市川市社会福祉協議会|いちかわ制服バンク
学生服・学用品リユースSHOPゆずりばいちかわ
佐賀県唐津市では、一般社団法人「こねくとnet」による制服譲渡がおこなわれています。「地域の子どもたちが進学を諦めなくてよい社会を実現するために」をスローガンに活動しており、公式HP上には「唐津東高校の体操服(赤)を探しています」「【急募】肥前中学校の女子 制服 Mサイズを探しています」など寄付を募る情報が定期的に更新されているのが特徴です。進学先が決まったらすぐに問い合わせすることができ、万が一在庫が足りなければ寄付を呼び掛けてもらえます。
同時に、寄贈された品についてもクリーニング後の写真つきで紹介されているので、寄贈した側にとっても嬉しいサービスと言えるでしょう。大切に扱ってくれるのがわかるようなサービスで、環境保全と家庭支援を同時に叶えていることがわかります。
【参考資料】
こねくとnet|唐津市の学生服バンク
制服バンクは、環境にもお財布にも優しい手法として注目されています。安全な回収・譲渡や使用者である子どもたちへの配慮もされているサービスであり、進学説明会等で紹介する学校も増えました。
本記事で紹介した内容を参考にしながら、制服リユースの取り組みを検討してみましょう。地域の各所に回収ステーションが設置されている市区町村もあるため、自校エリア以外の取り組みを参考にしてみるのもおすすめです。
(ライター:わたなべ)
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