エコスクール廃棄物水質保全

海洋プラスチックごみ削減のための学校での取り組み!生徒がすぐに実践できる方法は?

2022.12.14

海を漂う海洋プラスチックごみが人や環境にダメージを与え、危機的状況に陥っているのは有名な話ですよね。不法投棄などにより流されたプラスチックが溢れかえり、海岸に打ち上げられている様子などをメディアを通して見た方も多くいらっしゃることでしょう。

しかし、海に人工物のごみが漂流していることは”良くないこと”という認識はあれど、具体的に海洋プラスチックごみがどのように環境や人を含む生物に被害をもたらしているかを正確に説明できる方は意外と少ないようです。

そこで今回は今一度、認識しておきたい海洋プラスチックの環境被害について、以下のことをまとめました。

  • ・2022年現在のプラスチックごみの被害状況
  • ・どのように環境に負担をかけてしまうのか
  • ・近年、中学や高校で実施されている海洋プラスチック削減についての取り組み

環境に対して最善の生活や活動をしていく上で大切なポイントなども集約していますので、ぜひご覧ください。

1.2022年の海洋プラスチックの被害状況

(画像出典元:海洋プラスチック問題について |WWFジャパン

 

世界では今、海に流され漂流するプラスチックごみが、年間で数百万トンあると推計されています。そして、このままでは2050年までに魚の重量を上回る量のプラスチックごみが海洋を占めるとまで言われています。「そんなまさか」と思ってしまう量ですが、我々が気を引き締めてこの自体に取り組まなければ”まさか”な未来が高い確率で訪れてしまうようなのです。

クジラやウミガメ、海鳥、魚の体内からプラスチックが出てきている、という話が多くのメディアで取り上げられていますが、このような問題以外にもより深刻な事態が迫っているといいます。千葉商科大学のコラムより、その危険性を説明した文献より、一部抜粋したものをご紹介します。

〜プラスチックはなぜ有害なのか?〜

マイクロプラスチックは、PCB、ダイオキシン、DDTなど、残留性有機汚染物質(POPs)と呼ばれる海中の有害化学物質を取り込みやすいことが分かってきました。マイクロプラスチックは海洋を広い範囲で移動するので、有害化学物質の運び屋となって海に汚染が広がってしまうのです。

もし海の生物がエサと間違ってマイクロプラスチックを食べてしまうと、炎症反応、摂食障害などにつながる場合があることがわかっています。また、マイクロプラスチックを摂取したプランクトンを小魚が食べ、中型の魚が小魚を食べ、さらに大型の魚が中型の魚を食べ…という食物連鎖を通じて、有害化学物質が生き物の体内に蓄積する可能性も懸念されています。

(引用元:海が汚染され、海の生物も人も危ない! マイクロプラスチック汚染問題とは /千葉商科大学

このようにマイクロプラスチックが海に流れてしまうことで、

  • ・汚染物質の広範囲への拡散
  • ・海洋生物の生体へのダメージ
  • ・生物へのプラスチック・有害物質の蓄積

などのような影響を広範囲にわたって受けてしまいます。下水処理場などでもマイクロプラスチックは除去されますが、目に見えないサイズの極小のマイクロビーズや繊維などはその網を通り抜けて海へ流れていってしまいます。このような極小プラスチック以外にも、現在も漂流し続けているプラスチックごみが、劣化・風化することでマイクロビーズのような小ささにまで粉砕され続けているので厄介です。

このサイズになると、海に住むプランクトンやサンゴなどの生物が簡単に取り込んでしまえるようになり、生態系へダメージを与えてしまいます。そして、回り回って再び人間の元へ食材として還ってきたとき、有害物質を含んだプラスチックにより何らかの身体的影響を受けるのも時間の問題といえます。

〈参考〉

2.プラスチックはあらゆるところで使用されている

プラスチックは我々の日常に密接に関係し、いろんなシーンで使われています。なぜなら、プラスチックには安価・軽量で、加工しやすいというメリットがあることから、経済を発展させたい多くの企業から重宝されていたためです。

例えば、

  • ・製品のパッケージ
  • ・レジ袋
  • ・衣類
  • ・科学肥料
  • ・フォークやスプーン
  • ・ストロー
  • ・洗顔料
  • ・ボディシャンプー
  • ・歯磨き粉
  • ・コスメ

などにもプラスチックは使用されています。水に強く、耐久性がありながら安価な素材はプラスチックの他に類がないため、プラスチックの使用を控えていこうという動きがあるものの、現在も使用が続けられています。

その他にも、肌の汚れや古い角質を除去する目的で、石油系プラスチックのポリエチレンビーズやポリプロピレンビーズを使用した洗顔料、ボディシャンプー、歯磨き粉、コスメが多く存在していました。以前は天然のクルミやアプリコットなどの果実の種子を”スクラブ剤”として使用していましたが、20年ほど前から肌の汚れや古い角質を除去し、肌や髪にツヤを出すための”スクラブ剤”として、合成プラスチックビーズが使用されるようになりました。

しかし、人体への負荷や、海へ流れ出たプラスチックによる環境への影響が世界で危惧されるようになり、日本でも早急に手を打たなければならないと警鐘を鳴らし、2018年3月には環境省よりマイクロビーズの使用を自主規制するよう呼びかけられました。プラスチックは環境にとって悪影響だということが近年ようやくわかってきましたが、使用開始時にはきっと想像もしていなかったのではないかと思います。

そもそも、プラスチックの製造には膨大な量の石油や天然ガス、エネルギーが必要です。二酸化炭素の排出量も膨大で、製造工程ではプラスチック1kgあたり平均約6kgのCO2が発生させてしまいます。

プラスチックは我々の生活にとって切り離せないものとなっているので、今すぐに使用を中止することはできません。しかし、少しでも使用量を減らしたり、再生できるものは再生に回していくといった心がけで、環境負荷を減らしていくことは可能です。

3.プラスチック削減に対する取り組みの実例

海洋プラスチックを減らす取り組みとして思い浮かびやすいもは、やはり”ゴミ拾い”だと思いますが、その他にできることはないのかと考える方も多いでしょう。そこで今回は、ゴミ拾い以外にもプラスチックごみを減らす、画期的な取り組みをされている学校を見つけましたのでご紹介していきます。

・若狭湾に流れ着いたプラスチックを使った名産の塗り箸

(画像出典元:マガジンハウス『コロカル』)

 

近年、若狭湾は海洋プラスチックゴミによる環境汚染が問題となっています。若狭湾付近にある海流や特徴的な地形によって、国内外から流れてきた海洋プラスチックゴミが集まってくるからです。

それを受け、若狭高校海洋科学科の生徒と福井県の老舗箸メーカー『株式会社マツ勘』は、海洋プラスチックごみを再利用したお箸『ocean』を共同で制作しました。本来であれば若狭塗には貝殻や卵の殻、松葉など自然の素材を使いますが、この商品にはそれらの自然素材と共に、若狭湾に漂着したプラスチックごみを粉砕して装飾として使用しています。

この学校は独自の水産海洋教育カリキュラムを開発し、文部科学省「マイスターハイスクール事業」に指定されている高校で、以前から地元産業と一体となってさまざまな活動をおこなってきました。今回の塗り箸の制作もこの活動の一環で「海洋プラスチックゴミを身近な箸の素材に使うことで、より多くの人に環境問題を意識するきっかけになれば」という思惑から始まっています。

〈参考〉

・コインランドリーにマイクロファイバー除去を提案

海洋プラスチックごみのマイクロプラスチックの中でも、35%が合成繊維の衣類から出るものと言われているのをご存知でしょうか?衣類やタオルなどには、プラスチック素材のナイロンやポリエステルなどの合成繊維を使用されていますが、それを洗濯することで、小さな繊維である”プラスチックマイクロファイバー”が下水に流れ、それが海に流れてしまうというのです。

プラスチックなどの化学繊維は、『丈夫』で『低コスト』なため、ファッション業界でも重宝されている素材ですが、乾燥や摩擦などによって傷んでしまうと、洗濯時にマイクロファイバーが流れ出してしまうというデメリットを持っています。

この”プラスチックマイクロファイバー”に着目し、「洗濯排水に流さないために自分たちにできることはないのか」と立ち上がったのが、『海洋プラ問題を解決するのは君だ!』プログラムから発足した高校生チームです。このプラグラムは、専門家のアドバイスを受けながら、海洋プラスチック問題の解決策を社会に提案することを目的に実施されました。

このチームは、まとめたことを発表するだけにとどまらず、企業や専門家と連携し、自発的なプロジェクトとして導入検討段階にある、というから驚きです。

その方法として使用されたのは、パタゴニアが販売する「グッピーフレンド・ウォッシング・バッグ」や、米NPOロザリア・プロジェクトが開発した「コーラボール」などの”マイクロファイバー削減グッズ”です。コインランドリーの洗濯機に既存のマイクロファイバー削減グッズを設置し、それを利用者に使用するとポイントが貯まる、というシステムの導入を提案しました。利用者はこれらを利用すればするほどポイントが貯まり、店舗内でのグッズやコーヒーなどの割引が受けられるようになります。

日本のフランチャイズチェーン協会『JFAフランチャイズチェーン統計調査』によると、コインランドリーの店舗数は年々増加傾向にあり、2022年現在では最低でも56,919店舗も存在しています。

チームでは実際にコインランドリーブームの火付け役とも言えるOKULAB(東京・渋谷)とコンタクトを取り、プロジェクトについて説明。そして、さまざまな話し合いを重ね、実験的な導入が可能かを検討する段階にまでプロジェクトを進めることができたようです。

〈参考〉

・肥料の素材をプラスチックから環境に優しい素材へ改良

(画像出典元:NHK みんなの声で社会を”プラス”に変える)

 

田んぼや海辺で”丸くて小さな白い殻”のようなものをみたことはありませんか?実はこれ、農業で使用されるプラスチック製の肥料なんです。

薄さ1ミリ以下のこのプラスチック肥料は、一定の水分が浸透するとやぶれて中身が溶け出す仕組みになっているので、作物に栄養分を長期間にわたって届けることができます。そのような画期的な肥料で使い勝手が良いので、日本の水田の6割近くで使用されています。

しかし、この殻は土に還ることなく川を通じて海に流れるため、海洋プラスチックの量を増やす原因に加担しています。

米を作る授業や海岸のゴミ捨いをしている際、この事実を知った宮城県の高校生たちは、ふるさとの海を守りたいとメーカーの協力を得て、環境に優しい肥料の研究に乗り出しました。

その結果、プラスチック肥料と性質が類似しており園芸などですでに使われていた「ウレアホルム」という素材を使用し、『プラスチックの残骸がでない肥料』を開発することに成功しました。

生徒たちの手によって、実際にこの肥料を使って米も作りました。さらに、 これまでと変わらない量の収穫もでき、米の食味競う全国コンテストで最優秀賞を獲得するほどの美味しさをも保つことができたようです。

この取り組みは、全国の高校生が新しいビジネスプランを提案するコンテスト「高校生ビジネスプラン・グランプリ」で発表されました。実用化への道筋が明確だったことや 環境問題について考えられたものだったと高く評価され、最もすぐれたグランプリを受賞しました。

〈参考〉マイクロプラスチック 肥料問題に挑む高校生

・お米を使用したプラスチック『ライスレジン』の製品を校内で使用する

(画像出典元:RiceResin(ライスレジン)  バイオマスレジンホールディングス

 

新潟県立新潟商業高校の商業クラブでは、SDGs活動の一環として「ライスレジン環境保全計画」を立案しています。この計画は、お米を使用したプラスチックで、環境汚染や食品ロスの削減意識を高めてもらうというものです。

具体的な取り組みとして、学校の購買で使うレジ袋や教室のゴミ袋にライスレジン製品の使用が検討されています。そうすることで、全校の生徒に”ライスレジン”を知ってもらい、”身近なところからSDGsの活動を実施できる”ことをPRすることを目的としています。

この計画を進めるにあたり、商業クラブのメンバーはライスレジン製品を規格・販売している『株式会社バイオマスレジン』を訪問し、ビジネスを通じてSDGsに貢献するという企業理念や今後の展望などを聞いて理解を深めました。

ライスプラスチックの使用が日本中に広まれば、プラスチックの使用率がグッと下がるだけでなく、もし海に流れてしまったとしても海洋プラスチックごみの増減を抑えることが可能です。海に流れないように気をつけるのはもちろんですが、プラスチックの使用量自体を減らすことが、回り回って海洋プラスチックを減らことにもつながっていきます。

〈参考〉新潟商業高等学校 – SDGsにいがた

4.プラスチックごみで海をこれ以上汚さない努力が必要!

海洋プラスチックは2022年時点にも、海中に何万トンと存在しています。一度海に流れてしまうと回収することは非常に困難だからです。さらに、長い年月をかけて目に見えないほど細かく砕けてしまったものに関しては回収することは不可能ともいえます。

プラスチックは我々の生活になくてはならない素材として認知・使用されていますが、何らかの原因で海に流れることがあれば環境や生物の生存を脅かす存在にもなりうる性質を持っています。また、海中の有害物質を吸着したまま生物の体に入ってしまうことも十分考えられます。

現在は人間への被害は確認されていませんが、これから莫大な量の海洋プラスチックが海を占めてしまうと考えられていることから、遠くない未来に人間にまで影響が起こるだろうことは予測できてしまいます。

何かが起きてしまってから行動を起こすのではなく、プラスチック製品の使用を控えるなど、小さなことでも環境にとってやさしい選択を少しずつ重ねていくことが大切です。このようなことを若い世代に伝え、環境の負担を抑えた生活と経済活動をどんどん推進していければ、きっとより良い未来が待っていることでしょう。

(ライター:堀内香菜)


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